ブレインダメージのプリンセス #4

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opened 2024-03-22 00:36:33 +09:00 by alioth140 · 26 comments

はぁ……
息遣い一つにすら全身の細胞がびくんと反応し、この身体がいかに繊細で感じ易いかを伝える。
ずっしりと重い乳房はフリース素材の内張りに優しく包まれているが、感じ易すぎる乳首はぴんと立ち、エナメル素材のはずのバニーコートの外側からすら視認出来るようになっている。
やはり感じ易い足の肌は、それをぴっちりと包み、見事な脚線美をトレースする網タイツの網目ひとつひとつまでも認識しているかのようだ。
網タイツの後ろに入ったシームラインを目で追うと、この足のむっちりとした肉付きの良さが実感される。
頭にはやはり黒いエナメルで出来たウサギの耳が揺れ、今の自分の身分を示している。
黒のエナメル張りのハイヒールの靴裏も見えるが、ゴージャスな金色だ。バニーコートと髪の色に、靴の色も合わせてある。
感じ易い背中は、そこに落ちる長いブロンドの髪の存在を知らせると同時に、首や肩から零れ落ちた髪もまたひとつの感覚器であるかのように、触れた枕の柔らかさや手首の細さを伝えてくる。
ほっそりとした右手の手首には、清潔な白のカフスが取り付けられ、剥き出しの腕にカフスのみが取り付けられたその姿は、やはり今の自分の身分が他の何者でもないことを知らしめる。
右手の指をもぞもぞと動かし、枕の上に広がる自分の髪を摘まみ上げてみるが、その度に、その指がいかに細く、均整がとれているか、その先端の爪がいかに美しく彩られ、整えられているかが分かる。
そして……左手の指をそっと股間へと差し込み、バニーコートのハイレグのボトムに包まれた部位へと這わせる。蟻の門渡りから尻へかけて布が細くなっているその下には、女の最も感じ易い部位がある筈だが、おずおずと指を縦に動かして撫でると、それなりの強度がある筈のエナメル生地越しにすら痺れるような快感が伝わってくる。
その興奮と羞恥に、壁にしつらえられた横長の鏡に映る美女は、顔を赤く染める。青い瞳が揺れるが、それは快感のためか、それともあまりに感じ易すぎる身体への戸惑いのためか……

……はぁ……これが……僕……

はぁ…… 息遣い一つにすら全身の細胞がびくんと反応し、この身体がいかに繊細で感じ易いかを伝える。 ずっしりと重い乳房はフリース素材の内張りに優しく包まれているが、感じ易すぎる乳首はぴんと立ち、エナメル素材のはずのバニーコートの外側からすら視認出来るようになっている。 やはり感じ易い足の肌は、それをぴっちりと包み、見事な脚線美をトレースする網タイツの網目ひとつひとつまでも認識しているかのようだ。 網タイツの後ろに入ったシームラインを目で追うと、この足のむっちりとした肉付きの良さが実感される。 頭にはやはり黒いエナメルで出来たウサギの耳が揺れ、今の自分の身分を示している。 黒のエナメル張りのハイヒールの靴裏も見えるが、ゴージャスな金色だ。バニーコートと髪の色に、靴の色も合わせてある。 感じ易い背中は、そこに落ちる長いブロンドの髪の存在を知らせると同時に、首や肩から零れ落ちた髪もまたひとつの感覚器であるかのように、触れた枕の柔らかさや手首の細さを伝えてくる。 ほっそりとした右手の手首には、清潔な白のカフスが取り付けられ、剥き出しの腕にカフスのみが取り付けられたその姿は、やはり今の自分の身分が他の何者でもないことを知らしめる。 右手の指をもぞもぞと動かし、枕の上に広がる自分の髪を摘まみ上げてみるが、その度に、その指がいかに細く、均整がとれているか、その先端の爪がいかに美しく彩られ、整えられているかが分かる。 そして……左手の指をそっと股間へと差し込み、バニーコートのハイレグのボトムに包まれた部位へと這わせる。蟻の門渡りから尻へかけて布が細くなっているその下には、女の最も感じ易い部位がある筈だが、おずおずと指を縦に動かして撫でると、それなりの強度がある筈のエナメル生地越しにすら痺れるような快感が伝わってくる。 その興奮と羞恥に、壁にしつらえられた横長の鏡に映る美女は、顔を赤く染める。青い瞳が揺れるが、それは快感のためか、それともあまりに感じ易すぎる身体への戸惑いのためか…… ……はぁ……これが……僕……
Author

この身体になってからというもの、この部屋から出してもらえない。いつになったら自由になれるのだろう……元の身体に戻れるのだろう。
この身体は……つらすぎる。感じ易すぎる。美しすぎる………

―高級バニークラブ、ブレインダメージ。
某所のビル一つまるまるを使って、とびっきりの美女揃いのバニーガールがもてなすそのクラブは、バー、ギャンブリングホール、ダンスやマジックを披露するレヴューショー、そしてマッサージや宿泊、更にはそれ以上のサービスも用意した娯楽施設だ。
提供されるそれらのサービスは、全てバニーガールによるものだ。客にはあらゆる豪奢な娯楽が用意されているが、その全てをバニーガールが相手をするようになっている。
こんなにも多岐に渡るサービスをこなせる女性が、こんなにもたくさん働いているとは、それもその誰もが絶世の美貌の持ち主ばかりとは、どうなっているのか、と思わない客はいないだろう。

そのからくりは……料金を払えなくなりツケのたまったお客、ギャンブルの負けが嵩んだお客を、魔法で変身させ洗脳して、従業員にしているとは、そんなことを思う客はいないだろう。

バニーガールとなってしまったお客は、店で働くために必要な知識・技術と女性らしく振る舞う心、店のオーナーへの絶対的忠誠心を刷り込まれ、あっという間に女であることに馴染んでしまうらしい。
だが、僕はそうではなかった……

ベッドの上でもぞもぞと身体をくねらせる。
快感を求める衝動が、身体の奥底から染み出てきて、それに抗うことが出来ず、人の女体の姿を取った虫のように蠢いてしまう。
四方の壁にも、天井にも鏡が取り付けられ、常に自分の痴態を見せつけられている。それがおぞましくもあり、同時に、たまらなく魅力的に思える。それほどまでに……今の僕は美しい。

バニーガールにされた男は、その理想とする女性の姿に変わるそうなのだ。自分がその理想の美女になってしまったのだから、自分の姿に惹かれてしまうことは否定出来ない。
女になって、自分自身に対し欲情する……そう考えるとぞっとする。同時に、自分自身の理想を拒むことはどうやっても出来ない。
男の時もスケベェだったことは当然だが、この女の身体の欲求の激しさの前ではまるで霞んでしまう。
その激しい性欲に加え、それを何に、どう向ければいいかが、女になってしまった今は分からなくなっている。

自分で慰めようかと思うが、魔法によって無意識下へストッパーがかかっているらしく、絶対にバニーコートを脱ぐことが出来ない。
せいぜい、胸や股間をバニーコートの上から触るくらいのことしか出来ないのだ。
それでも敏感になってしまった身体は、快楽を求めて内側から僕を焦がし続け、そんな風にベッドの上であがく姿を逐一鏡によって見せつけられる。
理想の美女がそんな風に悶える様子から目を離せるはずもなく、ただ、己の美しさと感じ易さと淫乱さを再認識させられるだけ……バニーガール姿のまま……

この身体になってからというもの、この部屋から出してもらえない。いつになったら自由になれるのだろう……元の身体に戻れるのだろう。 この身体は……つらすぎる。感じ易すぎる。美しすぎる……… ―高級バニークラブ、ブレインダメージ。 某所のビル一つまるまるを使って、とびっきりの美女揃いのバニーガールがもてなすそのクラブは、バー、ギャンブリングホール、ダンスやマジックを披露するレヴューショー、そしてマッサージや宿泊、更にはそれ以上のサービスも用意した娯楽施設だ。 提供されるそれらのサービスは、全てバニーガールによるものだ。客にはあらゆる豪奢な娯楽が用意されているが、その全てをバニーガールが相手をするようになっている。 こんなにも多岐に渡るサービスをこなせる女性が、こんなにもたくさん働いているとは、それもその誰もが絶世の美貌の持ち主ばかりとは、どうなっているのか、と思わない客はいないだろう。 そのからくりは……料金を払えなくなりツケのたまったお客、ギャンブルの負けが嵩んだお客を、魔法で変身させ洗脳して、従業員にしているとは、そんなことを思う客はいないだろう。 バニーガールとなってしまったお客は、店で働くために必要な知識・技術と女性らしく振る舞う心、店のオーナーへの絶対的忠誠心を刷り込まれ、あっという間に女であることに馴染んでしまうらしい。 だが、僕はそうではなかった…… ベッドの上でもぞもぞと身体をくねらせる。 快感を求める衝動が、身体の奥底から染み出てきて、それに抗うことが出来ず、人の女体の姿を取った虫のように蠢いてしまう。 四方の壁にも、天井にも鏡が取り付けられ、常に自分の痴態を見せつけられている。それがおぞましくもあり、同時に、たまらなく魅力的に思える。それほどまでに……今の僕は美しい。 バニーガールにされた男は、その理想とする女性の姿に変わるそうなのだ。自分がその理想の美女になってしまったのだから、自分の姿に惹かれてしまうことは否定出来ない。 女になって、自分自身に対し欲情する……そう考えるとぞっとする。同時に、自分自身の理想を拒むことはどうやっても出来ない。 男の時もスケベェだったことは当然だが、この女の身体の欲求の激しさの前ではまるで霞んでしまう。 その激しい性欲に加え、それを何に、どう向ければいいかが、女になってしまった今は分からなくなっている。 自分で慰めようかと思うが、魔法によって無意識下へストッパーがかかっているらしく、絶対にバニーコートを脱ぐことが出来ない。 せいぜい、胸や股間をバニーコートの上から触るくらいのことしか出来ないのだ。 それでも敏感になってしまった身体は、快楽を求めて内側から僕を焦がし続け、そんな風にベッドの上であがく姿を逐一鏡によって見せつけられる。 理想の美女がそんな風に悶える様子から目を離せるはずもなく、ただ、己の美しさと感じ易さと淫乱さを再認識させられるだけ……バニーガール姿のまま……
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カチャリ……
部屋の扉が開いて、世話係が入ってきた。
「失礼しまーす。どう、楽しんでる?食事にしましょ」

ややたれ目がちな、ふわふわっとした印象の、左側頭部で長い髪をお団子気味にまとめた少女が、ティーセットとサンドイッチを載せたトレーを持って部屋に入ってきた。

この若葉はダンサー兼マッサージサービス担当のバニーガールで、客だった頃は贔屓にしていた娘の一人だ。世間並みの基準で言えば間違いなく美少女といってよいが、美女ばかりのこの店では、とびっきりというほどでもない。今では、僕の方が……美人だ。

自分を慰めているところに入ってこられたことへの羞恥もないではなかったが、既に慣れてしまっているのでさほどでもない。寧ろ……

「ふふ……」
若葉の視線が、僕の顔に、バニーコートの谷間から覗く胸元に、鼠径部へと切り込むハイレグの股間に突き刺さる。彼女は…
食欲が刺激されたことで、性欲は後退した。おしぼりで手を拭こうとするが、若葉が制する。ベッドの上に座った彼女は、僕の手を取り、おしぼりで拭った。その丹念な手つきには、隠しようのない思慕が露わになっている。
ちろ…
若葉は握ったままの僕の手の指先を舐め、僕の瞳を見つめてくる。お客だった頃にだって、彼女が僕にこんなに熱い視線を注いできたことはなかった。

彼女はサブマリン型のサンドイッチを手に取るが、離さない。そのまま頬張れ、と視線で命じてくる。僕は従うしかない。
彼女が手にするサンドイッチにかぶりつく。すると、ひと呼吸置いて彼女も反対側からサンドイッチを食べ始めた。
ポッキーゲームのサンドイッチ版……口を動かすのを躊躇ってしまうが、若葉は強引にサンドイッチを奪って、僕にしなだれかかってきた。唇が唇に塞がれる。小麦粉とマヨネーズソースの味の口の中で溶け合い、唾液に混じって甘酸っぱい味へと変化していく……
若葉はひと口ずつ口移しでサンドイッチを僕に食べさせ、紅茶も口移しで飲ませる。その度に、身体を密着させる際に、ぐいと乳房を揉み上げたり、股間に指を這わせたりして、僕は電気に打たれたように震え、彼女の為すがままになってしまう。

食事が終わると、息も絶え絶えになってしまう。こんな食べ方をすれば当然だが、喘いでいるのはキスで口を塞がれていたからか、それとも……

「身体に火がつきました?ふふ、じゃあ次行きましょ」
若葉は再度僕にキスし、今度は掌に掌を重ね、指を絡み合わせてくる。自分の指の細さと彼女の指の可憐さが嫌でも伝わってくる……

幼さの残る容姿に反し、攻撃的で執拗なキスをしてくる若葉に、すっかり翻弄されてしまう。
必死にキスを解くと、唇と唇の間に、混じり合った唾液が若葉の執拗ささながらに粘っこい糸を引いている。

「お願い……もうだめ……これ以上されると本当に女になっちゃう……」
「いいのよ、お姉さまはもう女。最高に美しい女、最高のバニーガール。私たちバニーガールのお姉さまとして、ずっとここで暮らすの」

若葉は僕の首筋を、耳たぶを舐めながら、若々しい肌を僕の身体に押し付けてくる。男の頃だったら、むくむくとチンコが勃ってくるところだろう。実際に、男だった時には、彼女とセックスしたのだが…

今でも若葉が可愛いと思う。彼女の美貌に惹かれ、彼女の身体に欲情を覚える。彼女が……欲しい……

だが、彼女に抱きつかれている今のこの身体は、彼女以上に美しい顔と彼女以上に豊満な女のそれになっており……バニーコートの股間の下で、硬く棒状に勃起する感覚に代わり、じんわりとした熱い疼きが存在感を主張している。
この疼きをどう解消したらよいというのか……

若葉に寄りかかられ、姿勢を崩すと、二人のバニーガールがベッドの上で抱き合っている姿が天井の鏡に映りこむ。
いたずらっぽく微笑む若葉と戸惑うばかりの僕の表情は対照的だけど……なんて可憐なんだろう。

ゴクリ……思わず唾を飲み込む。僕は……若葉にも……自分にも……
バニーガールになって、バニーガールと抱き合っているこの状況にも……欲情している……
絶えることのない悩ましい欲求が、新たな段階に入ろうとしていた……

再び若葉がキスを重ねてくる。もう逆らうことも出来ない。キスを解くと、若葉は舌を顎、首筋、みぞおちと這わせ、膨れ上がるだけ膨れ上がったおっぱいの輪郭を舌でなぞり始めた。上から若葉の舌が、下から自分自身の手に持ち上げられ、僕のおっぱいが喜びの期待に震える。若葉は、僕の右胸の丘の登り口を舌でちろちろと弄びつつ、左胸のおっぱいをぐいと持ち上げてくる。

思わず声が漏れてしまう。
バニーコートに縁どられたおっぱいの谷間を、若葉は執拗に舐める。バニーコートをはぎ取って欲しい、感じ易い乳首を溶けるまで嘗め尽くして欲しい、という思いだけで僕はいっぱいになってしまうが、意地悪にも若葉は舌を左右に動かして焦らすだけだ。

「お願い……おっぱいを……乳首を直接触って…舐めて……」
姿勢を立て直して、若葉は僕の腰を両手で抱き、自分の胸を僕の胸に押し付けてくる。
「ああン!」
「あ……お姉さま、とっても可愛い声。もっと鳴いて」

若葉も興奮し始めている様子だ。僕は夢中になって自分のおっぱいを若葉のそれに押し付けまくる。若葉もなかなかの豊乳だが、到底今の僕のおっぱいの大きさとエロさには敵わない。
……それに感じ易さも。バニーコート越しだというのに、おっぱいから漏れ伝わってくる快感は尋常ではない。女の身体って、こんなに気持ち良いものなのか。それとも僕が特別なのか……

僕の考えを読み取ったように、若葉は、「もちろんですぅ、お姉さまは特別ですもの。全てのバニーガールの中で最も美しく、最も感じ易く、最もいやらしい……この店に勤める全てのバニーガールの憧れですわ、プリンセスですわ」

抱き着いた若葉は、バニーコートと肌の境界線に沿って、僕の胸に顔を押し付け、うっとりと頬ずりする。
その甘えぶりは……以前、お客としての僕にもしていたもの。

だが、あの時と違っているのは、尽きることのない、僕への深い憧れ。それは、きっと……女の子同士……いや、バニーガール同士だから抱ける気持ちに違いない…

「はあ……そんなことない……若葉ちゃんもとっても可愛い……大好きなの……」そう答えるしかない僕。

以前も、彼女に、大好きだよ可愛いよ、と何度も言った。でも、所詮、その手の店のお客と従業員の関係から出てきた言葉でしかなかった。
心にもないお世辞を言った訳ではなく、実際に若葉を可愛いと思った、その気持ちに嘘はない。今でも同じ思いがあるのは、腕の中に彼女を抱いていると感じられる。
それはつまり、きわどい格好をした女性に対する欲情……こうして女になっても、僕は若葉に恋着し、欲情している。なくなって尚チンコが勃起するようだ。

……でも同時に、同じバニーガールになった今、ずっと同じバニーガールである若葉への愛は高く舞い上がり、欲情は深く滲みこみつつある……

壁を、天井を見ると、絶世の美女と若葉が抱き合っている。その美女とは僕であり、バニーガールなのだ。店でお客と来ていた時と、気持ちも関係も何も変わらない。だけど、僕はまるで変ってしまっている……

はぁ……これが……僕たち……

「そうよ、バニーガールですのよ、お姉さまも私も」
そうだ、僕はバニーガールが大好きだった。ならば、バニーガールになれて、こんな幸せなことはない。いや、バニーガールになって、バニーガールと愛し合えて、これ以上の幸せはない―

感慨が押し寄せてきて、それはすぐに肉体的な恍惚と入り混じった。股間が熱く濡れる感触がある……

まさにその機会をうかがっていたかのように、若葉は僕の腕をすり抜け、僕の背中に回った。剥き出しの僕の白い肩を撫でまわし、背中に舌を這わせていく。

そうだ、若葉に何度もこれと同じことをした。若葉たちバニーガールにこれをするために破産するほどの金を使って、今のこの姿になった。そしてバニーガールになって、初めてこれをされる意味が分かった……

男だった頃の感覚が羞恥を訴える部分も残っているが、何故バニーガールの肩が剥き出しなのか良く分かり、感じ易い背中を蹂躙される喜びに、僕はこのままとろけ落ちてしまいたい、と思う。

だがすぐに若葉に同じことをしたいという欲求が湧きあがり、今度は僕が若葉の背中に回る。

きゃっきゃと笑う若葉だが、僕が彼女の首筋の匂いをかぎ、髪の毛を優しく梳ると、ぁぁ…と小さく喘いだ。

「若葉もとっても感じ易いんだね」
「ぁン…お姉さまに触られているんだから……当然ですの……」

彼女の背中に舌を這わせていき……腰骨近くでバニーコートの背中のファスナーを唇でくわえて、そのままおろす。
「あぁぁ……」
ファスナーをおろされるだけのことなのに、若葉は感じているようだ。そしてもっと感じ易い背中の肌が露わになる。

そして体の表側では…バニーコートのカップ部がしっかりと受け止めていた乳房の柔肉がこぼれだす。決して乱暴に扱わないよう、だが隠微なねちっこい手つきで、僕は若葉のおっぱいに手を回す―どちらも男だった頃には出来なかった、繊細な触り方だ。
「ダメぇぇ……全部脱がさないでぇぇ……バニーじゃなくなっちゃうのぉ……」

思わずはっとなる。
男の性欲のみに衝き動かされていた時は、ここで我慢出来なくなっていた。だけど今は……
若葉のなまめかしい裸身をたっぷりと堪能したいという思いは激しく燃え上がっているが、バニーガールという象徴を損なうことに強い禁忌の念を感じてしまう。

手が止まった隙に、若葉は反撃に転じた。
「ふふ、ぎゃくてーン」
振り向いた若葉がそのほっそりとした体を押し付けてきて、僕はベッドに押し倒されてしまう。既に露出したおっぱいを、若葉はそっと僕の顔に載せた。指示を待つまでもなく、僕は若葉のおっぱいにかじりつき、乳首を舐め始める。みるみるうちに、舌先の上で乳首が勃起していくのが分かる……こらえきれず、思わず自分の乳首をバニーコートの上から摘まみ上げてみる。それなりの刺激はあるが、いかにも物足りない……底なしの欲求が身体の芯から僕を焦がしている。
僕の舌で乳首を転がされつつ、若葉はそっと手を伸ばした。彼女の指が僕の股間をつつと撫でる。ん……自分で撫でるのよりずっと鋭い刺激。肌と肉には直接触ってすらいないのに、もしそうなったら…
「お願い、脱がせて」バニーガールであることを否定する罪深さを感じながら、僕は若葉に懇願した。
小悪魔のような笑いを浮かべながら、若葉は後退していき、先ほどまで指で愛撫していた僕の股間に顔を近づけ、バニーコートのボトム部を……女のそれになった僕の性器をエナメル素材の布越しに舐め始めた。
「んっ!」
別に指で撫でられていた時と、刺激には大差がない。だが、彼女がしている行為のとんでもないエロさが僕の正気を奪った。ああ、僕、バニーガールになって、バニー衣装を着たまま、その上からあそこを舐められている……他のバニーガールに……
光沢のある漆黒のエナメル素材の上を、少女の面影を残す若葉の小さい桃色の舌が這って行き、光沢の上に唾液による別種の光沢が跡を残していく。
「はぁぁぁっ……ぁぁぁ……」
バニーコートを脱いで、直接女の部分を舐めて欲しいという思いと、こんなにも美しいバニーコートの上からこんな卑猥なことをされているという思いが、僕の中で衝突し合う。もう耐えられない……

若葉はくすりと笑い、身体を起こすと、思わぬ行動を取った。彼女は上半身をベッドに寝かせ、開いた足の片方を僕の腹の上へと放り出し、腰を浮かせてそれをぐいと滑り込ませた―僕の股間へと。
エナメル生地のボトムと網タイツで区切られた女の股間と股間が押し付けられ合う。
「はあっ!」
あまりの快感に白目を剥きそうになる。決して柔らかくないエナメル生地は、性器に伝わってくる摩擦をかなりフィルターしているだろうが、一方で柔らかくない生地の中の女性器は、生肌同士の接触よりも苛烈に圧迫されている……
若葉も激しく喘いでいるが、僕の片足を抱きしめ、更に密着の度合いを深めようとしてくる……
「どうっ……ですか……おねえ……さま……普通のレズセックス……の松葉崩しより……数段……いいでしょ…」
「あぅぅ、いいのぉ!いいぃぃぃ……」
”普通のレズセックスの松葉崩し”自体体験したことがないが、バニーガールとバニーガールであることを何より特別なものと信じている今の僕には、若葉の言葉は全面的に正しく思えた。
四方と天井に誂えられた鏡に、僕……あたしのあられもない姿が映っている。
はぁ……これが……あたし……バニーなあたし……
「くぅぅぅ……はぁあああああああン!」
絶叫して、あたしと若葉は女の快感を爆発させた。

全身に汗を噴き出させ、唇の端から涎を垂らし、水分を通さないバニーコートのエナメル地の裏側のフリース部に恥ずかしい汁をたっぷりと吸収させながら、あたしはぐずぐずになった女の身体をベッドに横たえた。
意識が遠のいていくあたしの耳元に、倒れこんできた若葉が優しく囁いたー
「ふふ、”完成”したら、その時こそバニーコートなしで愛し合いましょうね……」

カチャリ…… 部屋の扉が開いて、世話係が入ってきた。 「失礼しまーす。どう、楽しんでる?食事にしましょ」 ややたれ目がちな、ふわふわっとした印象の、左側頭部で長い髪をお団子気味にまとめた少女が、ティーセットとサンドイッチを載せたトレーを持って部屋に入ってきた。 この若葉はダンサー兼マッサージサービス担当のバニーガールで、客だった頃は贔屓にしていた娘の一人だ。世間並みの基準で言えば間違いなく美少女といってよいが、美女ばかりのこの店では、とびっきりというほどでもない。今では、僕の方が……美人だ。 自分を慰めているところに入ってこられたことへの羞恥もないではなかったが、既に慣れてしまっているのでさほどでもない。寧ろ…… 「ふふ……」 若葉の視線が、僕の顔に、バニーコートの谷間から覗く胸元に、鼠径部へと切り込むハイレグの股間に突き刺さる。彼女は… 食欲が刺激されたことで、性欲は後退した。おしぼりで手を拭こうとするが、若葉が制する。ベッドの上に座った彼女は、僕の手を取り、おしぼりで拭った。その丹念な手つきには、隠しようのない思慕が露わになっている。 ちろ… 若葉は握ったままの僕の手の指先を舐め、僕の瞳を見つめてくる。お客だった頃にだって、彼女が僕にこんなに熱い視線を注いできたことはなかった。 彼女はサブマリン型のサンドイッチを手に取るが、離さない。そのまま頬張れ、と視線で命じてくる。僕は従うしかない。 彼女が手にするサンドイッチにかぶりつく。すると、ひと呼吸置いて彼女も反対側からサンドイッチを食べ始めた。 ポッキーゲームのサンドイッチ版……口を動かすのを躊躇ってしまうが、若葉は強引にサンドイッチを奪って、僕にしなだれかかってきた。唇が唇に塞がれる。小麦粉とマヨネーズソースの味の口の中で溶け合い、唾液に混じって甘酸っぱい味へと変化していく…… 若葉はひと口ずつ口移しでサンドイッチを僕に食べさせ、紅茶も口移しで飲ませる。その度に、身体を密着させる際に、ぐいと乳房を揉み上げたり、股間に指を這わせたりして、僕は電気に打たれたように震え、彼女の為すがままになってしまう。 食事が終わると、息も絶え絶えになってしまう。こんな食べ方をすれば当然だが、喘いでいるのはキスで口を塞がれていたからか、それとも…… 「身体に火がつきました?ふふ、じゃあ次行きましょ」 若葉は再度僕にキスし、今度は掌に掌を重ね、指を絡み合わせてくる。自分の指の細さと彼女の指の可憐さが嫌でも伝わってくる…… 幼さの残る容姿に反し、攻撃的で執拗なキスをしてくる若葉に、すっかり翻弄されてしまう。 必死にキスを解くと、唇と唇の間に、混じり合った唾液が若葉の執拗ささながらに粘っこい糸を引いている。 「お願い……もうだめ……これ以上されると本当に女になっちゃう……」 「いいのよ、お姉さまはもう女。最高に美しい女、最高のバニーガール。私たちバニーガールのお姉さまとして、ずっとここで暮らすの」 若葉は僕の首筋を、耳たぶを舐めながら、若々しい肌を僕の身体に押し付けてくる。男の頃だったら、むくむくとチンコが勃ってくるところだろう。実際に、男だった時には、彼女とセックスしたのだが… 今でも若葉が可愛いと思う。彼女の美貌に惹かれ、彼女の身体に欲情を覚える。彼女が……欲しい…… だが、彼女に抱きつかれている今のこの身体は、彼女以上に美しい顔と彼女以上に豊満な女のそれになっており……バニーコートの股間の下で、硬く棒状に勃起する感覚に代わり、じんわりとした熱い疼きが存在感を主張している。 この疼きをどう解消したらよいというのか…… 若葉に寄りかかられ、姿勢を崩すと、二人のバニーガールがベッドの上で抱き合っている姿が天井の鏡に映りこむ。 いたずらっぽく微笑む若葉と戸惑うばかりの僕の表情は対照的だけど……なんて可憐なんだろう。 ゴクリ……思わず唾を飲み込む。僕は……若葉にも……自分にも…… バニーガールになって、バニーガールと抱き合っているこの状況にも……欲情している…… 絶えることのない悩ましい欲求が、新たな段階に入ろうとしていた…… 再び若葉がキスを重ねてくる。もう逆らうことも出来ない。キスを解くと、若葉は舌を顎、首筋、みぞおちと這わせ、膨れ上がるだけ膨れ上がったおっぱいの輪郭を舌でなぞり始めた。上から若葉の舌が、下から自分自身の手に持ち上げられ、僕のおっぱいが喜びの期待に震える。若葉は、僕の右胸の丘の登り口を舌でちろちろと弄びつつ、左胸のおっぱいをぐいと持ち上げてくる。 思わず声が漏れてしまう。 バニーコートに縁どられたおっぱいの谷間を、若葉は執拗に舐める。バニーコートをはぎ取って欲しい、感じ易い乳首を溶けるまで嘗め尽くして欲しい、という思いだけで僕はいっぱいになってしまうが、意地悪にも若葉は舌を左右に動かして焦らすだけだ。 「お願い……おっぱいを……乳首を直接触って…舐めて……」 姿勢を立て直して、若葉は僕の腰を両手で抱き、自分の胸を僕の胸に押し付けてくる。 「ああン!」 「あ……お姉さま、とっても可愛い声。もっと鳴いて」 若葉も興奮し始めている様子だ。僕は夢中になって自分のおっぱいを若葉のそれに押し付けまくる。若葉もなかなかの豊乳だが、到底今の僕のおっぱいの大きさとエロさには敵わない。 ……それに感じ易さも。バニーコート越しだというのに、おっぱいから漏れ伝わってくる快感は尋常ではない。女の身体って、こんなに気持ち良いものなのか。それとも僕が特別なのか…… 僕の考えを読み取ったように、若葉は、「もちろんですぅ、お姉さまは特別ですもの。全てのバニーガールの中で最も美しく、最も感じ易く、最もいやらしい……この店に勤める全てのバニーガールの憧れですわ、プリンセスですわ」 抱き着いた若葉は、バニーコートと肌の境界線に沿って、僕の胸に顔を押し付け、うっとりと頬ずりする。 その甘えぶりは……以前、お客としての僕にもしていたもの。 だが、あの時と違っているのは、尽きることのない、僕への深い憧れ。それは、きっと……女の子同士……いや、バニーガール同士だから抱ける気持ちに違いない… 「はあ……そんなことない……若葉ちゃんもとっても可愛い……大好きなの……」そう答えるしかない僕。 以前も、彼女に、大好きだよ可愛いよ、と何度も言った。でも、所詮、その手の店のお客と従業員の関係から出てきた言葉でしかなかった。 心にもないお世辞を言った訳ではなく、実際に若葉を可愛いと思った、その気持ちに嘘はない。今でも同じ思いがあるのは、腕の中に彼女を抱いていると感じられる。 それはつまり、きわどい格好をした女性に対する欲情……こうして女になっても、僕は若葉に恋着し、欲情している。なくなって尚チンコが勃起するようだ。 ……でも同時に、同じバニーガールになった今、ずっと同じバニーガールである若葉への愛は高く舞い上がり、欲情は深く滲みこみつつある…… 壁を、天井を見ると、絶世の美女と若葉が抱き合っている。その美女とは僕であり、バニーガールなのだ。店でお客と来ていた時と、気持ちも関係も何も変わらない。だけど、僕はまるで変ってしまっている…… はぁ……これが……僕たち…… 「そうよ、バニーガールですのよ、お姉さまも私も」 そうだ、僕はバニーガールが大好きだった。ならば、バニーガールになれて、こんな幸せなことはない。いや、バニーガールになって、バニーガールと愛し合えて、これ以上の幸せはない― 感慨が押し寄せてきて、それはすぐに肉体的な恍惚と入り混じった。股間が熱く濡れる感触がある…… まさにその機会をうかがっていたかのように、若葉は僕の腕をすり抜け、僕の背中に回った。剥き出しの僕の白い肩を撫でまわし、背中に舌を這わせていく。 そうだ、若葉に何度もこれと同じことをした。若葉たちバニーガールにこれをするために破産するほどの金を使って、今のこの姿になった。そしてバニーガールになって、初めてこれをされる意味が分かった…… 男だった頃の感覚が羞恥を訴える部分も残っているが、何故バニーガールの肩が剥き出しなのか良く分かり、感じ易い背中を蹂躙される喜びに、僕はこのままとろけ落ちてしまいたい、と思う。 だがすぐに若葉に同じことをしたいという欲求が湧きあがり、今度は僕が若葉の背中に回る。 きゃっきゃと笑う若葉だが、僕が彼女の首筋の匂いをかぎ、髪の毛を優しく梳ると、ぁぁ…と小さく喘いだ。 「若葉もとっても感じ易いんだね」 「ぁン…お姉さまに触られているんだから……当然ですの……」 彼女の背中に舌を這わせていき……腰骨近くでバニーコートの背中のファスナーを唇でくわえて、そのままおろす。 「あぁぁ……」 ファスナーをおろされるだけのことなのに、若葉は感じているようだ。そしてもっと感じ易い背中の肌が露わになる。 そして体の表側では…バニーコートのカップ部がしっかりと受け止めていた乳房の柔肉がこぼれだす。決して乱暴に扱わないよう、だが隠微なねちっこい手つきで、僕は若葉のおっぱいに手を回す―どちらも男だった頃には出来なかった、繊細な触り方だ。 「ダメぇぇ……全部脱がさないでぇぇ……バニーじゃなくなっちゃうのぉ……」 思わずはっとなる。 男の性欲のみに衝き動かされていた時は、ここで我慢出来なくなっていた。だけど今は…… 若葉のなまめかしい裸身をたっぷりと堪能したいという思いは激しく燃え上がっているが、バニーガールという象徴を損なうことに強い禁忌の念を感じてしまう。 手が止まった隙に、若葉は反撃に転じた。 「ふふ、ぎゃくてーン」 振り向いた若葉がそのほっそりとした体を押し付けてきて、僕はベッドに押し倒されてしまう。既に露出したおっぱいを、若葉はそっと僕の顔に載せた。指示を待つまでもなく、僕は若葉のおっぱいにかじりつき、乳首を舐め始める。みるみるうちに、舌先の上で乳首が勃起していくのが分かる……こらえきれず、思わず自分の乳首をバニーコートの上から摘まみ上げてみる。それなりの刺激はあるが、いかにも物足りない……底なしの欲求が身体の芯から僕を焦がしている。 僕の舌で乳首を転がされつつ、若葉はそっと手を伸ばした。彼女の指が僕の股間をつつと撫でる。ん……自分で撫でるのよりずっと鋭い刺激。肌と肉には直接触ってすらいないのに、もしそうなったら… 「お願い、脱がせて」バニーガールであることを否定する罪深さを感じながら、僕は若葉に懇願した。 小悪魔のような笑いを浮かべながら、若葉は後退していき、先ほどまで指で愛撫していた僕の股間に顔を近づけ、バニーコートのボトム部を……女のそれになった僕の性器をエナメル素材の布越しに舐め始めた。 「んっ!」 別に指で撫でられていた時と、刺激には大差がない。だが、彼女がしている行為のとんでもないエロさが僕の正気を奪った。ああ、僕、バニーガールになって、バニー衣装を着たまま、その上からあそこを舐められている……他のバニーガールに…… 光沢のある漆黒のエナメル素材の上を、少女の面影を残す若葉の小さい桃色の舌が這って行き、光沢の上に唾液による別種の光沢が跡を残していく。 「はぁぁぁっ……ぁぁぁ……」 バニーコートを脱いで、直接女の部分を舐めて欲しいという思いと、こんなにも美しいバニーコートの上からこんな卑猥なことをされているという思いが、僕の中で衝突し合う。もう耐えられない…… 若葉はくすりと笑い、身体を起こすと、思わぬ行動を取った。彼女は上半身をベッドに寝かせ、開いた足の片方を僕の腹の上へと放り出し、腰を浮かせてそれをぐいと滑り込ませた―僕の股間へと。 エナメル生地のボトムと網タイツで区切られた女の股間と股間が押し付けられ合う。 「はあっ!」 あまりの快感に白目を剥きそうになる。決して柔らかくないエナメル生地は、性器に伝わってくる摩擦をかなりフィルターしているだろうが、一方で柔らかくない生地の中の女性器は、生肌同士の接触よりも苛烈に圧迫されている…… 若葉も激しく喘いでいるが、僕の片足を抱きしめ、更に密着の度合いを深めようとしてくる…… 「どうっ……ですか……おねえ……さま……普通のレズセックス……の松葉崩しより……数段……いいでしょ…」 「あぅぅ、いいのぉ!いいぃぃぃ……」 ”普通のレズセックスの松葉崩し”自体体験したことがないが、バニーガールとバニーガールであることを何より特別なものと信じている今の僕には、若葉の言葉は全面的に正しく思えた。 四方と天井に誂えられた鏡に、僕……あたしのあられもない姿が映っている。 はぁ……これが……あたし……バニーなあたし…… 「くぅぅぅ……はぁあああああああン!」 絶叫して、あたしと若葉は女の快感を爆発させた。 全身に汗を噴き出させ、唇の端から涎を垂らし、水分を通さないバニーコートのエナメル地の裏側のフリース部に恥ずかしい汁をたっぷりと吸収させながら、あたしはぐずぐずになった女の身体をベッドに横たえた。 意識が遠のいていくあたしの耳元に、倒れこんできた若葉が優しく囁いたー 「ふふ、”完成”したら、その時こそバニーコートなしで愛し合いましょうね……」
Author

激しい情事の時が過ぎ去ると、女としてあんなに乱れてしまった恥ずかしさが襲いかかって来て、死にたくなるほどの自己嫌悪に陥る……あの時は、一人称で”あたし”と言ってしまった……

あの後、もう一人の世話係がやって来て、若葉と一緒になって僕を風呂に入れてくれた。
風呂の時間は数少ないバニーガールの衣装から解放される時間だが、それは女としての教育から解放されることを意味しない。
常に二人か三人の世話係が、女体の美しさを維持するための方法をレクチャーし、僕の身体をすみずみまで磨き上げ、常に愛情……とそれ以上のもの……がこもったスキンシップを試みてくる。
思わず、自分で洗うから、とも言ってしまうのだが、プリンセスにそんなことをさせられない、の一点張りで、すっかりおもちゃにされてしまう。

風呂から出ると、身体を拭いてドライヤーをかける手順になるが、ここでも肌や髪を傷めないためのケアと講釈が続く……
だけど、不思議と嫌ではない。
ちやほやされるのが気持ちいい……
いや、それだけでもない。やっぱり女の子同士で戯れることを楽しいと感じるようになっている。
そしてその間中、ずっと鏡の中で美女が完成していくのを見せつけられ、ここでも自分が美しすぎることを思い知らされてしまう……
こんなことでいいのかな……

大人の女に相応しいと同時に、安眠をもたらす効果もあるという香水をつけられて、僕はさっきまでの乱行の跡などかけらも感じさせないまできっちりメイキングされたベッドに横になる。

……でも一人じゃない。添い寝役と称して、やっぱりバニーガールが二、三人やってきて、僕と一緒にベッドに上がる。

その気になれば何をしてもいい、と言われている。流石に自分から手を出すのは気後れしてしまうが、時折、他の子たちが「お姉さま…」「プリンセスさま…」と言いながら、触ってくる。

何でもこの子たちは、まだバニーガールになりたてで、仕事にも、それ以上にバニーガールであることにも慣れていないらしい。
そうした子を優先的に僕の添い寝役に回しているのだそうだ。
僕と寝ることがこの子たちのバニーガールとしての教育の一環なのだという。
まだエロいことに慣れていない者同士なので、触る時もおずおずとした感じなのだが、どの子も僕に触れる時、話しかけてくるときはメロメロといった風情で、大切に扱われているということはすごくよく伝わってくる。

朝、目が覚めるとすぐに添い寝役に付き添われて入浴と朝食だ。
それが終わると、さぁ一大事、着替えとメイクのお時間となる。

バニーガールの中でも熟練の―お客だった頃には、あまりにも高額でお相手願えなかったようなハイランクのバニーガールたち―が、細心の注意を払って、僕の顔にメイクを施す。

ベースメイク、まつ毛の細工とアイシャドウ、眉毛の手入れ、そして口紅。
何度メイクされても、どきどきしてしまう……
素顔でも非の打ちようがないほどの美人が、その上にメイクを施されていくのを見ていると、こんなに美しくていいのか、とすら思ってしまう……
僕は元男なのに。
プリンセスに相応しいメイクでなければいけませんわ、とはメイク担当のバニーさんたちの弁。

「オーナーからのお言葉を伝えます。“プリンセスには、比類のない美しさが、その美しさに劣らないほどの、その美しさを引き立てるための凛とした高貴さが必要である”と」
そして、僕の耳元で囁く-
「”その上で、己の美しさを自覚し、己自身に恋するナルシストでもあれ、この矛盾を同居させてこそプリンセスの地位に相応しい”と……」

色っぽい彼女の囁きに、背筋がぞっとする。痺れるような官能に、気持ちが持っていかれそうになる。
「ふふ、ご自身を鏡で見つめてその反応、立派にプリンセスの資格あり、ですわね。本日のベッド上でのお相手がわたくしでないのがまことに残念です」

背中まである黒髪をシンプルに束ねた、大和撫子っぽさと、それとは裏腹の金色に輝く瞳を持つ彼女に、僕も、彼女といちゃつきたい……と自然に思っていた。

……そう、少しずつ自分の顔つき、体つきに慣れてくるにつけ、毎朝施される化粧から学ぶにつれ、自分がどういう女であるかが分かってきた気がする。

それと同時に、他のバニーガールが僕とどう違うのかも……

この子たちと僕が抱き合ったら……
あるいは寄り添って踊ったら……
店のレヴューのステージで何度か見た―意外な気もするが、平均すれば、ブレインダメージではレヴューの鑑賞料金の方がマッサージ及びその上の肉体的接触を伴うサービスの料金より高く、僕も小規模・低ランクなショーを相当高額の料金を払って数回観たに過ぎない―バニーガールが絡み合って踊るダンスのことを思い出してしまう。
あのステージで踊る僕、そして片足でアクロバティックに立つ僕を彼女が支えて……
観衆の視線が集まる中、それを一顧だにせず、僕と彼女は愛おしげに見つめ合い、抱き合い、そして唇を重ねる……
そんな妄想、あるいは予想…

「……あの、お名前は?」
彼女は「光栄至極に存じます、紫と申します。記憶の片隅にでも留めておいていただければ幸いですわ」

激しい情事の時が過ぎ去ると、女としてあんなに乱れてしまった恥ずかしさが襲いかかって来て、死にたくなるほどの自己嫌悪に陥る……あの時は、一人称で”あたし”と言ってしまった…… あの後、もう一人の世話係がやって来て、若葉と一緒になって僕を風呂に入れてくれた。 風呂の時間は数少ないバニーガールの衣装から解放される時間だが、それは女としての教育から解放されることを意味しない。 常に二人か三人の世話係が、女体の美しさを維持するための方法をレクチャーし、僕の身体をすみずみまで磨き上げ、常に愛情……とそれ以上のもの……がこもったスキンシップを試みてくる。 思わず、自分で洗うから、とも言ってしまうのだが、プリンセスにそんなことをさせられない、の一点張りで、すっかりおもちゃにされてしまう。 風呂から出ると、身体を拭いてドライヤーをかける手順になるが、ここでも肌や髪を傷めないためのケアと講釈が続く…… だけど、不思議と嫌ではない。 ちやほやされるのが気持ちいい…… いや、それだけでもない。やっぱり女の子同士で戯れることを楽しいと感じるようになっている。 そしてその間中、ずっと鏡の中で美女が完成していくのを見せつけられ、ここでも自分が美しすぎることを思い知らされてしまう…… こんなことでいいのかな…… 大人の女に相応しいと同時に、安眠をもたらす効果もあるという香水をつけられて、僕はさっきまでの乱行の跡などかけらも感じさせないまできっちりメイキングされたベッドに横になる。 ……でも一人じゃない。添い寝役と称して、やっぱりバニーガールが二、三人やってきて、僕と一緒にベッドに上がる。 その気になれば何をしてもいい、と言われている。流石に自分から手を出すのは気後れしてしまうが、時折、他の子たちが「お姉さま…」「プリンセスさま…」と言いながら、触ってくる。 何でもこの子たちは、まだバニーガールになりたてで、仕事にも、それ以上にバニーガールであることにも慣れていないらしい。 そうした子を優先的に僕の添い寝役に回しているのだそうだ。 僕と寝ることがこの子たちのバニーガールとしての教育の一環なのだという。 まだエロいことに慣れていない者同士なので、触る時もおずおずとした感じなのだが、どの子も僕に触れる時、話しかけてくるときはメロメロといった風情で、大切に扱われているということはすごくよく伝わってくる。 朝、目が覚めるとすぐに添い寝役に付き添われて入浴と朝食だ。 それが終わると、さぁ一大事、着替えとメイクのお時間となる。 バニーガールの中でも熟練の―お客だった頃には、あまりにも高額でお相手願えなかったようなハイランクのバニーガールたち―が、細心の注意を払って、僕の顔にメイクを施す。 ベースメイク、まつ毛の細工とアイシャドウ、眉毛の手入れ、そして口紅。 何度メイクされても、どきどきしてしまう…… 素顔でも非の打ちようがないほどの美人が、その上にメイクを施されていくのを見ていると、こんなに美しくていいのか、とすら思ってしまう…… 僕は元男なのに。 プリンセスに相応しいメイクでなければいけませんわ、とはメイク担当のバニーさんたちの弁。 「オーナーからのお言葉を伝えます。“プリンセスには、比類のない美しさが、その美しさに劣らないほどの、その美しさを引き立てるための凛とした高貴さが必要である”と」 そして、僕の耳元で囁く- 「”その上で、己の美しさを自覚し、己自身に恋するナルシストでもあれ、この矛盾を同居させてこそプリンセスの地位に相応しい”と……」 色っぽい彼女の囁きに、背筋がぞっとする。痺れるような官能に、気持ちが持っていかれそうになる。 「ふふ、ご自身を鏡で見つめてその反応、立派にプリンセスの資格あり、ですわね。本日のベッド上でのお相手がわたくしでないのがまことに残念です」 背中まである黒髪をシンプルに束ねた、大和撫子っぽさと、それとは裏腹の金色に輝く瞳を持つ彼女に、僕も、彼女といちゃつきたい……と自然に思っていた。 ……そう、少しずつ自分の顔つき、体つきに慣れてくるにつけ、毎朝施される化粧から学ぶにつれ、自分がどういう女であるかが分かってきた気がする。 それと同時に、他のバニーガールが僕とどう違うのかも…… この子たちと僕が抱き合ったら…… あるいは寄り添って踊ったら…… 店のレヴューのステージで何度か見た―意外な気もするが、平均すれば、ブレインダメージではレヴューの鑑賞料金の方がマッサージ及びその上の肉体的接触を伴うサービスの料金より高く、僕も小規模・低ランクなショーを相当高額の料金を払って数回観たに過ぎない―バニーガールが絡み合って踊るダンスのことを思い出してしまう。 あのステージで踊る僕、そして片足でアクロバティックに立つ僕を彼女が支えて…… 観衆の視線が集まる中、それを一顧だにせず、僕と彼女は愛おしげに見つめ合い、抱き合い、そして唇を重ねる…… そんな妄想、あるいは予想… 「……あの、お名前は?」 彼女は「光栄至極に存じます、紫と申します。記憶の片隅にでも留めておいていただければ幸いですわ」
Author

そしてバニーガールに”なる”時間がやって来る。すなわち、着替え。
化粧室などにあるドレッシングスツールではなく、ゆったりした肘掛け椅子に座って衣装が並べられるのを待つ。

足を包むのはセクシーなパンティホーズタイプの黒タイツ。今日は網タイツではない。それは肌を隈なく覆い隠し、その代わりに足には光沢感が添えられる。もぞもぞと足を動かして、適度な拘束感……いや、違う、圧迫感を楽しむ。……それとも僕は拘束されることを望んでいるのだろうか。

その上からバニーコートという名の拘束具、あるいは鎧をまとわされる。
この店のバニーコートには色や形状にも色々種類があるようだが、僕のものは至極オーソドックス……
でも、こんなに大きいおっぱいが収まるのだろうか、と毎回思ってしまうのだが、それがきちんと入りきってしまう……乳首が露出しないぎりぎりのところまで入るのを「入りきる」と言っていいなら。
胸のサイズと腰の細さのアンバランスさもちょっと規格外で、完全に今の僕の体形にフィットしている。
……いや、フィットしてくる、のかもしれない。これも魔法がかかっているのか。

バニーガールによっては、コルセット部で脇を締める紐のあるバニーコートを着用する子もいるが、僕にはない……
それでも、このバニーコートが腰を締め付けてくるような不思議な感覚は消えない。
まるでバニーコートに拘束され、バニーガールとして相応しくふるまうよう監視されているかのようだ。
逆に、大した厚みがない筈の生地と裏地から成るバニーコートのカップは、重すぎて零れ落ちかねない筈の乳房をがっしりと支え、守ってくれている。拘束具であり、鎧である、とはそういう意味だ。

「失礼します」という紫の言葉に従い、椅子に座ったままの姿勢で前かがみになる。
腰骨の上に、ボタンでウサギのしっぽを模したふわふわのフェイクファーの球体が取り付けられた。ぱちんというボタンが留められる音が響くと、自分がバニーガールになったことを念押しされたような気分になる。

次に用意されたのはあくまでも清潔な白いカフスとカラー。
カフスくらいは自分で着けても良さそうなものなのだが、プリンセスは特別扱いだといって、紫が恭しい態度で取り付ける。
自分自身の美しい腕に、自分でカフスを取り付けたいな……と思ってしまう。
あ……”己の美しさを自覚し、己に恋するナルシストであれ”……こういうことなのかと思うと、ぞっとするほどの恥ずかしさと、誇らしさ、嬉しさが混ざり合った思いが湧きあがってくる。

そして、カラーも……
紫の顔が僕の顔に、指が僕の喉に近づいてくる……ドキドキが止まらない。彼女のたおやかな指が、あまりにも細い僕の首にかかり……
「あッ…」思わずため息を漏らしてしまう。
カラーを……布とはいえ、首を拘束する何かを、こんな美女の手で取り付けられらたということに、僕の妄想は止まらない。
プリンセスと呼ばれているけど、紫のような大人っぽい美女のものになるのなら……
僕は奴隷になってもいい……

蝶ネクタイも取り付けられる。これもごくオーソドックスな黒いものだ。
「慣れてきたら、ネクタイやカラーはヴァリエーションを増やす楽しみもございますが、まずはプリンセスは王道を身に着けるものですわ」

そして、最も目立つパーツと言っていい、ウサギ耳付きのヘッドバンド。
丁寧に整えた髪形を乱さないように、紫は慎重に、慎重にヘッドバンドを僕の頭に取り付ける。
きもち膨らみを持たせた造形の疑似耳は、外側がエナメル張りだけに、高級な革製品のような風合いをもたらす。
「輝かしいまでの金髪に、エナメル製の黒い耳の光沢、実に映えますわ」
紫に褒められ、僕は嬉しさで赤くなる。
「ありがとう、でも紫さんの黒髪に黒の耳も素敵よ」
特に意識することなく、自然にそう言っていた。後から気づいて、驚く。
女性として女性に褒められ、即座に相手の女性的な美しさを褒め返すことが出来た。これも女としての成長の証しなのだろうか。

そして、紫が跪く。
僕の足元に並べられているのは、黒いエナメル張りのハイヒール。
その靴を履かせようと、彼女は僕の右足首を取る……
紫さんの優しい手が……僕の足を……

紫は、一瞬だけ手を止め、タイツに包まれ黒く染まった僕の足を……妙に物欲しげに……見つめると、手に取った靴を、最初はそっと、そして次第に力を入れて奥まで押し込んだ。

「あッ…」喘いでしまったのは、痛みと快感の両方があったから。
こんな細い靴を履いたら痛くてもおかしくない……だけど気持ちが良いのは何故なんだろう?

「これを欠いてはバニーガールは完成しませんわ」そう呟く紫の声に、わずかに興奮が滲み出ている。

同じ儀式が左足首にも繰り返される。
僕は痛みにかすかなうめき声をあげ、痛みに奇妙な快感を感じる。
そんな僕の顔を見つめ……紫も何かの奇妙な快感を覚えているようだ。金色に輝く彼女の瞳の奥に、その本性がわずかに垣間見えた気がした……
紫さんは……S?
他のバニーガールたちの紫を見つめる目の羨ましそうなこと……

「ふふ、普通の子であればもっと低いヒールから始めて慣れていくところですが、プリンセスには6インチヒールでないと」
海外での高級バニーガールクラブなどでは、確かに6インチヒールはかなり当たり前だ。
履いていて辛い物だし、そもそも身長の低い日本人女性にはあまり似合わないので、日本のバニークラブでは3、4インチで済ませる店が多い。
だけど、ブレインダメージでは6インチを履いて速やかに動き回るバニーさんがいくらもいるし、紫さんたちトップクラスのパフォーマーやホステスは皆そうだ。
プリンセスなんて言われて、その頂点に立たされるということは、そんな文字通りの足枷を課されるということなのか。

椅子の手すりをしっかりつかんで立ち上がると、全身の体重がつま先へと襲いかかってきた。
痛い…
「ふふ、ゆっくり慣れていきましょう。も・じ・ど・お・り・に、手取り足取り教えて差し上げますわ」
痛みを必死にこらえている僕を、どこか……
いや、きっと本気で嬉しそうに眺め、紫さんは僕の手を取って、寄り添って歩き始めた。

僕も紫さんも相当の上背がある。
実は、女になった今の方が男だった時よりも身長が高い。175cmくらいある今の僕が6インチヒールの靴を履くと、明らかに周囲を見下ろす感じになってしまう。
足の痛みと不安定さに、若干の目新しい光景も加わり、僕は混乱を禁じ得ない。
「ふふ、ダメですよ。プリンセスたるもの、歩くときは背筋を伸ばさないと」紫さんがぺろんと僕のお尻を撫でる。

「ふわぁぁぁ!」
「女の色香と威厳、この両方を身に着けてこそブレインダメージのバニーガール。なに、心配することはありません。痛みが嫌なのは最初だけ、痛みを味わえば味わうほど深い快楽へと沈溺していく、女らしく振る舞えば振る舞うほどそんな自分自身に憧憬を抱く、そんな魂の持ち主だけがブレインダメージのバニーガールになれるのです。この店のバニーガールになったということは……最初からあなたにはその資格があるということですわ」

”最初から資格があった”-その言葉が僕の心に突き刺さる。
どういうことだ?単に、ギャンブルの負けやサービス料の貸しを払えなかったのがバニーガールにされた理由ではなかったのか?

「ふふ、ダメですよ。今はトレーニングに集中して。さぁ、いち・に、いち・に」
紫さんに促されて歩き始める。どうやら今日の午前はハイヒールでの歩行訓練だけで終わりそうだ……

バニーガールとして、まずは歩き方の練習から。
一歩踏み出すごとに股間に強烈な痛みが走るが、これはすぐに慣れた。
一方、足への体重のかけ方を少しでも誤ると、ヒールが安定しない。

一歩一歩……紫に促されて歩を進めるうちに、僕は心の底で何かが変わっていくのを感じていた。
いや、何かではない……自分の中に確かに存在する女の部分が強くなっていくのを。

「プリンセスは優雅たれ」紫が囁く。「優雅とは、余裕と美しさのこと」
そう……僕は優雅に振舞うことを自分に求めるようになった。自分がより優雅になることを。
内面の変化は留まるところを知らない……
歩いていてふらつくことはもうなくなり、ヒールの痛みも徐々に薄れていった。
そして、いつの間にかバニーガールとしての作法を身に着けている自分に気づく。
自然にお辞儀が出来るようになり、その際の首の傾げ方、掌の置き位置も心得てきたし、何より背筋を伸ばそうとすると自然にそうなる……

「プリンセスは優雅たれ」紫が呟く。「優雅とは、余裕と美しさのこと」
そして僕は自らに言い聞かせる。
(今の私はバニーガールだもの、こんなヒールの高い靴を履いていてもおかしくないのだわ)
(ふふ、そうよ、今はこういう靴の方がむしろ自然だわ……)
自分自身の心の在り方を肯定していくことで、自らの内面から女らしさが湧いてくる。
女らしく振る舞うことに対する恥ずかしさがなくなった訳ではないが、一方でそのことに対する自信と誇らしさも自覚される。
バニーガールとしての自覚…
プリンセスとしての自覚…
そして、ナルシストとしての自覚…

「プリンセスは優雅たれ」紫が呟く。「優雅とは、余裕と美しさのこと」
様々な思いが頭の中を錯綜し、思考がまとまらない。
そう……僕はもうバニーガールであり、自分はもう女なのだ。それを受け入れなければならないし、そうなるべきなのだ……

「これで一通りの歩き方はマスターなさいましたわ」紫が唇を僕の耳元まで近づけて囁く。
「最後に……あなたを一流のバニーガールに仕立て上げる最後のひと押し。『優雅たれ』……この言葉の意味はご自分でお考え下さいませ」
そして、紫は僕の顎に手をかけて……
「これは頑張ったご褒美」僕の唇にそっとキスをした。

ただでさえ感じ易いこの身体の全細胞が反応し、女性ホルモンが総動員されるのが分かった。頭の中が真っ白になる……
だが、歓喜はほんの一瞬で終わった。紫はキスを解き、舌でぺろりと自分の唇を舐めた。

「いけませんわね、私の方がご褒美をもらっちゃったみたい」
もっとキスして欲しい、キスよりもっとすごいことをして欲しい、という欲求が突き上げてくるのを必死にこらえる―プリンセスは優雅たらなければならない。
「……授業ありがとうございます、紫さん」
そう、ここでバニーガールらしいお辞儀を、優雅に。下方に首を傾げた自分の唇に、愛らしくも深い欲望に満ちた笑いが浮かぶのを、僕は感じる……

そしてバニーガールに”なる”時間がやって来る。すなわち、着替え。 化粧室などにあるドレッシングスツールではなく、ゆったりした肘掛け椅子に座って衣装が並べられるのを待つ。 足を包むのはセクシーなパンティホーズタイプの黒タイツ。今日は網タイツではない。それは肌を隈なく覆い隠し、その代わりに足には光沢感が添えられる。もぞもぞと足を動かして、適度な拘束感……いや、違う、圧迫感を楽しむ。……それとも僕は拘束されることを望んでいるのだろうか。 その上からバニーコートという名の拘束具、あるいは鎧をまとわされる。 この店のバニーコートには色や形状にも色々種類があるようだが、僕のものは至極オーソドックス…… でも、こんなに大きいおっぱいが収まるのだろうか、と毎回思ってしまうのだが、それがきちんと入りきってしまう……乳首が露出しないぎりぎりのところまで入るのを「入りきる」と言っていいなら。 胸のサイズと腰の細さのアンバランスさもちょっと規格外で、完全に今の僕の体形にフィットしている。 ……いや、フィットしてくる、のかもしれない。これも魔法がかかっているのか。 バニーガールによっては、コルセット部で脇を締める紐のあるバニーコートを着用する子もいるが、僕にはない…… それでも、このバニーコートが腰を締め付けてくるような不思議な感覚は消えない。 まるでバニーコートに拘束され、バニーガールとして相応しくふるまうよう監視されているかのようだ。 逆に、大した厚みがない筈の生地と裏地から成るバニーコートのカップは、重すぎて零れ落ちかねない筈の乳房をがっしりと支え、守ってくれている。拘束具であり、鎧である、とはそういう意味だ。 「失礼します」という紫の言葉に従い、椅子に座ったままの姿勢で前かがみになる。 腰骨の上に、ボタンでウサギのしっぽを模したふわふわのフェイクファーの球体が取り付けられた。ぱちんというボタンが留められる音が響くと、自分がバニーガールになったことを念押しされたような気分になる。 次に用意されたのはあくまでも清潔な白いカフスとカラー。 カフスくらいは自分で着けても良さそうなものなのだが、プリンセスは特別扱いだといって、紫が恭しい態度で取り付ける。 自分自身の美しい腕に、自分でカフスを取り付けたいな……と思ってしまう。 あ……”己の美しさを自覚し、己に恋するナルシストであれ”……こういうことなのかと思うと、ぞっとするほどの恥ずかしさと、誇らしさ、嬉しさが混ざり合った思いが湧きあがってくる。 そして、カラーも…… 紫の顔が僕の顔に、指が僕の喉に近づいてくる……ドキドキが止まらない。彼女のたおやかな指が、あまりにも細い僕の首にかかり…… 「あッ…」思わずため息を漏らしてしまう。 カラーを……布とはいえ、首を拘束する何かを、こんな美女の手で取り付けられらたということに、僕の妄想は止まらない。 プリンセスと呼ばれているけど、紫のような大人っぽい美女のものになるのなら…… 僕は奴隷になってもいい…… 蝶ネクタイも取り付けられる。これもごくオーソドックスな黒いものだ。 「慣れてきたら、ネクタイやカラーはヴァリエーションを増やす楽しみもございますが、まずはプリンセスは王道を身に着けるものですわ」 そして、最も目立つパーツと言っていい、ウサギ耳付きのヘッドバンド。 丁寧に整えた髪形を乱さないように、紫は慎重に、慎重にヘッドバンドを僕の頭に取り付ける。 きもち膨らみを持たせた造形の疑似耳は、外側がエナメル張りだけに、高級な革製品のような風合いをもたらす。 「輝かしいまでの金髪に、エナメル製の黒い耳の光沢、実に映えますわ」 紫に褒められ、僕は嬉しさで赤くなる。 「ありがとう、でも紫さんの黒髪に黒の耳も素敵よ」 特に意識することなく、自然にそう言っていた。後から気づいて、驚く。 女性として女性に褒められ、即座に相手の女性的な美しさを褒め返すことが出来た。これも女としての成長の証しなのだろうか。 そして、紫が跪く。 僕の足元に並べられているのは、黒いエナメル張りのハイヒール。 その靴を履かせようと、彼女は僕の右足首を取る…… 紫さんの優しい手が……僕の足を…… 紫は、一瞬だけ手を止め、タイツに包まれ黒く染まった僕の足を……妙に物欲しげに……見つめると、手に取った靴を、最初はそっと、そして次第に力を入れて奥まで押し込んだ。 「あッ…」喘いでしまったのは、痛みと快感の両方があったから。 こんな細い靴を履いたら痛くてもおかしくない……だけど気持ちが良いのは何故なんだろう? 「これを欠いてはバニーガールは完成しませんわ」そう呟く紫の声に、わずかに興奮が滲み出ている。 同じ儀式が左足首にも繰り返される。 僕は痛みにかすかなうめき声をあげ、痛みに奇妙な快感を感じる。 そんな僕の顔を見つめ……紫も何かの奇妙な快感を覚えているようだ。金色に輝く彼女の瞳の奥に、その本性がわずかに垣間見えた気がした…… 紫さんは……S? 他のバニーガールたちの紫を見つめる目の羨ましそうなこと…… 「ふふ、普通の子であればもっと低いヒールから始めて慣れていくところですが、プリンセスには6インチヒールでないと」 海外での高級バニーガールクラブなどでは、確かに6インチヒールはかなり当たり前だ。 履いていて辛い物だし、そもそも身長の低い日本人女性にはあまり似合わないので、日本のバニークラブでは3、4インチで済ませる店が多い。 だけど、ブレインダメージでは6インチを履いて速やかに動き回るバニーさんがいくらもいるし、紫さんたちトップクラスのパフォーマーやホステスは皆そうだ。 プリンセスなんて言われて、その頂点に立たされるということは、そんな文字通りの足枷を課されるということなのか。 椅子の手すりをしっかりつかんで立ち上がると、全身の体重がつま先へと襲いかかってきた。 痛い… 「ふふ、ゆっくり慣れていきましょう。も・じ・ど・お・り・に、手取り足取り教えて差し上げますわ」 痛みを必死にこらえている僕を、どこか…… いや、きっと本気で嬉しそうに眺め、紫さんは僕の手を取って、寄り添って歩き始めた。 僕も紫さんも相当の上背がある。 実は、女になった今の方が男だった時よりも身長が高い。175cmくらいある今の僕が6インチヒールの靴を履くと、明らかに周囲を見下ろす感じになってしまう。 足の痛みと不安定さに、若干の目新しい光景も加わり、僕は混乱を禁じ得ない。 「ふふ、ダメですよ。プリンセスたるもの、歩くときは背筋を伸ばさないと」紫さんがぺろんと僕のお尻を撫でる。 「ふわぁぁぁ!」 「女の色香と威厳、この両方を身に着けてこそブレインダメージのバニーガール。なに、心配することはありません。痛みが嫌なのは最初だけ、痛みを味わえば味わうほど深い快楽へと沈溺していく、女らしく振る舞えば振る舞うほどそんな自分自身に憧憬を抱く、そんな魂の持ち主だけがブレインダメージのバニーガールになれるのです。この店のバニーガールになったということは……最初からあなたにはその資格があるということですわ」 ”最初から資格があった”-その言葉が僕の心に突き刺さる。 どういうことだ?単に、ギャンブルの負けやサービス料の貸しを払えなかったのがバニーガールにされた理由ではなかったのか? 「ふふ、ダメですよ。今はトレーニングに集中して。さぁ、いち・に、いち・に」 紫さんに促されて歩き始める。どうやら今日の午前はハイヒールでの歩行訓練だけで終わりそうだ…… バニーガールとして、まずは歩き方の練習から。 一歩踏み出すごとに股間に強烈な痛みが走るが、これはすぐに慣れた。 一方、足への体重のかけ方を少しでも誤ると、ヒールが安定しない。 一歩一歩……紫に促されて歩を進めるうちに、僕は心の底で何かが変わっていくのを感じていた。 いや、何かではない……自分の中に確かに存在する女の部分が強くなっていくのを。 「プリンセスは優雅たれ」紫が囁く。「優雅とは、余裕と美しさのこと」 そう……僕は優雅に振舞うことを自分に求めるようになった。自分がより優雅になることを。 内面の変化は留まるところを知らない…… 歩いていてふらつくことはもうなくなり、ヒールの痛みも徐々に薄れていった。 そして、いつの間にかバニーガールとしての作法を身に着けている自分に気づく。 自然にお辞儀が出来るようになり、その際の首の傾げ方、掌の置き位置も心得てきたし、何より背筋を伸ばそうとすると自然にそうなる…… 「プリンセスは優雅たれ」紫が呟く。「優雅とは、余裕と美しさのこと」 そして僕は自らに言い聞かせる。 (今の私はバニーガールだもの、こんなヒールの高い靴を履いていてもおかしくないのだわ) (ふふ、そうよ、今はこういう靴の方がむしろ自然だわ……) 自分自身の心の在り方を肯定していくことで、自らの内面から女らしさが湧いてくる。 女らしく振る舞うことに対する恥ずかしさがなくなった訳ではないが、一方でそのことに対する自信と誇らしさも自覚される。 バニーガールとしての自覚… プリンセスとしての自覚… そして、ナルシストとしての自覚… 「プリンセスは優雅たれ」紫が呟く。「優雅とは、余裕と美しさのこと」 様々な思いが頭の中を錯綜し、思考がまとまらない。 そう……僕はもうバニーガールであり、自分はもう女なのだ。それを受け入れなければならないし、そうなるべきなのだ…… 「これで一通りの歩き方はマスターなさいましたわ」紫が唇を僕の耳元まで近づけて囁く。 「最後に……あなたを一流のバニーガールに仕立て上げる最後のひと押し。『優雅たれ』……この言葉の意味はご自分でお考え下さいませ」 そして、紫は僕の顎に手をかけて…… 「これは頑張ったご褒美」僕の唇にそっとキスをした。 ただでさえ感じ易いこの身体の全細胞が反応し、女性ホルモンが総動員されるのが分かった。頭の中が真っ白になる…… だが、歓喜はほんの一瞬で終わった。紫はキスを解き、舌でぺろりと自分の唇を舐めた。 「いけませんわね、私の方がご褒美をもらっちゃったみたい」 もっとキスして欲しい、キスよりもっとすごいことをして欲しい、という欲求が突き上げてくるのを必死にこらえる―プリンセスは優雅たらなければならない。 「……授業ありがとうございます、紫さん」 そう、ここでバニーガールらしいお辞儀を、優雅に。下方に首を傾げた自分の唇に、愛らしくも深い欲望に満ちた笑いが浮かぶのを、僕は感じる……
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バニーガールとしての教育は、終わらない。

最初に、バニーガールにされた時には、負債を返すために働かされるものと思っていたが、ことプリンセスである僕に関しては例外らしい。
代わりに、バニーガールたちに君臨するプリンセスらしくあるべき教育を施される。
メイクや着替え、ハイヒールでの歩き方を、毎日徐々に慣らされること、いずれ出演するであろうレヴューのためのダンスやストレッチのトレーニング、そして世話係のバニーガールの求めに応じ、彼女らとスキンシップ……たいていは単なるスキンシップでは済まない行為に到るのがそうした”教育”なのだが、一方で、ブレインダメージのバニーガールがどんな仕事をしていて、どんな風に振る舞うのかを映像で延々と見せられるのも日課となっている。

明らかに営業中に、こんなアングルで、こんな距離で動画を撮影は出来ないだろうという動画が続くのだが、これも魔法によるものなのだろうか。
可憐であったり妖艶であったりするバニーガールたちが、男に媚び、男に酒を提供し、男とギャンブルに興じ、そしてステージでダンスする……
若葉はじめ知った顔の子も時折映ったが、男でなくなって尚彼女たちに魅かれる気持ちが尽きない。
いや、寧ろ女になった今の方がバニーガールへの執着が一層強くなっている気がする。と同時に、心のどこかで満足感のようなものも感じている……何なんだろう…

そうだ、と気づくー今の僕はブレインダメージのプリンセス。
ブレインダメージのバニーガールは、全員が僕に仕えるメイドのようなもの。
単なるお客の立場では絶対にあり得ない、全てのバニーガールを自分のものに出来るなんて。

そうだとしたら、何て僕は幸運なんだろう、借金で身を滅ぼすところから、こんな大逆転が待っていたとは。
と同時に、もう一つ気づいた-元の生活に戻りたい、という気持ちはあっても、男に戻りたい、という気持ちはいつの間にか消えていた。
この店から出られなくなって、外の世界に残してきた些事が気にかからなくはないが、男であることに意味があるのか?という気持ちが、考えれば考えるほど増していく。

バニーガールの可愛さ、素晴らしさ、そして……エロさを理解するには、自分がバニーガールになるしかない。バニーガール同士で濃厚に触れ合う毎日を送っていると、それが痛感される。
目の前のモニターにも、僕のものであるバニーに絡んでいこうとするおじさんたちが時折映り込む―プライバシー保護のため顔はモザイクにしてあるが、実際、こちらにしても顔も見たくないので当然の配慮と思ってしまう―が、莫迦だな下品だな、とついこの間まで自分もその一人だったことも棚に上げた思いを抱いてしまう。

モニターに映る映像が切り替わった。
今までの贅を尽くしたゲストホールやバーカウンター、ゴージャスにしてセクシーなレヴューのステージの画面から一転し、店内の廊下が映し出された。

廊下には、額縁に入れられた従業員のバニーガールたちの写真が架けられている。カメラは写真の一つ一つの前に止まり、それらをゆっくりと見せていく。

これはありがたい。
ブレインダメージに何人の従業員がいるかは知らないが、また、ここに写真が架けられているバニーガールが店の従業員の全員とは限らないが、数えきれないほどいるバニーガールの顔を覚えるのにはとてもいい……
何より、この子たちはプリンセスであるあたしのものなんですもの……いつでも見返せるよう、後でDVDに出来ないか世話係の子に頼まなくちゃ。

……そんなヌルい気持ちが一気に冷める衝撃が襲った。
ひと際大きく豪華な額にカメラが近づいていく。よほど上級のバニーガールの写真が飾られているのか、と期待に胸を膨らませた僕は、写真を見て、あっと叫んだ。

写真には、ベッドの上で身を寄せてくる若葉と頬を染めながら彼女と抱き合う僕の二人が写っていた。
額の下に添えられたプレートには《プリンセスとそのしもべ》とあった……

これはどういうことなのだろうか……
お客として通っていた頃に、この廊下の写真を見たことは何度かあった。新入りの子の写真が新しく架けられたのも何度か確認したこともある……
やっぱり僕もいつかは店に出なければならなくなるのか……プリンセスといえど……
女に変えられてすぐの時に感じていたのみだった不安が戻ってきた。
男を……相手にしなければならないのか……あの下品なおやじどもと……

ーだが、その不安と共に帰ってきたのは、あの切ない予感……
常に刺激と快楽を求める感じ易すぎるこの身体が、恐怖と共に何か背徳的な予感……と期待を芽生えさせ始めている……

「いやっ!」
僕は枕に顔を埋めて、妄想を振り払おうとした。だが、そこでドアをノックする音がした。
「失礼いたします、本日のトレーニングになります。別室で行いますので、付いてきてくださいませ」

バニーガールとしての教育は、終わらない。 最初に、バニーガールにされた時には、負債を返すために働かされるものと思っていたが、ことプリンセスである僕に関しては例外らしい。 代わりに、バニーガールたちに君臨するプリンセスらしくあるべき教育を施される。 メイクや着替え、ハイヒールでの歩き方を、毎日徐々に慣らされること、いずれ出演するであろうレヴューのためのダンスやストレッチのトレーニング、そして世話係のバニーガールの求めに応じ、彼女らとスキンシップ……たいていは単なるスキンシップでは済まない行為に到るのがそうした”教育”なのだが、一方で、ブレインダメージのバニーガールがどんな仕事をしていて、どんな風に振る舞うのかを映像で延々と見せられるのも日課となっている。 明らかに営業中に、こんなアングルで、こんな距離で動画を撮影は出来ないだろうという動画が続くのだが、これも魔法によるものなのだろうか。 可憐であったり妖艶であったりするバニーガールたちが、男に媚び、男に酒を提供し、男とギャンブルに興じ、そしてステージでダンスする…… 若葉はじめ知った顔の子も時折映ったが、男でなくなって尚彼女たちに魅かれる気持ちが尽きない。 いや、寧ろ女になった今の方がバニーガールへの執着が一層強くなっている気がする。と同時に、心のどこかで満足感のようなものも感じている……何なんだろう… そうだ、と気づくー今の僕はブレインダメージのプリンセス。 ブレインダメージのバニーガールは、全員が僕に仕えるメイドのようなもの。 単なるお客の立場では絶対にあり得ない、全てのバニーガールを自分のものに出来るなんて。 そうだとしたら、何て僕は幸運なんだろう、借金で身を滅ぼすところから、こんな大逆転が待っていたとは。 と同時に、もう一つ気づいた-元の生活に戻りたい、という気持ちはあっても、男に戻りたい、という気持ちはいつの間にか消えていた。 この店から出られなくなって、外の世界に残してきた些事が気にかからなくはないが、男であることに意味があるのか?という気持ちが、考えれば考えるほど増していく。 バニーガールの可愛さ、素晴らしさ、そして……エロさを理解するには、自分がバニーガールになるしかない。バニーガール同士で濃厚に触れ合う毎日を送っていると、それが痛感される。 目の前のモニターにも、僕のものであるバニーに絡んでいこうとするおじさんたちが時折映り込む―プライバシー保護のため顔はモザイクにしてあるが、実際、こちらにしても顔も見たくないので当然の配慮と思ってしまう―が、莫迦だな下品だな、とついこの間まで自分もその一人だったことも棚に上げた思いを抱いてしまう。 モニターに映る映像が切り替わった。 今までの贅を尽くしたゲストホールやバーカウンター、ゴージャスにしてセクシーなレヴューのステージの画面から一転し、店内の廊下が映し出された。 廊下には、額縁に入れられた従業員のバニーガールたちの写真が架けられている。カメラは写真の一つ一つの前に止まり、それらをゆっくりと見せていく。 これはありがたい。 ブレインダメージに何人の従業員がいるかは知らないが、また、ここに写真が架けられているバニーガールが店の従業員の全員とは限らないが、数えきれないほどいるバニーガールの顔を覚えるのにはとてもいい…… 何より、この子たちはプリンセスであるあたしのものなんですもの……いつでも見返せるよう、後でDVDに出来ないか世話係の子に頼まなくちゃ。 ……そんなヌルい気持ちが一気に冷める衝撃が襲った。 ひと際大きく豪華な額にカメラが近づいていく。よほど上級のバニーガールの写真が飾られているのか、と期待に胸を膨らませた僕は、写真を見て、あっと叫んだ。 写真には、ベッドの上で身を寄せてくる若葉と頬を染めながら彼女と抱き合う僕の二人が写っていた。 額の下に添えられたプレートには《プリンセスとそのしもべ》とあった…… これはどういうことなのだろうか…… お客として通っていた頃に、この廊下の写真を見たことは何度かあった。新入りの子の写真が新しく架けられたのも何度か確認したこともある…… やっぱり僕もいつかは店に出なければならなくなるのか……プリンセスといえど…… 女に変えられてすぐの時に感じていたのみだった不安が戻ってきた。 男を……相手にしなければならないのか……あの下品なおやじどもと…… ーだが、その不安と共に帰ってきたのは、あの切ない予感…… 常に刺激と快楽を求める感じ易すぎるこの身体が、恐怖と共に何か背徳的な予感……と期待を芽生えさせ始めている…… 「いやっ!」 僕は枕に顔を埋めて、妄想を振り払おうとした。だが、そこでドアをノックする音がした。 「失礼いたします、本日のトレーニングになります。別室で行いますので、付いてきてくださいませ」
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トレーニングが行われるのは、お客用のサービスルーム―名目上はマッサージ目的の部屋となっているが、置かれたキングサイズのベッドから見ても分かる通り、実際のところ最終的にはセックスすることが使途である部屋だ。
サイドテーブルには、種々のえっちなおもちゃが並べられており、自由に使えるようになっている。

部屋の中で待っていたのは、二人のバニーガール。
それに、この部屋まで僕を連れてきた子を加えた三人に、ピンとくるものがあった。

美しく長い黒髪の子はゆあ。
灰色のメッシュを加えた髪を左サイドで三つ編みにしている子はみな。
ショートボブの子はみすず。

僕は、お客だった頃に、この子たち三人とこの部屋でプレイしたことがあった。
今にして思えば、既に相当の額のツケがあったのに、その上で三人も同時にサービスを頼むとか、あの時のぼくはどうにかしていたが、あの時と全く同じ状況に放り込まれたのだー今度は僕もバニーガールとなって。

「ご機嫌麗しく存じ上げますわ、プリンセス。今夜は私たち三人がサービスさせていただきます」
「え、どういうことなの?」僕のトレーニングじゃなかったのか?
「どうかお気になさらず。私たち三人のサービスを受け、私たち三人と共に愉しむことが今夜のトレーニングプログラムです」
そうか、それならまあ別にいいか。
他のバニーガールたちとスキンシップし、レズセックスすることは毎日のことであり、それもトレーニングプログラムの一環だとは繰り返し聞かされている。
いつも通りにやって……いつも通りに愉しめばいい。

プリンセスらしい所作を意識しながら、僕はハイヒールを脱がないままベッドに上がる。
ベッドの上で待機している彼女たちも同様だ。
身体を締めつけてくるエナメルの衣装も、高すぎるヒールも気にせずにベッドに横たわること、身体を触れ合わせることは、既に出来て当たり前のことだった。
これからセックスをするからこそ、プリンセスとしての気品を大切にしないと。
僕は出来る限りの優雅なほほ笑みを浮かべながら、ベッドに身を預け、彼女たちへ手招きした。
「うふふ、いらっしゃい」
「はい、プリンセス。失礼いたします」
三人のバニーガールは、目と唇を潤ませ、僕へと這い寄ってくる。その目が潤んでいるのは、僕への憧れのためか、それとも欲情のためか…

ゆあが僕の唇にキスしてきた。
既に経験を重ねてきた僕は、単純なキスくらいでは戸惑うことはない。唇の吸い合い、舌による相手への刺激、相手の舌の受け入れ方、色々学んできた。
すぐに喘ぎ始めたゆあは、ある時は僕の攻めから逃れようとし、ある時は貪欲に僕の唇へと食いついてくる。
みすずが僕の斜め後ろに回り込み、うなじから首筋、肩甲骨にかけてを舐めあげ、みなはバニーコートの上から僕の胸を揉み、舐めてくる。
ゆあとのキスだけなら僕の防御も崩されなかったかもしれない。だが三対一ではどうしようもなく、あっさり僕の身体は彼女たちの愛撫に膝を屈した。
「ぺちゅ……はぁぁ、プリンセス……最高ですぅ……」
「ああ……プリンセスとこんなことが出来るなんて夢のよう……」
「みすずちゃん、みなちゃん、三人でプリンセスさまを食べちゃいましょう、あン……」
一方的に攻められている僕、プリンセスたる僕と身体を交えることが出来る歓びに興奮を抑えられないバニーガールたち、四人の女の荒い息が混じり合い、室内を隠微な湿気で満たしていく……

その時だった。
ふと室内の明かりが消えた。
はっとなるが、代わりに、室内に用意されていた―ベッドの上の僕の位置からは真正面に当たる―モニターのスイッチが入った。そこに映し出されていたのは……
(ああ、そんな馬鹿な……)
僕は目を見張った。

トレーニングが行われるのは、お客用のサービスルーム―名目上はマッサージ目的の部屋となっているが、置かれたキングサイズのベッドから見ても分かる通り、実際のところ最終的にはセックスすることが使途である部屋だ。 サイドテーブルには、種々のえっちなおもちゃが並べられており、自由に使えるようになっている。 部屋の中で待っていたのは、二人のバニーガール。 それに、この部屋まで僕を連れてきた子を加えた三人に、ピンとくるものがあった。 美しく長い黒髪の子はゆあ。 灰色のメッシュを加えた髪を左サイドで三つ編みにしている子はみな。 ショートボブの子はみすず。 僕は、お客だった頃に、この子たち三人とこの部屋でプレイしたことがあった。 今にして思えば、既に相当の額のツケがあったのに、その上で三人も同時にサービスを頼むとか、あの時のぼくはどうにかしていたが、あの時と全く同じ状況に放り込まれたのだー今度は僕もバニーガールとなって。 「ご機嫌麗しく存じ上げますわ、プリンセス。今夜は私たち三人がサービスさせていただきます」 「え、どういうことなの?」僕のトレーニングじゃなかったのか? 「どうかお気になさらず。私たち三人のサービスを受け、私たち三人と共に愉しむことが今夜のトレーニングプログラムです」 そうか、それならまあ別にいいか。 他のバニーガールたちとスキンシップし、レズセックスすることは毎日のことであり、それもトレーニングプログラムの一環だとは繰り返し聞かされている。 いつも通りにやって……いつも通りに愉しめばいい。 プリンセスらしい所作を意識しながら、僕はハイヒールを脱がないままベッドに上がる。 ベッドの上で待機している彼女たちも同様だ。 身体を締めつけてくるエナメルの衣装も、高すぎるヒールも気にせずにベッドに横たわること、身体を触れ合わせることは、既に出来て当たり前のことだった。 これからセックスをするからこそ、プリンセスとしての気品を大切にしないと。 僕は出来る限りの優雅なほほ笑みを浮かべながら、ベッドに身を預け、彼女たちへ手招きした。 「うふふ、いらっしゃい」 「はい、プリンセス。失礼いたします」 三人のバニーガールは、目と唇を潤ませ、僕へと這い寄ってくる。その目が潤んでいるのは、僕への憧れのためか、それとも欲情のためか… ゆあが僕の唇にキスしてきた。 既に経験を重ねてきた僕は、単純なキスくらいでは戸惑うことはない。唇の吸い合い、舌による相手への刺激、相手の舌の受け入れ方、色々学んできた。 すぐに喘ぎ始めたゆあは、ある時は僕の攻めから逃れようとし、ある時は貪欲に僕の唇へと食いついてくる。 みすずが僕の斜め後ろに回り込み、うなじから首筋、肩甲骨にかけてを舐めあげ、みなはバニーコートの上から僕の胸を揉み、舐めてくる。 ゆあとのキスだけなら僕の防御も崩されなかったかもしれない。だが三対一ではどうしようもなく、あっさり僕の身体は彼女たちの愛撫に膝を屈した。 「ぺちゅ……はぁぁ、プリンセス……最高ですぅ……」 「ああ……プリンセスとこんなことが出来るなんて夢のよう……」 「みすずちゃん、みなちゃん、三人でプリンセスさまを食べちゃいましょう、あン……」 一方的に攻められている僕、プリンセスたる僕と身体を交えることが出来る歓びに興奮を抑えられないバニーガールたち、四人の女の荒い息が混じり合い、室内を隠微な湿気で満たしていく…… その時だった。 ふと室内の明かりが消えた。 はっとなるが、代わりに、室内に用意されていた―ベッドの上の僕の位置からは真正面に当たる―モニターのスイッチが入った。そこに映し出されていたのは…… (ああ、そんな馬鹿な……) 僕は目を見張った。
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―モニターの中では、僕がゆあ、みな、みすずと戯れ、激しく身体を絡ませ合っていた。男であった時の僕が。

モニターには、僕の顔は映っていない。
ただ、欲情に衝き動かされ、男の身体に執拗に貼りついてくる三人の女の顔や局部だけがアップで映っているだけだ。
だがそれは間違いなく僕の視点であり、僕の記憶の中にある光景を映し取っていた。
だからこそ、顔こそ映らなくとも彼女らと絡んでいる男が僕だと分かる。
そう言えば、営業中の店内の様子の動画も、こんなアングル、こんな距離では撮影出来ないだろうというものばかりだったが……
時折、僕の身体が見える―貧相な胸板、毛深い腕やすね、突き出た腹、そして何よりグロテスクな肉の棒……
「ぁぁぁぁ、嫌っ!そんなもの見せないで!」

『どうだ、ええ、いいだろ、うっ……ゆあ……俺のはいいだろ……』
『ああン、きよひこさま……もっと……もっと下さいませ』
『ゆあちゃんだけずるい、私も』
『みなちゃん、ちょっと待って。おもちゃ持ってくるから』
モニターの中では、男だった頃の僕が、ゆあのバニーコートの股間の部分を強引にずらし、その周囲の網タイツを強引に破き、彼女の秘裂を肉棒で貫通していた……

そんな男特有の、デリカシーのない、結合の快楽だけを求めるセックスを目の当たりにさせられ、僕は怖気を覚える。
あんな気持ちの悪いことを……本当に僕がやっていたの……プリンセスと呼ばれているこの僕が……
信じられない…信じたくない…
繊細な女の快楽と美しさは、女でないと分からない。バニーガールの素晴らしさは、バニーガールになった身にしか理解出来ない…
それが分かってしまった今、僕は画面の中で繰り広げられている男女のセックスに激しい違和感を覚え、その男が自分であるという事実に心を抉られるような痛みを覚えていた。

レズセックスこそが至高なのに、百合だけが純粋な愛の形なのに……
なによりゆあちゃんが可哀そう。男だった頃の僕なんかに犯されるなんて……

【そうかしら?画面の中のゆあの顔をよく見てごらんなさい】

突然、頭の中で声が響いた。
え?と思うが、僕の身体を三人のバニーガールが貪っている今、身体を動かして声の主を探すことも出来ない。

【ふふふ、わたくしはあなたの”耳”に直接語りかけているのです。“耳”とは何のことか、分かりますね?】
声と同時に、僕の頭に取り付けられたエナメル皮の疑似耳を、みすずが軽く嚙んだ。身体に電気のような快感が走る。
「ふぁぁぁぁ!」
【ふふ、魔法による衣装を着てバニーガールとなったあなたにとっては、その取り付けた疑似耳はあなたの肉体の延長であり、同時に常に欲情しているバニーガール特有の性感帯でもあるのです。とても感じ易いバニーガールにとって、バニーたる象徴の部位が感じ易いのは当然のこと】-
【そしてその”耳”は、わたくしの声を聞き取るための感覚器でもあるのです】

「あ……あなたはぁ……いった……い……ぃぃぃ…はぁ、耳いいのぉ……どなたな…の……」
【ふふふ、そろそろ分かっているのではなくて? わたくしがブレインダメージのオーナーです】

モニターの中で、みすずが何か…今もこの部屋のサイドテーブルに置かれているのと同じものをいくつか持ってきた。
『ゆあちゃんはこれが好きだものね』

激しく男と性交するゆあの両手を取ったみすずは、彼女の純白のバニー用カフスの上から、言葉通りの意味でのカフス―つまり手枷を取り付けた。
黒いレザー製の手枷は既に鎖で繋がれており、ゆあは腕を上半身の位置から動かせなくなった。

『ああん、好きなのぉ!ゆあ、縛られるの大好きぃ!』
とてつもなく大きいゆあのおっぱいが、男が腰を打ち付けるのに合わせて揺れ、ゆあは瞳を潤ませ、拘束されながら犯される喜びに没入している。
ああ、ゆあちゃんが、そんな……

【いいこと、もう一度よくごらんなさい―ゆあの、あの幸せそうな顔を見て、可哀そうだと言うの?】
―ゆあの広がった唇に、涎が糸を引き、この時の彼女がどれほどの快楽を味わっているのかを示している。
【彼女はバニーガール、女の美と快楽の化身。あの時の、そして今も、彼女はそれを極めようとしているの】
「いいえ、違います…女の子同士の愛こそ……」
―ゆあの頭とそこに取り付けられた疑似耳と真っ白な両肩と両手首を拘束する鎖が揺すぶられ、彼女がどんなリズムに身を委ねているかを表している。
【男でなくなったからこそ分かる?】
「そうです、女の子になったから……」
―ゆあの黒髪がほつれ、蕩けるような笑顔を浮かべている彼女の顔にかかり、汗や涎のため顔の肌に貼りついている。
【ブレインダメージのバニーガールたちは、ふふ、元は男。あなたのようにね。ゆあちゃんもそうだったのよ】
「……え……あ、うそ……そ…そうだった……」
【わたくしの魔法で女にされた男は、みな自分の理想の女性が具現化した肉体になる。男の心の中には、理想の女性像があるものなの。アニマと言うのですけどね】
【男性が、男性として求め続ける理想の女性に、自分がなってしまう、このことの意味が分かりますかしら?】
「ぁぁぁぁぁ……それはまさか……」
【そう、あなたが鏡に映った自分の姿にずっと欲情していたのはそのため。あなたは自分を犯したいのよ―男の欲望を持つ以上、それは否定出来ないわ】
「ちがいます、あたしは女なのぉ!女の子が好きな、バニーガールが大好きな女の子なのぉぉぉぉぉ!」
【ふふふ、あなたは自分が女だから女の子が大好き、自分がバニーガールだからバニーガールが大好き、そういうのね?ナルシストでレズビアン、それがあなただと】
「あ、あ、あ、あなたが本当に……オーナーなら……ナルシストになれと命じたのは……」
【その通り、わたくしですわ。そんな美しい身体を持つあなたが愛し合うべきなのは……】
「お、お、お、お、おんなのこぉぉぉぉ………」
【それは間違いではない。だけど、男性としてのあなたは、今のあなたの肉体を犯したいと思うでしょう……見て、あなたの男性としてのセックスを】
―ゆあのバニーコートの鼠径部が、男のたくましい武器に貫かれ、ぐちゅぐちゅと音を立て、秘所の中では男女の液がかき混ぜられている。
嗚呼、ゆあちゃん……そんな……

―カメラは再びゆあの顔に近づく。ただでさえ、美しい彼女の顔が悦楽に歪み、この世のものとも思えない美を作り出していた。
【あなたもああなりたくない?】
「!嫌です!絶対嫌!……ふぁぁあ!」

いつの間にか、モニターの中の映像と同じく、みすずがテーブルの上からおもちゃを持ってきていた。
彼女はバニーコート越しに、僕の股間にバイブレーターを押し当ててきた。
小刻みな震動と棒状のもので股間をつつかれる快感に、僕は狂おしい叫びをあげた。

【どう…これでも嫌?あなたは理想の女性の肉体となったことで、自分の肉体に欲情していること、自分に恋していることを自覚し、同時に、女を犯す器官を失った。その代わりに……あなたは犯されるための女の器官を得たのよ。どう……これが欲しいでしょう?】

目の前で、みすずは自分の網タイツの股間の部分を破き、バニーコートの股間の部分を強引にずらして、僕を弄んでいたバイブをそこへと挿入した。
はっとデジャヴが閃き、モニターを見ると、画面の中でもみすずが同じことをしている。
そうだった、あの時は確かにそうだった。すると、次は…

みなが、僕の顔に自分のおっぱいを押し付けつつ、やはりパールローター式のバイブを強引にバニーコートの股間の横から挿入して悶え始めた。画面の中のみなも、同じ振る舞いに及び、
【この子たちは三人とも女の器官での快感を味わっている。あなたは……この快感を知りたくない?】
「はぁぁはぁぁ、あたしは……」
僕は……あたしは……何を望んでいるの?犯されること?犯すこと?犯すための器官などないのに、何を迷うの?
「あ、あ、あ、あたしのきかん、おんなとしてのきかんんんんん……」
画面の中で、いやらしい水分を分泌し、律動しているゆあの、みすずの、みなの、女の器官。

「ぷりんせすさまぁ……イキましょ……」
目の前のゆあがすっかり理性の溶解しきった表情で、下半身を押し付けてきた。
あたしは股間を広げて受け入れる―女の器官での快楽を少しでも得るには、今はこれしかない。

バニーコートを着たままのあたしとゆあが、ハイレグ状のエナメル生地の股間部同士をこすり合わせ、モニターの中では、ゆあがハイレグ状のエナメル生地の股間の横から強引に突っ込まれた男の器官を受け入れている。
その違いを除けば、今のこの部屋と映像として再生される同じ部屋で、同じ四人が同じリズムで律動している。

あたしの頭の中は女の器官のことだけでいっぱいだった。
若葉との、バニーコートを着たままでの松葉崩しで憶えたテクニックですら、今のあたしが求める快楽には足りなかった。
バニーの衣装なしで愛し合いたい。裸の器官を愛されたい。

バニーコートに包まれた今の自分の肉体のそれより、あたしはみすずの、みなの、そして映像の中のゆあの女の器官に感情移入していた。
あたしは、さっきオーナーが言った言葉の意味を完全に理解した。
今、あたしはゆあのおまんこに憧れている。
ゆあのおまんこになりたい。ゆあみたいに……
「貫いてぇぇぇぇ!あたしを犯して!犯してくださぁぁぁぁ……」

【残念ながら、そうはいかないの。あなたのようなプリンセスにはそんなことはさせられないわ】
オーナーは非情に宣告した。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!なんでぇぇぇぇ……なんでそうなるの……そんな……」
画面の中で、みなとみすずが左右から男だった頃のあたし……いや、きよひこの肉体にしがみつき、四人がひと固まりとなって快楽を共有し始めた。
それに合わせ、目の前のみなとみすずも同じ姿勢を取り、あたしの耳を両側からなぶり、あたしのおっぱいを両側から夢中になって揉む。

「はぁぁぁぁ、ぷりんせすさま、私イキますぅぅぅ…」『はぁぁぁぁ、きよひこさま、私イキますぅぅぅ…』
目の前と画面の中のゆあの声がシンクロする。
ゆあがひと際ダイナミックに身体を揺らし始め、ついに抑えきれなくなったか―それともこれも魔法によるものか―ゆあのバニーコートの胸の部分が巨大な乳肉の山体崩壊に屈し、とんでもないサイズの彼女のおっぱいがまるごと露出した―
記憶がフラッシュバックする-あの時、この興奮に耐えきれず、男だったあたしはイッてしまった。
画面で見るだけでは伝わらない筈のショックが、自分自身の記憶として完全に再生され、ゆあの膣内に全力で射精した時の興奮が蘇ってきた―
だが、既にそうするための器官は、いまのあたしにはない。

―画面の中では、ぐったりとなったきよひこはゆあの身体を離れて倒れた。
ここで視点はきよひこのものではなくなり、ゆあの姿を映し出した。
その顔は、頭脳の奥の奥まで快楽により破壊し尽くされた、呆けた表情を晒し、結合を解いてもまだがに股に構えているその股間からは、白濁した汁が溢れ出ている。
足を開き、足の裏を合わせるように両膝を折ったその姿勢の故、股間の近くに来ているゆあの黒エナメルのハイヒールが、彼女の女性器から流れ出てきた白い液で汚される。
ああ、あたしも汚されたい……その思いがあたしの女の身体を後押しし、あたしもイった。
「はぁぁぁあぁん、ゆあちゃん、ゆあちゃ………いいのぅ!」

映像は終了し、モニターはブランク状態となった。
あたしは一度は達したが、身体という以上に心が満足出来なかった。
女の器官を貫かれたい。
この美しい顔を、身体を汚されたい……ゆあみたいに。

あたしは、ここにはいないオーナーに哀願した。
「お願いですぅぅぅ、オーナー……あたしを……あたしを……お店に出してください……お客様にご奉仕させてくださぁい……」

【先も言った通りです。プリンセスにはそんなことはさせられない】
あたしは絶叫した。男に犯されるためなら、何でもする。
「なんで!なんでなんですか!あたしをバニーガールに変えたのは、お店で働かせるためでしょう!」

だが、そこで一度イったゆあたち三人がぬるりと立ち上がってきた。
「プリンセスさま……」
まだ満足していないということでは、彼女たちも同じらしい。またも三人がかりで抑え込まれてしまう。
そしてバニーコートの上から愛撫が再開された。
バイブでの股間への責めも含まれるが……バニーコートをずらして挿入はしてくれない。

【あなたは特別なの。他の子たちの場合は、わたくしの魔法で、その理想とする女性の身体に変えてあげただけ、優雅にして淫乱なバニーガールとしての精神と振る舞いを教え込んであげただけ。でもあなたの場合は”資格”があったの……プリンセスとしての”資格”が】

”資格”?紫さんもそんなことを言っていた?何のことなの?

【わたくしは”資格”に合致する魂の持ち主をずっと探していたのです。あなたの女性化したその姿が、その”資格”の証拠。ずっとわたくしが求め続けていた魂の持ち主は、わたくしが求めていた肉体へと変化した……】

ハチミツの皿を延々と舐める子犬か子猫のように、ゆあたちはあたしの身体を素肌と言わず、衣装の上からと言わず、舐め尽くしていく。

【プリンセスは、他のバニーガールたちにとって貴重な栄養源……プリンセスの、それも特に性的に興奮している時に放たれるオーラとフェロモンは、ブレインダメージのバニーガールの美と淫奔さを増し、若さを保ち、魔法による洗脳を更に強化するのです。こうして常にあなたとバニーガールたちを愛し合わせるのも、常時、世話係をやらせているのも、そのため】

衝撃に目がくらむ―「え……それじゃ……」

【ブレインダメージのバニーガールたちは、世の男性たちを集めるために用意された餌であり、お客様に奉仕する娼婦たち……そしてブレインダメージのプリンセスとは、バニーガールをバニーガールとして維持し向上させるための餌であり、彼女たちのための娼婦】

「いやぁぁぁぁぁ!」

そんな餌であるあたしを食らうべく、ゆあたちはあたしの上にのしかかってくる。快楽により頭脳を焼かれ、一切の理性も羞恥も喪失したとしか思えないバニーガールたちの表情を見て、あたしは”ブレインダメージ”という店名の意味を初めて悟った……

―モニターの中では、僕がゆあ、みな、みすずと戯れ、激しく身体を絡ませ合っていた。男であった時の僕が。 モニターには、僕の顔は映っていない。 ただ、欲情に衝き動かされ、男の身体に執拗に貼りついてくる三人の女の顔や局部だけがアップで映っているだけだ。 だがそれは間違いなく僕の視点であり、僕の記憶の中にある光景を映し取っていた。 だからこそ、顔こそ映らなくとも彼女らと絡んでいる男が僕だと分かる。 そう言えば、営業中の店内の様子の動画も、こんなアングル、こんな距離では撮影出来ないだろうというものばかりだったが…… 時折、僕の身体が見える―貧相な胸板、毛深い腕やすね、突き出た腹、そして何よりグロテスクな肉の棒…… 「ぁぁぁぁ、嫌っ!そんなもの見せないで!」 『どうだ、ええ、いいだろ、うっ……ゆあ……俺のはいいだろ……』 『ああン、きよひこさま……もっと……もっと下さいませ』 『ゆあちゃんだけずるい、私も』 『みなちゃん、ちょっと待って。おもちゃ持ってくるから』 モニターの中では、男だった頃の僕が、ゆあのバニーコートの股間の部分を強引にずらし、その周囲の網タイツを強引に破き、彼女の秘裂を肉棒で貫通していた…… そんな男特有の、デリカシーのない、結合の快楽だけを求めるセックスを目の当たりにさせられ、僕は怖気を覚える。 あんな気持ちの悪いことを……本当に僕がやっていたの……プリンセスと呼ばれているこの僕が…… 信じられない…信じたくない… 繊細な女の快楽と美しさは、女でないと分からない。バニーガールの素晴らしさは、バニーガールになった身にしか理解出来ない… それが分かってしまった今、僕は画面の中で繰り広げられている男女のセックスに激しい違和感を覚え、その男が自分であるという事実に心を抉られるような痛みを覚えていた。 レズセックスこそが至高なのに、百合だけが純粋な愛の形なのに…… なによりゆあちゃんが可哀そう。男だった頃の僕なんかに犯されるなんて…… 【そうかしら?画面の中のゆあの顔をよく見てごらんなさい】 突然、頭の中で声が響いた。 え?と思うが、僕の身体を三人のバニーガールが貪っている今、身体を動かして声の主を探すことも出来ない。 【ふふふ、わたくしはあなたの”耳”に直接語りかけているのです。“耳”とは何のことか、分かりますね?】 声と同時に、僕の頭に取り付けられたエナメル皮の疑似耳を、みすずが軽く嚙んだ。身体に電気のような快感が走る。 「ふぁぁぁぁ!」 【ふふ、魔法による衣装を着てバニーガールとなったあなたにとっては、その取り付けた疑似耳はあなたの肉体の延長であり、同時に常に欲情しているバニーガール特有の性感帯でもあるのです。とても感じ易いバニーガールにとって、バニーたる象徴の部位が感じ易いのは当然のこと】- 【そしてその”耳”は、わたくしの声を聞き取るための感覚器でもあるのです】 「あ……あなたはぁ……いった……い……ぃぃぃ…はぁ、耳いいのぉ……どなたな…の……」 【ふふふ、そろそろ分かっているのではなくて? わたくしがブレインダメージのオーナーです】 モニターの中で、みすずが何か…今もこの部屋のサイドテーブルに置かれているのと同じものをいくつか持ってきた。 『ゆあちゃんはこれが好きだものね』 激しく男と性交するゆあの両手を取ったみすずは、彼女の純白のバニー用カフスの上から、言葉通りの意味でのカフス―つまり手枷を取り付けた。 黒いレザー製の手枷は既に鎖で繋がれており、ゆあは腕を上半身の位置から動かせなくなった。 『ああん、好きなのぉ!ゆあ、縛られるの大好きぃ!』 とてつもなく大きいゆあのおっぱいが、男が腰を打ち付けるのに合わせて揺れ、ゆあは瞳を潤ませ、拘束されながら犯される喜びに没入している。 ああ、ゆあちゃんが、そんな…… 【いいこと、もう一度よくごらんなさい―ゆあの、あの幸せそうな顔を見て、可哀そうだと言うの?】 ―ゆあの広がった唇に、涎が糸を引き、この時の彼女がどれほどの快楽を味わっているのかを示している。 【彼女はバニーガール、女の美と快楽の化身。あの時の、そして今も、彼女はそれを極めようとしているの】 「いいえ、違います…女の子同士の愛こそ……」 ―ゆあの頭とそこに取り付けられた疑似耳と真っ白な両肩と両手首を拘束する鎖が揺すぶられ、彼女がどんなリズムに身を委ねているかを表している。 【男でなくなったからこそ分かる?】 「そうです、女の子になったから……」 ―ゆあの黒髪がほつれ、蕩けるような笑顔を浮かべている彼女の顔にかかり、汗や涎のため顔の肌に貼りついている。 【ブレインダメージのバニーガールたちは、ふふ、元は男。あなたのようにね。ゆあちゃんもそうだったのよ】 「……え……あ、うそ……そ…そうだった……」 【わたくしの魔法で女にされた男は、みな自分の理想の女性が具現化した肉体になる。男の心の中には、理想の女性像があるものなの。アニマと言うのですけどね】 【男性が、男性として求め続ける理想の女性に、自分がなってしまう、このことの意味が分かりますかしら?】 「ぁぁぁぁぁ……それはまさか……」 【そう、あなたが鏡に映った自分の姿にずっと欲情していたのはそのため。あなたは自分を犯したいのよ―男の欲望を持つ以上、それは否定出来ないわ】 「ちがいます、あたしは女なのぉ!女の子が好きな、バニーガールが大好きな女の子なのぉぉぉぉぉ!」 【ふふふ、あなたは自分が女だから女の子が大好き、自分がバニーガールだからバニーガールが大好き、そういうのね?ナルシストでレズビアン、それがあなただと】 「あ、あ、あ、あなたが本当に……オーナーなら……ナルシストになれと命じたのは……」 【その通り、わたくしですわ。そんな美しい身体を持つあなたが愛し合うべきなのは……】 「お、お、お、お、おんなのこぉぉぉぉ………」 【それは間違いではない。だけど、男性としてのあなたは、今のあなたの肉体を犯したいと思うでしょう……見て、あなたの男性としてのセックスを】 ―ゆあのバニーコートの鼠径部が、男のたくましい武器に貫かれ、ぐちゅぐちゅと音を立て、秘所の中では男女の液がかき混ぜられている。 嗚呼、ゆあちゃん……そんな…… ―カメラは再びゆあの顔に近づく。ただでさえ、美しい彼女の顔が悦楽に歪み、この世のものとも思えない美を作り出していた。 【あなたもああなりたくない?】 「!嫌です!絶対嫌!……ふぁぁあ!」 いつの間にか、モニターの中の映像と同じく、みすずがテーブルの上からおもちゃを持ってきていた。 彼女はバニーコート越しに、僕の股間にバイブレーターを押し当ててきた。 小刻みな震動と棒状のもので股間をつつかれる快感に、僕は狂おしい叫びをあげた。 【どう…これでも嫌?あなたは理想の女性の肉体となったことで、自分の肉体に欲情していること、自分に恋していることを自覚し、同時に、女を犯す器官を失った。その代わりに……あなたは犯されるための女の器官を得たのよ。どう……これが欲しいでしょう?】 目の前で、みすずは自分の網タイツの股間の部分を破き、バニーコートの股間の部分を強引にずらして、僕を弄んでいたバイブをそこへと挿入した。 はっとデジャヴが閃き、モニターを見ると、画面の中でもみすずが同じことをしている。 そうだった、あの時は確かにそうだった。すると、次は… みなが、僕の顔に自分のおっぱいを押し付けつつ、やはりパールローター式のバイブを強引にバニーコートの股間の横から挿入して悶え始めた。画面の中のみなも、同じ振る舞いに及び、 【この子たちは三人とも女の器官での快感を味わっている。あなたは……この快感を知りたくない?】 「はぁぁはぁぁ、あたしは……」 僕は……あたしは……何を望んでいるの?犯されること?犯すこと?犯すための器官などないのに、何を迷うの? 「あ、あ、あ、あたしのきかん、おんなとしてのきかんんんんん……」 画面の中で、いやらしい水分を分泌し、律動しているゆあの、みすずの、みなの、女の器官。 「ぷりんせすさまぁ……イキましょ……」 目の前のゆあがすっかり理性の溶解しきった表情で、下半身を押し付けてきた。 あたしは股間を広げて受け入れる―女の器官での快楽を少しでも得るには、今はこれしかない。 バニーコートを着たままのあたしとゆあが、ハイレグ状のエナメル生地の股間部同士をこすり合わせ、モニターの中では、ゆあがハイレグ状のエナメル生地の股間の横から強引に突っ込まれた男の器官を受け入れている。 その違いを除けば、今のこの部屋と映像として再生される同じ部屋で、同じ四人が同じリズムで律動している。 あたしの頭の中は女の器官のことだけでいっぱいだった。 若葉との、バニーコートを着たままでの松葉崩しで憶えたテクニックですら、今のあたしが求める快楽には足りなかった。 バニーの衣装なしで愛し合いたい。裸の器官を愛されたい。 バニーコートに包まれた今の自分の肉体のそれより、あたしはみすずの、みなの、そして映像の中のゆあの女の器官に感情移入していた。 あたしは、さっきオーナーが言った言葉の意味を完全に理解した。 今、あたしはゆあのおまんこに憧れている。 ゆあのおまんこになりたい。ゆあみたいに…… 「貫いてぇぇぇぇ!あたしを犯して!犯してくださぁぁぁぁ……」 【残念ながら、そうはいかないの。あなたのようなプリンセスにはそんなことはさせられないわ】 オーナーは非情に宣告した。 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!なんでぇぇぇぇ……なんでそうなるの……そんな……」 画面の中で、みなとみすずが左右から男だった頃のあたし……いや、きよひこの肉体にしがみつき、四人がひと固まりとなって快楽を共有し始めた。 それに合わせ、目の前のみなとみすずも同じ姿勢を取り、あたしの耳を両側からなぶり、あたしのおっぱいを両側から夢中になって揉む。 「はぁぁぁぁ、ぷりんせすさま、私イキますぅぅぅ…」『はぁぁぁぁ、きよひこさま、私イキますぅぅぅ…』 目の前と画面の中のゆあの声がシンクロする。 ゆあがひと際ダイナミックに身体を揺らし始め、ついに抑えきれなくなったか―それともこれも魔法によるものか―ゆあのバニーコートの胸の部分が巨大な乳肉の山体崩壊に屈し、とんでもないサイズの彼女のおっぱいがまるごと露出した― 記憶がフラッシュバックする-あの時、この興奮に耐えきれず、男だったあたしはイッてしまった。 画面で見るだけでは伝わらない筈のショックが、自分自身の記憶として完全に再生され、ゆあの膣内に全力で射精した時の興奮が蘇ってきた― だが、既にそうするための器官は、いまのあたしにはない。 ―画面の中では、ぐったりとなったきよひこはゆあの身体を離れて倒れた。 ここで視点はきよひこのものではなくなり、ゆあの姿を映し出した。 その顔は、頭脳の奥の奥まで快楽により破壊し尽くされた、呆けた表情を晒し、結合を解いてもまだがに股に構えているその股間からは、白濁した汁が溢れ出ている。 足を開き、足の裏を合わせるように両膝を折ったその姿勢の故、股間の近くに来ているゆあの黒エナメルのハイヒールが、彼女の女性器から流れ出てきた白い液で汚される。 ああ、あたしも汚されたい……その思いがあたしの女の身体を後押しし、あたしもイった。 「はぁぁぁあぁん、ゆあちゃん、ゆあちゃ………いいのぅ!」 映像は終了し、モニターはブランク状態となった。 あたしは一度は達したが、身体という以上に心が満足出来なかった。 女の器官を貫かれたい。 この美しい顔を、身体を汚されたい……ゆあみたいに。 あたしは、ここにはいないオーナーに哀願した。 「お願いですぅぅぅ、オーナー……あたしを……あたしを……お店に出してください……お客様にご奉仕させてくださぁい……」 【先も言った通りです。プリンセスにはそんなことはさせられない】 あたしは絶叫した。男に犯されるためなら、何でもする。 「なんで!なんでなんですか!あたしをバニーガールに変えたのは、お店で働かせるためでしょう!」 だが、そこで一度イったゆあたち三人がぬるりと立ち上がってきた。 「プリンセスさま……」 まだ満足していないということでは、彼女たちも同じらしい。またも三人がかりで抑え込まれてしまう。 そしてバニーコートの上から愛撫が再開された。 バイブでの股間への責めも含まれるが……バニーコートをずらして挿入はしてくれない。 【あなたは特別なの。他の子たちの場合は、わたくしの魔法で、その理想とする女性の身体に変えてあげただけ、優雅にして淫乱なバニーガールとしての精神と振る舞いを教え込んであげただけ。でもあなたの場合は”資格”があったの……プリンセスとしての”資格”が】 ”資格”?紫さんもそんなことを言っていた?何のことなの? 【わたくしは”資格”に合致する魂の持ち主をずっと探していたのです。あなたの女性化したその姿が、その”資格”の証拠。ずっとわたくしが求め続けていた魂の持ち主は、わたくしが求めていた肉体へと変化した……】 ハチミツの皿を延々と舐める子犬か子猫のように、ゆあたちはあたしの身体を素肌と言わず、衣装の上からと言わず、舐め尽くしていく。 【プリンセスは、他のバニーガールたちにとって貴重な栄養源……プリンセスの、それも特に性的に興奮している時に放たれるオーラとフェロモンは、ブレインダメージのバニーガールの美と淫奔さを増し、若さを保ち、魔法による洗脳を更に強化するのです。こうして常にあなたとバニーガールたちを愛し合わせるのも、常時、世話係をやらせているのも、そのため】 衝撃に目がくらむ―「え……それじゃ……」 【ブレインダメージのバニーガールたちは、世の男性たちを集めるために用意された餌であり、お客様に奉仕する娼婦たち……そしてブレインダメージのプリンセスとは、バニーガールをバニーガールとして維持し向上させるための餌であり、彼女たちのための娼婦】 「いやぁぁぁぁぁ!」 そんな餌であるあたしを食らうべく、ゆあたちはあたしの上にのしかかってくる。快楽により頭脳を焼かれ、一切の理性も羞恥も喪失したとしか思えないバニーガールたちの表情を見て、あたしは”ブレインダメージ”という店名の意味を初めて悟った……
Author

あの日から、あたしの生活は一変した。あたしの求めるものは全く変わった。
もう自分が女であることを疑う、迷う、躊躇う気持ちは微塵もない。
あたしは女。いやらしい女。性欲に支配された女。この世で最も美しい形に刻まれた淫肉。
そう…あたしは男を求めている。

この美しすぎる、感じ易すぎる肉体に変えられたからには、性欲に焦がされ、男を求めるのは必然。
そして、理想の女を求めるきよひこの性欲が、きよひこをあたしという形に変えた。

この円環……この残酷な円環にあたしを閉じ込めたオーナーさまへの恨みとこの美しく洗練された肉体を与えてくださったオーナーさまへの感謝の両方で、あたしの頭の中は煮えたぎっている。

バニーガールの中に混じっての生活も、あんなに甘美な体験と思えたものが、俄然色あせたものにしか感じられなくなってしまった。
バニーガールであることは好き……でも他のバニーガールの子たちは、仕事で男と遊んでいる。男とセックスしている。
だけど、あたしにはそれは許されない。プリンセスだという理由で。

そんな馬鹿な、こんな苦しいことがあるなんて。
他のバニーガールへの嫉妬で、気が狂いそうになる。
それなのに、あたしは他のバニーガールたちとレズセックスしなければならない。プリンセスだという理由で……

あてつけのように、トレーニングのために見せられる映像も、仕事として男に奉仕し、男に抱かれるバニーガールたちのものが一気に増えた。
それを見ながら、あたしは懸命にバニーコートの上からオナニーをする。
だが、肌に直接触れずに慰めたくらいでは、マグマのように煮えたぎる性欲を鎮めるには到底足らない。
自室のベッドの上で、身体をくねらせ、それを鏡で見せつけられる…
またブレインダメージに囚われた当初の頃に戻ってしまった。

もう他のバニーガールたちでは、慰めにならない……
だが、そんな性欲で脂ぎっている今のあたしは、あたしのフェロモンを養分とする他のバニーガールにとっては、今まで以上に美味らしく、更に愛おしく慕ってくる。
そんな子たちを憎む訳にはいかず、何とか平静に接しようとするが、嫉妬の思いとの板挟みとなってしまう……
嗚呼…早く犯されたい……男に汚されたい……

「今夜のトレーニングになります。いらして下さいませ」ドアをノックする音と紫の声。
ああ……またいやらしい映像を見せつけられるのか、いやらしい映像自体は観たい。だが、それだけで終わるのはつらい。

連れ立って廊下へ出ると、紫は冷ややかな表情であたしに言う。
「プリンセスは優雅たれ、お忘れですか?」
まさに優雅さを、余裕ある美しさを失っている今のあたしは、恥ずかしさで真っ赤になった。今まで何度も女らしい態度を称揚されて、恥ずかしいようなくすぐったいような思いをしたが、これは純粋に誇りを切り裂く恥ずかしさだった―今のあたしは女であること、美しくあることに誇りを持っているから…

「し……しかたないじゃない……だって……」

「欲求不満ですか?」
あの微妙にサディスティックな口調で、紫はあたしの痛いところを突いてくる。言葉面だけを取れば童貞十代男子をからかうような紫の口調に、あたしはフラストレーションを爆発させかけた。

「……ブレインダメージの中であたしだけ処女だなんて、いくら何でも不公平よっ!しかも……しかも、そんなあたしだけ……そんなあたしだからこそ、みんなの舐めるキャンディ扱いで……」

思わず泣きだしそうになったあたしの肩を抱き、背中を撫で上げ、紫は、あたしを落ち着かせようとする。

「言いましたでしょ?“プリンセスには、比類ない美しさ、その美しさに劣らないほどの、その美しさを引き立てるための高貴さ、己の美しさを自覚し、己自身に恋するナルシシズムが求められる、この矛盾を同居させてこそプリンセスの資格がある”と
「今のあなたは、己自身へ恋する気持ち……オーナーからはどこまで説明を受けられたのですか……そうね……理想の女である自分を犯したい、汚したいという気持ちが強まり、その分高貴さが圧迫されて、バランスを崩しておいでです。
「ですから、女である自分に酔いつつ、高貴な姿勢を保つのが得意なバニーガールのカウンセリングを受けていただきます」

階下へ降りていき、あたしはフロントから接客ホールに向かう廊下へ出る。
以前、映像に映っていた店のバニーガールたちの写真が壁に飾られている廊下だ。
例の特大サイズの、あたしと若葉の写真も実際に見られるだろうか、と思って、ひとつひとつ写真の前を通り過ぎていく……

あった。
あのサイズの写真、あそこにあたしの写真がかけられているのであれば、あたしにはまだ店に出るチャンスがある―
そこにあるのは、ベッドの上で抱き合うあたしと若葉の写真ではなく、跪いた紫と彼女にハイヒールを履かされている時のあたしの写真。
額の下に添えられたプレートには、変わらず《プリンセスとしもべ》とある。

「ふふ、こうやって飾られるとちょっと恥ずかしいですね」
紫が悪戯っぽく笑う。
「……写真が替わっているけど……」
「プリンセスがお店にデビューするまで、お客様の期待を煽るため、定期的に写真を取り替えていますの。基本的に、私どもとプリンセスが睦まじく絡んでいる写真を……百合営業向きなものをセレクトしていますわ」
その言葉に、あたしは少し複雑な思いを抱いた。
百合はもういいのに。
でも店に出て、男に接することが出来るのだとすれば、これほど嬉しいことはない……

あたしたちはそのまま接客ホールに入る。
所謂クラブの中枢であり、お客はここで指名したバニーガールと歓談し、相性を確かめ合い、その上で合意が結ばれたら、より上級のサービスを受けるため別室へ移動する。あたしもお客として足繫く通ったものだが……
照明はいつも通りだが、客がいない。
それでいて、バニーガールが何人…何十人も集まっている。

【今夜の営業は休みです】
いきなり疑似耳の中に直接オーナーの言葉が響き、びっくりしてしまう。
【今夜はあなたの歓迎会も兼ねておりましてよ】
「そ、それは恐縮です……」

あたしが入ってきたのを見て、歓談していたり、自分の仕事をしていたりしたバニーガールたちが一斉にこちらを向いた。
男として普通の生活をしていた時だって、こんなに何十人もの人間から一度に視線が集まることはそうそうなかったから、どぎまぎしてしまう。
あ、ゆあも若葉もいる。セックスした相手からの視線は特に鋭く突き刺さるような気がする……

「こんばんわ、ご機嫌麗しく存じます、プリンセス!」
バニーガールたちが唱和する。
その声には、そしてあたしを見つめる視線には、彼女たちのプリンセスに対する愛情と憧憬と……欲情が幾重にも乗っている。
彼女たちの熱烈な”歓迎”がどのようなものになるかは、容易に予想がついた。

あの日から、あたしの生活は一変した。あたしの求めるものは全く変わった。 もう自分が女であることを疑う、迷う、躊躇う気持ちは微塵もない。 あたしは女。いやらしい女。性欲に支配された女。この世で最も美しい形に刻まれた淫肉。 そう…あたしは男を求めている。 この美しすぎる、感じ易すぎる肉体に変えられたからには、性欲に焦がされ、男を求めるのは必然。 そして、理想の女を求めるきよひこの性欲が、きよひこをあたしという形に変えた。 この円環……この残酷な円環にあたしを閉じ込めたオーナーさまへの恨みとこの美しく洗練された肉体を与えてくださったオーナーさまへの感謝の両方で、あたしの頭の中は煮えたぎっている。 バニーガールの中に混じっての生活も、あんなに甘美な体験と思えたものが、俄然色あせたものにしか感じられなくなってしまった。 バニーガールであることは好き……でも他のバニーガールの子たちは、仕事で男と遊んでいる。男とセックスしている。 だけど、あたしにはそれは許されない。プリンセスだという理由で。 そんな馬鹿な、こんな苦しいことがあるなんて。 他のバニーガールへの嫉妬で、気が狂いそうになる。 それなのに、あたしは他のバニーガールたちとレズセックスしなければならない。プリンセスだという理由で…… あてつけのように、トレーニングのために見せられる映像も、仕事として男に奉仕し、男に抱かれるバニーガールたちのものが一気に増えた。 それを見ながら、あたしは懸命にバニーコートの上からオナニーをする。 だが、肌に直接触れずに慰めたくらいでは、マグマのように煮えたぎる性欲を鎮めるには到底足らない。 自室のベッドの上で、身体をくねらせ、それを鏡で見せつけられる… またブレインダメージに囚われた当初の頃に戻ってしまった。 もう他のバニーガールたちでは、慰めにならない…… だが、そんな性欲で脂ぎっている今のあたしは、あたしのフェロモンを養分とする他のバニーガールにとっては、今まで以上に美味らしく、更に愛おしく慕ってくる。 そんな子たちを憎む訳にはいかず、何とか平静に接しようとするが、嫉妬の思いとの板挟みとなってしまう…… 嗚呼…早く犯されたい……男に汚されたい…… 「今夜のトレーニングになります。いらして下さいませ」ドアをノックする音と紫の声。 ああ……またいやらしい映像を見せつけられるのか、いやらしい映像自体は観たい。だが、それだけで終わるのはつらい。 連れ立って廊下へ出ると、紫は冷ややかな表情であたしに言う。 「プリンセスは優雅たれ、お忘れですか?」 まさに優雅さを、余裕ある美しさを失っている今のあたしは、恥ずかしさで真っ赤になった。今まで何度も女らしい態度を称揚されて、恥ずかしいようなくすぐったいような思いをしたが、これは純粋に誇りを切り裂く恥ずかしさだった―今のあたしは女であること、美しくあることに誇りを持っているから… 「し……しかたないじゃない……だって……」 「欲求不満ですか?」 あの微妙にサディスティックな口調で、紫はあたしの痛いところを突いてくる。言葉面だけを取れば童貞十代男子をからかうような紫の口調に、あたしはフラストレーションを爆発させかけた。 「……ブレインダメージの中であたしだけ処女だなんて、いくら何でも不公平よっ!しかも……しかも、そんなあたしだけ……そんなあたしだからこそ、みんなの舐めるキャンディ扱いで……」 思わず泣きだしそうになったあたしの肩を抱き、背中を撫で上げ、紫は、あたしを落ち着かせようとする。 「言いましたでしょ?“プリンセスには、比類ない美しさ、その美しさに劣らないほどの、その美しさを引き立てるための高貴さ、己の美しさを自覚し、己自身に恋するナルシシズムが求められる、この矛盾を同居させてこそプリンセスの資格がある”と 「今のあなたは、己自身へ恋する気持ち……オーナーからはどこまで説明を受けられたのですか……そうね……理想の女である自分を犯したい、汚したいという気持ちが強まり、その分高貴さが圧迫されて、バランスを崩しておいでです。 「ですから、女である自分に酔いつつ、高貴な姿勢を保つのが得意なバニーガールのカウンセリングを受けていただきます」 階下へ降りていき、あたしはフロントから接客ホールに向かう廊下へ出る。 以前、映像に映っていた店のバニーガールたちの写真が壁に飾られている廊下だ。 例の特大サイズの、あたしと若葉の写真も実際に見られるだろうか、と思って、ひとつひとつ写真の前を通り過ぎていく…… あった。 あのサイズの写真、あそこにあたしの写真がかけられているのであれば、あたしにはまだ店に出るチャンスがある― そこにあるのは、ベッドの上で抱き合うあたしと若葉の写真ではなく、跪いた紫と彼女にハイヒールを履かされている時のあたしの写真。 額の下に添えられたプレートには、変わらず《プリンセスとしもべ》とある。 「ふふ、こうやって飾られるとちょっと恥ずかしいですね」 紫が悪戯っぽく笑う。 「……写真が替わっているけど……」 「プリンセスがお店にデビューするまで、お客様の期待を煽るため、定期的に写真を取り替えていますの。基本的に、私どもとプリンセスが睦まじく絡んでいる写真を……百合営業向きなものをセレクトしていますわ」 その言葉に、あたしは少し複雑な思いを抱いた。 百合はもういいのに。 でも店に出て、男に接することが出来るのだとすれば、これほど嬉しいことはない…… あたしたちはそのまま接客ホールに入る。 所謂クラブの中枢であり、お客はここで指名したバニーガールと歓談し、相性を確かめ合い、その上で合意が結ばれたら、より上級のサービスを受けるため別室へ移動する。あたしもお客として足繫く通ったものだが…… 照明はいつも通りだが、客がいない。 それでいて、バニーガールが何人…何十人も集まっている。 【今夜の営業は休みです】 いきなり疑似耳の中に直接オーナーの言葉が響き、びっくりしてしまう。 【今夜はあなたの歓迎会も兼ねておりましてよ】 「そ、それは恐縮です……」 あたしが入ってきたのを見て、歓談していたり、自分の仕事をしていたりしたバニーガールたちが一斉にこちらを向いた。 男として普通の生活をしていた時だって、こんなに何十人もの人間から一度に視線が集まることはそうそうなかったから、どぎまぎしてしまう。 あ、ゆあも若葉もいる。セックスした相手からの視線は特に鋭く突き刺さるような気がする…… 「こんばんわ、ご機嫌麗しく存じます、プリンセス!」 バニーガールたちが唱和する。 その声には、そしてあたしを見つめる視線には、彼女たちのプリンセスに対する愛情と憧憬と……欲情が幾重にも乗っている。 彼女たちの熱烈な”歓迎”がどのようなものになるかは、容易に予想がついた。
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ウェイトレス役のバニーガールたちが、カクテルグラスを載せたトレーを持って回り、バニーガールたちに手渡して回る。あたしの許へも……
それはかなり長身の、あたしや紫に劣らないくらいの上背のあるバニーガールだった。
靴のヒールもあたしたちと同じ、ということは上げ底ではない。
バニーコートやハイヒールはクラシックな黒だが、ジャケットを着ている。
そう言えば、ジャケットを着たバニーガールは、お客として来ていた頃は時折見かけたが、店の中に入ってからは初めて見る。

「秋姫と申します、プリンセス。お見知りおきを」
「え……ええ、よろしくお願いします…」
【あとで彼女に話を聞いてもらいなさい】疑似耳の中でオーナーの命令がこだました。

全員にグラスが行き渡ると、全員を代表して、若葉がグラスを掲げた。
「ブレインダメージのプリンセスに、栄光と快楽を!」
「栄光と快楽を、プリンセスに!」
”快楽”という語に、特に強く力のこもった唱和が響き、バニーガールたちは一気にグラスを干した。あたしもワンテンポ遅れて飲み干す。

乾杯が済むと、次から次へとバニーガールたちが押し寄せてきて、名乗っては、あたしの前に跪き、手の甲にキスをする。
ああ、やっぱりプリンセスは愛されているんだぁぁ……
かなりの人数がいるため、この挨拶だけでも相当に時間がかかった―特に、既に情交しているバニーガールたちは、思わせぶりな態度を取って来て、少しでも長くあたしに貼りつこうとするので、その度に滞ってしまう―が、ひと通りの紹介が終わったところで、
【リラックスタイムといきましょう】
オーナーが示唆したが、これはあたしだけでなく全員がそれぞれの疑似耳で命令をキャッチしたらしい。名残惜しそうな態度の者もいたが、バニーガールたちは会釈してあたしの前から去り、あたしは残された―その横に控える秋姫と共に。

「オーナーからのご指示ですわ。プリンセスのお悩みの相談に乗れ、とのことです。あちらで一杯飲りながら話すとしましょう」
秋姫は視線でバーカウンターへの移動を促し、あたしも彼女に従った。

バーの向こうに入って酒とグラスを手に取り、カクテルを作った秋姫は、カウンター席についたあたしにそっと差し出す。
「カルヴァドスカクテルです。お気に召していただければよいのですけど」
そう言うと、彼女は自分用にブランデーのロックを一杯作り、バーのこちら側へ戻ってきて、隣の席に腰かけた。
「改めまして、秋姫と申します。バーメイドとバウンサー、あと手が足りないときはウェイトレスも担当しております」

あたしはカクテルを勧められるままに飲む……美味しい!今まで飲んだどんなカクテルよりも。
男だった頃は、酒が強くなかったこともあってカクテルには関心がなかったし、ブレインダメージに来店しても、ボトルの類は形式的にキープしておくだけで、店の子たちが飲むに任せていた。
「まずはお酒でも飲んで、リラックスするのが一番ですわ」
確かに彼女の言う通りかもしれない。思えば、先ほどの乾杯まで、バニーガールになってから全くアルコールを飲んでいなかったし、飲む発想もなかったが、これは意外といい気分転換かもしれないー
とてもナチュラルな態度で、スムーズにバーでの、女同士での会話が始まったー

「私たちバウンサーの仕事についてはどこまでご存じ?」
「バーメイドは、お客様にカクテルとか作ってお出しして、勧める係だけど……バウンサーは……」

バウンサーの仕事は、客として店に通っていた頃も二、三度しか見たことがない。
ひどく酔っぱらう客、他のお客や従業員に乱暴や嫌がらせを働く客、理不尽なことばかり言いつける客を、必要に応じては力ずくででも追い返すバーの用心棒がバウンサーだ。
ブレインダメージのバウンサーは、他の職分のバニーガールとはひと目で区別出来る服装をしている。つまり、今の秋姫が着ているジャケットを、バニーコートの上から着用するよう義務付けられている。
だから店内のどのバニーガールがバウンサーかはすぐに分かる。
だがバウンサーが仕事をしているところを見たことはごくわずかにしかない。流石にブレインダメージほどの高級クラブでは、バウンサーの手を煩わせるような無粋なお客はあまりいないということか。

だが秋姫は意味ありげに笑った。「ふふふ、そもそもブレインダメージにバウンサーみたいな職分が必要だと思います?魔法で男を女に変えて、洗脳もしてしまえるのですから、わざわざ女の細腕の力に頼る必要が?」
「い……言われてみれば……」
「ええ、この機会に説明せよとオーナーから言われておりますー実は、ブレインダメージのバニーガールの全員が元男なのではないのです」
「!?」
思ってもみなかった言葉に、あたしは絶句した。

「ブレインダメージのバニーガールの約一割ほどは女性、そしてバウンサー役は女性バニーガールのみの職分なんです」
「バウンサーが女のバニーガールだけ……」

バウンサーはバニーガールの中でも、一番男に近い存在だ。つまり、店内の荒事は元男ではなく、敢えて女に任せるのがブレインダメージの方針ということなのか…

「ええ、もちろん元男ではないバニーガールの全員がバウンサーという訳ではありませんよ。他の職分を志望する女性バニーガールもいるのですから。でもバウンサーは全員が女性です
「オーナーは、元男のバニーガールに、男のような乱暴で野蛮なふるまいをさせることを嫌っておられます。それが元男のバニーガールをバウンサーに就けない理由。そして…」
言葉を区切って、秋姫はグラスのブランデーをひと口呷る。そして意味ありげに微笑み、

「ブレインダメージにも女性のお客さまが一定数おられるのはご存じのことと思います」
「ええ……えっ?それじゃ……」
店への払いが賄えなくなったあたしのような男どもが、女性に変えられてバニーガールをさせられているように、秋姫さんたちも…

「バニーガールは可愛くてセクシーで好き、という女のお客さまもおられますし、足繁く通われるうちに、ゲームの負けやレヴューの鑑賞料金の負債が払いきれなくなる方もおられます。そういう方の中で極端にひどいケースの場合は、男性のお客様と同様、魔法によって身も心も当店の従業員になっていただくのですが……
「自分の意志で従業員になりたいとブレインダメージの門を叩く女もいるのです。他の女性従事サービス業と同様に、給料がいいだろうと思って、という方もいるにはいますが、時にそうでないタイプの女の子も混じっています。オーナーが興味を持たれるのは、そういう女性たちです
「自分を変えたい、自分を変える挑戦をしたい、という気持ちのある女性を、オーナーは積極的に採用されるのです。ブレインダメージの従業員になるということは、身も心も変えられることになる訳ですから、気持ちがそちらへ向かい易い女たち、ということでもあります。まぁ、そういう女性は往々にして気が強いものですから、寧ろこうした商売とは水と油になりがちなのですが……」
言外に、魔法による洗脳があることを匂わせつつ、秋姫は続ける。

「そうした芯の強い女こそ、無礼で野蛮な男たちから従業員の淑女たちを守るのに相応しい、オーナーはそうお考えで、特に選ばれた女性のみからバウンサーを登用しておられるのです……そして僭越ながら、私もそのひとりという訳です」

「なるほど……」とあたしは思わず頷いてしまう。
その長身、ジャケットの上からでも分かるがっちりした肩からは、バウンサーを任されるだけの説得力が伝わってくる。

……あたしの中で、何かが頭をもたげてきた。
しばらく他のバニーガールには抱かなかった感情だ。
ただただ、男に貫かれたい、犯されたいという思いが募っていた最近のあたしだったが……
秋姫さんのような素敵な女性であれば……

「あ……あの…秋姫さんは女性だということですけど……」
途切れがちな口調で、言葉を選びながら、あたしは尋ねる。
秋姫は優しく笑い、「ふふ、好きなのは女の子か男か、ということですか?」
「え、ええ、そうです!……ごめんなさいね、ぶしつけなことを聞いちゃって」

秋姫はもうひと口グラスに口を付けてから、
「好きなのは……両方、かしら。男性にも女性にも恋してますし、性別を超えた恋愛感情もあると自覚しておりますから」
「そ……それは……」

ウェイトレス役のバニーガールたちが、カクテルグラスを載せたトレーを持って回り、バニーガールたちに手渡して回る。あたしの許へも…… それはかなり長身の、あたしや紫に劣らないくらいの上背のあるバニーガールだった。 靴のヒールもあたしたちと同じ、ということは上げ底ではない。 バニーコートやハイヒールはクラシックな黒だが、ジャケットを着ている。 そう言えば、ジャケットを着たバニーガールは、お客として来ていた頃は時折見かけたが、店の中に入ってからは初めて見る。 「秋姫と申します、プリンセス。お見知りおきを」 「え……ええ、よろしくお願いします…」 【あとで彼女に話を聞いてもらいなさい】疑似耳の中でオーナーの命令がこだました。 全員にグラスが行き渡ると、全員を代表して、若葉がグラスを掲げた。 「ブレインダメージのプリンセスに、栄光と快楽を!」 「栄光と快楽を、プリンセスに!」 ”快楽”という語に、特に強く力のこもった唱和が響き、バニーガールたちは一気にグラスを干した。あたしもワンテンポ遅れて飲み干す。 乾杯が済むと、次から次へとバニーガールたちが押し寄せてきて、名乗っては、あたしの前に跪き、手の甲にキスをする。 ああ、やっぱりプリンセスは愛されているんだぁぁ…… かなりの人数がいるため、この挨拶だけでも相当に時間がかかった―特に、既に情交しているバニーガールたちは、思わせぶりな態度を取って来て、少しでも長くあたしに貼りつこうとするので、その度に滞ってしまう―が、ひと通りの紹介が終わったところで、 【リラックスタイムといきましょう】 オーナーが示唆したが、これはあたしだけでなく全員がそれぞれの疑似耳で命令をキャッチしたらしい。名残惜しそうな態度の者もいたが、バニーガールたちは会釈してあたしの前から去り、あたしは残された―その横に控える秋姫と共に。 「オーナーからのご指示ですわ。プリンセスのお悩みの相談に乗れ、とのことです。あちらで一杯飲りながら話すとしましょう」 秋姫は視線でバーカウンターへの移動を促し、あたしも彼女に従った。 バーの向こうに入って酒とグラスを手に取り、カクテルを作った秋姫は、カウンター席についたあたしにそっと差し出す。 「カルヴァドスカクテルです。お気に召していただければよいのですけど」 そう言うと、彼女は自分用にブランデーのロックを一杯作り、バーのこちら側へ戻ってきて、隣の席に腰かけた。 「改めまして、秋姫と申します。バーメイドとバウンサー、あと手が足りないときはウェイトレスも担当しております」 あたしはカクテルを勧められるままに飲む……美味しい!今まで飲んだどんなカクテルよりも。 男だった頃は、酒が強くなかったこともあってカクテルには関心がなかったし、ブレインダメージに来店しても、ボトルの類は形式的にキープしておくだけで、店の子たちが飲むに任せていた。 「まずはお酒でも飲んで、リラックスするのが一番ですわ」 確かに彼女の言う通りかもしれない。思えば、先ほどの乾杯まで、バニーガールになってから全くアルコールを飲んでいなかったし、飲む発想もなかったが、これは意外といい気分転換かもしれないー とてもナチュラルな態度で、スムーズにバーでの、女同士での会話が始まったー 「私たちバウンサーの仕事についてはどこまでご存じ?」 「バーメイドは、お客様にカクテルとか作ってお出しして、勧める係だけど……バウンサーは……」 バウンサーの仕事は、客として店に通っていた頃も二、三度しか見たことがない。 ひどく酔っぱらう客、他のお客や従業員に乱暴や嫌がらせを働く客、理不尽なことばかり言いつける客を、必要に応じては力ずくででも追い返すバーの用心棒がバウンサーだ。 ブレインダメージのバウンサーは、他の職分のバニーガールとはひと目で区別出来る服装をしている。つまり、今の秋姫が着ているジャケットを、バニーコートの上から着用するよう義務付けられている。 だから店内のどのバニーガールがバウンサーかはすぐに分かる。 だがバウンサーが仕事をしているところを見たことはごくわずかにしかない。流石にブレインダメージほどの高級クラブでは、バウンサーの手を煩わせるような無粋なお客はあまりいないということか。 だが秋姫は意味ありげに笑った。「ふふふ、そもそもブレインダメージにバウンサーみたいな職分が必要だと思います?魔法で男を女に変えて、洗脳もしてしまえるのですから、わざわざ女の細腕の力に頼る必要が?」 「い……言われてみれば……」 「ええ、この機会に説明せよとオーナーから言われておりますー実は、ブレインダメージのバニーガールの全員が元男なのではないのです」 「!?」 思ってもみなかった言葉に、あたしは絶句した。 「ブレインダメージのバニーガールの約一割ほどは女性、そしてバウンサー役は女性バニーガールのみの職分なんです」 「バウンサーが女のバニーガールだけ……」 バウンサーはバニーガールの中でも、一番男に近い存在だ。つまり、店内の荒事は元男ではなく、敢えて女に任せるのがブレインダメージの方針ということなのか… 「ええ、もちろん元男ではないバニーガールの全員がバウンサーという訳ではありませんよ。他の職分を志望する女性バニーガールもいるのですから。でもバウンサーは全員が女性です 「オーナーは、元男のバニーガールに、男のような乱暴で野蛮なふるまいをさせることを嫌っておられます。それが元男のバニーガールをバウンサーに就けない理由。そして…」 言葉を区切って、秋姫はグラスのブランデーをひと口呷る。そして意味ありげに微笑み、 「ブレインダメージにも女性のお客さまが一定数おられるのはご存じのことと思います」 「ええ……えっ?それじゃ……」 店への払いが賄えなくなったあたしのような男どもが、女性に変えられてバニーガールをさせられているように、秋姫さんたちも… 「バニーガールは可愛くてセクシーで好き、という女のお客さまもおられますし、足繁く通われるうちに、ゲームの負けやレヴューの鑑賞料金の負債が払いきれなくなる方もおられます。そういう方の中で極端にひどいケースの場合は、男性のお客様と同様、魔法によって身も心も当店の従業員になっていただくのですが…… 「自分の意志で従業員になりたいとブレインダメージの門を叩く女もいるのです。他の女性従事サービス業と同様に、給料がいいだろうと思って、という方もいるにはいますが、時にそうでないタイプの女の子も混じっています。オーナーが興味を持たれるのは、そういう女性たちです 「自分を変えたい、自分を変える挑戦をしたい、という気持ちのある女性を、オーナーは積極的に採用されるのです。ブレインダメージの従業員になるということは、身も心も変えられることになる訳ですから、気持ちがそちらへ向かい易い女たち、ということでもあります。まぁ、そういう女性は往々にして気が強いものですから、寧ろこうした商売とは水と油になりがちなのですが……」 言外に、魔法による洗脳があることを匂わせつつ、秋姫は続ける。 「そうした芯の強い女こそ、無礼で野蛮な男たちから従業員の淑女たちを守るのに相応しい、オーナーはそうお考えで、特に選ばれた女性のみからバウンサーを登用しておられるのです……そして僭越ながら、私もそのひとりという訳です」 「なるほど……」とあたしは思わず頷いてしまう。 その長身、ジャケットの上からでも分かるがっちりした肩からは、バウンサーを任されるだけの説得力が伝わってくる。 ……あたしの中で、何かが頭をもたげてきた。 しばらく他のバニーガールには抱かなかった感情だ。 ただただ、男に貫かれたい、犯されたいという思いが募っていた最近のあたしだったが…… 秋姫さんのような素敵な女性であれば…… 「あ……あの…秋姫さんは女性だということですけど……」 途切れがちな口調で、言葉を選びながら、あたしは尋ねる。 秋姫は優しく笑い、「ふふ、好きなのは女の子か男か、ということですか?」 「え、ええ、そうです!……ごめんなさいね、ぶしつけなことを聞いちゃって」 秋姫はもうひと口グラスに口を付けてから、 「好きなのは……両方、かしら。男性にも女性にも恋してますし、性別を超えた恋愛感情もあると自覚しておりますから」 「そ……それは……」
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ごくり、と生唾を飲み干すあたしにつられたのか、グラスを呷る秋姫も頬を火照らせ始めた。
彼女の手があたしの手の上に重ねられる。
何故あたしは秋姫にこんなにも心惹かれるのだろう。
ことブレインダメージのバニーガールたちは、あたしを相手にしてはレズビアンということになる。
例えば、ゆあのような、男なしではいられない極端なニンフォマニアであっても、バニーガールたちの憧れにして養分であるあたしを、その心と肉体を蕩けさせて求めてくる。
いや、どのバニーガールもあたしの前では発情した雌猫と化す―肝心のあたしが、他の誰よりも重度のニンフォマニアなのが問題なのだが。

元は男のあたしは、もう身も心も女になってしまった。
女が好きでない訳ではないが、圧倒的に男の方が欲しい。
今のあたしの性指向は、一応はバイセクシャルということになるのだろうが、好きなのはどちらかと言えば男だ―問題はそれを与えられないことだが。
他のバニーガールたちは、ヘテロセクシャル寄りかレズビアン寄りかは分かれるだろうが、やはりバイセクシャルだろう。
仕事で男と関わり、プライベートであたしを食べている。彼女たちも、元は男だ。だが……

秋姫は、生まれながらの女性だ。
その心や肉体は、彼女の理想のそれ、そしてブレインダメージの従業員に相応しいそれにいくらか作り変えられているのかもしれないが、純粋な女性である。
性別の変更に伴って、性指向が変わったということがない。

「ブレインダメージのバニーガールでプリンセスとのお付き合いを望まない者はいません……ですけど、私はそういうところとは別に、プリンセスをお慕いしております。守って差し上げたい、と思いますわ」
”守る”という言葉に、あたしは心を撃ち抜かれる思いだった。バウンサーである彼女にとって、バニーガールを”守る”ということはとても重要な意味を持つ言葉だろう……
「あ……あたしは……秋姫さんに……守られたいわ……嗚呼……」
あたしは秋姫の手を握り返し、カウンターに肘をついた彼女の二の腕にすがりつく。そう……女の子って、こんな風に男の子に甘えるんだぁ……

秋姫はグラスのブランデーを飲み干すと、あたしの顎に指をかけた。秋姫の顔が近づいてくる。
秋姫の唇があたしのそれを塞ぐ。同時に、強烈な刺激を伴うアルコールがあたしの口の中に流し込まれてきて、あたしは一瞬パニックに陥りかけた。だが、すぐに対処を心得て、それをぐっと飲み下す―フルーツの甘みを残した女性的な味わいと、強烈なアルコール度数の男性的な押しの強さを併せ持つブランデーは、まさに秋姫のイメージそのままの味、と思った。
「とっても可愛らしい、私のお姫さま……プリンセス……」
今までクールだった秋姫さんの瞳も、少し潤んできている。アルコールのせいか、それとも……あたしのせい……
「あ……秋姫さん……あたしの王子さま……」
バースツールから立ち上がった秋姫さんが、あたしに手を差し伸べる。とても冷やかで、でもとても優しい秋姫さんの手が、あたしの手を取る。
あたしたちは抱き合い、軽く身震いしながら互いに身体をこすり合わせ、相手の体温と身体の線を確かめ合おうとする。間違いなく、女性のものと分かる柔らかく繊細な秋姫さんの肉体は、だけどあたしの豊満すぎるほどの肉体をがっしりと受け止めてくれている。こんなにも女らしいのに、こんなにも頼もしい、こんなにも逞しい……あたしの感覚の中の女の部分と男だった頃の部分の両方ともが、彼女への欲望と共感を同時に訴えている。
女として、こんな素敵なひとに抱かれたい…きっと秋姫さんもあたしのことをそう思ってくれているだろう。
男として、こんな素敵な女性を抱きたい…男だったことはなくとも、やはり秋姫さんもあたしのことをそう思ってくれているだろう。
気が付くと、人払いをしたように、バーの近辺から他のバニーガールたちの姿が消えていた。気を遣ってくれたのだろう、あるいはオーナーの指示があったか。

「プリンセス、踊りましょう」
あたしは無言で頷く。
あたしは秋姫の胸に頭を委ね、二人で手を取り合って、バーのフロアを円を描いて回った。
二人ともハイヒールを履いているが、何の支障もなくターンすることが出来る。

秋姫さんのリードは完璧だった。
レディを支えるジェントルマンとしての力強さも申し分ないのに、自身がレディであることから、あたしのような女の気持ちもよく分かってくれる……
いや、女だからこそ、自分の女らしさに自信を持ち、男らしい装いの中にそれを漂わせることが出来る……

ああ……紫さんが言っていたのはこういうこと……
”女である自分に酔いつつ、高貴な姿勢を保つのが得意なバニーガール”というのは……

ああ……なんて素敵なの。
男とはどういう生き物であるかを身をもって知っている女であるあたしは、安心して王子さまの腕に身を委ねた。

王子さまが、足を止めた。
秋姫さんはもう一度あたしにキスすると、今度はあたしの後ろに回り、両腕をあたしの腰から胸にかけてに這わせてくる。
「プリンセス……好きだ……」

きっと秋姫さんも男になり切って、興奮しているのだろう。
それが却って、彼女の生まれながらのフェミニンを増幅させているのが、その吐息から漏れ伝わってくる。
あたしも、ハリウッド映画の過激なラブシーンを演じる女優のように、片手を背後の秋姫の首に這わせ、腰をくねらせる。
とびっきりセクシーに、蕩けそうなほどの性欲と燃え上がるほどの愛を溢れさせ……

気が付くと、あたしはバーカウンターまで押し戻されていた。
カウンターに両手をついたあたしの腰を秋姫ががっちりとつかみ、バニーコートの尻に、彼女の股間を押し付けてくる。

「あんッ、あんッ、あんッ!いいわ、あたしのプリンス。もっと……激しく」
「ああッ、プリンセス……なんてはしたない……なん……て美しい……」

エナメルのバニーコート越しという以上に、そもそも挿入するべきものがないままのそれは所詮性行為の真似事に過ぎない。
だが……今のあたしは……
女であることを受け入れ、男に抱かれることにも、女同士で愛し合うことにも抵抗を覚えなくなった今のあたしは……
にも関わらず男に抱かれることを禁じられている今のあたしは……
この性器の接合を欠いての律動を、精いっぱいのセックスの代替行為として没頭した。

秋姫が右手をあたしの股間に滑り込ませ、バニーコートの上からぐりぐりと刺激してくる。
興奮により感じ易くなった身体は、肌と粘膜への直接の接触でなくとも電気のような快感を全身に走らせる。
秋姫も、あたしの耳元に切ない息を吹きかけてくる。
「おっ………おっ……おうじさま……あたし……イキます……」
「ふふ、いやらしいうさぎさんだね、プリンセスは……いいよ、イっても……」

少しでも感じようと、あたしは重みのある胸をカウンターに押し付け、こすりつける。
女の性欲がどこまでも燃え上がっていくが、それはバニーガールという形、バニーガールの衣装に包まれ、規定された肉体の中からは決してはみ出すことを許されない。
でも、それでいい……

「はぁっ……」
気をやったあたしの身体が崩れ落ちそうになるのを、王子さまが背後で受け止めてくれた。あたしと同じくらいに女の快楽を堪能していただろうに、プリンセスを守るプリンスとしての役目を決して放棄しない秋姫の男らしさに、絶頂にあるあたしの快感は更に深いものになった。

バニースーツ及び網タイツの股間周りに、淫らな汁が漏れているのが感触として分かる。
恥ずかしい思いは当然あったが、それ以上に誇らしい気持ちが湧きあがる。
自分は女なのだという自覚が―

「プリンセス、座って」
秋姫さんが、あたしがバースツールに座るのを助けてくれた。
荒い息をついていると、秋姫さんが、「足を閉じてくださいませ」と言う。言われるままにする。
すると……

秋姫さんは、カウンターの上に置かれていた、あたしの飲みかけのカクテルを手に取り、あたしの股間に注いだ。
足を閉じたことで、鼠径部と両股の間にわずかなアルコールの水たまりが出来る。
顔を近づけて、秋姫さんはそれを啜った。

ああ、なんていやらしい…
そして何てジェントルマンなの……

あたしも……私も、レディたらなければ。
常に余裕と美しさを保たなくては。
最高に美しい女性が演じるプリンス、あるいはジェントルマンに相応しい女でなくてはならない。
それがブレインダメージのプリンセス……

文字通りうさぎが穴から顔を出すように、他のバニーガールたちが戻ってきた。
股間をびしょびしょにしている恥ずかしさが一瞬心をかすめるが、すぐに平静を取り戻す。プリンセスは優雅でなくてはならない。

私は、愛しいバニーガールたちに微笑みかける。
「ふふ、お気遣いありがとう。どう、皆さんもご一緒なさらない?」
「もちろんです、プリンセス!」
バニーガールたちがプリンセスである私に群がって来て、歓迎会が再開された。いやらしい罰ゲーム付きのカードやルーレット、いやらしい罰ゲーム付きの飲み比べ……それがブレインダメージの従業員としてのトレーニングを兼ねていることは既に分かっていることだった。

【ふふ、素晴らしかったわ。バランスは修復された。プリンセスとしての完成まで、あなたはあと一歩のところよ】
疑似耳の中で、オーナーさまの満足そうな声が響く-
【男を相手に思い切り淫らに振る舞うことも、どれほど淫らに振る舞っても誇り高い姿勢を見失わないことも、今のあなたには無理なくこなせる筈。ならば、処女を損なわない範囲で、お店に出ることを始めましょう…そしてあなたに真の”資格”が備わっているかを確かめてみましょう…プリンセスの資格、私の後継者となる資格があるかを……】

ごくり、と生唾を飲み干すあたしにつられたのか、グラスを呷る秋姫も頬を火照らせ始めた。 彼女の手があたしの手の上に重ねられる。 何故あたしは秋姫にこんなにも心惹かれるのだろう。 ことブレインダメージのバニーガールたちは、あたしを相手にしてはレズビアンということになる。 例えば、ゆあのような、男なしではいられない極端なニンフォマニアであっても、バニーガールたちの憧れにして養分であるあたしを、その心と肉体を蕩けさせて求めてくる。 いや、どのバニーガールもあたしの前では発情した雌猫と化す―肝心のあたしが、他の誰よりも重度のニンフォマニアなのが問題なのだが。 元は男のあたしは、もう身も心も女になってしまった。 女が好きでない訳ではないが、圧倒的に男の方が欲しい。 今のあたしの性指向は、一応はバイセクシャルということになるのだろうが、好きなのはどちらかと言えば男だ―問題はそれを与えられないことだが。 他のバニーガールたちは、ヘテロセクシャル寄りかレズビアン寄りかは分かれるだろうが、やはりバイセクシャルだろう。 仕事で男と関わり、プライベートであたしを食べている。彼女たちも、元は男だ。だが…… 秋姫は、生まれながらの女性だ。 その心や肉体は、彼女の理想のそれ、そしてブレインダメージの従業員に相応しいそれにいくらか作り変えられているのかもしれないが、純粋な女性である。 性別の変更に伴って、性指向が変わったということがない。 「ブレインダメージのバニーガールでプリンセスとのお付き合いを望まない者はいません……ですけど、私はそういうところとは別に、プリンセスをお慕いしております。守って差し上げたい、と思いますわ」 ”守る”という言葉に、あたしは心を撃ち抜かれる思いだった。バウンサーである彼女にとって、バニーガールを”守る”ということはとても重要な意味を持つ言葉だろう…… 「あ……あたしは……秋姫さんに……守られたいわ……嗚呼……」 あたしは秋姫の手を握り返し、カウンターに肘をついた彼女の二の腕にすがりつく。そう……女の子って、こんな風に男の子に甘えるんだぁ…… 秋姫はグラスのブランデーを飲み干すと、あたしの顎に指をかけた。秋姫の顔が近づいてくる。 秋姫の唇があたしのそれを塞ぐ。同時に、強烈な刺激を伴うアルコールがあたしの口の中に流し込まれてきて、あたしは一瞬パニックに陥りかけた。だが、すぐに対処を心得て、それをぐっと飲み下す―フルーツの甘みを残した女性的な味わいと、強烈なアルコール度数の男性的な押しの強さを併せ持つブランデーは、まさに秋姫のイメージそのままの味、と思った。 「とっても可愛らしい、私のお姫さま……プリンセス……」 今までクールだった秋姫さんの瞳も、少し潤んできている。アルコールのせいか、それとも……あたしのせい…… 「あ……秋姫さん……あたしの王子さま……」 バースツールから立ち上がった秋姫さんが、あたしに手を差し伸べる。とても冷やかで、でもとても優しい秋姫さんの手が、あたしの手を取る。 あたしたちは抱き合い、軽く身震いしながら互いに身体をこすり合わせ、相手の体温と身体の線を確かめ合おうとする。間違いなく、女性のものと分かる柔らかく繊細な秋姫さんの肉体は、だけどあたしの豊満すぎるほどの肉体をがっしりと受け止めてくれている。こんなにも女らしいのに、こんなにも頼もしい、こんなにも逞しい……あたしの感覚の中の女の部分と男だった頃の部分の両方ともが、彼女への欲望と共感を同時に訴えている。 女として、こんな素敵なひとに抱かれたい…きっと秋姫さんもあたしのことをそう思ってくれているだろう。 男として、こんな素敵な女性を抱きたい…男だったことはなくとも、やはり秋姫さんもあたしのことをそう思ってくれているだろう。 気が付くと、人払いをしたように、バーの近辺から他のバニーガールたちの姿が消えていた。気を遣ってくれたのだろう、あるいはオーナーの指示があったか。 「プリンセス、踊りましょう」 あたしは無言で頷く。 あたしは秋姫の胸に頭を委ね、二人で手を取り合って、バーのフロアを円を描いて回った。 二人ともハイヒールを履いているが、何の支障もなくターンすることが出来る。 秋姫さんのリードは完璧だった。 レディを支えるジェントルマンとしての力強さも申し分ないのに、自身がレディであることから、あたしのような女の気持ちもよく分かってくれる…… いや、女だからこそ、自分の女らしさに自信を持ち、男らしい装いの中にそれを漂わせることが出来る…… ああ……紫さんが言っていたのはこういうこと…… ”女である自分に酔いつつ、高貴な姿勢を保つのが得意なバニーガール”というのは…… ああ……なんて素敵なの。 男とはどういう生き物であるかを身をもって知っている女であるあたしは、安心して王子さまの腕に身を委ねた。 王子さまが、足を止めた。 秋姫さんはもう一度あたしにキスすると、今度はあたしの後ろに回り、両腕をあたしの腰から胸にかけてに這わせてくる。 「プリンセス……好きだ……」 きっと秋姫さんも男になり切って、興奮しているのだろう。 それが却って、彼女の生まれながらのフェミニンを増幅させているのが、その吐息から漏れ伝わってくる。 あたしも、ハリウッド映画の過激なラブシーンを演じる女優のように、片手を背後の秋姫の首に這わせ、腰をくねらせる。 とびっきりセクシーに、蕩けそうなほどの性欲と燃え上がるほどの愛を溢れさせ…… 気が付くと、あたしはバーカウンターまで押し戻されていた。 カウンターに両手をついたあたしの腰を秋姫ががっちりとつかみ、バニーコートの尻に、彼女の股間を押し付けてくる。 「あんッ、あんッ、あんッ!いいわ、あたしのプリンス。もっと……激しく」 「ああッ、プリンセス……なんてはしたない……なん……て美しい……」 エナメルのバニーコート越しという以上に、そもそも挿入するべきものがないままのそれは所詮性行為の真似事に過ぎない。 だが……今のあたしは…… 女であることを受け入れ、男に抱かれることにも、女同士で愛し合うことにも抵抗を覚えなくなった今のあたしは…… にも関わらず男に抱かれることを禁じられている今のあたしは…… この性器の接合を欠いての律動を、精いっぱいのセックスの代替行為として没頭した。 秋姫が右手をあたしの股間に滑り込ませ、バニーコートの上からぐりぐりと刺激してくる。 興奮により感じ易くなった身体は、肌と粘膜への直接の接触でなくとも電気のような快感を全身に走らせる。 秋姫も、あたしの耳元に切ない息を吹きかけてくる。 「おっ………おっ……おうじさま……あたし……イキます……」 「ふふ、いやらしいうさぎさんだね、プリンセスは……いいよ、イっても……」 少しでも感じようと、あたしは重みのある胸をカウンターに押し付け、こすりつける。 女の性欲がどこまでも燃え上がっていくが、それはバニーガールという形、バニーガールの衣装に包まれ、規定された肉体の中からは決してはみ出すことを許されない。 でも、それでいい…… 「はぁっ……」 気をやったあたしの身体が崩れ落ちそうになるのを、王子さまが背後で受け止めてくれた。あたしと同じくらいに女の快楽を堪能していただろうに、プリンセスを守るプリンスとしての役目を決して放棄しない秋姫の男らしさに、絶頂にあるあたしの快感は更に深いものになった。 バニースーツ及び網タイツの股間周りに、淫らな汁が漏れているのが感触として分かる。 恥ずかしい思いは当然あったが、それ以上に誇らしい気持ちが湧きあがる。 自分は女なのだという自覚が― 「プリンセス、座って」 秋姫さんが、あたしがバースツールに座るのを助けてくれた。 荒い息をついていると、秋姫さんが、「足を閉じてくださいませ」と言う。言われるままにする。 すると…… 秋姫さんは、カウンターの上に置かれていた、あたしの飲みかけのカクテルを手に取り、あたしの股間に注いだ。 足を閉じたことで、鼠径部と両股の間にわずかなアルコールの水たまりが出来る。 顔を近づけて、秋姫さんはそれを啜った。 ああ、なんていやらしい… そして何てジェントルマンなの…… あたしも……私も、レディたらなければ。 常に余裕と美しさを保たなくては。 最高に美しい女性が演じるプリンス、あるいはジェントルマンに相応しい女でなくてはならない。 それがブレインダメージのプリンセス…… 文字通りうさぎが穴から顔を出すように、他のバニーガールたちが戻ってきた。 股間をびしょびしょにしている恥ずかしさが一瞬心をかすめるが、すぐに平静を取り戻す。プリンセスは優雅でなくてはならない。 私は、愛しいバニーガールたちに微笑みかける。 「ふふ、お気遣いありがとう。どう、皆さんもご一緒なさらない?」 「もちろんです、プリンセス!」 バニーガールたちがプリンセスである私に群がって来て、歓迎会が再開された。いやらしい罰ゲーム付きのカードやルーレット、いやらしい罰ゲーム付きの飲み比べ……それがブレインダメージの従業員としてのトレーニングを兼ねていることは既に分かっていることだった。 【ふふ、素晴らしかったわ。バランスは修復された。プリンセスとしての完成まで、あなたはあと一歩のところよ】 疑似耳の中で、オーナーさまの満足そうな声が響く- 【男を相手に思い切り淫らに振る舞うことも、どれほど淫らに振る舞っても誇り高い姿勢を見失わないことも、今のあなたには無理なくこなせる筈。ならば、処女を損なわない範囲で、お店に出ることを始めましょう…そしてあなたに真の”資格”が備わっているかを確かめてみましょう…プリンセスの資格、私の後継者となる資格があるかを……】
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はぁ……暗闇の中で手足を蠢かせ、せいいっぱい今感じている官能を表現しようとするが、全く足りない。
ごくわずかにしか触れられないが、その度に身体のみならず魂が歓喜に震えるのが分かり、女の肉体がますます激しく燃え立つのが分かる。
顔には目隠しを施され、その上室内の明かりも落とされているので、何も見えない。
ナルシストとして調教されてきた今、いやらしく感じている自分の姿を、ベッドの四方を囲む鏡で確認出来ないのはもどかしいこと。
だが、それも数秒の愛撫のみで放置され、焦らされる今のもどかしさに比べれば何ほどのこともない。
そして何よりもどかしいのは、今私と共にベッドの上にいるお方の顔を拝見出来ないこと……

「はぁ……オーナー……お願いです、お顔を……お顔を拝見させてくださいませ……私はオーナーを愛しております、どうかひと目この奴隷にそのお顔を見せてくださいませ……」
【ふふ、あなたは奴隷などではないわ。あなたはブレインダメージのプリンセスなのよ、誇りをお持ちなさい】
今こうして手を伸ばせば触れることの出来る近さにいながら、オーナーは直接話しかけず、疑似耳を通しての会話に終始している。そのことも、私のもどかしさを助長する。
オーナーの優しい指が、私の手首に、二の腕に、バニーコートにぎりぎり覆われた乳房の頂点に、網タイツに包まれた太ももに、そして顎に、目隠しに覆われた瞼に、唇に触れ、愛情をこめて、あるいは、寧ろ、触れては焦らすことが最初からの目的であるように愛撫していく。
その度に、私の中に甘い火花が飛び散り、広がり……そしてそれが何かの形になっていく。

「あああああ、これって……」
【いいこと、いよいよあなたはブレインダメージの店頭にキャストとして立つことになる。プリンセスとしての務めがある以上、お客様と一線を越えることは許可出来ませんが、あなたにはプリンセスとしてこなさなければならない大事な役目のトレーニングを積んでもらいます。それは……】

次の瞬間、疑似耳の中で響いた言葉に、私は己の正気を疑った。
そんな……最初は、そんなことが可能なのか、という驚き。
そして次は、そんな栄誉あるお仕事を任せていただけるのか、という驚き。

【そのために必要な力をあなたに授けましょう……】
「……私の魔力の一部を」
それは疑似耳ではなく、実際の音声として私の鼓膜に届いた。
驚いて声をあげようとした私の口を、何かが塞いだ―オーナーの唇が。

オーナーに唇を奪われているという感激と共に、先ほどまでの指先でのそれを何百倍にもした刺激が粘膜を通して流れ込んできた。
それが与えてくれる歓喜に、私は涙を流しながら絶頂に達した。
目覚めた時には、オーナーが与えてくださった力と感動により、完全に生まれ変わっていることを確信しながら……

はぁ……暗闇の中で手足を蠢かせ、せいいっぱい今感じている官能を表現しようとするが、全く足りない。 ごくわずかにしか触れられないが、その度に身体のみならず魂が歓喜に震えるのが分かり、女の肉体がますます激しく燃え立つのが分かる。 顔には目隠しを施され、その上室内の明かりも落とされているので、何も見えない。 ナルシストとして調教されてきた今、いやらしく感じている自分の姿を、ベッドの四方を囲む鏡で確認出来ないのはもどかしいこと。 だが、それも数秒の愛撫のみで放置され、焦らされる今のもどかしさに比べれば何ほどのこともない。 そして何よりもどかしいのは、今私と共にベッドの上にいるお方の顔を拝見出来ないこと…… 「はぁ……オーナー……お願いです、お顔を……お顔を拝見させてくださいませ……私はオーナーを愛しております、どうかひと目この奴隷にそのお顔を見せてくださいませ……」 【ふふ、あなたは奴隷などではないわ。あなたはブレインダメージのプリンセスなのよ、誇りをお持ちなさい】 今こうして手を伸ばせば触れることの出来る近さにいながら、オーナーは直接話しかけず、疑似耳を通しての会話に終始している。そのことも、私のもどかしさを助長する。 オーナーの優しい指が、私の手首に、二の腕に、バニーコートにぎりぎり覆われた乳房の頂点に、網タイツに包まれた太ももに、そして顎に、目隠しに覆われた瞼に、唇に触れ、愛情をこめて、あるいは、寧ろ、触れては焦らすことが最初からの目的であるように愛撫していく。 その度に、私の中に甘い火花が飛び散り、広がり……そしてそれが何かの形になっていく。 「あああああ、これって……」 【いいこと、いよいよあなたはブレインダメージの店頭にキャストとして立つことになる。プリンセスとしての務めがある以上、お客様と一線を越えることは許可出来ませんが、あなたにはプリンセスとしてこなさなければならない大事な役目のトレーニングを積んでもらいます。それは……】 次の瞬間、疑似耳の中で響いた言葉に、私は己の正気を疑った。 そんな……最初は、そんなことが可能なのか、という驚き。 そして次は、そんな栄誉あるお仕事を任せていただけるのか、という驚き。 【そのために必要な力をあなたに授けましょう……】 「……私の魔力の一部を」 それは疑似耳ではなく、実際の音声として私の鼓膜に届いた。 驚いて声をあげようとした私の口を、何かが塞いだ―オーナーの唇が。 オーナーに唇を奪われているという感激と共に、先ほどまでの指先でのそれを何百倍にもした刺激が粘膜を通して流れ込んできた。 それが与えてくれる歓喜に、私は涙を流しながら絶頂に達した。 目覚めた時には、オーナーが与えてくださった力と感動により、完全に生まれ変わっていることを確信しながら……
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―ブレインダメージの店内に入って、キタダニは驚き、そして喜びに胸を躍らせた。
ギャンブリングホールの入り口近くに立っているのは新人のバニーガール。

だが、その顔だけは既に知っている。
しばらく前から、店の入り口廊下に大々的にその写真が掲示されていた娘だ。
今日も彼女とゆあがとろけるような表情で顔を寄せ合っている写真が掲示されており、その美しさ…いや隠微さにどきりとさせられたばかりだ。
客寄せのための写真と分かってはいるが、あんなに恍惚とした表情のところを写した写真を見せられると、彼女たちは本当にこの寸前までナニかをしていたようにしか見えなかった…

揺れるような青い瞳がこちらを見つめてくる。
唇の端をわずかに歪めた微笑は、恥じらいと期待と好意が入り混じっている。
豊かな金髪が肩から背中にかけて滝のように流れ落ちており、肩から胸にかけてどんな桃よりも甘そうな双球がその下側をバニーコートにかろうじて支えられて、上側の白い肌を露出させている。
店の常連としてバニーガールを見飽きるほど見てきて、触れてきたキタダニだが、思わず唾を飲み込んだ。

「いらっしゃいませ……キタダニさまでございますね?新人になります、以後お見知りおきをいただければ光栄ですわ」
「や…やあ、そうだ、キタダニだ。君の名は?うーん、早速君を指名したいが」

すかさずバウンサーの秋姫が横から入って来て、冷静な口調でお客に注意を促した。
「失礼いたします、彼女は新人ですが、オーナーが特例職分枠として採用したキャストです。源氏名はなく、プリンセスとお呼び下さい。
「そして特例枠でありますので、通常でのサービスは今のところお受けいたしかねます……今は見習い期間中でもありますので。いずれ然るべき時になりましたら、必ずキタダニさまにはお知らせいたします。
「代わりに……見習い期間中ですので、当分はお客様にひと晩一時間単位で、無料でコンパニオンとして同行させます。あくまで同行のみ、それ以上のサービスは禁止ではありますが、よろしければ……」

キタダニの脳内で、単に連れ回せるだけでお触りのひとつも出来ないという不満感と、連れ回すだけなら無料というお得感が天秤にかけられた。

何せブレインダメージのサービス料は高額だ。
ギャンブルで負ければ負債を抱えることもある。
と言っても、キタダニくらいの資産家であれば、一晩に百万円、二百万円を浪費したところで構うことはない。

加えて、ブレインダメージは支払いの清算が大変緩い。
毎回来店時と退店時に店に借りがいくらあるかは明確に確認されるが、返済の督促はあり得ないくらいに緩いのである。

キタダニは資産家ではあるが、というより金を持っている者の大半がそうであるようにケチであり、且つ面の皮も厚い類の男でもあって、督促されないのであれば返せる借金もろくに返さないまま、ここまで来ていた。
贅沢なサービスを”鉄砲”で楽しめるということでキタダニはブレインダメージを愛顧してやまなかったが、一方で、大変に傲慢でもあるキタダニは、自分と同じサービスを他の客も受けられることに内心不満を燻ぶらせていた。

返済の督促がないも同然ということは、ろくに金もないのに通う客が出てくるということでもあり、そんな貧乏人が、自分のような上流階級と対等にこんな高級クラブへ出入りしているということは日頃からキタダニを苛つかせていた。

今、目の前の、ブレインダメージの基準で見てもとびっきりの美女を、金を払うことなく連れ回せる。
一方で、この女は金で買うことが出来ない……頭の中でそろばんが即座に答えを弾き出したその時…

「おお、君は廊下のピンナップで見た……ねえ、この子をお願い出来ないのかい?」
別のお客が横から割って入ってくる。
ミナミバシという男だ。確か有名不動産会社の部長だとか言っていたか、とキタダニは思い返す。

秋姫が、自分にしたのと同じ説明をミナミバシにしているところを、今度はキタダニが割って入り、
「悪いな、彼女は私と付き合うことになっているんだ、さあ行こう」
キタダニは、強引にプリンセスの手を引いて、ルーレットのテーブルへと向かおうとした。

ハイヒールを履いているとは思えないスピードで回り込んだ秋姫が、「強引なことはごめん蒙ります。よろしいですね?一時間制限であることお忘れなく」
念を押されたキタダニは頷く。
一度、接客フロアで、他のお客も見ている前でバニーガールを押し倒してコトに及ぼうとした客を、彼女があっという間に叩きのめしたのを目撃していたため、バウンサーを刺激するのは得策ではないことは骨身に染みている。

「うふ、キタダニさま、よろしくお願いします。私、まだお仕事を始めたばかりで何も分からないんですの、色々教えてくださいね」
プリンセスが腕にしがみついてくる。その豊満な胸が押し当てられる。
ブレインダメージのバニーガールは、例外なくサービス精神旺盛で、暴力的で心身を傷つけるようなものでない限り、とんでもなくエロいプレイを要求しても躊躇なく応じる女たちばかりだが、この娘は新人ということを考えるとなかなか大胆だ。

ルーレットの席に着いたキタダニは、自分とプリンセスの酒をオーダーすると、早速ベットを始めた。

「14、16、21」
カラーから肩、上腕部にかけての部分のみしかない白ワイシャツをバニーガールとしてのカラーとして身に着けたディーラーが、ボールを投じる……
果たして、16へ落ちた。キタダニはにやりとする。ベットしたチップが三倍になる……

「素晴らしいですわ、キタダニさま」
その手にしがみついていたプリンセスが、キタダニの頬にキスをした。
思わずキタダニは硬直する。

「え、君はサービスしないんじゃなかったのかい?」
「これはサービスではありませんわ、無料なのですから。私の意思でしたこと」
「…そういうのは店のルールでまずいんじゃないの?」
「そこが私が特例職分である所以です。私はプリンセスですから」

”プリンセス””特例職分”という、実際には何の意味も分かっていないながら、それらしい言葉を並べ立てられ、キタダニはすんなりとそれを信じ込んだ。
その後も、キタダニが勝つたびにプリンセスはキスしたり、そっとテーブルの下でキタダニの股間を握ったりした。
当然キタダニは有頂天になっていったが、同時に、次第に負けが増えていった。
そして、たまの勝ちの際のプリンセスの接触も驚くほど露骨になっていった……

かなりの額の負けを抱えて、キタダニはルーレットを離れた。
時計を見やると、制限時間である一時間がほとんど尽きようとしていた。
気になさることはありませんわ、とプリンセスは慰めるが、負けが積みあがったことと、一時間の制限をほぼ無駄にしたことに、キタダニの不機嫌は直らなかった。むしゃくしゃして酒を飲むか他のギャンブルに突っ込もうとするが、プリンセスはキタダニの腕をつかむ。

「お待ちくださいませ。まだ私はキタダニさまと離れたくありません……」
「どうするってんだ、お前、一時間しか俺の相手が出来ないんだろ」
「ふふ、”特例職分”であるプリンセスには、そこのところも多少は融通が利きましてよ」
プリンセスは意味ありげに微笑んだ。

―次の瞬間、ギャンブリングホールから人々の姿が消えた。キタダニとプリンセスのみを残して。

一瞬何が起こったか分からず、キタダニは左右を振り返るが、喧騒に満ちていた店内に響くのは、彼の声と心臓の鼓動だけだった。
プリンセスは、唇に指をあてて悪戯っぽく微笑む―

「ほんのしばらくの間ですが、邪魔者の目が届かないようにしました。そう、私は魔法の国のプリンセス。ブレインダメージという魔法の国のプリンセスですのよ」

そう言って、プリンセスは室内の時計を指さした。ここでもキタダニは目を見張らされた。
時計が止まっている。秒針が動いていない。

「これは一時間の制限時間外……」
最早驚きより歓びの方が勝り、キタダニはプリンセスの柔らかな身体を抱きしめた。
プリンセスが舌を突き出してくる。清楚な顔立ちからは想像も出来ないほど淫らにうねる舌を、キタダニはくわえて、そのまま至高のバニーガールの唇を音を立てて吸った。

キスを解くと、下品で荒い息をつくキタダニから顔を離し、抱き合った姿勢のままプリンセスは身体を落としていった。
しゃがみこんだプリンセスは、キタダニのズボンのジッパーを開けた。
そして、中から固く固く勃起した男性器をつかみだす。
再三の刺激と興奮により、既に先端に粘つく汁が滲み出ているそれを、プリンセスは大口を開けて飲み込んだ。

「うっ……」
ペースを変え、飲み込む深さを変え、プリンセスはキタダニのモノをしゃぶった。
瞬く間に上り詰めそうになるキタダニだが、プリンセスは巧妙に頂点で愛撫をやめ、キタダニの肉棒を口から解放する。

不満というより戸惑いを覚えてキタダニは、何故やめたのかと尋ねようとしたが、その時、プリンセスは自分の胸に手をやった。
バニーコートの胸の部分が前方へと折り曲げられ、巨大な乳房が露わとなる。

どんな天国が待っているのか理解したキタダニは、あまりにも巨大すぎて地獄への入り口のようにも見える乳房の狭間に、自分の肉棒が飲まれていくのを見守った。

「ああ、素敵……」
プリンセスが粘りつくような吐息を漏らし、それがキタダニのモノの感じ易い先端にかかって、刺激を加える。
挟まれ、押し上げられ、キタダニはプリンセスの柔肉の圧力に翻弄されるがままとなっていく……
包まれ、下から上へと突き上げられる肉棒を、上でプリンセスの口が受け止めた。
両乳房によるしごき上げが一層激しくなっていく。プリンセスの口からも泡となった唾液が垂れ、キタダニ自身の液といっしょになって肉棒の上を垂れ伝っていく……

「おうぉッ……おごぉぉ……」
薄汚い白い液体が、プリンセスの顔面に、首から肩に、そして乳房にかけてぶちまけられる。
汗みずくとなってキタダニはルーレットの台にもたれかかった……
これほど大量の射精をしたのは、キタダニの人生でも他に記憶になかった。
その快感はキタダニの脳髄を焼き焦がし、意識を保つことを難しくしていた。
両乳房を晒したままのプリンセスがキタダニの首を抱き、唇を這わせる。

「うふふ、あなたはいずれ私のもの……」
プリンセスが右手首を取り、キスをするのが見える。その光景を最後に、キタダニは意識を失った……

……気が付くと、キタダニは接客フロアのソファに座っていた。
周りには時間が止まる前の通りに、十数人のお客、そしてバニーガールたちがいる。だがプリンセスは自分のそばにはいない。

マネージャーを兼任するバニーガールがやって来て、
「プリンセスとの一時間が終了しました。退店なさいますか?それとも、ここから新たなバニーガールをご指名なさいますか?」

はっとして、キタダニは時計を見る。
マネージャーの言う通り、プリンセスと同行してから一時間、ルーレットで大負けして時間が残りわずかになってからほんの少し、というタイミングだ。
着衣の乱れなど一切なく、室内にも自分が射精したような痕跡はなさそうだった。
あれは夢だったのだろうか?いや、あの快感は、圧倒的な快感は極めて明確に脳裏に刻まれている。
はっとなって、キタダニは自分の右手首に目をやった。
そこには確かにキスマークが残っていた…
やはり、あれは現実に起こったことなのだ。

キタダニは大声で怒鳴る。
「指名する、指名する、プリンセスをもう一回指名するぞ!」
「他の者からもご説明申し上げました通り、プリンセスとはおひとりさま一時間まで、ということになっております。そこのところはご了解いただきたく存じます」

そうだった…とキタダニは素直に諦める。今すぐにでもプリンセスを手元に呼びたい、置きたいが、店のルールを破るのは上客扱いを受けている身としては得策ではない。
店内のどこかにプリンセスがいないか見まわすと、ちょうど次の一時間の同行サービスが始まったらしく、ミナミバシがプリンセスの肩を抱き、カクテルを何杯も空けながらバカラに興じていた。
(負けてられねぇ!)

我の強いキタダニの心に火がついた。上着を整えると、キタダニは、
「今日のところは帰る。清算だけ聞かせてくれ」
「かしこまりました。ルーレットがマイナス27チップ、お召し上がりになったお酒とお食事が0、8チップ分。先日来までとの累計で582、7チップになります。お支払いはどうされますか?」
「そのうちだ、そのうち。それよりプリンセスはまた店に立つのか?いつだ?」
「当面、見習い期間が続く間は全営業日在店しております。申し上げました通り、見習い期間中は、一時間の同行コースのみとなり、それ以上の個人サービスは不許可となっておりますし、その分、サービス自体は無料となっております」

もうこれは無料とかいっている場合ではない、どんな大金を積んででもプリンセスを手に入れなければならない、とキタダニは強く感じた―
何せ、時間外のプレイが出来るのだから、これほどコストパフォーマンスの良い遊び方はない、十分元が取れる……とも。
いや、それ以上にブレインダメージにあって、最も美しいと言っていい美貌の持ち主を、手に入れないではおけない。
プリンセスはいずれ俺のものだ……

―ブレインダメージの店内に入って、キタダニは驚き、そして喜びに胸を躍らせた。 ギャンブリングホールの入り口近くに立っているのは新人のバニーガール。 だが、その顔だけは既に知っている。 しばらく前から、店の入り口廊下に大々的にその写真が掲示されていた娘だ。 今日も彼女とゆあがとろけるような表情で顔を寄せ合っている写真が掲示されており、その美しさ…いや隠微さにどきりとさせられたばかりだ。 客寄せのための写真と分かってはいるが、あんなに恍惚とした表情のところを写した写真を見せられると、彼女たちは本当にこの寸前までナニかをしていたようにしか見えなかった… 揺れるような青い瞳がこちらを見つめてくる。 唇の端をわずかに歪めた微笑は、恥じらいと期待と好意が入り混じっている。 豊かな金髪が肩から背中にかけて滝のように流れ落ちており、肩から胸にかけてどんな桃よりも甘そうな双球がその下側をバニーコートにかろうじて支えられて、上側の白い肌を露出させている。 店の常連としてバニーガールを見飽きるほど見てきて、触れてきたキタダニだが、思わず唾を飲み込んだ。 「いらっしゃいませ……キタダニさまでございますね?新人になります、以後お見知りおきをいただければ光栄ですわ」 「や…やあ、そうだ、キタダニだ。君の名は?うーん、早速君を指名したいが」 すかさずバウンサーの秋姫が横から入って来て、冷静な口調でお客に注意を促した。 「失礼いたします、彼女は新人ですが、オーナーが特例職分枠として採用したキャストです。源氏名はなく、プリンセスとお呼び下さい。 「そして特例枠でありますので、通常でのサービスは今のところお受けいたしかねます……今は見習い期間中でもありますので。いずれ然るべき時になりましたら、必ずキタダニさまにはお知らせいたします。 「代わりに……見習い期間中ですので、当分はお客様にひと晩一時間単位で、無料でコンパニオンとして同行させます。あくまで同行のみ、それ以上のサービスは禁止ではありますが、よろしければ……」 キタダニの脳内で、単に連れ回せるだけでお触りのひとつも出来ないという不満感と、連れ回すだけなら無料というお得感が天秤にかけられた。 何せブレインダメージのサービス料は高額だ。 ギャンブルで負ければ負債を抱えることもある。 と言っても、キタダニくらいの資産家であれば、一晩に百万円、二百万円を浪費したところで構うことはない。 加えて、ブレインダメージは支払いの清算が大変緩い。 毎回来店時と退店時に店に借りがいくらあるかは明確に確認されるが、返済の督促はあり得ないくらいに緩いのである。 キタダニは資産家ではあるが、というより金を持っている者の大半がそうであるようにケチであり、且つ面の皮も厚い類の男でもあって、督促されないのであれば返せる借金もろくに返さないまま、ここまで来ていた。 贅沢なサービスを”鉄砲”で楽しめるということでキタダニはブレインダメージを愛顧してやまなかったが、一方で、大変に傲慢でもあるキタダニは、自分と同じサービスを他の客も受けられることに内心不満を燻ぶらせていた。 返済の督促がないも同然ということは、ろくに金もないのに通う客が出てくるということでもあり、そんな貧乏人が、自分のような上流階級と対等にこんな高級クラブへ出入りしているということは日頃からキタダニを苛つかせていた。 今、目の前の、ブレインダメージの基準で見てもとびっきりの美女を、金を払うことなく連れ回せる。 一方で、この女は金で買うことが出来ない……頭の中でそろばんが即座に答えを弾き出したその時… 「おお、君は廊下のピンナップで見た……ねえ、この子をお願い出来ないのかい?」 別のお客が横から割って入ってくる。 ミナミバシという男だ。確か有名不動産会社の部長だとか言っていたか、とキタダニは思い返す。 秋姫が、自分にしたのと同じ説明をミナミバシにしているところを、今度はキタダニが割って入り、 「悪いな、彼女は私と付き合うことになっているんだ、さあ行こう」 キタダニは、強引にプリンセスの手を引いて、ルーレットのテーブルへと向かおうとした。 ハイヒールを履いているとは思えないスピードで回り込んだ秋姫が、「強引なことはごめん蒙ります。よろしいですね?一時間制限であることお忘れなく」 念を押されたキタダニは頷く。 一度、接客フロアで、他のお客も見ている前でバニーガールを押し倒してコトに及ぼうとした客を、彼女があっという間に叩きのめしたのを目撃していたため、バウンサーを刺激するのは得策ではないことは骨身に染みている。 「うふ、キタダニさま、よろしくお願いします。私、まだお仕事を始めたばかりで何も分からないんですの、色々教えてくださいね」 プリンセスが腕にしがみついてくる。その豊満な胸が押し当てられる。 ブレインダメージのバニーガールは、例外なくサービス精神旺盛で、暴力的で心身を傷つけるようなものでない限り、とんでもなくエロいプレイを要求しても躊躇なく応じる女たちばかりだが、この娘は新人ということを考えるとなかなか大胆だ。 ルーレットの席に着いたキタダニは、自分とプリンセスの酒をオーダーすると、早速ベットを始めた。 「14、16、21」 カラーから肩、上腕部にかけての部分のみしかない白ワイシャツをバニーガールとしてのカラーとして身に着けたディーラーが、ボールを投じる…… 果たして、16へ落ちた。キタダニはにやりとする。ベットしたチップが三倍になる…… 「素晴らしいですわ、キタダニさま」 その手にしがみついていたプリンセスが、キタダニの頬にキスをした。 思わずキタダニは硬直する。 「え、君はサービスしないんじゃなかったのかい?」 「これはサービスではありませんわ、無料なのですから。私の意思でしたこと」 「…そういうのは店のルールでまずいんじゃないの?」 「そこが私が特例職分である所以です。私はプリンセスですから」 ”プリンセス””特例職分”という、実際には何の意味も分かっていないながら、それらしい言葉を並べ立てられ、キタダニはすんなりとそれを信じ込んだ。 その後も、キタダニが勝つたびにプリンセスはキスしたり、そっとテーブルの下でキタダニの股間を握ったりした。 当然キタダニは有頂天になっていったが、同時に、次第に負けが増えていった。 そして、たまの勝ちの際のプリンセスの接触も驚くほど露骨になっていった…… かなりの額の負けを抱えて、キタダニはルーレットを離れた。 時計を見やると、制限時間である一時間がほとんど尽きようとしていた。 気になさることはありませんわ、とプリンセスは慰めるが、負けが積みあがったことと、一時間の制限をほぼ無駄にしたことに、キタダニの不機嫌は直らなかった。むしゃくしゃして酒を飲むか他のギャンブルに突っ込もうとするが、プリンセスはキタダニの腕をつかむ。 「お待ちくださいませ。まだ私はキタダニさまと離れたくありません……」 「どうするってんだ、お前、一時間しか俺の相手が出来ないんだろ」 「ふふ、”特例職分”であるプリンセスには、そこのところも多少は融通が利きましてよ」 プリンセスは意味ありげに微笑んだ。 ―次の瞬間、ギャンブリングホールから人々の姿が消えた。キタダニとプリンセスのみを残して。 一瞬何が起こったか分からず、キタダニは左右を振り返るが、喧騒に満ちていた店内に響くのは、彼の声と心臓の鼓動だけだった。 プリンセスは、唇に指をあてて悪戯っぽく微笑む― 「ほんのしばらくの間ですが、邪魔者の目が届かないようにしました。そう、私は魔法の国のプリンセス。ブレインダメージという魔法の国のプリンセスですのよ」 そう言って、プリンセスは室内の時計を指さした。ここでもキタダニは目を見張らされた。 時計が止まっている。秒針が動いていない。 「これは一時間の制限時間外……」 最早驚きより歓びの方が勝り、キタダニはプリンセスの柔らかな身体を抱きしめた。 プリンセスが舌を突き出してくる。清楚な顔立ちからは想像も出来ないほど淫らにうねる舌を、キタダニはくわえて、そのまま至高のバニーガールの唇を音を立てて吸った。 キスを解くと、下品で荒い息をつくキタダニから顔を離し、抱き合った姿勢のままプリンセスは身体を落としていった。 しゃがみこんだプリンセスは、キタダニのズボンのジッパーを開けた。 そして、中から固く固く勃起した男性器をつかみだす。 再三の刺激と興奮により、既に先端に粘つく汁が滲み出ているそれを、プリンセスは大口を開けて飲み込んだ。 「うっ……」 ペースを変え、飲み込む深さを変え、プリンセスはキタダニのモノをしゃぶった。 瞬く間に上り詰めそうになるキタダニだが、プリンセスは巧妙に頂点で愛撫をやめ、キタダニの肉棒を口から解放する。 不満というより戸惑いを覚えてキタダニは、何故やめたのかと尋ねようとしたが、その時、プリンセスは自分の胸に手をやった。 バニーコートの胸の部分が前方へと折り曲げられ、巨大な乳房が露わとなる。 どんな天国が待っているのか理解したキタダニは、あまりにも巨大すぎて地獄への入り口のようにも見える乳房の狭間に、自分の肉棒が飲まれていくのを見守った。 「ああ、素敵……」 プリンセスが粘りつくような吐息を漏らし、それがキタダニのモノの感じ易い先端にかかって、刺激を加える。 挟まれ、押し上げられ、キタダニはプリンセスの柔肉の圧力に翻弄されるがままとなっていく…… 包まれ、下から上へと突き上げられる肉棒を、上でプリンセスの口が受け止めた。 両乳房によるしごき上げが一層激しくなっていく。プリンセスの口からも泡となった唾液が垂れ、キタダニ自身の液といっしょになって肉棒の上を垂れ伝っていく…… 「おうぉッ……おごぉぉ……」 薄汚い白い液体が、プリンセスの顔面に、首から肩に、そして乳房にかけてぶちまけられる。 汗みずくとなってキタダニはルーレットの台にもたれかかった…… これほど大量の射精をしたのは、キタダニの人生でも他に記憶になかった。 その快感はキタダニの脳髄を焼き焦がし、意識を保つことを難しくしていた。 両乳房を晒したままのプリンセスがキタダニの首を抱き、唇を這わせる。 「うふふ、あなたはいずれ私のもの……」 プリンセスが右手首を取り、キスをするのが見える。その光景を最後に、キタダニは意識を失った…… ……気が付くと、キタダニは接客フロアのソファに座っていた。 周りには時間が止まる前の通りに、十数人のお客、そしてバニーガールたちがいる。だがプリンセスは自分のそばにはいない。 マネージャーを兼任するバニーガールがやって来て、 「プリンセスとの一時間が終了しました。退店なさいますか?それとも、ここから新たなバニーガールをご指名なさいますか?」 はっとして、キタダニは時計を見る。 マネージャーの言う通り、プリンセスと同行してから一時間、ルーレットで大負けして時間が残りわずかになってからほんの少し、というタイミングだ。 着衣の乱れなど一切なく、室内にも自分が射精したような痕跡はなさそうだった。 あれは夢だったのだろうか?いや、あの快感は、圧倒的な快感は極めて明確に脳裏に刻まれている。 はっとなって、キタダニは自分の右手首に目をやった。 そこには確かにキスマークが残っていた… やはり、あれは現実に起こったことなのだ。 キタダニは大声で怒鳴る。 「指名する、指名する、プリンセスをもう一回指名するぞ!」 「他の者からもご説明申し上げました通り、プリンセスとはおひとりさま一時間まで、ということになっております。そこのところはご了解いただきたく存じます」 そうだった…とキタダニは素直に諦める。今すぐにでもプリンセスを手元に呼びたい、置きたいが、店のルールを破るのは上客扱いを受けている身としては得策ではない。 店内のどこかにプリンセスがいないか見まわすと、ちょうど次の一時間の同行サービスが始まったらしく、ミナミバシがプリンセスの肩を抱き、カクテルを何杯も空けながらバカラに興じていた。 (負けてられねぇ!) 我の強いキタダニの心に火がついた。上着を整えると、キタダニは、 「今日のところは帰る。清算だけ聞かせてくれ」 「かしこまりました。ルーレットがマイナス27チップ、お召し上がりになったお酒とお食事が0、8チップ分。先日来までとの累計で582、7チップになります。お支払いはどうされますか?」 「そのうちだ、そのうち。それよりプリンセスはまた店に立つのか?いつだ?」 「当面、見習い期間が続く間は全営業日在店しております。申し上げました通り、見習い期間中は、一時間の同行コースのみとなり、それ以上の個人サービスは不許可となっておりますし、その分、サービス自体は無料となっております」 もうこれは無料とかいっている場合ではない、どんな大金を積んででもプリンセスを手に入れなければならない、とキタダニは強く感じた― 何せ、時間外のプレイが出来るのだから、これほどコストパフォーマンスの良い遊び方はない、十分元が取れる……とも。 いや、それ以上にブレインダメージにあって、最も美しいと言っていい美貌の持ち主を、手に入れないではおけない。 プリンセスはいずれ俺のものだ……
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また今夜も、私は店に立ち、お客を物色している。

私がバーカウンターやギャンブリングホールに立つと、男たちはその妖艶なボディラインに息を呑みながら「いくら?」と訊いてくる。
あくまで優雅で温和な笑みを崩さないように意識しながらも、もちろん「申し訳ありませんが、まだ見習い期間中ですので…」と答えるようにしている。
もう、最初の頃の恥じらいはない。
そればかりか、一見優雅でよく躾けられた礼儀正しい笑みの中に、いかに男に媚びた表情を滲ませるか、あるいは逆に、男を見下すような、高慢な色合いを加えることで、どう男にアピールするか実験し学習する余裕すら生まれていた。

しかし一方で、私はそんな客をもてなすのは大好きだ。
私の豊かなバストが揺れるのを見たいという男には偶然を装って胸を押し当てたりもするし、お尻や太腿を見たいという客にはそれらしくポーズを取るように心がける。
何より、そうしたサービスは既にナルシストの極みにある私自身へのサービスでもあった。

「おっぱいでっけーな!姉ちゃん!」
「バニーちゃんってやっぱ可愛いよな……一発いくら?」
そんなセクハラじみた男の言葉こそ、今の私には可愛げがある……彼らがこれから辿る運命を考えれば。
これまでに私を指名した中で、キタダニ氏、ミナミバシ氏、ニシアガリ氏、ヒガシド氏辺りには既に目星をつけてある。
支払い能力の有無とは別に、彼らには相当に滞納しているサービス料を支払う気がなく、その上更にどんどん不払いを積み上げていっている。いずれその時が来れば……

「うふふ……だめ、内緒です。でも、あなた、とってもカッコいいわ」
男の前でしなを作ってみせながら思う。ああ、私は本当にバニーガールになってしまったんだな……
そう、私は確かにバニーガールなのだ。
「あらお客様、私のおっぱいに興味がおあり?ふふ、ダメですよ、触るのは」
【ふふ、良い調子よ】オーナーさまがお褒め下さる。

ひと渡り客の男たちと会話を終え、カウンター脇の席に腰掛けて休憩を取っていた私の目に入ってきたのは、二人組の若い女性だった。
このひとたちは……確か昨日も来ていたような?
でもまあそんなことはどうでもいい。
なかなか可愛らしいお嬢さんたち……若く、店内の雰囲気に明らかに押されているようでありつつ、興奮している感じでもある。
ふふ……と私は笑いを浮かべ、わずかに舌なめずりをした。
休憩は中断だ。私はスツールから立ち上がる。

「こんばんわ、ようこそ当クラブへいらっしゃいました、お嬢様方」
「え……あっ………こんばんわっ……」

まさかバニーガールの方から声をかけられると思っていなかったらしい彼女たちは、目に見えて戸惑った様子だ。
ふふ、緊張してるのね。可愛い……可愛いからこそ食べてしまいたい…優しくしてあげたい……

「ではこちらへどうぞ……私はプリンセスと呼ばれております。当店のプリンセスが姫君お二人を歓迎いたしますわ」
両手を軽く広げて二人を誘う。
二人は戸惑うような表情を見せながらも、その視線は私の胸や顔に釘づけになっている。
私が踵を返すと、飼い主の後に続く従順な子犬のように彼女たちはついてきた。

無粋な他の客が割り込んでこないバーカウンターへ戻り、私は彼女たちに着席を促す。
ずいぶん遠慮がちな様子で腰かけたものかどうか躊躇っているの彼女たちだが、キャストと一緒に過ごしたいという欲望と酒を勧められるうちに大金をつぎ込まされてしまうのではという不安が入り混じっているのが見て取れる。

「私はまだ見習い期間中でして、料金をいただくサービスをすることは出来ません。代わりに、一時間に限定して、無料の会話と同行に限定したサービスは無料で提供させていただくことが出来ます。それに……最初の一杯は私の奢りにさせていただくというのはいかがかしら?」
少し彼女たちは安心した様子で、着席した。私は彼女たちに尋ねる。

「お名前をうかがってよろしいかしら?」
「あ、はいっ…私はサトコと申します!」小柄な方の娘が答える。
「私はアイです!」こちらは、髪を金髪に染めた、背の高い方の娘だ。

二人はやや上ずった声で名乗り、その後少し恥ずかしげに笑った。
二人ともとても可愛らしい。もちろん好みはあるだろうが、一般的に見て十分に美人の部類に入るし、何より若くて健康的だ。
彼女たちの名前は既に顧客名簿から得ている。無論偽名だろうけれど……
そんなことはどうでもいい。少なくとも、この娘たちがバニーガール好きであることだけは間違いなく、それだけで脈ありということだ。

「サトコさんとアイさんね。はじめまして、プリンセスです」
私は出来るだけ優しい微笑みを浮かべる。もちろん、二人とも私を食い入るように見つめている。
ああ……嬉しいわ……毎日、他のバニーガールたちからの憧れのまなざしを向けられているというのに、同性のお客様から熱心に見つめられるのには全く飽きることがない。
もちろん男性のお客様からでも同様。ナルシストな私にとって、他者のまなざしは何よりの糧なのだ。それにより私はますますセクシーに、美しくなることが出来る。それがブレインダメージのプリンセスであり、その美しさに彼女たちはますます惹きつけられる……

「このお店は初めてではありませんわよね?」
「えっ、はい、何度か……寄らせていただいています…」

サトコの声には、いくらかの現実に引き戻された躊躇いがあった。
店の払いが溜まっている罪悪感がそうさせたのだろう。でも、私はそれをすぐに打ち消してやる。

「それは嬉しいわ。サトコさん、アイさん……このお店のお客さまはみな紳士的でいらっしゃるでしょう?」
「ええ……はい……」
二人はぎこちなくうなずく。
これにもいくらかの躊躇いが滲んでいる。
多くは紳士的な客ではあるものの、一方で、横暴で下品なお客もそれなりに目にしてきたはずだ。
年若い彼女たちが、そんな脂ぎったおじさんたちに嫌悪感を一切抱いていないといえば嘘になるだろう。
だが、そんな様子にすら私の心はときめく。

そうよね、ここの客たちは皆バニーガール好きだもの……
そして彼女たちにはお金をいくらでも出すに値する価値があるのだから……

「実は私ね、少し変わった趣味があるんですの……」
意図して、少し恥じらったように顔をうつむかせ、小声で私は彼女たちに囁く。二人はごくりと生唾を飲み込んだようだった。

「私、女の子同士でしか興奮しないの……」
えっ……という顔をして二人は顔を見合わせる。

「それは本当におかしな性癖だと思うわ……普通の社会で生きていては許されないことよね……」
少し目を伏せると、長い睫毛が目の周りに影を落とした。
ああ、プリンセスは本当に可愛くて綺麗……
演技をしている自分に酔いながら、私は答えが分かり切っていることを自問自答する。
私ってどうしてこんなに美人なのかしら……?どうしてこんなにセクシーで魅力的なのかしら……?

「でも、私が私らしく生きてゆくためには、これが必要だと思ったの。それに私は今、とても幸せなのよ……だってこのお店には、美しいバニーガールが何人もいるのだから……」
そう言ってサトコとアイに向かってにっこりと微笑んでみせる。

サトコの方はやや驚いた様子だが、アイは首を横に振った。
「いいえ、少しもおかしいことはありません!女の子が女の子を好きになるのって、全然アリだと思います!」
水を向けてやればつい本音が漏れた、というところか。私は意味ありげに微笑んでみる。

「安心したわ……サトコさんも女の子が好きなんですね?私に興奮してるのよね……?」
そう言いながら二人を見つめると、二人の反応に混乱が入りこんだようだった。「わ、私は……」
サトコが言いかけて口ごもる。意見を求めて、一瞬だけアイの方を見たが、すぐに目を逸らす。彼女はしばらく躊躇った後、躊躇いがちに口を開いた。
「ええ……私も女の子に興味があります……でもまさかバニーガールのプリンセスさんが同じ趣味だったなんて……!」

予想通りだ。
これで彼女も落とせる。彼女が求めている答えも分かる。だから私は言った。

「私、実はもうひとつ変わった趣味がございましてね……」一層声を落として囁く。

「これはね、女性のお客さまに対して限定のサービスでもあるのですが……私、お客さまにバニーガールのコスプレをさせるのが好きなの……」

心底驚いたといった様子で、且つ驚きのあまり声を上げることも出来ず、二人は硬直した。そして互いに顔を見合わせる。

何かひそひそと相談している。しばらくして、サトコの方がおそるおそるといった様子で尋ねた。

「それは……どんな……?」
私は声をひそめて答える。
「うふん、もちろんバニーガールのコスチュームを着てもらうのよ、とってもセクシーな奴を……」
【くすくす……さあ、そろそろ仕上げにかかるわよ】オーナーさまの声が聞こえたような気がする。

「でも大丈夫かしら……?私なんかがバニーガールになんてなれるのかしら?」
「大丈夫ですわ、私から見てもお二人はとっても素敵な女性でしてよ」
「……あの、でも、料金がかかるサービスは、出来ない…のでは?」
サトコが遠慮がちに尋ねる。私は微笑みながら指を鳴らし…

―次の瞬間、バーから私たち三人以外の人間の姿が消えた。
何が起こったか分からず、サトコとアイは呆然となるが、彼女たちを落ち着かせようと、私は唇に指をあててウィンクして微笑む―
「ほんのしばらくの間ですが、邪魔者の目が届かないようにしました。そう、私は魔法の国のプリンセス。ブレインダメージという魔法の国のプリンセスですのよ」

そう言って、私は室内の時計を指さし、時計が止まっていることを示唆した。
「これは、プリンセスからもう二人のプリンセスへの、二十四時までの時間制限を超えるためのプレゼント……」

私は立ち上がり、二人を振り返って笑った。
最早抗いようのなくなっているサトコとアイは、私の後をついてふらふらと店内の廊下を進んでいく…

マッサージ用のサービスルームへと、私は二人を案内した。

既に室内にはバニーガールの衣装二着分一式がハンガーに架けられ、あるいはベッドの上に並べられていた。
サトコとアイがごくりと息を呑む。

「まずは着方をお教えしますわね……」
緊張をほぐすよう微笑みかけながら促すが、当然ながら互いに羞恥心があるのだろう、二人とも互いの様子を窺いつつ、視線が合うたびに慌てて目を逸らしつつ、なかなか服を脱ぎ出そうとしない。ならばひと押し必要だろう…

私はアイに歩み寄り、彼女のブラウスの第一ボタンに手をかけた。
彼女は身体をびくんとさせ硬直したが、脱がされることを拒まなかった。
第一と第二ボタンを外すが、そこでひと呼吸置き、そっとアイの懐に手を突っ込む。
「ひゃあ!」
「!」

アイが叫び、サトコも無言で目を見張った。
私は器用に彼女のブラのホックを外し、そのまま指先で彼女の乳房を擦り上げていく。
アイの膝ががくがくと震え、身体から力みが抜けていく。

私はあくまで優しい笑顔を崩さないよう気を遣いつつ、彼女に微笑みかける。
「いけませんわね、私だけが愉しんでいては。アイさん、私のおっぱいも触って」
彼女の胸を玩ぶことは一旦休みつつも彼女の袂に突っ込んだ手は抜かないまま、促してみる。
彼女はおずおずと、だが今まで越えられなかった一線を飛び越えて、彼女はバニーコートに包まれた私の胸に触ってきた。
最初はまだ遠慮がちだったものの、すぐに興奮を抑えられなくなったのだろう、ぐっと持ち上げては重みと密度を堪能し、バニーコートの縁から指先を突っ込み、乳首を探り当てようとする。
独り取り残されたサトコも興奮を抑えきれない様子で、私たち二人が互いのおっぱいの感触を堪能しているのを見守っている。

辛抱堪らなくなったサトコの方が、先に自分から服を脱ぎ出した。
我が意を得た私は、アイの耳たぶに軽く息を吹きかけ、彼女がまた身を震わせるのを楽しむ。
「アイちゃん、脱ごう」
全裸になったサトコが先ほどまでの私を引き継ぎ、アイのブラウスのボタンを外していき、パンツをおろしていく…
二人は一糸まとわぬ姿となった。

アイは、既にこのままバニーガールが務まるほどの均整の取れたスマートな体形をしている。
一方のサトコは、平均並みの上背に加え、身体の横幅もスリムというほどではないが、構わない。
すぐに私の、そして彼女の理想通りのそれになる……

私は二人の手を取り、それぞれの乳房を触らせてやった。
彼女たちは、夢に浮かされたような様子で互いの胸を揉みしだく。
最初は低く、次第に甘く蕩けた呻きが、肩を寄せ合った二人の口から漏れ始める。
二人が満足するまでそうさせてやり、ようやく私たちは互いに全裸のまま向き直った。

「どうですの?サトコさん、アイさん。お気持ちはほぐれました?バニーガールになる心の準備は出来て?」
二人は恍惚としたような表情を浮かべ、頷いた。

「ボトムは網タイツと黒タイツどちらがお好き?」
「……網タイツです!」
「……私は黒タイツで」
アイにはまず下着としてTバックのボトムをまず履いてもらう。
この時点で、少し前までの彼女であればとても恥ずかしくて手に取ることも出来なかっただろうが、十分に温まった彼女は既に気持ちの上での障害を飛び越えていた。
その上から網タイツを履いていくと……ふふ、いやらしい足が出来上がっていく。

サトコは、ランガード付きのパンティホーズを試してみる。
元から肉付きの良い彼女の足には、実に光沢あるタイルが生え、むっちり感が一層増幅されて見える。

次はいよいよバニーコート。
まずはサトコから。
彼女のものは、腰で紐を締める半コルセット仕様のものだ。これで……
「ぐぅ……」
痛みと、それと同時に目まいめいた恍惚に、サトコが呻きとため息を漏らす。
ふふ、そう、その痛みと目まいに身を委ねるのよ。そこから魔法にかかっていくの……

サトコはベッドにへたり込んでしまう。そして自分の胸から腰回りまでを見下ろして……
「あれ……何か……」
一部始終を見ていたアイは、もっとはっきり事情を理解したようだ。
「サトコ、おっぱいがボリュームアップした……それに腰も細くなってるよ、ずっと……」
「え、そんなこと……」
サトコは腰を何度も撫で、また乳房を下から持ち上げ、あるいは揺さぶってみて、自分の体形が変化したことをようやく認識した。

「お分かりいただけまして?このバニーコートにも魔法がかかっているのです。このバニーコートは身につけたものの体形を、その理想のそれに変えるのです」

サトコの顔に驚きが、そして喜びが宿る。
今までセクシーとは言い難い体形に劣等感を抱いてきたであろう若い女性が、憧れていたバニーガールの衣装を着た途端、憧れていたバニーガールの体形になったのだから、それも当然だ。

相棒の身に起きた奇跡に、アイも顔をほころばせてバニーコートを身に着けようとする。
アイのものはジッパータイプだが、サトコが手伝い、ジッパーを上げてやる。

「んん……」
サトコの時と同様、アイも悩ましげな声を上げ、その身体に魔法が滲みこんでいく感覚に酔いしれる。
それに従い、十分に細い腰が更に引き締まり、押し上げられたという以上に胸が膨れ上がる。

頬を赤く染めたアイは、自らの胸を抱きしめ、持ち上げ、愛撫する。
セクシーさを一段増した己の肉体に、きっとナルシスティックな気分になっているのだろう。
とてもよく分かる。私もそうだったから…

サトコもまたアイを称賛の、あるいは崇敬の目で見つめる。
「アイちゃん、すっごく素敵……」

「ここからはお互い取り着け合うといいわ」
私はベッド上に並べたカフス、カラーと蝶ネクタイ、そしてうさぎのそれを模した耳付きのヘッドバンドを指し示す。

すっかり夢中になった二人は、互いに甲斐甲斐しく、そして次第に欲情が表面化してきたのを抑えきれない様子で、バニーとしての装身具を取り付けていく。
ノリノリである一方で、互いを、基本的には男性に奉仕する存在であるバニーガールへと変えていく作業は、ある意味では互いに奉仕し合うように見えた。

「さあ、これで最後、靴をお試しになって」
彼女たちが日ごろどれくらいの高さにまで履き慣れているかまでは知らないが、今日のところひとまず用意したのは4インチヒールから…

私はベッドの脇に跪き、座って待つサトコの右足を取る。
そしてそっと彼女の足首にキスをする。

二人はあっと驚くが、私はその驚きが消えないうちに彼女に靴を履かせてしまう。
左足にも同様の儀式を施すが、サトコの額に汗が滲むのが見て取れた。こらえ難い発情による汗が…

次はアイにもその足首にキスをし、ハイヒールを履かせる。
アイもすっかり興奮しており、二足目を履かせる時には大胆にもキスする私の顔に足を押し付けてきた。

そのまま網タイツに包まれた足指を舐めてやる。
なかなか積極的だ、有望ではないか。
横で見ているサトコの表情には、そこまでしても許されるのなら自分もそうすればよかった、という羨望がありありと浮かんでいた。
だが今は最優先事項である靴を履かせることを済ませてしまう。

「さあ、出来たわ。鏡の前で、ご自分の姿を確認なさい」

促されて立ち上がる二人だが、明らかにハイヒールに慣れていないため足取りはぎこちなく、痛みをこらえてもいる様子だ。
不安定な二人が互いに支え合いながら、それにより却って相方に痛い思いをさせてしまいながら、何とか二人は、室内の姿見の前まで歩いて行った。

姿見には、可憐で初々しい、だが早くも己の美しさとセクシーさを自覚し始めたバニーガール二人が映っていた。
「わあ……」
「素敵……」
感嘆する二人だが、私とて同じ気持ちだ。
実によく似合う。互いに褒め合う二人は、まさに姉妹のようにすら見える。
やや身長差があるところも寧ろデュオとして見栄えがする。私の目も確かだったということだ……

「さあ、あとはこのお仕事に励むだけ」
意外な言葉に、二人が振り向く。
今度は私がバニーガールとしての衣装を脱ぎ、彼女らの前にその裸身を晒した。
一度全部脱いだ上でハイヒールだけ履き直し、私はベッドの上にその身を横たえた。

「さぁ、今度はお二人がバニーガールとして私に奉仕してくださらない?」

二人が完全に同時にゴクリと唾を呑むのがはっきり聞こえた。
食虫植物の花弁に足を踏み入れる虫のように、あるいは見えない罠へと駆けこむうさぎのように、アイとサトコどちらからともなく私に抱きついてきた。
「プリンセス……お慕いしております……」
「プリンセス……私たちでよろしければ……」私を抱きしめたままベッドに倒れ込み、二人して私の唇を貪る。
私はされるがままにして、まだ年若い娘たちの愛撫に身を任せる……

-そして、ブレインダメージの従業員となったアイとサトコは、女としての魅力をどんどん開花させていった。
サトコの豊満な乳房は、バニーコートを押し返さんばかりに張り詰め、その大きさといい形の良さといい申し分ない。
一方、まだ柔らかさを残しつつも腰のくびれは実にセクシーで、バニーコートのボトム部の縁から覗く長い足へと視線を導く。

そしてアイの方はといえば……もう私の出る幕などないし、実際手や口を出す必要もないだろう。
固より、より積極的なタイプだった彼女の変化は目覚ましいものがあった。

衣装や髪形も自分好みのものを選択するようになり、シンプルでオーソドックスな黒のバニーコートは、胸元からへそへと大胆な切れ込みの入った白のバニーコートに替わり、蝶ネクタイも乳房の割れ目を強調する長ネクタイになった。

その体形や容姿は、彼女たちが求める理想のそれへと、日一日ごとに変化していき、同時に、彼女たちのブレインダメージへの、そしてそのプリンセスである私への愛着と忠誠心も深く、強くなっていく。
その変化をもたらし、促しているのが私がオーナーから受け継いだ魔法によるものであり、そして、それを二人が自ら受け入れたからでもある。

バニーガールに憧れていたアイとサトコの、理想の美女になりたいという思いが、私の魔法と合致・融合し、彼女たちの身体と心を、彼女たちの理想のそれへと改変した。
そこには私の理想もフレーバーとして加わっているが。
単に染めたという領域を越えて、流れるような美しい金髪となったアイの髪には、そんな面影を感じる。

他のバニーガール同様、彼女たちも既に私に依存しており、私とスキンシップしレズセックスしなければ生きていけないほどになっている。
ふふ、バニーガールに憧れられるのは嬉しいこと、私に憧れるバニーガールを自らの手で作るのは更に楽しいこと……

だが、私にとっては、これはまだ練習段階に過ぎない。
理想の女性としてのバニーガールに憧れる女性をバニーガールへと堕としたというに過ぎない。
いよいよ次は男をバニーガールへ変える魔法を試す時だ……

また今夜も、私は店に立ち、お客を物色している。 私がバーカウンターやギャンブリングホールに立つと、男たちはその妖艶なボディラインに息を呑みながら「いくら?」と訊いてくる。 あくまで優雅で温和な笑みを崩さないように意識しながらも、もちろん「申し訳ありませんが、まだ見習い期間中ですので…」と答えるようにしている。 もう、最初の頃の恥じらいはない。 そればかりか、一見優雅でよく躾けられた礼儀正しい笑みの中に、いかに男に媚びた表情を滲ませるか、あるいは逆に、男を見下すような、高慢な色合いを加えることで、どう男にアピールするか実験し学習する余裕すら生まれていた。 しかし一方で、私はそんな客をもてなすのは大好きだ。 私の豊かなバストが揺れるのを見たいという男には偶然を装って胸を押し当てたりもするし、お尻や太腿を見たいという客にはそれらしくポーズを取るように心がける。 何より、そうしたサービスは既にナルシストの極みにある私自身へのサービスでもあった。 「おっぱいでっけーな!姉ちゃん!」 「バニーちゃんってやっぱ可愛いよな……一発いくら?」 そんなセクハラじみた男の言葉こそ、今の私には可愛げがある……彼らがこれから辿る運命を考えれば。 これまでに私を指名した中で、キタダニ氏、ミナミバシ氏、ニシアガリ氏、ヒガシド氏辺りには既に目星をつけてある。 支払い能力の有無とは別に、彼らには相当に滞納しているサービス料を支払う気がなく、その上更にどんどん不払いを積み上げていっている。いずれその時が来れば…… 「うふふ……だめ、内緒です。でも、あなた、とってもカッコいいわ」 男の前でしなを作ってみせながら思う。ああ、私は本当にバニーガールになってしまったんだな…… そう、私は確かにバニーガールなのだ。 「あらお客様、私のおっぱいに興味がおあり?ふふ、ダメですよ、触るのは」 【ふふ、良い調子よ】オーナーさまがお褒め下さる。 ひと渡り客の男たちと会話を終え、カウンター脇の席に腰掛けて休憩を取っていた私の目に入ってきたのは、二人組の若い女性だった。 このひとたちは……確か昨日も来ていたような? でもまあそんなことはどうでもいい。 なかなか可愛らしいお嬢さんたち……若く、店内の雰囲気に明らかに押されているようでありつつ、興奮している感じでもある。 ふふ……と私は笑いを浮かべ、わずかに舌なめずりをした。 休憩は中断だ。私はスツールから立ち上がる。 「こんばんわ、ようこそ当クラブへいらっしゃいました、お嬢様方」 「え……あっ………こんばんわっ……」 まさかバニーガールの方から声をかけられると思っていなかったらしい彼女たちは、目に見えて戸惑った様子だ。 ふふ、緊張してるのね。可愛い……可愛いからこそ食べてしまいたい…優しくしてあげたい…… 「ではこちらへどうぞ……私はプリンセスと呼ばれております。当店のプリンセスが姫君お二人を歓迎いたしますわ」 両手を軽く広げて二人を誘う。 二人は戸惑うような表情を見せながらも、その視線は私の胸や顔に釘づけになっている。 私が踵を返すと、飼い主の後に続く従順な子犬のように彼女たちはついてきた。 無粋な他の客が割り込んでこないバーカウンターへ戻り、私は彼女たちに着席を促す。 ずいぶん遠慮がちな様子で腰かけたものかどうか躊躇っているの彼女たちだが、キャストと一緒に過ごしたいという欲望と酒を勧められるうちに大金をつぎ込まされてしまうのではという不安が入り混じっているのが見て取れる。 「私はまだ見習い期間中でして、料金をいただくサービスをすることは出来ません。代わりに、一時間に限定して、無料の会話と同行に限定したサービスは無料で提供させていただくことが出来ます。それに……最初の一杯は私の奢りにさせていただくというのはいかがかしら?」 少し彼女たちは安心した様子で、着席した。私は彼女たちに尋ねる。 「お名前をうかがってよろしいかしら?」 「あ、はいっ…私はサトコと申します!」小柄な方の娘が答える。 「私はアイです!」こちらは、髪を金髪に染めた、背の高い方の娘だ。 二人はやや上ずった声で名乗り、その後少し恥ずかしげに笑った。 二人ともとても可愛らしい。もちろん好みはあるだろうが、一般的に見て十分に美人の部類に入るし、何より若くて健康的だ。 彼女たちの名前は既に顧客名簿から得ている。無論偽名だろうけれど…… そんなことはどうでもいい。少なくとも、この娘たちがバニーガール好きであることだけは間違いなく、それだけで脈ありということだ。 「サトコさんとアイさんね。はじめまして、プリンセスです」 私は出来るだけ優しい微笑みを浮かべる。もちろん、二人とも私を食い入るように見つめている。 ああ……嬉しいわ……毎日、他のバニーガールたちからの憧れのまなざしを向けられているというのに、同性のお客様から熱心に見つめられるのには全く飽きることがない。 もちろん男性のお客様からでも同様。ナルシストな私にとって、他者のまなざしは何よりの糧なのだ。それにより私はますますセクシーに、美しくなることが出来る。それがブレインダメージのプリンセスであり、その美しさに彼女たちはますます惹きつけられる…… 「このお店は初めてではありませんわよね?」 「えっ、はい、何度か……寄らせていただいています…」 サトコの声には、いくらかの現実に引き戻された躊躇いがあった。 店の払いが溜まっている罪悪感がそうさせたのだろう。でも、私はそれをすぐに打ち消してやる。 「それは嬉しいわ。サトコさん、アイさん……このお店のお客さまはみな紳士的でいらっしゃるでしょう?」 「ええ……はい……」 二人はぎこちなくうなずく。 これにもいくらかの躊躇いが滲んでいる。 多くは紳士的な客ではあるものの、一方で、横暴で下品なお客もそれなりに目にしてきたはずだ。 年若い彼女たちが、そんな脂ぎったおじさんたちに嫌悪感を一切抱いていないといえば嘘になるだろう。 だが、そんな様子にすら私の心はときめく。 そうよね、ここの客たちは皆バニーガール好きだもの…… そして彼女たちにはお金をいくらでも出すに値する価値があるのだから…… 「実は私ね、少し変わった趣味があるんですの……」 意図して、少し恥じらったように顔をうつむかせ、小声で私は彼女たちに囁く。二人はごくりと生唾を飲み込んだようだった。 「私、女の子同士でしか興奮しないの……」 えっ……という顔をして二人は顔を見合わせる。 「それは本当におかしな性癖だと思うわ……普通の社会で生きていては許されないことよね……」 少し目を伏せると、長い睫毛が目の周りに影を落とした。 ああ、プリンセスは本当に可愛くて綺麗…… 演技をしている自分に酔いながら、私は答えが分かり切っていることを自問自答する。 私ってどうしてこんなに美人なのかしら……?どうしてこんなにセクシーで魅力的なのかしら……? 「でも、私が私らしく生きてゆくためには、これが必要だと思ったの。それに私は今、とても幸せなのよ……だってこのお店には、美しいバニーガールが何人もいるのだから……」 そう言ってサトコとアイに向かってにっこりと微笑んでみせる。 サトコの方はやや驚いた様子だが、アイは首を横に振った。 「いいえ、少しもおかしいことはありません!女の子が女の子を好きになるのって、全然アリだと思います!」 水を向けてやればつい本音が漏れた、というところか。私は意味ありげに微笑んでみる。 「安心したわ……サトコさんも女の子が好きなんですね?私に興奮してるのよね……?」 そう言いながら二人を見つめると、二人の反応に混乱が入りこんだようだった。「わ、私は……」 サトコが言いかけて口ごもる。意見を求めて、一瞬だけアイの方を見たが、すぐに目を逸らす。彼女はしばらく躊躇った後、躊躇いがちに口を開いた。 「ええ……私も女の子に興味があります……でもまさかバニーガールのプリンセスさんが同じ趣味だったなんて……!」 予想通りだ。 これで彼女も落とせる。彼女が求めている答えも分かる。だから私は言った。 「私、実はもうひとつ変わった趣味がございましてね……」一層声を落として囁く。 「これはね、女性のお客さまに対して限定のサービスでもあるのですが……私、お客さまにバニーガールのコスプレをさせるのが好きなの……」 心底驚いたといった様子で、且つ驚きのあまり声を上げることも出来ず、二人は硬直した。そして互いに顔を見合わせる。 何かひそひそと相談している。しばらくして、サトコの方がおそるおそるといった様子で尋ねた。 「それは……どんな……?」 私は声をひそめて答える。 「うふん、もちろんバニーガールのコスチュームを着てもらうのよ、とってもセクシーな奴を……」 【くすくす……さあ、そろそろ仕上げにかかるわよ】オーナーさまの声が聞こえたような気がする。 「でも大丈夫かしら……?私なんかがバニーガールになんてなれるのかしら?」 「大丈夫ですわ、私から見てもお二人はとっても素敵な女性でしてよ」 「……あの、でも、料金がかかるサービスは、出来ない…のでは?」 サトコが遠慮がちに尋ねる。私は微笑みながら指を鳴らし… ―次の瞬間、バーから私たち三人以外の人間の姿が消えた。 何が起こったか分からず、サトコとアイは呆然となるが、彼女たちを落ち着かせようと、私は唇に指をあててウィンクして微笑む― 「ほんのしばらくの間ですが、邪魔者の目が届かないようにしました。そう、私は魔法の国のプリンセス。ブレインダメージという魔法の国のプリンセスですのよ」 そう言って、私は室内の時計を指さし、時計が止まっていることを示唆した。 「これは、プリンセスからもう二人のプリンセスへの、二十四時までの時間制限を超えるためのプレゼント……」 私は立ち上がり、二人を振り返って笑った。 最早抗いようのなくなっているサトコとアイは、私の後をついてふらふらと店内の廊下を進んでいく… マッサージ用のサービスルームへと、私は二人を案内した。 既に室内にはバニーガールの衣装二着分一式がハンガーに架けられ、あるいはベッドの上に並べられていた。 サトコとアイがごくりと息を呑む。 「まずは着方をお教えしますわね……」 緊張をほぐすよう微笑みかけながら促すが、当然ながら互いに羞恥心があるのだろう、二人とも互いの様子を窺いつつ、視線が合うたびに慌てて目を逸らしつつ、なかなか服を脱ぎ出そうとしない。ならばひと押し必要だろう… 私はアイに歩み寄り、彼女のブラウスの第一ボタンに手をかけた。 彼女は身体をびくんとさせ硬直したが、脱がされることを拒まなかった。 第一と第二ボタンを外すが、そこでひと呼吸置き、そっとアイの懐に手を突っ込む。 「ひゃあ!」 「!」 アイが叫び、サトコも無言で目を見張った。 私は器用に彼女のブラのホックを外し、そのまま指先で彼女の乳房を擦り上げていく。 アイの膝ががくがくと震え、身体から力みが抜けていく。 私はあくまで優しい笑顔を崩さないよう気を遣いつつ、彼女に微笑みかける。 「いけませんわね、私だけが愉しんでいては。アイさん、私のおっぱいも触って」 彼女の胸を玩ぶことは一旦休みつつも彼女の袂に突っ込んだ手は抜かないまま、促してみる。 彼女はおずおずと、だが今まで越えられなかった一線を飛び越えて、彼女はバニーコートに包まれた私の胸に触ってきた。 最初はまだ遠慮がちだったものの、すぐに興奮を抑えられなくなったのだろう、ぐっと持ち上げては重みと密度を堪能し、バニーコートの縁から指先を突っ込み、乳首を探り当てようとする。 独り取り残されたサトコも興奮を抑えきれない様子で、私たち二人が互いのおっぱいの感触を堪能しているのを見守っている。 辛抱堪らなくなったサトコの方が、先に自分から服を脱ぎ出した。 我が意を得た私は、アイの耳たぶに軽く息を吹きかけ、彼女がまた身を震わせるのを楽しむ。 「アイちゃん、脱ごう」 全裸になったサトコが先ほどまでの私を引き継ぎ、アイのブラウスのボタンを外していき、パンツをおろしていく… 二人は一糸まとわぬ姿となった。 アイは、既にこのままバニーガールが務まるほどの均整の取れたスマートな体形をしている。 一方のサトコは、平均並みの上背に加え、身体の横幅もスリムというほどではないが、構わない。 すぐに私の、そして彼女の理想通りのそれになる…… 私は二人の手を取り、それぞれの乳房を触らせてやった。 彼女たちは、夢に浮かされたような様子で互いの胸を揉みしだく。 最初は低く、次第に甘く蕩けた呻きが、肩を寄せ合った二人の口から漏れ始める。 二人が満足するまでそうさせてやり、ようやく私たちは互いに全裸のまま向き直った。 「どうですの?サトコさん、アイさん。お気持ちはほぐれました?バニーガールになる心の準備は出来て?」 二人は恍惚としたような表情を浮かべ、頷いた。 「ボトムは網タイツと黒タイツどちらがお好き?」 「……網タイツです!」 「……私は黒タイツで」 アイにはまず下着としてTバックのボトムをまず履いてもらう。 この時点で、少し前までの彼女であればとても恥ずかしくて手に取ることも出来なかっただろうが、十分に温まった彼女は既に気持ちの上での障害を飛び越えていた。 その上から網タイツを履いていくと……ふふ、いやらしい足が出来上がっていく。 サトコは、ランガード付きのパンティホーズを試してみる。 元から肉付きの良い彼女の足には、実に光沢あるタイルが生え、むっちり感が一層増幅されて見える。 次はいよいよバニーコート。 まずはサトコから。 彼女のものは、腰で紐を締める半コルセット仕様のものだ。これで…… 「ぐぅ……」 痛みと、それと同時に目まいめいた恍惚に、サトコが呻きとため息を漏らす。 ふふ、そう、その痛みと目まいに身を委ねるのよ。そこから魔法にかかっていくの…… サトコはベッドにへたり込んでしまう。そして自分の胸から腰回りまでを見下ろして…… 「あれ……何か……」 一部始終を見ていたアイは、もっとはっきり事情を理解したようだ。 「サトコ、おっぱいがボリュームアップした……それに腰も細くなってるよ、ずっと……」 「え、そんなこと……」 サトコは腰を何度も撫で、また乳房を下から持ち上げ、あるいは揺さぶってみて、自分の体形が変化したことをようやく認識した。 「お分かりいただけまして?このバニーコートにも魔法がかかっているのです。このバニーコートは身につけたものの体形を、その理想のそれに変えるのです」 サトコの顔に驚きが、そして喜びが宿る。 今までセクシーとは言い難い体形に劣等感を抱いてきたであろう若い女性が、憧れていたバニーガールの衣装を着た途端、憧れていたバニーガールの体形になったのだから、それも当然だ。 相棒の身に起きた奇跡に、アイも顔をほころばせてバニーコートを身に着けようとする。 アイのものはジッパータイプだが、サトコが手伝い、ジッパーを上げてやる。 「んん……」 サトコの時と同様、アイも悩ましげな声を上げ、その身体に魔法が滲みこんでいく感覚に酔いしれる。 それに従い、十分に細い腰が更に引き締まり、押し上げられたという以上に胸が膨れ上がる。 頬を赤く染めたアイは、自らの胸を抱きしめ、持ち上げ、愛撫する。 セクシーさを一段増した己の肉体に、きっとナルシスティックな気分になっているのだろう。 とてもよく分かる。私もそうだったから… サトコもまたアイを称賛の、あるいは崇敬の目で見つめる。 「アイちゃん、すっごく素敵……」 「ここからはお互い取り着け合うといいわ」 私はベッド上に並べたカフス、カラーと蝶ネクタイ、そしてうさぎのそれを模した耳付きのヘッドバンドを指し示す。 すっかり夢中になった二人は、互いに甲斐甲斐しく、そして次第に欲情が表面化してきたのを抑えきれない様子で、バニーとしての装身具を取り付けていく。 ノリノリである一方で、互いを、基本的には男性に奉仕する存在であるバニーガールへと変えていく作業は、ある意味では互いに奉仕し合うように見えた。 「さあ、これで最後、靴をお試しになって」 彼女たちが日ごろどれくらいの高さにまで履き慣れているかまでは知らないが、今日のところひとまず用意したのは4インチヒールから… 私はベッドの脇に跪き、座って待つサトコの右足を取る。 そしてそっと彼女の足首にキスをする。 二人はあっと驚くが、私はその驚きが消えないうちに彼女に靴を履かせてしまう。 左足にも同様の儀式を施すが、サトコの額に汗が滲むのが見て取れた。こらえ難い発情による汗が… 次はアイにもその足首にキスをし、ハイヒールを履かせる。 アイもすっかり興奮しており、二足目を履かせる時には大胆にもキスする私の顔に足を押し付けてきた。 そのまま網タイツに包まれた足指を舐めてやる。 なかなか積極的だ、有望ではないか。 横で見ているサトコの表情には、そこまでしても許されるのなら自分もそうすればよかった、という羨望がありありと浮かんでいた。 だが今は最優先事項である靴を履かせることを済ませてしまう。 「さあ、出来たわ。鏡の前で、ご自分の姿を確認なさい」 促されて立ち上がる二人だが、明らかにハイヒールに慣れていないため足取りはぎこちなく、痛みをこらえてもいる様子だ。 不安定な二人が互いに支え合いながら、それにより却って相方に痛い思いをさせてしまいながら、何とか二人は、室内の姿見の前まで歩いて行った。 姿見には、可憐で初々しい、だが早くも己の美しさとセクシーさを自覚し始めたバニーガール二人が映っていた。 「わあ……」 「素敵……」 感嘆する二人だが、私とて同じ気持ちだ。 実によく似合う。互いに褒め合う二人は、まさに姉妹のようにすら見える。 やや身長差があるところも寧ろデュオとして見栄えがする。私の目も確かだったということだ…… 「さあ、あとはこのお仕事に励むだけ」 意外な言葉に、二人が振り向く。 今度は私がバニーガールとしての衣装を脱ぎ、彼女らの前にその裸身を晒した。 一度全部脱いだ上でハイヒールだけ履き直し、私はベッドの上にその身を横たえた。 「さぁ、今度はお二人がバニーガールとして私に奉仕してくださらない?」 二人が完全に同時にゴクリと唾を呑むのがはっきり聞こえた。 食虫植物の花弁に足を踏み入れる虫のように、あるいは見えない罠へと駆けこむうさぎのように、アイとサトコどちらからともなく私に抱きついてきた。 「プリンセス……お慕いしております……」 「プリンセス……私たちでよろしければ……」私を抱きしめたままベッドに倒れ込み、二人して私の唇を貪る。 私はされるがままにして、まだ年若い娘たちの愛撫に身を任せる…… -そして、ブレインダメージの従業員となったアイとサトコは、女としての魅力をどんどん開花させていった。 サトコの豊満な乳房は、バニーコートを押し返さんばかりに張り詰め、その大きさといい形の良さといい申し分ない。 一方、まだ柔らかさを残しつつも腰のくびれは実にセクシーで、バニーコートのボトム部の縁から覗く長い足へと視線を導く。 そしてアイの方はといえば……もう私の出る幕などないし、実際手や口を出す必要もないだろう。 固より、より積極的なタイプだった彼女の変化は目覚ましいものがあった。 衣装や髪形も自分好みのものを選択するようになり、シンプルでオーソドックスな黒のバニーコートは、胸元からへそへと大胆な切れ込みの入った白のバニーコートに替わり、蝶ネクタイも乳房の割れ目を強調する長ネクタイになった。 その体形や容姿は、彼女たちが求める理想のそれへと、日一日ごとに変化していき、同時に、彼女たちのブレインダメージへの、そしてそのプリンセスである私への愛着と忠誠心も深く、強くなっていく。 その変化をもたらし、促しているのが私がオーナーから受け継いだ魔法によるものであり、そして、それを二人が自ら受け入れたからでもある。 バニーガールに憧れていたアイとサトコの、理想の美女になりたいという思いが、私の魔法と合致・融合し、彼女たちの身体と心を、彼女たちの理想のそれへと改変した。 そこには私の理想もフレーバーとして加わっているが。 単に染めたという領域を越えて、流れるような美しい金髪となったアイの髪には、そんな面影を感じる。 他のバニーガール同様、彼女たちも既に私に依存しており、私とスキンシップしレズセックスしなければ生きていけないほどになっている。 ふふ、バニーガールに憧れられるのは嬉しいこと、私に憧れるバニーガールを自らの手で作るのは更に楽しいこと…… だが、私にとっては、これはまだ練習段階に過ぎない。 理想の女性としてのバニーガールに憧れる女性をバニーガールへと堕としたというに過ぎない。 いよいよ次は男をバニーガールへ変える魔法を試す時だ……
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ミナミバシがブレインダメージの店内に入ると、またも廊下の《プリンセスとしもべ》の写真が架け替えられていた。
それは、プリンセスとバウンサーの秋姫が抱き合って踊る姿を映したものだった。
何度見てもため息が出るほどのプリンセスの美しさに、改めてほれぼれとなるミナミバシだったが、一方で、毎度毎度営業百合を意識した写真を見せられるのは、正直苛立たしくもあった。
この店のバニーガールは、お客である男のものではないか、という思いが募る。

店内に入っていくと、フロアマネージャーを兼ねるバニーガールの泉美が、声をかけてきた。
「ようこそいらっしゃいました、ミナミバシさま。予定通りにお知らせ致します、本日よりプリンセスが通常営業としてお店に出ます。といっても”特例職分”の通常営業ですが、サービスを希望されますか?」

思ってもみなかった事態に、ミナミバシは小躍りしかけた。
そして店内を窺う-キタダニやニシアガリのような、他にプリンセスをしつこく指名し続けている客は来ていない。
「是非希望したいね……”特例職分”だと、どういうサービスが受けられるの?」
「基本的にはレヴュー形態ですが、希望されればその後に追加サービスも可能になります。いかがされますか?」
レヴューか、その上に、追加のサービスまで付くとなると、安くはないな、とミナミバシは内心で考えを巡らせた……この店で追加のサービスというと何を指すのかは決まっている。

ブレインダメージのサービスの中で、最もランクが高いのはレヴューであり、下位のレヴューですら性行為を伴うサービスより高額の料金がかかる。
そのどちらを求めるかはお客の好み次第というところでもあるが、ブレインダメージのバニーガールたちは、これまた踊りや歌、手品も本職顔負けの一流であり、それに派手なステージエフェクトも加わって、一見の価値ありというのがお客の間での評価となっている。
常連客の間では、レヴューを一回でも多く見ること、上位ランクのバニーガールが多数出演するレヴューを見ることがある種のステータスにもなっており、ミナミバシも相当の額をレヴューの観覧に注ぎ込んできていた…そして、相当額の未払いを店に溜め込んでしまっている。まぁ、督促がないも同然なので、そのまま済ませてしまっているが。

料金はいくらなんだ、と尋ねると、提示された金額はレヴューだけで8.5チップ、その後の追加サービスは応相談だという。
安くはない……が最高ランクのレヴュー―バニーガールが6、7人が出演し、入れ代わり立ち代わり歌ったり、踊ったりする―ほど高くはない。バニーガール単体でそれだけするというところが、流石はプリンセスというところか。

とはいえ、ライバルに先んじてプリンセスのサービスを独り占めできるのであれば決して高くない、とミナミバシは踏んで、サービスを受けることを選択した。

レヴューのステージはビルの別のフロアにある。
流石に公共のホール並みのサイズとまではいかないが、ミナミバシ自身、資産家・富裕層との付き合いは多いので、自宅に自分や家族の趣味のためにこの手の小型ステージを自宅に持っている例はいくつか見てきているので、それらに比べるとかなり豪華な造りであることは分かる。
座席も豪華な革張りのソファだが、お客はミナミバシ一人だけ。
この豪華な空間を、そしてこれからステージに現れるプリンセスを独り占めに出来るのかと思うと、この高額も妥当なのかなとも思うし、後でライバルどもが吠え面かくのが予想出来て何とも愉快だ。

案内してきた泉美は、恒例の不払い額の確認を行う。
「先日来までの累計が678.8チップになります……清算なさいますか?」
後だ後、とミナミバシは聞き流したが、珍しく泉美は重ねて尋ねた。
「もう一度お尋ねいたします。本日清算なさいますか?」
いつレヴューが始まるかとわくわくしていたミナミバシは、紅葉に水を差され、不快感を露わにする。後だって言ってるだろ!の一喝で、泉美を追い返そうとするが、更に泉美は冷静さを崩さない表情と口調で、
「これも既に何度もレヴューをご観覧いただいているミナミバシさまには無用のこととは思いますが……ステージ上のパフォーマーには手を触れないようにお願いいたします。よろしいですね?」
わかったわかった、と言ってミナミバシは泉美を追い払う。

そして客電が落ち、暗いステージにピンクと紫のピンライトが落ちる。
派手な音楽が鳴り響き、ステージにバニーガールが文字通りうさぎの如き速さで飛び出てきた。

プリンセスではなかった。
若葉がその柔軟な身体をしならせ、飛び跳ねさせ、ひねらせて踊り始めた。
なるほど、前座ありか。

新体操選手張りにボールを抱きかかえて、床に寝そべったまま足を開いたり延ばしたり転がったりを繰り返す。
この手のステージにはつきもののポールにつかまって、客席へ向けて、バニーコートの上から胸の谷間を押し付けたかと思うと、今度は寝そべって足を大開きにし、左足をぴんとまっすぐに、ポールに沿って高く上げる。
バニーコートにぎりぎり包まれた股間が晒され、その大胆で恥を知らないポーズと無邪気な笑顔でのパフォーマンスが奇妙な対比を形作っている……

若葉が袖へ引っ込むと、照明が毒々しい緑がかったものに変わり、今度は浅黒い肌に白のバニーコートとハイヒールの、長身のバニーガールがステージへと上がってきた。名前はマナといったか。

黒と白のコントラストが美しい、そして鍛えられた体幹を感じさせる伸びやかな肢体。
その切れ長の涼しげな瞳もあいまって、まさに美女という言葉がぴったりだ。
表情には媚びがなく、それが踊りの力強い印象を補強している。
彼女が踊りだすと、まるで重力を感じさせないような不思議な感覚をミナミバシは覚えた。
セクシーであると同時にスポーティでもあり、躍動と優雅が融合した感覚……踊りにキレがあるだけでなく、しなやかさを感じさせるものだ……

しかし、同時にそれはやや不調和な印象もミナミバシには感じられた。
マナは確かに美しく、踊りも一流だったが、どこか何かが欠けているように感じられたのだ。
媚びのない表情やスポーティに過ぎる踊りっぷりは、若葉の純粋無垢な少女がエロく振る舞う踊りと対照的だったが、二人のパフォーマンスはやや両極端だ。
それはまるでこの後のステージをより盛り上げる役割を与えられているかのように、彼女は淡々と踊っていた。

そしてマナの出番が終わると、バックバンドの楽器の音が止まると共に、音楽が軽快なものに変わった。
浅黒い肌に白の衣装のマナと白い肌に黒の衣装の若葉がステージの両袖に位置し、二人が躍動してくるくると回りながら、ステージを席巻する。
そして、二人のバニーガールはたった一人の客であるミナミバシを左右から見ながら、二人の間で視線を交わすと、同時にミナミバシへ向かって大きく手を広げて見せた。
二人の動きにシンクロするように、ステージの照明も赤と青、緑とオレンジへと次々と変化していって二人の周囲を彩り、曲もダンスミュージックから明るいポップスへ変化する。
音楽に合わせて、二人は踊りながら背中合わせになり、その背中を互いにこすりつけ合ったかと思うと反転して正面で抱擁し合う。
依然として浅黒い肌のマナの表情は硬く、若葉の表情は明るく無邪気なもので、二人はステージ上で演じるキャラクターを堅持しているようだった……
興奮したミナミバシは、自分が二人のバニーガールに挟まれるように抱擁され、その健康的な肢体の柔らかさを感じ取る妄想に耽った……

そこで一旦音楽が止まった。
そして……ど派手なビッグバンドジャズの合奏に合わせて、照明の色が赤とオレンジに切り替わり、二人のバニーガールが左右に飛びのいて身体を離した時、そこに今までステージに影も形もなかったはずの一人のバニーガールが両手を大きく広げて立っていた―
プリンセスだった。

ミナミバシは、思わず、え?と唸った。
完全に意表を突かれた。どういう仕掛けか知らないが、これはいいサプライズだ。

「ご来場の紳士淑女の皆様、本日はブレインダメージのプリンセスショーにようこそ。今宵は思いきり楽しんでいってくださいませ」

ステージ上のプリンセスは、いつもと異なる赤のバニーコートとハイヒールといういで立ちに、ストールを肩から両腕にかけて巻き付けている。
そして、その両脇には若葉とマナが控えている。
三人の美しきバニーガールたちが並んで手を広げている姿は圧巻だ。

音楽が再開し、プリンセスが踊り始める。
曲はサンバの激しいリズムによるもので、派手な押し出しの今夜のプリンセスにフィットしていた。

プリンセスは両手を頭の後ろに回して脇を晒すポーズを取り、その爆乳を強調しながら、ヒールの高さを感じさせない足取りで客席フロアぎりぎりまでステップしてきては、また後退していく動作を繰り返す。

ポールに片手を絡めてくるりと開店したかと思うと、片足を大きく蹴り上げ、身体を折り曲げて、大きく掲げたその片足をポールに絡めて全身をスピーディに一回転させて見せる。

両手を後ろに突き出して広げたポーズで、客席に背を向けて、一歩一歩客席へ向けて後ろ歩きをして見せることで、観客に靴のヒールとそこから伸びる脚線美を意識させる。

後ろ向きに歩いてくるプリンセスの前後を、ステージの左右それぞれの端から若葉ともう一人のバニーガールがプリンセスと歩調を合わせて歩き、ステージを横断して見せる……

プリンセスが客席へと振り向くのと同時に、一度ステージを横断しきって、また元の位置へと戻る途中だったもう二人のバニーガールがステージ中央のプリンセスと縦の同一線上に並んだ。
三人はシンクロしたタイミングで両手を広げ身体をずらしながら、万華鏡のようにその位置を旋回させていく……

旋回のテンポが徐々にゆっくりになっていくのに合わせ、音楽も徐々にゆったりしたものへ変化していき、三人の動きも優雅なものへとなっていく。
そしてやがて三人はステージ上で完全に静止したかと思うと、おもむろに両手を胸の前に突き出して交差させ、ゆっくりと客席へと背を向けた。

そのまま三人は、まるでバレエのピルエットのように緩やかに回転していく。
やはり中央で踊るのはプリンセスで、タイミングをずらして、左右の二人が続くといった趣向だ。
そしてプリンセスが腰をぐっと落として両腕を広げながら静止した瞬間、音楽もぴたりと止んだ。三人のダンサーは膝を曲げた姿勢でその場に跪き、ダンスの終了を無言で示した…

ミナミバシは、夢中になって拍手を送った。
これほどハイレベルなダンスは、確かにこれまでにこの店のレヴューで見た中でも最上級だった。
そんなハイレベルなショーをたった一人で独占出来た喜びも相当に含まれていたが。

三人は深々と観客に頭を下げると、その姿勢からゆっくりと立ち上がり、ステージ中央にそのまま佇んだまま、静かな余韻を味わうようにしばらくじっとしていた……

そして、BGMが再びハードなビッグバンドジャズ―先ほどまでの4ビートから8ビートへ、リズムも更に激しくなったーへと変わった瞬間、三人は一斉に両手を頭上高くに掲げた。
それと同時に曲調がガラッと激しいものに変わり、プリンセスたちは再びステージ上を激しく動き回り始める。

今度のダンスは今までにない激しさで、三人のダンサーの踊りにもキレや鋭さが更に増した。
三人それぞれの動作は複雑でありながら一糸乱れず、まるで三人のダンサーが一つの生き物のようにすらミナミバシの目には感じられた。

三人のダンサーたちの動きがシンプルになっていく。
三人がステージ上に横一列に並び、広げた手を取り合ってステップを踏み始める。
その脚線美を叩きつけようとするかの如く、三人はリズムを揃えて片足を前方へと大きく蹴り上げる……

インカムマイク越しに、プリンセスが叫んだ。
「さぁ、まだまだいきますわ!」
戸惑うミナミバシのそばにいつの間にか来ていた泉美が耳打ちする-

「追加サービスを希望されますか?」
はっとなったミナミバシは、大声で、希望するぞ、と怒鳴っていた。いや、興奮のあまり立ち上がっていた。

今プリンセスたちがステージで演じているのは、凝った振り付けや演出の多いブレインダメージのレヴューにしてはかなり古風なフレンチカンカン風の踊りに過ぎないが、そのシンプルな躍動感はミナミバシの身体も共振させるものがあった。
ステージへとミナミバシが駆け寄っていくと、プリンセスもステージ下のミナミバシへと手を差し伸べる。バニーガールの意外に力強い手にその手を取られ、ミナミバシはステージへと引き揚げられた。

バニーガールと一緒に踊れる……これが追加サービスか!
性欲を満たす方向性のサービスばかりを考えていたが、こういうのもいい……

いや、それだけではない。
先ほどまでのダンスは、健康的でエキサイティングなダンスでありつつ、やはり常にセクシーでエロティックなものだった。三人のバニーガールの身体性がそのどちらも感じさせた。
今ミナミバシは話にならないくらい股間が硬く張りつめているのを感じる。
バニーガールと共に身体を動かしたいという衝動が湧きあがってくるが、それは肌をこすり合わせる類の動きとスポーティな動き両方への渇望だった。
どちらも……したい……

「ちょっと、頼みがあるんだが……」
ミナミバシは興奮のあまり声を上ずらせながら、自分の股間を指差した。
マナと若葉が一瞬驚いたような顔をする中、プリンセスだけが悪戯っぽい笑いを浮かべて見せた。

「その……バニースーツの上からでいいから」
そこまで言うと恥ずかしさに言葉が途切れた。
しかし、それで充分意図は通じたらしい。そこは追加サービスの通例として暗黙の了解だろう、とミナミバシは踏んでいた。

「ステージの上でとは、なかなかいいご趣味ですわ」
プリンスの笑い声に、ミナミバシは妙に安心した。

プリンセスは、ステージ上に座り込んでしまったミナミバシの股間に手を置き、愛おしそうに撫で上げた。
そして残りの二人は、ミナミバシとプリンセスを囲み、手を取り合ってステージをぐるぐると回り始める……
それは最初こそ単なるラインダンスに過ぎなかったが、次第にそのスピードが上がっていくにつれ、ミナミバシの股間をしごくプリンセスの掌の動きも加速していく。
そして、ダンスのスピードが上がっていくにつれ、三人の表情も変わっていく……

間近で自分を見つめているプリンセスは、依然として優雅で優しい笑みを浮かべているが、どこかその瞳の奥に、一連のダンスの激しさに通じる熱狂を感じさせた。
クールな表情のままのマナと天然な笑いを崩さなかった若葉は、その表情を基調としつつ、時折、硬くした股間を撫でられているミナミバシを嘲るような笑みを浮かべるようになった……

加速する一方のダンスに、ミナミバシはめまいを覚え始めた。
ステージ上で何か白い光が明滅し始め、何かと目を凝らしてみると、いつの間にか周囲にいくつものテレビモニターが設置されていた。

そのモニターの中では、ブレインダメージの名だたるバニーガールたちが、お客を相手に、あるいはお互いを相手に淫らな行為に耽っている映像が流されている。
その中には以前自分が金を出してバニーガールを抱いた時のものもあれば、プリンセスが他のバニーガールと獣のようにレズセックスを繰り広げるものもあった。
今自分が体験している身体的な悦楽に、イメージのそれが四方から押し寄せ、ミナミバシは絶叫した。

「おおおおぉぉぉぉぉぉーーーーっ……」
ズボンも下着も下ろさないままミナミバシは射精した。

身体はぐったりとしたが、股間は全く弛緩を見せない。
達してしまったことに対する羞恥により、ミナミバシは何を言えばいいのか躊躇ったが、プリンセスは構わずミナミバシのズボンのベルトを外し始めた。
ブレインダメージ最高のバニーガールは笑って言った-「さぁ、まだまだいきますわ」

裸に剥かれたミナミバシの股間に顔を貼り付け、プリンセスはミナミバシの肉棒にしゃぶりついた。
気が付くと、自分たちの行為に当てられたのか、もう二人のバニーガールたちもダンスを抱擁へ切り替えていた。

マナが若葉を床に押し倒し、バニーコートの上から腹を上下に舐めていく。
胸の谷間に向かうか股間に向かうか、十分に焦らしたうえで、マナは若葉の股間へと顔を埋める。
エナメル製のバニーコートの上からだが、マナの唾液がぬめぬめとした光沢を帯びる若葉の股間に、別種の光沢を塗りたくっていく。
「あぁ……お姉さまぁ……」
若葉が上ずった声を上げながら腰をくねらせる。

その艶めかしい腰使いに我慢できなくなったのか、プリンセスもミナミバシの肉棒を愛撫するのを手に変え、横入りして若葉にキスを施す。
四人の男女が不気味なひと固まりとなって、肉の快楽によって溶け合っていこうとしていた…
ダンスをやめたバニーガールとミナミバシたちを取り囲むテレビモニターには、今度はバニーガールたちの躍動的なダンスシーンが流されていたのだが、もうミナミバシにはそんなことに気づくゆとりがない。

「うっ……ううううっ……」
先ほどよりも数段大量の精液がぶちまけられた。プリンセスの顔から胸にかけてがひどく汚される。
「まぁ……」
精液に塗れても、プリンセスは優雅な微笑みを浮かべている。
しかし、その微笑はどこか淫らなものを感じさせた。
その表情を見た瞬間にミナミバシは再び勃起し、すぐに次の射精が可能になった……
桜色のプリンセスの唇が、漏れ出た精液を舐めとってくれている。

ミナミバシがブレインダメージの店内に入ると、またも廊下の《プリンセスとしもべ》の写真が架け替えられていた。 それは、プリンセスとバウンサーの秋姫が抱き合って踊る姿を映したものだった。 何度見てもため息が出るほどのプリンセスの美しさに、改めてほれぼれとなるミナミバシだったが、一方で、毎度毎度営業百合を意識した写真を見せられるのは、正直苛立たしくもあった。 この店のバニーガールは、お客である男のものではないか、という思いが募る。 店内に入っていくと、フロアマネージャーを兼ねるバニーガールの泉美が、声をかけてきた。 「ようこそいらっしゃいました、ミナミバシさま。予定通りにお知らせ致します、本日よりプリンセスが通常営業としてお店に出ます。といっても”特例職分”の通常営業ですが、サービスを希望されますか?」 思ってもみなかった事態に、ミナミバシは小躍りしかけた。 そして店内を窺う-キタダニやニシアガリのような、他にプリンセスをしつこく指名し続けている客は来ていない。 「是非希望したいね……”特例職分”だと、どういうサービスが受けられるの?」 「基本的にはレヴュー形態ですが、希望されればその後に追加サービスも可能になります。いかがされますか?」 レヴューか、その上に、追加のサービスまで付くとなると、安くはないな、とミナミバシは内心で考えを巡らせた……この店で追加のサービスというと何を指すのかは決まっている。 ブレインダメージのサービスの中で、最もランクが高いのはレヴューであり、下位のレヴューですら性行為を伴うサービスより高額の料金がかかる。 そのどちらを求めるかはお客の好み次第というところでもあるが、ブレインダメージのバニーガールたちは、これまた踊りや歌、手品も本職顔負けの一流であり、それに派手なステージエフェクトも加わって、一見の価値ありというのがお客の間での評価となっている。 常連客の間では、レヴューを一回でも多く見ること、上位ランクのバニーガールが多数出演するレヴューを見ることがある種のステータスにもなっており、ミナミバシも相当の額をレヴューの観覧に注ぎ込んできていた…そして、相当額の未払いを店に溜め込んでしまっている。まぁ、督促がないも同然なので、そのまま済ませてしまっているが。 料金はいくらなんだ、と尋ねると、提示された金額はレヴューだけで8.5チップ、その後の追加サービスは応相談だという。 安くはない……が最高ランクのレヴュー―バニーガールが6、7人が出演し、入れ代わり立ち代わり歌ったり、踊ったりする―ほど高くはない。バニーガール単体でそれだけするというところが、流石はプリンセスというところか。 とはいえ、ライバルに先んじてプリンセスのサービスを独り占めできるのであれば決して高くない、とミナミバシは踏んで、サービスを受けることを選択した。 レヴューのステージはビルの別のフロアにある。 流石に公共のホール並みのサイズとまではいかないが、ミナミバシ自身、資産家・富裕層との付き合いは多いので、自宅に自分や家族の趣味のためにこの手の小型ステージを自宅に持っている例はいくつか見てきているので、それらに比べるとかなり豪華な造りであることは分かる。 座席も豪華な革張りのソファだが、お客はミナミバシ一人だけ。 この豪華な空間を、そしてこれからステージに現れるプリンセスを独り占めに出来るのかと思うと、この高額も妥当なのかなとも思うし、後でライバルどもが吠え面かくのが予想出来て何とも愉快だ。 案内してきた泉美は、恒例の不払い額の確認を行う。 「先日来までの累計が678.8チップになります……清算なさいますか?」 後だ後、とミナミバシは聞き流したが、珍しく泉美は重ねて尋ねた。 「もう一度お尋ねいたします。本日清算なさいますか?」 いつレヴューが始まるかとわくわくしていたミナミバシは、紅葉に水を差され、不快感を露わにする。後だって言ってるだろ!の一喝で、泉美を追い返そうとするが、更に泉美は冷静さを崩さない表情と口調で、 「これも既に何度もレヴューをご観覧いただいているミナミバシさまには無用のこととは思いますが……ステージ上のパフォーマーには手を触れないようにお願いいたします。よろしいですね?」 わかったわかった、と言ってミナミバシは泉美を追い払う。 そして客電が落ち、暗いステージにピンクと紫のピンライトが落ちる。 派手な音楽が鳴り響き、ステージにバニーガールが文字通りうさぎの如き速さで飛び出てきた。 プリンセスではなかった。 若葉がその柔軟な身体をしならせ、飛び跳ねさせ、ひねらせて踊り始めた。 なるほど、前座ありか。 新体操選手張りにボールを抱きかかえて、床に寝そべったまま足を開いたり延ばしたり転がったりを繰り返す。 この手のステージにはつきもののポールにつかまって、客席へ向けて、バニーコートの上から胸の谷間を押し付けたかと思うと、今度は寝そべって足を大開きにし、左足をぴんとまっすぐに、ポールに沿って高く上げる。 バニーコートにぎりぎり包まれた股間が晒され、その大胆で恥を知らないポーズと無邪気な笑顔でのパフォーマンスが奇妙な対比を形作っている…… 若葉が袖へ引っ込むと、照明が毒々しい緑がかったものに変わり、今度は浅黒い肌に白のバニーコートとハイヒールの、長身のバニーガールがステージへと上がってきた。名前はマナといったか。 黒と白のコントラストが美しい、そして鍛えられた体幹を感じさせる伸びやかな肢体。 その切れ長の涼しげな瞳もあいまって、まさに美女という言葉がぴったりだ。 表情には媚びがなく、それが踊りの力強い印象を補強している。 彼女が踊りだすと、まるで重力を感じさせないような不思議な感覚をミナミバシは覚えた。 セクシーであると同時にスポーティでもあり、躍動と優雅が融合した感覚……踊りにキレがあるだけでなく、しなやかさを感じさせるものだ…… しかし、同時にそれはやや不調和な印象もミナミバシには感じられた。 マナは確かに美しく、踊りも一流だったが、どこか何かが欠けているように感じられたのだ。 媚びのない表情やスポーティに過ぎる踊りっぷりは、若葉の純粋無垢な少女がエロく振る舞う踊りと対照的だったが、二人のパフォーマンスはやや両極端だ。 それはまるでこの後のステージをより盛り上げる役割を与えられているかのように、彼女は淡々と踊っていた。 そしてマナの出番が終わると、バックバンドの楽器の音が止まると共に、音楽が軽快なものに変わった。 浅黒い肌に白の衣装のマナと白い肌に黒の衣装の若葉がステージの両袖に位置し、二人が躍動してくるくると回りながら、ステージを席巻する。 そして、二人のバニーガールはたった一人の客であるミナミバシを左右から見ながら、二人の間で視線を交わすと、同時にミナミバシへ向かって大きく手を広げて見せた。 二人の動きにシンクロするように、ステージの照明も赤と青、緑とオレンジへと次々と変化していって二人の周囲を彩り、曲もダンスミュージックから明るいポップスへ変化する。 音楽に合わせて、二人は踊りながら背中合わせになり、その背中を互いにこすりつけ合ったかと思うと反転して正面で抱擁し合う。 依然として浅黒い肌のマナの表情は硬く、若葉の表情は明るく無邪気なもので、二人はステージ上で演じるキャラクターを堅持しているようだった…… 興奮したミナミバシは、自分が二人のバニーガールに挟まれるように抱擁され、その健康的な肢体の柔らかさを感じ取る妄想に耽った…… そこで一旦音楽が止まった。 そして……ど派手なビッグバンドジャズの合奏に合わせて、照明の色が赤とオレンジに切り替わり、二人のバニーガールが左右に飛びのいて身体を離した時、そこに今までステージに影も形もなかったはずの一人のバニーガールが両手を大きく広げて立っていた― プリンセスだった。 ミナミバシは、思わず、え?と唸った。 完全に意表を突かれた。どういう仕掛けか知らないが、これはいいサプライズだ。 「ご来場の紳士淑女の皆様、本日はブレインダメージのプリンセスショーにようこそ。今宵は思いきり楽しんでいってくださいませ」 ステージ上のプリンセスは、いつもと異なる赤のバニーコートとハイヒールといういで立ちに、ストールを肩から両腕にかけて巻き付けている。 そして、その両脇には若葉とマナが控えている。 三人の美しきバニーガールたちが並んで手を広げている姿は圧巻だ。 音楽が再開し、プリンセスが踊り始める。 曲はサンバの激しいリズムによるもので、派手な押し出しの今夜のプリンセスにフィットしていた。 プリンセスは両手を頭の後ろに回して脇を晒すポーズを取り、その爆乳を強調しながら、ヒールの高さを感じさせない足取りで客席フロアぎりぎりまでステップしてきては、また後退していく動作を繰り返す。 ポールに片手を絡めてくるりと開店したかと思うと、片足を大きく蹴り上げ、身体を折り曲げて、大きく掲げたその片足をポールに絡めて全身をスピーディに一回転させて見せる。 両手を後ろに突き出して広げたポーズで、客席に背を向けて、一歩一歩客席へ向けて後ろ歩きをして見せることで、観客に靴のヒールとそこから伸びる脚線美を意識させる。 後ろ向きに歩いてくるプリンセスの前後を、ステージの左右それぞれの端から若葉ともう一人のバニーガールがプリンセスと歩調を合わせて歩き、ステージを横断して見せる…… プリンセスが客席へと振り向くのと同時に、一度ステージを横断しきって、また元の位置へと戻る途中だったもう二人のバニーガールがステージ中央のプリンセスと縦の同一線上に並んだ。 三人はシンクロしたタイミングで両手を広げ身体をずらしながら、万華鏡のようにその位置を旋回させていく…… 旋回のテンポが徐々にゆっくりになっていくのに合わせ、音楽も徐々にゆったりしたものへ変化していき、三人の動きも優雅なものへとなっていく。 そしてやがて三人はステージ上で完全に静止したかと思うと、おもむろに両手を胸の前に突き出して交差させ、ゆっくりと客席へと背を向けた。 そのまま三人は、まるでバレエのピルエットのように緩やかに回転していく。 やはり中央で踊るのはプリンセスで、タイミングをずらして、左右の二人が続くといった趣向だ。 そしてプリンセスが腰をぐっと落として両腕を広げながら静止した瞬間、音楽もぴたりと止んだ。三人のダンサーは膝を曲げた姿勢でその場に跪き、ダンスの終了を無言で示した… ミナミバシは、夢中になって拍手を送った。 これほどハイレベルなダンスは、確かにこれまでにこの店のレヴューで見た中でも最上級だった。 そんなハイレベルなショーをたった一人で独占出来た喜びも相当に含まれていたが。 三人は深々と観客に頭を下げると、その姿勢からゆっくりと立ち上がり、ステージ中央にそのまま佇んだまま、静かな余韻を味わうようにしばらくじっとしていた…… そして、BGMが再びハードなビッグバンドジャズ―先ほどまでの4ビートから8ビートへ、リズムも更に激しくなったーへと変わった瞬間、三人は一斉に両手を頭上高くに掲げた。 それと同時に曲調がガラッと激しいものに変わり、プリンセスたちは再びステージ上を激しく動き回り始める。 今度のダンスは今までにない激しさで、三人のダンサーの踊りにもキレや鋭さが更に増した。 三人それぞれの動作は複雑でありながら一糸乱れず、まるで三人のダンサーが一つの生き物のようにすらミナミバシの目には感じられた。 三人のダンサーたちの動きがシンプルになっていく。 三人がステージ上に横一列に並び、広げた手を取り合ってステップを踏み始める。 その脚線美を叩きつけようとするかの如く、三人はリズムを揃えて片足を前方へと大きく蹴り上げる…… インカムマイク越しに、プリンセスが叫んだ。 「さぁ、まだまだいきますわ!」 戸惑うミナミバシのそばにいつの間にか来ていた泉美が耳打ちする- 「追加サービスを希望されますか?」 はっとなったミナミバシは、大声で、希望するぞ、と怒鳴っていた。いや、興奮のあまり立ち上がっていた。 今プリンセスたちがステージで演じているのは、凝った振り付けや演出の多いブレインダメージのレヴューにしてはかなり古風なフレンチカンカン風の踊りに過ぎないが、そのシンプルな躍動感はミナミバシの身体も共振させるものがあった。 ステージへとミナミバシが駆け寄っていくと、プリンセスもステージ下のミナミバシへと手を差し伸べる。バニーガールの意外に力強い手にその手を取られ、ミナミバシはステージへと引き揚げられた。 バニーガールと一緒に踊れる……これが追加サービスか! 性欲を満たす方向性のサービスばかりを考えていたが、こういうのもいい…… いや、それだけではない。 先ほどまでのダンスは、健康的でエキサイティングなダンスでありつつ、やはり常にセクシーでエロティックなものだった。三人のバニーガールの身体性がそのどちらも感じさせた。 今ミナミバシは話にならないくらい股間が硬く張りつめているのを感じる。 バニーガールと共に身体を動かしたいという衝動が湧きあがってくるが、それは肌をこすり合わせる類の動きとスポーティな動き両方への渇望だった。 どちらも……したい…… 「ちょっと、頼みがあるんだが……」 ミナミバシは興奮のあまり声を上ずらせながら、自分の股間を指差した。 マナと若葉が一瞬驚いたような顔をする中、プリンセスだけが悪戯っぽい笑いを浮かべて見せた。 「その……バニースーツの上からでいいから」 そこまで言うと恥ずかしさに言葉が途切れた。 しかし、それで充分意図は通じたらしい。そこは追加サービスの通例として暗黙の了解だろう、とミナミバシは踏んでいた。 「ステージの上でとは、なかなかいいご趣味ですわ」 プリンスの笑い声に、ミナミバシは妙に安心した。 プリンセスは、ステージ上に座り込んでしまったミナミバシの股間に手を置き、愛おしそうに撫で上げた。 そして残りの二人は、ミナミバシとプリンセスを囲み、手を取り合ってステージをぐるぐると回り始める…… それは最初こそ単なるラインダンスに過ぎなかったが、次第にそのスピードが上がっていくにつれ、ミナミバシの股間をしごくプリンセスの掌の動きも加速していく。 そして、ダンスのスピードが上がっていくにつれ、三人の表情も変わっていく…… 間近で自分を見つめているプリンセスは、依然として優雅で優しい笑みを浮かべているが、どこかその瞳の奥に、一連のダンスの激しさに通じる熱狂を感じさせた。 クールな表情のままのマナと天然な笑いを崩さなかった若葉は、その表情を基調としつつ、時折、硬くした股間を撫でられているミナミバシを嘲るような笑みを浮かべるようになった…… 加速する一方のダンスに、ミナミバシはめまいを覚え始めた。 ステージ上で何か白い光が明滅し始め、何かと目を凝らしてみると、いつの間にか周囲にいくつものテレビモニターが設置されていた。 そのモニターの中では、ブレインダメージの名だたるバニーガールたちが、お客を相手に、あるいはお互いを相手に淫らな行為に耽っている映像が流されている。 その中には以前自分が金を出してバニーガールを抱いた時のものもあれば、プリンセスが他のバニーガールと獣のようにレズセックスを繰り広げるものもあった。 今自分が体験している身体的な悦楽に、イメージのそれが四方から押し寄せ、ミナミバシは絶叫した。 「おおおおぉぉぉぉぉぉーーーーっ……」 ズボンも下着も下ろさないままミナミバシは射精した。 身体はぐったりとしたが、股間は全く弛緩を見せない。 達してしまったことに対する羞恥により、ミナミバシは何を言えばいいのか躊躇ったが、プリンセスは構わずミナミバシのズボンのベルトを外し始めた。 ブレインダメージ最高のバニーガールは笑って言った-「さぁ、まだまだいきますわ」 裸に剥かれたミナミバシの股間に顔を貼り付け、プリンセスはミナミバシの肉棒にしゃぶりついた。 気が付くと、自分たちの行為に当てられたのか、もう二人のバニーガールたちもダンスを抱擁へ切り替えていた。 マナが若葉を床に押し倒し、バニーコートの上から腹を上下に舐めていく。 胸の谷間に向かうか股間に向かうか、十分に焦らしたうえで、マナは若葉の股間へと顔を埋める。 エナメル製のバニーコートの上からだが、マナの唾液がぬめぬめとした光沢を帯びる若葉の股間に、別種の光沢を塗りたくっていく。 「あぁ……お姉さまぁ……」 若葉が上ずった声を上げながら腰をくねらせる。 その艶めかしい腰使いに我慢できなくなったのか、プリンセスもミナミバシの肉棒を愛撫するのを手に変え、横入りして若葉にキスを施す。 四人の男女が不気味なひと固まりとなって、肉の快楽によって溶け合っていこうとしていた… ダンスをやめたバニーガールとミナミバシたちを取り囲むテレビモニターには、今度はバニーガールたちの躍動的なダンスシーンが流されていたのだが、もうミナミバシにはそんなことに気づくゆとりがない。 「うっ……ううううっ……」 先ほどよりも数段大量の精液がぶちまけられた。プリンセスの顔から胸にかけてがひどく汚される。 「まぁ……」 精液に塗れても、プリンセスは優雅な微笑みを浮かべている。 しかし、その微笑はどこか淫らなものを感じさせた。 その表情を見た瞬間にミナミバシは再び勃起し、すぐに次の射精が可能になった…… 桜色のプリンセスの唇が、漏れ出た精液を舐めとってくれている。
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ダンスも佳境に入り、周囲のモニターの中でバニーガールたちの動きは激しさを増したが、既に一度の絶頂を迎えた後のミナミバシにはもう限界だった。
もはや羞恥心を持つ余裕もなく裸の下半身を晒しながら、ミナミバシはプリンセスに尋ねた。
「まだ……ショーは続けるのか?」

その言葉に、プリンセスたち三人は一斉に邪悪な笑いを浮かべた。そして、モニターの中ではまだ他のバニーガールたちが淫らに踊っている。
「もちろんですわ」
プリンセスに代わって、ステージ下の泉美がクールにそう言って頷くと、プリンセスがまたミナミバシの肉棒に食らいついた。
瞬く間にそれは怒張し、そしてあっさりと弾丸を打ち尽くしてしまう。

そしてモニターから流れるバニーガールたちの踊りはますます激しくなっていき、それに合わせてプリンセスが激しく手か唇でミナミバシのそれを映像のダンスに合わせたスピードで苛烈に責め、無理かと思われた勃起がすぐに可能となり、すぐに達する。
すっかり興奮した若葉とマナは、バニーの衣装が崩れ、あるいはタイツが破れた状態でもみ合い、抱き合い、貪り合っている……

十数回に及ぶ射精に、ミナミバシは、これは何なのか、という疑問を抱かずにはいられなかった。
その時、まさにミナミバシの思考を読んでいるかのように、満足げに、だが邪悪に微笑むプリンセスと目が合った。

ミナミバシの背筋に、そして右手首に寒気が走った-初めてプリンセスを指名した時に、彼女に施された右手首のキスマークが、今またくっきりと浮かび上がっていた。
「そう、私はブレインダメージという魔法の国のプリンセスですのよ」

(これがブレインダメージ最高のサービス……)
終わらない射精、終わらない快楽。確かにそれは性的快楽を提供するサービスとして究極のものかもしれない。だが、それは人の領域を超えるものでもあることを、ミナミバシは知った。

「ここまでだ!今日のサービスはもういい!」
ミナミバシは、もはやブレインダメージが男のメルヘンあふれる魔法の国などではないと知っていた。
そして今自分がその魔法の国で果てようとしていることも……

だがバニーガールたちは非常な宣告を言い渡した。
「いいえ、ミナミバシさまにはまだまだサービスを堪能していただかないと。だって私とまだセックスしておられないではありませんか」
ミナミバシの精液にまみれたプリンセスが、疲労困憊したミナミバシににじり寄ってくる。
ミナミバシにはもう逃げるだけの体力が残っていない。だが捕まればその体力もないのに、搾り取られることになる……

プリンセスの欲求不満を察したように、マナが何かを取り出した。
小ぶりなピンポン玉ほどの大きさの球体がいくつか連なっているーアナルビーズだった。

マナが四つん這いになったプリンセスの網タイツの鼠径部を容赦なく破り、強引にバニーコートのハイレグ部をずらして、連結した球体をプリンセスの肛門に押し込めていった。
「おぉうン!」
プリンセスが切なく声を上げ、前へ回り込んだ若葉がプリンセスの唇や耳たぶにキスを繰り返す。
二人のしもべの奉仕あるいは折檻を受けながらプリンセスは、
「ブレインダメージのプリンセスは処女を保つことが要求されます……の。ですから……本来はお客さまへのサービスも最終段階に達することはない……その分、口や手でのサービスを……あふぅん!い…一生懸命努めさせていただいております……が…
「どうしてもこのお客さまとなら、というのであれば、お客さまと致しても構わない、とオーナーの許可をいただいております。いかかですの?ミナミバシさまは私が欲しくはありません?」

今までとは桁の違う猛烈な性欲が燃え上がり、同時に足元がなくなり、底なしの地獄へ落ちていくような恐怖感も同時に襲ってくるのを、ミナミバシは感じた。
ここでこの女としたら、自分は二度とこの魔法の国から出られなくなるだろうという予感が確固としてあった。

だが、一方では、この魔法の国で快楽を貪りたい欲望も全く否定できない。むしろ一度味わったあの得も言われぬ淫らさをもう一度味わいたいという渇望が止まらないのを抑えられない……
「欲しい!俺はあんたが欲しい!」
ミナミバシは叫んだ-
(もう後戻りはできない……)
と心の中で誰かが言ったような気もしたが、十数回目、あるいは二十数回目、三十数回目の怒張を迎えた自分の股間を見て、ミナミバシは地獄へ落ちる決心を固めた…

プリンセスは、ミナミバシに顔を近づけるとキスしてきた。
自分の精液の味が大量に混じるそれに嫌悪感を覚えないではなかったが、これは避けては通れない。
「私の身体をミナミバシさまに捧げます、ですからミナミバシさまも全てを私に委ねてくださいますわね?」
だがキスを終えると意外なほどあっさりした態度で、プリンセスは怒張したミナミバシのものを握ると、強引にバニーコートをずらした股間へと導いた。
ここまでこれほど濃厚に技を尽くしてきたのだから、もう前戯もへったくれもなかった。

「おうッおうッおうッおうッ!」
腰の上に乗ってきたプリンセスの律動に合わせ、ミナミバシはこれが人生で最後のセックスになることを覚悟して男性器を突き上げた。そして射精を迎える……
「ーーーーー!」

もう声は出なかった。ミナミバシは男性としての全てを撃ち尽くし、卒倒した。
とっくに知覚出来る限界点を越えて快感は感じなくなっていた。
全身の感覚が失われる中、ただ右手首のキス痕だけが冷たく疼き、そしてある女の声―プリンセスでも他のバニーガールでもない―が脳内にこだましていた……
(ふふふ、後戻りは出来ないわよ……)

―目が覚めると、ミナミバシは、ステージ袖で、泉美、マナ、若葉、バウンサーの秋姫に囲まれていた。衣服は全て剥ぎ取られていた。
「本日のサービスは終わりです」
相変わらず冷静な泉美の言葉に、死をも覚悟していたミナミバシは、安堵を覚えかけた。
そうだ、所詮あくまでサービスじゃないか。これもプレイの一環だな…

「お会計です-」
いつも払わずに済ませてきたミナミバシは聞き流すつもりでいたが、金額を聞いた瞬間、鼻血を噴きそうになった。
「今回は当店のルールを破った罰則金も含んでおります。74231.42チップになります。これ以上の貸し付けは不可能ですので、本日は即金でお支払いください」

「ちょっと待て、なんでそんな馬鹿な額に……確か全部で六百いくらの筈じゃ……」
そこまで言って青ざめる。
自分の命、男性としての命を保ったまま魔法の国から出ていくにはそれくらいの支払いが必要になるということだ。
それはプリンセスとのセックスで自覚したことではないか。プリンセスにも自分の全てを捧げると約束したではないか。

……そもそもステージ上のパフォーマーには触れないようにと念押しされ、約束してしまったではないか。
向こうがステージ上から誘ったとはいえ、あそこで応じなかったら……

何より……魔法の国のプリンセスの処女を買ったのだ。代金は生半可なもので済むはずがない。

「お支払いいただけないようでしたら、当店流の返済をしていただくことになります。即ち働いて返済していただく、バニーガールになっていただくことになります」
楽しそうな笑いが背後から聞こえた。振り向くと、プリンセス―汚れた顔や体はきれいに拭き清められ、バニーコートも通常の黒に戻っている―がやって来ていた。
「ブレインダメージのお仕事は楽しくてよ、怖がることはないわ」脅しや皮肉を一切含んでいない口調だったが、それ故に恐ろしい。

泉美が契約書を読み上げる-
「ひとつ、当店従業員になった者は、負債の回収が終わるまで、当店区画から出てはならない、ひとつ、当店従業員は、当店顧客と合意の上に成立したサービスには、性的なものも含め、必ず応じなければならない、ひとつ、当店従業員は、そのバニーガールとしての職分ごとに定められた研修・トレーニングを常時受けなければならない、ひとつ、当店従業員の給与は、当店区画内への居住費・諸生活費・プリンセスからのサービスという形で支払われる、ひとつ、当店従業員は、オーナー及びプリンセスへの絶対的な服従・忠誠が求められる……」

絶望的な言葉が淡々と読み上げられ、ミナミバシは叫び出しそうになった。
だが、声が上げられない。同時に、心の中から別の声が聞こえてくるー女の声が……
同時に、右手首のキスマークが痛いほどに疼く…

「そうね、ステージ上でセックスはしたけど、ダンスはいっしょに出来なかったから今やってもらいましょうか、せっかくうさぎさんになるのだし」

プリンセスがその場で飛び跳ねた。するとワンテンポ遅れてミナミバシの身体も跳びあがった。
何が起きたか分からなかったミナミバシは呆気に取られたが、すぐにプリンセスがもう一回ホップした。するとミナミバシの身体もそれに続いた。ミナミバシの意思によってではなく。

「ぴょん♪」
プリンセスが無邪気に微笑みながらホップする。今度は、意識して身体を動かすまいとしたミナミバシだが、身体が独りでに飛び跳ねてしまう。
「ぴょん♪」
(ぴょん♪)
次に飛び跳ねた時、驚くべきことに、ミナミバシの脳内である女の声がプリンセスに呼応して唱和し、そのタイミングに同調してミナミバシの身体も飛び跳ねる。
「ぴょん♪」
(ぴょん♪)

「待て待てぇ!やめろぉ!俺は跳びたくなんてな……」
抵抗も空しく、身体は飛び跳ねてしまう。そして脳内の声は飛び跳ねるごとに鮮明になって来て、ミナミバシを嘲るように、楽しげにぴょんと囁く…
そして、右手首のキスマークからは不気味な震えがゆっくりと全身に広がり始めた…

うさぎを模したホップは何十回となく続く。
ぜいぜいと息をつきながらやめてくれ、とミナミバシは懇願するが、プリンセスは一切疲れた様子を見せず、跳ね続ける……

だが……右手首から全身に広がっていく不気味な感覚は、その部位の汗を冷やし、疲労を拭い去っていく。
一瞬ミナミバシは安堵し、その冷たい心地よさに身を委ねようとしたが……すぐに脳内で響く声とその冷たい感覚が一体であることに気づいた。
「ああっ……ああっ……やめ……はぁぁぁ……やめてく…れ……」

全身がミナミバシのものではない新たな感覚に包まれ切った時、ミナミバシの身体に宿っていた疲労は全て消え失せた。
いや、ミナミバシの存在そのものが消え去ったのかもしれない。
飛び跳ねるミナミバシの身体は不思議な虹色の光に包まれ、その姿を視認することが出来なくなっていく……

そして光が薄れていき、ホップしていたミナミバシが着地すると……そこにいたのはミナミバシではなく、一人の美少女だった。
「ぴょん……あれ、俺は……あたしは……」

プリンセスは満足げに微笑み、新たに生まれた美女を見下ろす。
「そう、あなたは生まれ変わったのよ……可愛いわ、それがあなたが理想とする女性の姿なのね」
「ああああ、俺、女になって……女になれたわ、やっと……いや、こんな筈じゃなかっ……もう後戻りしなくていいのね……」
ミナミバシの旧来の人格と肉体の変身に伴って誕生し浮上したもうひとつの人格が肉体の所有権を巡って争っているのが、傍目で見守っているプリンセスにも分かった。

このまま放置しておけば、肉体に適合しない方の人格が消滅するのは目に見えているが、プリンセスは、自分が作り出した少女が不要な苦しみを味わうのを見ているのは耐え難かった。
戸惑う様子の少女の顎に手を伸ばし、その唇を自分のそれで塞ぐ。

最初、少女はショックに目を丸くしたが、すぐに自分の創造主により祝福を受けていることを理解したのだろう、肩から力が抜け、目つきがとろんとしてきた。
プリンセスは彼女の肩に手を回し、優しく抱き寄せた。少女はうっとりとした表情でプリンセスのキスを受け入れている。

永遠に続くかとも思われたキスが解かれた。
深いため息をつく少女は、眼前で微笑むプリンセスを熱のこもった視線で見つめ返して呟く-
「これが私の理想とする女性の姿……なのですね……」
「そうよ、あなたはずっとこの姿になりたいと心の奥底で願っていたのよ、だから私があなたを外に出してあげたの」
プリンセスは、自分が初めて生み出した女を愛おしげに抱きしめた。

「あなたには女性としての新たな名前が必要ね……そう、アリスというのはどうかしら」
「アリス……それが私の名前……」
そこでプリンセスは、見落としをしていたことに気づき、自分の額を叩く。
「いけない、あなたの着るものを用意しなくては。だめね、オーナーさまだったら、そこまで先回りしてやっていたでしょうに」
プリンセスはアリスを抱きしめて目を閉じ、その背中を撫で下ろし、尻や腕周りをつかんで、しばらく沈黙していた。そして、おもむろに命じる。

「8号Bのバニーコート、それにサイズ8インチ・ヒール6インチの靴、50デニールのタイツ、同デニールのフロントハイネック、タイは青の長ネクタイ、カフスはエナメルバンドタイプのもの。そうね、同じタイプのアームレットもつけようかしら……しっぽ飾りの代わりに、他の飾りつけをしましょう」

するとアリスの裸の下半身が透け感のあるタイツに覆われた。肌に貼りついていくように、爪先から腰回りへと、ナイロンのタイツが出現していく。
同様に、ダークブルーのワイシャツカラーと一体となった、タイツと同じ素材のハイネックの前かけが、鎖骨と背中の大半を残しつつ、首から胸にかけてを覆う。
そして、プリンセスが手を翳すと、強烈なまでに切れ込みの鋭いハイレグのバニーコートが、アリスの股間からプリンセスに負けず劣らずの大きさの乳房の下半分までを引き締めるように覆った。
ネイビーブルーの髪に覆われた頭にはうさぎの疑似耳付きのヘッドバンドが、両手首にはカフス代わりにエナメル地のゴム製の腕輪が、そして両二の腕には同じ材質のアームレットが装着された形で出現する。
ふわりと宙から落ちてくるように出現した青いネクタイをつかんだプリンセスは、自らの手でアリスのカラーにそれを通して結んでやる。
そして跪くと、いつの間にか足元に出現していたハイヒールを手に取り、そっとアリスの足を取って、愛情込めてその足首にキスを施し、靴を履かせた。
そしてこれもまた中空から取り出した楕円形の飾りふたつを、アリスのバニーコートの両腰骨の後ろから尻にかけてに取り付ける。
その一挙動ごとに、アリスは、母に初めて服を着せてもらっている子供のような無邪気な笑いを浮かべる……

「あなたはダンスの中から生まれた、だからダンスは得意な筈よ、ちょっと踊って見せて」
プリンセスの要求に、アリスは腰と膝を曲げてホップとステップを繰り返して見せた。
頭の上では疑似耳が、腰回りでは楕円形の飾りがいたずらっぽく揺れる。

「うん、これで正解」プリンセスは自分の見立てが正しかったことを確信し、同時に、自らが生み出した最初のバニーガールの可憐さ、その躍動感ある踊りに太鼓判を押す。

【最初の女性化とは思えない見事な仕事でしたわ、プリンセス】
プリンセスの疑似耳に、オーナーの声が響く。
「ありがとうございます、オーナーさま!」
【これで安心しました、さぁ、次のバニーを創る構想を練りなさい、素材が抱えるアニマ像を勘案した上で】
「ええ、素材へのアプローチは既に十分です。どんなバニーガールに仕上げるか……それに、どんなレヴューを提供するか考えるのが楽しくて……」

ダンスも佳境に入り、周囲のモニターの中でバニーガールたちの動きは激しさを増したが、既に一度の絶頂を迎えた後のミナミバシにはもう限界だった。 もはや羞恥心を持つ余裕もなく裸の下半身を晒しながら、ミナミバシはプリンセスに尋ねた。 「まだ……ショーは続けるのか?」 その言葉に、プリンセスたち三人は一斉に邪悪な笑いを浮かべた。そして、モニターの中ではまだ他のバニーガールたちが淫らに踊っている。 「もちろんですわ」 プリンセスに代わって、ステージ下の泉美がクールにそう言って頷くと、プリンセスがまたミナミバシの肉棒に食らいついた。 瞬く間にそれは怒張し、そしてあっさりと弾丸を打ち尽くしてしまう。 そしてモニターから流れるバニーガールたちの踊りはますます激しくなっていき、それに合わせてプリンセスが激しく手か唇でミナミバシのそれを映像のダンスに合わせたスピードで苛烈に責め、無理かと思われた勃起がすぐに可能となり、すぐに達する。 すっかり興奮した若葉とマナは、バニーの衣装が崩れ、あるいはタイツが破れた状態でもみ合い、抱き合い、貪り合っている…… 十数回に及ぶ射精に、ミナミバシは、これは何なのか、という疑問を抱かずにはいられなかった。 その時、まさにミナミバシの思考を読んでいるかのように、満足げに、だが邪悪に微笑むプリンセスと目が合った。 ミナミバシの背筋に、そして右手首に寒気が走った-初めてプリンセスを指名した時に、彼女に施された右手首のキスマークが、今またくっきりと浮かび上がっていた。 「そう、私はブレインダメージという魔法の国のプリンセスですのよ」 (これがブレインダメージ最高のサービス……) 終わらない射精、終わらない快楽。確かにそれは性的快楽を提供するサービスとして究極のものかもしれない。だが、それは人の領域を超えるものでもあることを、ミナミバシは知った。 「ここまでだ!今日のサービスはもういい!」 ミナミバシは、もはやブレインダメージが男のメルヘンあふれる魔法の国などではないと知っていた。 そして今自分がその魔法の国で果てようとしていることも…… だがバニーガールたちは非常な宣告を言い渡した。 「いいえ、ミナミバシさまにはまだまだサービスを堪能していただかないと。だって私とまだセックスしておられないではありませんか」 ミナミバシの精液にまみれたプリンセスが、疲労困憊したミナミバシににじり寄ってくる。 ミナミバシにはもう逃げるだけの体力が残っていない。だが捕まればその体力もないのに、搾り取られることになる…… プリンセスの欲求不満を察したように、マナが何かを取り出した。 小ぶりなピンポン玉ほどの大きさの球体がいくつか連なっているーアナルビーズだった。 マナが四つん這いになったプリンセスの網タイツの鼠径部を容赦なく破り、強引にバニーコートのハイレグ部をずらして、連結した球体をプリンセスの肛門に押し込めていった。 「おぉうン!」 プリンセスが切なく声を上げ、前へ回り込んだ若葉がプリンセスの唇や耳たぶにキスを繰り返す。 二人のしもべの奉仕あるいは折檻を受けながらプリンセスは、 「ブレインダメージのプリンセスは処女を保つことが要求されます……の。ですから……本来はお客さまへのサービスも最終段階に達することはない……その分、口や手でのサービスを……あふぅん!い…一生懸命努めさせていただいております……が… 「どうしてもこのお客さまとなら、というのであれば、お客さまと致しても構わない、とオーナーの許可をいただいております。いかかですの?ミナミバシさまは私が欲しくはありません?」 今までとは桁の違う猛烈な性欲が燃え上がり、同時に足元がなくなり、底なしの地獄へ落ちていくような恐怖感も同時に襲ってくるのを、ミナミバシは感じた。 ここでこの女としたら、自分は二度とこの魔法の国から出られなくなるだろうという予感が確固としてあった。 だが、一方では、この魔法の国で快楽を貪りたい欲望も全く否定できない。むしろ一度味わったあの得も言われぬ淫らさをもう一度味わいたいという渇望が止まらないのを抑えられない…… 「欲しい!俺はあんたが欲しい!」 ミナミバシは叫んだ- (もう後戻りはできない……) と心の中で誰かが言ったような気もしたが、十数回目、あるいは二十数回目、三十数回目の怒張を迎えた自分の股間を見て、ミナミバシは地獄へ落ちる決心を固めた… プリンセスは、ミナミバシに顔を近づけるとキスしてきた。 自分の精液の味が大量に混じるそれに嫌悪感を覚えないではなかったが、これは避けては通れない。 「私の身体をミナミバシさまに捧げます、ですからミナミバシさまも全てを私に委ねてくださいますわね?」 だがキスを終えると意外なほどあっさりした態度で、プリンセスは怒張したミナミバシのものを握ると、強引にバニーコートをずらした股間へと導いた。 ここまでこれほど濃厚に技を尽くしてきたのだから、もう前戯もへったくれもなかった。 「おうッおうッおうッおうッ!」 腰の上に乗ってきたプリンセスの律動に合わせ、ミナミバシはこれが人生で最後のセックスになることを覚悟して男性器を突き上げた。そして射精を迎える…… 「ーーーーー!」 もう声は出なかった。ミナミバシは男性としての全てを撃ち尽くし、卒倒した。 とっくに知覚出来る限界点を越えて快感は感じなくなっていた。 全身の感覚が失われる中、ただ右手首のキス痕だけが冷たく疼き、そしてある女の声―プリンセスでも他のバニーガールでもない―が脳内にこだましていた…… (ふふふ、後戻りは出来ないわよ……) ―目が覚めると、ミナミバシは、ステージ袖で、泉美、マナ、若葉、バウンサーの秋姫に囲まれていた。衣服は全て剥ぎ取られていた。 「本日のサービスは終わりです」 相変わらず冷静な泉美の言葉に、死をも覚悟していたミナミバシは、安堵を覚えかけた。 そうだ、所詮あくまでサービスじゃないか。これもプレイの一環だな… 「お会計です-」 いつも払わずに済ませてきたミナミバシは聞き流すつもりでいたが、金額を聞いた瞬間、鼻血を噴きそうになった。 「今回は当店のルールを破った罰則金も含んでおります。74231.42チップになります。これ以上の貸し付けは不可能ですので、本日は即金でお支払いください」 「ちょっと待て、なんでそんな馬鹿な額に……確か全部で六百いくらの筈じゃ……」 そこまで言って青ざめる。 自分の命、男性としての命を保ったまま魔法の国から出ていくにはそれくらいの支払いが必要になるということだ。 それはプリンセスとのセックスで自覚したことではないか。プリンセスにも自分の全てを捧げると約束したではないか。 ……そもそもステージ上のパフォーマーには触れないようにと念押しされ、約束してしまったではないか。 向こうがステージ上から誘ったとはいえ、あそこで応じなかったら…… 何より……魔法の国のプリンセスの処女を買ったのだ。代金は生半可なもので済むはずがない。 「お支払いいただけないようでしたら、当店流の返済をしていただくことになります。即ち働いて返済していただく、バニーガールになっていただくことになります」 楽しそうな笑いが背後から聞こえた。振り向くと、プリンセス―汚れた顔や体はきれいに拭き清められ、バニーコートも通常の黒に戻っている―がやって来ていた。 「ブレインダメージのお仕事は楽しくてよ、怖がることはないわ」脅しや皮肉を一切含んでいない口調だったが、それ故に恐ろしい。 泉美が契約書を読み上げる- 「ひとつ、当店従業員になった者は、負債の回収が終わるまで、当店区画から出てはならない、ひとつ、当店従業員は、当店顧客と合意の上に成立したサービスには、性的なものも含め、必ず応じなければならない、ひとつ、当店従業員は、そのバニーガールとしての職分ごとに定められた研修・トレーニングを常時受けなければならない、ひとつ、当店従業員の給与は、当店区画内への居住費・諸生活費・プリンセスからのサービスという形で支払われる、ひとつ、当店従業員は、オーナー及びプリンセスへの絶対的な服従・忠誠が求められる……」 絶望的な言葉が淡々と読み上げられ、ミナミバシは叫び出しそうになった。 だが、声が上げられない。同時に、心の中から別の声が聞こえてくるー女の声が…… 同時に、右手首のキスマークが痛いほどに疼く… 「そうね、ステージ上でセックスはしたけど、ダンスはいっしょに出来なかったから今やってもらいましょうか、せっかくうさぎさんになるのだし」 プリンセスがその場で飛び跳ねた。するとワンテンポ遅れてミナミバシの身体も跳びあがった。 何が起きたか分からなかったミナミバシは呆気に取られたが、すぐにプリンセスがもう一回ホップした。するとミナミバシの身体もそれに続いた。ミナミバシの意思によってではなく。 「ぴょん♪」 プリンセスが無邪気に微笑みながらホップする。今度は、意識して身体を動かすまいとしたミナミバシだが、身体が独りでに飛び跳ねてしまう。 「ぴょん♪」 (ぴょん♪) 次に飛び跳ねた時、驚くべきことに、ミナミバシの脳内である女の声がプリンセスに呼応して唱和し、そのタイミングに同調してミナミバシの身体も飛び跳ねる。 「ぴょん♪」 (ぴょん♪) 「待て待てぇ!やめろぉ!俺は跳びたくなんてな……」 抵抗も空しく、身体は飛び跳ねてしまう。そして脳内の声は飛び跳ねるごとに鮮明になって来て、ミナミバシを嘲るように、楽しげにぴょんと囁く… そして、右手首のキスマークからは不気味な震えがゆっくりと全身に広がり始めた… うさぎを模したホップは何十回となく続く。 ぜいぜいと息をつきながらやめてくれ、とミナミバシは懇願するが、プリンセスは一切疲れた様子を見せず、跳ね続ける…… だが……右手首から全身に広がっていく不気味な感覚は、その部位の汗を冷やし、疲労を拭い去っていく。 一瞬ミナミバシは安堵し、その冷たい心地よさに身を委ねようとしたが……すぐに脳内で響く声とその冷たい感覚が一体であることに気づいた。 「ああっ……ああっ……やめ……はぁぁぁ……やめてく…れ……」 全身がミナミバシのものではない新たな感覚に包まれ切った時、ミナミバシの身体に宿っていた疲労は全て消え失せた。 いや、ミナミバシの存在そのものが消え去ったのかもしれない。 飛び跳ねるミナミバシの身体は不思議な虹色の光に包まれ、その姿を視認することが出来なくなっていく…… そして光が薄れていき、ホップしていたミナミバシが着地すると……そこにいたのはミナミバシではなく、一人の美少女だった。 「ぴょん……あれ、俺は……あたしは……」 プリンセスは満足げに微笑み、新たに生まれた美女を見下ろす。 「そう、あなたは生まれ変わったのよ……可愛いわ、それがあなたが理想とする女性の姿なのね」 「ああああ、俺、女になって……女になれたわ、やっと……いや、こんな筈じゃなかっ……もう後戻りしなくていいのね……」 ミナミバシの旧来の人格と肉体の変身に伴って誕生し浮上したもうひとつの人格が肉体の所有権を巡って争っているのが、傍目で見守っているプリンセスにも分かった。 このまま放置しておけば、肉体に適合しない方の人格が消滅するのは目に見えているが、プリンセスは、自分が作り出した少女が不要な苦しみを味わうのを見ているのは耐え難かった。 戸惑う様子の少女の顎に手を伸ばし、その唇を自分のそれで塞ぐ。 最初、少女はショックに目を丸くしたが、すぐに自分の創造主により祝福を受けていることを理解したのだろう、肩から力が抜け、目つきがとろんとしてきた。 プリンセスは彼女の肩に手を回し、優しく抱き寄せた。少女はうっとりとした表情でプリンセスのキスを受け入れている。 永遠に続くかとも思われたキスが解かれた。 深いため息をつく少女は、眼前で微笑むプリンセスを熱のこもった視線で見つめ返して呟く- 「これが私の理想とする女性の姿……なのですね……」 「そうよ、あなたはずっとこの姿になりたいと心の奥底で願っていたのよ、だから私があなたを外に出してあげたの」 プリンセスは、自分が初めて生み出した女を愛おしげに抱きしめた。 「あなたには女性としての新たな名前が必要ね……そう、アリスというのはどうかしら」 「アリス……それが私の名前……」 そこでプリンセスは、見落としをしていたことに気づき、自分の額を叩く。 「いけない、あなたの着るものを用意しなくては。だめね、オーナーさまだったら、そこまで先回りしてやっていたでしょうに」 プリンセスはアリスを抱きしめて目を閉じ、その背中を撫で下ろし、尻や腕周りをつかんで、しばらく沈黙していた。そして、おもむろに命じる。 「8号Bのバニーコート、それにサイズ8インチ・ヒール6インチの靴、50デニールのタイツ、同デニールのフロントハイネック、タイは青の長ネクタイ、カフスはエナメルバンドタイプのもの。そうね、同じタイプのアームレットもつけようかしら……しっぽ飾りの代わりに、他の飾りつけをしましょう」 するとアリスの裸の下半身が透け感のあるタイツに覆われた。肌に貼りついていくように、爪先から腰回りへと、ナイロンのタイツが出現していく。 同様に、ダークブルーのワイシャツカラーと一体となった、タイツと同じ素材のハイネックの前かけが、鎖骨と背中の大半を残しつつ、首から胸にかけてを覆う。 そして、プリンセスが手を翳すと、強烈なまでに切れ込みの鋭いハイレグのバニーコートが、アリスの股間からプリンセスに負けず劣らずの大きさの乳房の下半分までを引き締めるように覆った。 ネイビーブルーの髪に覆われた頭にはうさぎの疑似耳付きのヘッドバンドが、両手首にはカフス代わりにエナメル地のゴム製の腕輪が、そして両二の腕には同じ材質のアームレットが装着された形で出現する。 ふわりと宙から落ちてくるように出現した青いネクタイをつかんだプリンセスは、自らの手でアリスのカラーにそれを通して結んでやる。 そして跪くと、いつの間にか足元に出現していたハイヒールを手に取り、そっとアリスの足を取って、愛情込めてその足首にキスを施し、靴を履かせた。 そしてこれもまた中空から取り出した楕円形の飾りふたつを、アリスのバニーコートの両腰骨の後ろから尻にかけてに取り付ける。 その一挙動ごとに、アリスは、母に初めて服を着せてもらっている子供のような無邪気な笑いを浮かべる…… 「あなたはダンスの中から生まれた、だからダンスは得意な筈よ、ちょっと踊って見せて」 プリンセスの要求に、アリスは腰と膝を曲げてホップとステップを繰り返して見せた。 頭の上では疑似耳が、腰回りでは楕円形の飾りがいたずらっぽく揺れる。 「うん、これで正解」プリンセスは自分の見立てが正しかったことを確信し、同時に、自らが生み出した最初のバニーガールの可憐さ、その躍動感ある踊りに太鼓判を押す。 【最初の女性化とは思えない見事な仕事でしたわ、プリンセス】 プリンセスの疑似耳に、オーナーの声が響く。 「ありがとうございます、オーナーさま!」 【これで安心しました、さぁ、次のバニーを創る構想を練りなさい、素材が抱えるアニマ像を勘案した上で】 「ええ、素材へのアプローチは既に十分です。どんなバニーガールに仕上げるか……それに、どんなレヴューを提供するか考えるのが楽しくて……」
Author

―マネージャーの泉美の先導に従い、ニシアガリは、ブレインダメージの店内の廊下を歩いていく。
ふと気が付くと、例の《プリンセスとしもべ》の写真が架け替えられていた。
それは、プリンセスと名前の知らない新人であろうバニーガールが共にホップしながら踊っているものだった。
本物のうさぎもかくやという躍動感が、見事に捉えられている写真だった。
この新人も相当いいな、そのうち指名してみるか、とニシアガリはぼんやりと思う。

ついに、執心してきたプリンセスが店に出るということで、ニシアガリは大きな期待を抱いてレヴューが上演されるフロアに向かっていた。

座席はがらんとしていて、お客はニシアガリ一人しかいない。
この豪華な空間を、そしてこれからステージに現れるプリンセスを独り占めに出来るのかと思うと、心が躍った。

案内してきた泉美は、恒例の不払い額の確認を行う。
「先日来までの累計が758.4チップになります……清算なさいますか?」
「しないよ」いつもはこのひと言で十分な筈だったが、珍しく泉美は重ねて尋ねた。
「もう一度お尋ねいたします。本日清算なさいますか?」
「ああ、そのうちな」はなから相手にする気がないニシアガリだが、更に泉美は繰り下がる。

「これも既に何度もレヴューをご観覧いただいているニシアガリさまには無用のこととは思いますが……ステージ上のパフォーマーには手を触れないようにお願いいたします。よろしいですね?」
わかったわかった、と言ってニシアガリは泉美を追い払う。

ソファに座って待っていると、客席の灯りが消えた。そして華やかなBGMが鳴り始める。
いよいよか、と思った時、袖から押されたのだろう、キャスター付きの箱が無人のステージへと滑り出てきた。

箱はステージの中央でぴたりと止まった。そしてBGMのドラムが期待を煽るようにロールしていき……
ファンファーレと共に箱の天井が開き、その中から何かが飛び出した―一匹のうさぎだった。

思わずニシアガリは呆気に取られる。だが……
うさぎはその場で垂直に跳び始めた。その上下運動のスピードがどんどん速くなっていき、ジャンプの高さもそれに合わせて高くなっていく。うさぎは人の身長よりも高く飛び跳ね……

タンッ!
ドラムが高い音を打ち鳴らしてBGMが止まると同時に、うさぎが着地した地点には一人のバニーガールが立っていたー
プリンセスだった。

一瞬、ニシアガリは己の目を疑い、言葉を失った。だが次の瞬間にはこの見事なマジックに拍手を送っていた。
気取って頭の上にかざしていたシルクハットを顔の前からどけると、プリンセスの不敵な笑みがニシアガリの視界に飛び込んでくる。

今日の彼女は、髪を頭の左サイドで編み込んで、右肩からサイドに流し、バニーコートの上からマジシャンの職分を表すジャケットを着ている。

前がぐいっと開いた紺色の細身のボレロジャケットだが、材質はバニーコートと同じ光沢感豊かなエナメルで、しかも恐ろしくタイトに、プリンセスの肩に、上腕に、下腕に貼りついている。
下腕から手首にかけてがそのまま指ぬきガントレット状態になっており、中指に引っ掛ける形で手の甲を三角形に覆っている。
その指はパープルピンクのマニキュアに彩られ、悩ましい輝きを放っている。
ジャケットの手首の上からバニーガールとしてのカフスが取り付けられているが、それは純白でありながら鈍い光を放つ金属製で、その上には、カフスを留めるというより飾りつけとしての用途だろう金のボタンが三つ光を放っている。
カラーはいつもの通りの白ワイシャツのものの流用だが、紺色の長ネクタイが巨大な乳房の谷間に吸い込まれていっており、嫌が上にも視線をそちらへと誘導する。
バニーコートは相当に鋭角的な、細身な造形で、トップではいつも以上に乳首ぎりぎりまでのみを覆い隠して乳房の巨大さを強調し、ボトムでは鼠径部の切れ込みを幾何学的な三角形に見せている。
その下、下半身を覆うのは網やナイロンのタイツではなく、黒と灰の中間の色のラテックス製のタイツで、やはり彼女の腰から足にかけてにぴっしりと貼りつき、その身体の線を見事にトレースして、足元の紫のハイヒールに収まっていた。
下半身が身体の線を強調したタイツであるにも関わらず、材質が肌の色を見せないラテックスであること、上半身がジャケットであることと相まって、その姿は上下揃ったスーツを着ているように見えた。

まさにマジシャンに相応しい。
それでいて、スーツを着込んで身体の線が隠れるという不満を与えない、見事にプリンセスの柔らかな身体の線を余すことなくさらけ出している。
タイトさと豊満さが何の矛盾もなく同居する格好であり、更に考え抜かれた材質による光沢感が全身に添えられることで、プリンセスの生肌の輝きとこれもまた見事なコントラストを描いていた。

ニシアガリは拍手を送りつつ、プリンセスのセクシーな装いにごくりと唾を呑みこむ。

自信ありげな笑みを浮かべ、プリンセスはシルクハットに手を突っ込む……
中から彼女がつかみだした何かを投げると、宙に火花が飛び散った。
再度シルクハットにプリンセスは手を突っ込むと、その中から今度は一本のステッキが現れた。ステッキの先にシルクハットをひっかけて掲げ上げたプリンセスは、それをくるくると回転させて玩んだ。

そして……プリンセスがステッキを一瞬手から離し、また宙でつかむと、それはステッキではなくステッキを模した棒キャンディへと変身した。
棒キャンディをまた手から離し、また宙でつかむと、それは消え去った……
プリンセスが手を開くとそこには紙包みにくるまれた球状のキャンディが乗っている。

器用に、指と指の間にキャンディを挟んだプリンセスが指の間から指の間へと移動させ続けていく……気がつくと、キャンディが二つになり、三つになる。
ピンポン玉を増やす要領の手品だ。
ステージ際まで来たプリンセスは、にっこりとニシアガリに笑いかけ、キャンディのひとつをニシアガリに差し伸べた。
「はい、どうぞ」
差し出されたキャンディを思わず受け取ってしまうニシアガリ。

後ろ姿で一歩一歩歩く姿もセクシーに、ステージ中央へと戻ったプリンセスは、次のマジックに取りかかる。
自分がうさぎとして出てきた箱にプリンセスは手を突っ込む……中から彼女がつかみ出したのはもう一匹のうさぎだった。

優しくうさぎをステージの床に置くと、プリンセスの手の中に再びステッキが出現した。
うさぎに向けてプリンセスはステッキを振る……
先ほどうさぎからプリンセスへと変身したのと同じ現象が繰り返された。
うさぎが飛び跳ねたかと思うと、それが着地した瞬間には、それは一人のバニーガールに変わっていた。

そのバニーガールは、白のバニーコートに、下半身を白のタイツとハイヒールといういでたちで、髪は黒くて長いストレートヘアだが、前髪の一房だけが金色に染められ、それが揺れて右目を隠す。衣装の白に対して左目の色が黒なのがコントラストになっている。
「ご紹介いたします、助手を務めてくれるティナですわ」
プリンセスの紹介に合わせ、ティナは笑顔で客席に向かっておじぎする。

プリンセスは、手の中のキャンディを一つ口に入れ、ティナにキスした。
舌から舌へとキャンディが受け渡される。
二人のバニーガールは熱っぽくキャンディを介してキスを繰り返す。愛するプリンセスに甘いキャンディを与えられている歓びに堪らなくなった様子のティナは、プリンセスに抱き着き、身体をこれでもかと密着させた。
二人の豊満なボディがこすれ合い、それを包むエナメルの衣装が淫猥な音を立てる。
ニシアガリは思わず席を立ち、ステージぎりぎりまで駆け寄って、愛し合う二人のバニーガールを凝視した。

その視線に気付いたのだろう、プリンセスはティナとのキスをやめないまま、ステージ下にもちらりと視線を向けてきた。
その瞬間、ニシアガリは自分の全てをプリンセスに呑み込まれてしまったような-プリンセスとティナの唇の中に囚われたキャンディになってしまったような-錯覚に襲われた。

ただ見られているだけで身体から力が抜け、立っていられなくなる。プリンセスから目を離せなくなってしまう。
それは……自分が女性であるという感覚。女性でありたいという感覚。
自分が女性であったら、バニーガールであったら、自分もティナと同様に、プリンセスとキス出来るのに、という妄想が思考の奥深くへと染み込んでいき、ただただうっとりとプリンセスに見惚れ続ける自分を認識していた……

そんなニシアガリをプリンセスはじっくりと眺めた後、またティナとのキスに戻っていく。
キャンディがほとんど溶けて小さくなり、プリンセスは唾液と共にそれをティナの喉奥へと押し込んだ。

プリンセスは次のマジックへと移る。
ティナがステージ袖から持ってきたのは、キャスター付きの鏡台だった。
にこにことした笑いを浮かべながら、ティナが鏡台を回転させて表にも裏にも仕掛けがないことを示して見せる。
そして客席に裏側を向けた鏡に、プリンセスが意味深に笑いながら鏡に向けてステッキを振った。ティナが鏡台を表に返す……
鏡には、正対する光景が映っている筈だった……基本的には、それは間違いではない。

だがたったひとつ、鏡の中から一匹のうさぎが客席の方を見つめていることを除けば。
どういうことだ、とニシアガリは目を凝らした。ステージ上にうさぎの姿を求めるが、そんなものはいる筈もない。だが、鏡の中の世界には確かにうさぎがいる。

プリンセスがステッキを掌で叩くと、それに合わせてうさぎがぴょんと鏡の外へと跳び出てきた。
え、とニシアガリは目を見張るが、プリンセスは意に介さずうさぎに対してステッキをひと振りする……

予想通り、ティナと同様に、うさぎは新たなバニーガールに変身した。ニシアガリは良く知らないが、サトコだ。
プリンセスはその指の間に挟んだキャンディをまたも指の合間で転がし、ひとつ増やす。
そして新たなバニーガールに口移しで舐めさせた。とろんとしたまなざしで、バニーガールはプリンセスが与えてくれる甘い喜びを受け入れている。
バニーガールはステージ後方へ下がって待機し、再度ティナが鏡台をキャスターごと回転させる。そして、それが客席を向くと、そこには一匹のうさぎが映っている……

次々と鏡の中からうさぎが跳び出てきては、バニーガールに変身し、プリンセスの唇からキャンディを与えられる、ということが繰り返された。ステージにはバニーガールが溢れかえっていく。
次から次へとハトを取り出すのはマジシャンがよくやる手品だが、次々とうさぎを呼び出し、しかもそれをバニーガールへ変えていくなどという芸当は、その離れ業っぷりでもゴージャスさでも類例がない。
ニシアガリの目はステージに釘付けになった……

が、やがてニシアガリの注意はプリンセスでもバニーガールたちでもなく、鏡に惹きつけられていった。
延々と同じ手品が続いているから飽きた、というのでもない。寧ろ、次はどんなバニーガールが出てくるのかという期待感がある。

だが……何故か鏡に注意が向いてしまう……鏡の中から何かが自分に呼びかけてきているような気がする。

同時に、右手首に奇妙な疼きを感じた―初めてプリンセスを指名した晩に、彼女にキスされた箇所だ、とはその時のニシアガリは気づかなかった。

相変わらず回された鏡が客席に向け直される度にそこには一匹のうさぎが映っていたが、ニシアガリはそこに目を凝らす……
客席に立ち、ステージぎりぎりまで出てきて鏡に向き合っている自分の顔が鏡に映っている。それは分かる……

……うさぎの他に、鏡の中にぼんやりとした一人のバニーガールの姿が浮かんで見えた。
後ろを振り向いてみるが、うさぎ同様にそんなものは実際にはいない。
うさぎは鏡の中から出てくるが、このバニーガールは出てこない……いつ出てくるのだろう、などと思ってしまう。

ステージには、勢揃いといった態で、既に十数人のバニーガールが現れ、ステージ後方に横一列に並び、ポーズを取っていた。
見るからに壮観な光景だが、そこに鏡の中に幻視したバニーガールがいないことは何かが欠けているように思われた。

「その……すまない、その鏡に映っているのは……」
無粋な質問だとは思ったが、ニシアガリはステージのプリンセスに思わず質問してしまう。
プリンセスは悪戯っぽく笑い、人差し指を唇に当てて無言を保つ。説明無用ということか、更に焦らされ、ニシアガリはたまらくなってきた。

「頼む、その鏡に映っているバニーガールを見せてくれ!」
こらえきれず、ニシアガリはステージによじ登った。
だがプリンセスは手を挙げてニシアガリを制止し、例の手業で指と指の間にキャンディを出現させた。
そしてそれを自らの口に含むと、いきなりニシアガリに抱き着き、唇を重ねてきたー

思わぬサービスの開始に、ニシアガリは目を丸くし、一瞬鏡の中のバニーガールのことを忘れかけた。
プリンセスは大胆な舌使いでニシアガリの口腔に自分の下をねじ込んできて、ニシアガリの舌にキャンディを受け渡した。
ニシアガリは、キャンディとプリンセスの舌の両方を夢中になって貪る。

ぺちゅ…ぺちゅ…
キャンディを舐める音が隠微に響く。
自分の口の中の音なのだからはっきり聞こえるのは当然だと思ったが、次第に、ニシアガリはその音の大きさが異様であることに気づいた。

気がつくと、後方に整列したバニーガールたちも一様にまだキャンディを舐めていた。
ニシアガリとプリンセスの口の中でキャンディが舐められる音とシンクロするように、彼女たちの口の中の音までがニシアガリの耳の中で反響しているようだった。その音に、ニシアガリの感覚は次第に麻痺していく…

プリンセスはニシアガリをきつく抱きしめると、またキャンディを舌でニシアガリの口腔に押し込む。
そしてキスしながら、右手で自分の胸元にニシアガリの手を導いた。掌がプリンセスの乳房に触れ、思わず揉みしだいてしまう。
プリンセスはまたも笑いながら唇を離し、ステージ後方を見つめた。釣られてニシアガリも目をやる…

ステージ後方を埋め尽くしたバニーガールたちが二人一組となって、一様に手を相手の股間へと伸ばし、それぞれを慰めていた。
耳の中で鳴っている咀嚼音に加え、その異様に美しく、淫らな光景にも、ニシアガリは心を奪われる。

バニーガール同士が相手の股間を愛撫するのと同様に、プリンセスはニシアガリの股間に手をやり、擦り上げ始めた。既に硬く張り詰めていた肉棒が当然に反応するが、そこには少し違和感があった……

「うぐっ………」
刺すような快感が背筋から脳髄にかけて走り、ニシアガリは達した。荒い息をついてぐったりとなり、プリンセスに支えられる格好になったニシアガリだが、そこで違和感の正体に気がついた。

―マネージャーの泉美の先導に従い、ニシアガリは、ブレインダメージの店内の廊下を歩いていく。 ふと気が付くと、例の《プリンセスとしもべ》の写真が架け替えられていた。 それは、プリンセスと名前の知らない新人であろうバニーガールが共にホップしながら踊っているものだった。 本物のうさぎもかくやという躍動感が、見事に捉えられている写真だった。 この新人も相当いいな、そのうち指名してみるか、とニシアガリはぼんやりと思う。 ついに、執心してきたプリンセスが店に出るということで、ニシアガリは大きな期待を抱いてレヴューが上演されるフロアに向かっていた。 座席はがらんとしていて、お客はニシアガリ一人しかいない。 この豪華な空間を、そしてこれからステージに現れるプリンセスを独り占めに出来るのかと思うと、心が躍った。 案内してきた泉美は、恒例の不払い額の確認を行う。 「先日来までの累計が758.4チップになります……清算なさいますか?」 「しないよ」いつもはこのひと言で十分な筈だったが、珍しく泉美は重ねて尋ねた。 「もう一度お尋ねいたします。本日清算なさいますか?」 「ああ、そのうちな」はなから相手にする気がないニシアガリだが、更に泉美は繰り下がる。 「これも既に何度もレヴューをご観覧いただいているニシアガリさまには無用のこととは思いますが……ステージ上のパフォーマーには手を触れないようにお願いいたします。よろしいですね?」 わかったわかった、と言ってニシアガリは泉美を追い払う。 ソファに座って待っていると、客席の灯りが消えた。そして華やかなBGMが鳴り始める。 いよいよか、と思った時、袖から押されたのだろう、キャスター付きの箱が無人のステージへと滑り出てきた。 箱はステージの中央でぴたりと止まった。そしてBGMのドラムが期待を煽るようにロールしていき…… ファンファーレと共に箱の天井が開き、その中から何かが飛び出した―一匹のうさぎだった。 思わずニシアガリは呆気に取られる。だが…… うさぎはその場で垂直に跳び始めた。その上下運動のスピードがどんどん速くなっていき、ジャンプの高さもそれに合わせて高くなっていく。うさぎは人の身長よりも高く飛び跳ね…… タンッ! ドラムが高い音を打ち鳴らしてBGMが止まると同時に、うさぎが着地した地点には一人のバニーガールが立っていたー プリンセスだった。 一瞬、ニシアガリは己の目を疑い、言葉を失った。だが次の瞬間にはこの見事なマジックに拍手を送っていた。 気取って頭の上にかざしていたシルクハットを顔の前からどけると、プリンセスの不敵な笑みがニシアガリの視界に飛び込んでくる。 今日の彼女は、髪を頭の左サイドで編み込んで、右肩からサイドに流し、バニーコートの上からマジシャンの職分を表すジャケットを着ている。 前がぐいっと開いた紺色の細身のボレロジャケットだが、材質はバニーコートと同じ光沢感豊かなエナメルで、しかも恐ろしくタイトに、プリンセスの肩に、上腕に、下腕に貼りついている。 下腕から手首にかけてがそのまま指ぬきガントレット状態になっており、中指に引っ掛ける形で手の甲を三角形に覆っている。 その指はパープルピンクのマニキュアに彩られ、悩ましい輝きを放っている。 ジャケットの手首の上からバニーガールとしてのカフスが取り付けられているが、それは純白でありながら鈍い光を放つ金属製で、その上には、カフスを留めるというより飾りつけとしての用途だろう金のボタンが三つ光を放っている。 カラーはいつもの通りの白ワイシャツのものの流用だが、紺色の長ネクタイが巨大な乳房の谷間に吸い込まれていっており、嫌が上にも視線をそちらへと誘導する。 バニーコートは相当に鋭角的な、細身な造形で、トップではいつも以上に乳首ぎりぎりまでのみを覆い隠して乳房の巨大さを強調し、ボトムでは鼠径部の切れ込みを幾何学的な三角形に見せている。 その下、下半身を覆うのは網やナイロンのタイツではなく、黒と灰の中間の色のラテックス製のタイツで、やはり彼女の腰から足にかけてにぴっしりと貼りつき、その身体の線を見事にトレースして、足元の紫のハイヒールに収まっていた。 下半身が身体の線を強調したタイツであるにも関わらず、材質が肌の色を見せないラテックスであること、上半身がジャケットであることと相まって、その姿は上下揃ったスーツを着ているように見えた。 まさにマジシャンに相応しい。 それでいて、スーツを着込んで身体の線が隠れるという不満を与えない、見事にプリンセスの柔らかな身体の線を余すことなくさらけ出している。 タイトさと豊満さが何の矛盾もなく同居する格好であり、更に考え抜かれた材質による光沢感が全身に添えられることで、プリンセスの生肌の輝きとこれもまた見事なコントラストを描いていた。 ニシアガリは拍手を送りつつ、プリンセスのセクシーな装いにごくりと唾を呑みこむ。 自信ありげな笑みを浮かべ、プリンセスはシルクハットに手を突っ込む…… 中から彼女がつかみだした何かを投げると、宙に火花が飛び散った。 再度シルクハットにプリンセスは手を突っ込むと、その中から今度は一本のステッキが現れた。ステッキの先にシルクハットをひっかけて掲げ上げたプリンセスは、それをくるくると回転させて玩んだ。 そして……プリンセスがステッキを一瞬手から離し、また宙でつかむと、それはステッキではなくステッキを模した棒キャンディへと変身した。 棒キャンディをまた手から離し、また宙でつかむと、それは消え去った…… プリンセスが手を開くとそこには紙包みにくるまれた球状のキャンディが乗っている。 器用に、指と指の間にキャンディを挟んだプリンセスが指の間から指の間へと移動させ続けていく……気がつくと、キャンディが二つになり、三つになる。 ピンポン玉を増やす要領の手品だ。 ステージ際まで来たプリンセスは、にっこりとニシアガリに笑いかけ、キャンディのひとつをニシアガリに差し伸べた。 「はい、どうぞ」 差し出されたキャンディを思わず受け取ってしまうニシアガリ。 後ろ姿で一歩一歩歩く姿もセクシーに、ステージ中央へと戻ったプリンセスは、次のマジックに取りかかる。 自分がうさぎとして出てきた箱にプリンセスは手を突っ込む……中から彼女がつかみ出したのはもう一匹のうさぎだった。 優しくうさぎをステージの床に置くと、プリンセスの手の中に再びステッキが出現した。 うさぎに向けてプリンセスはステッキを振る…… 先ほどうさぎからプリンセスへと変身したのと同じ現象が繰り返された。 うさぎが飛び跳ねたかと思うと、それが着地した瞬間には、それは一人のバニーガールに変わっていた。 そのバニーガールは、白のバニーコートに、下半身を白のタイツとハイヒールといういでたちで、髪は黒くて長いストレートヘアだが、前髪の一房だけが金色に染められ、それが揺れて右目を隠す。衣装の白に対して左目の色が黒なのがコントラストになっている。 「ご紹介いたします、助手を務めてくれるティナですわ」 プリンセスの紹介に合わせ、ティナは笑顔で客席に向かっておじぎする。 プリンセスは、手の中のキャンディを一つ口に入れ、ティナにキスした。 舌から舌へとキャンディが受け渡される。 二人のバニーガールは熱っぽくキャンディを介してキスを繰り返す。愛するプリンセスに甘いキャンディを与えられている歓びに堪らなくなった様子のティナは、プリンセスに抱き着き、身体をこれでもかと密着させた。 二人の豊満なボディがこすれ合い、それを包むエナメルの衣装が淫猥な音を立てる。 ニシアガリは思わず席を立ち、ステージぎりぎりまで駆け寄って、愛し合う二人のバニーガールを凝視した。 その視線に気付いたのだろう、プリンセスはティナとのキスをやめないまま、ステージ下にもちらりと視線を向けてきた。 その瞬間、ニシアガリは自分の全てをプリンセスに呑み込まれてしまったような-プリンセスとティナの唇の中に囚われたキャンディになってしまったような-錯覚に襲われた。 ただ見られているだけで身体から力が抜け、立っていられなくなる。プリンセスから目を離せなくなってしまう。 それは……自分が女性であるという感覚。女性でありたいという感覚。 自分が女性であったら、バニーガールであったら、自分もティナと同様に、プリンセスとキス出来るのに、という妄想が思考の奥深くへと染み込んでいき、ただただうっとりとプリンセスに見惚れ続ける自分を認識していた…… そんなニシアガリをプリンセスはじっくりと眺めた後、またティナとのキスに戻っていく。 キャンディがほとんど溶けて小さくなり、プリンセスは唾液と共にそれをティナの喉奥へと押し込んだ。 プリンセスは次のマジックへと移る。 ティナがステージ袖から持ってきたのは、キャスター付きの鏡台だった。 にこにことした笑いを浮かべながら、ティナが鏡台を回転させて表にも裏にも仕掛けがないことを示して見せる。 そして客席に裏側を向けた鏡に、プリンセスが意味深に笑いながら鏡に向けてステッキを振った。ティナが鏡台を表に返す…… 鏡には、正対する光景が映っている筈だった……基本的には、それは間違いではない。 だがたったひとつ、鏡の中から一匹のうさぎが客席の方を見つめていることを除けば。 どういうことだ、とニシアガリは目を凝らした。ステージ上にうさぎの姿を求めるが、そんなものはいる筈もない。だが、鏡の中の世界には確かにうさぎがいる。 プリンセスがステッキを掌で叩くと、それに合わせてうさぎがぴょんと鏡の外へと跳び出てきた。 え、とニシアガリは目を見張るが、プリンセスは意に介さずうさぎに対してステッキをひと振りする…… 予想通り、ティナと同様に、うさぎは新たなバニーガールに変身した。ニシアガリは良く知らないが、サトコだ。 プリンセスはその指の間に挟んだキャンディをまたも指の合間で転がし、ひとつ増やす。 そして新たなバニーガールに口移しで舐めさせた。とろんとしたまなざしで、バニーガールはプリンセスが与えてくれる甘い喜びを受け入れている。 バニーガールはステージ後方へ下がって待機し、再度ティナが鏡台をキャスターごと回転させる。そして、それが客席を向くと、そこには一匹のうさぎが映っている…… 次々と鏡の中からうさぎが跳び出てきては、バニーガールに変身し、プリンセスの唇からキャンディを与えられる、ということが繰り返された。ステージにはバニーガールが溢れかえっていく。 次から次へとハトを取り出すのはマジシャンがよくやる手品だが、次々とうさぎを呼び出し、しかもそれをバニーガールへ変えていくなどという芸当は、その離れ業っぷりでもゴージャスさでも類例がない。 ニシアガリの目はステージに釘付けになった…… が、やがてニシアガリの注意はプリンセスでもバニーガールたちでもなく、鏡に惹きつけられていった。 延々と同じ手品が続いているから飽きた、というのでもない。寧ろ、次はどんなバニーガールが出てくるのかという期待感がある。 だが……何故か鏡に注意が向いてしまう……鏡の中から何かが自分に呼びかけてきているような気がする。 同時に、右手首に奇妙な疼きを感じた―初めてプリンセスを指名した晩に、彼女にキスされた箇所だ、とはその時のニシアガリは気づかなかった。 相変わらず回された鏡が客席に向け直される度にそこには一匹のうさぎが映っていたが、ニシアガリはそこに目を凝らす…… 客席に立ち、ステージぎりぎりまで出てきて鏡に向き合っている自分の顔が鏡に映っている。それは分かる…… ……うさぎの他に、鏡の中にぼんやりとした一人のバニーガールの姿が浮かんで見えた。 後ろを振り向いてみるが、うさぎ同様にそんなものは実際にはいない。 うさぎは鏡の中から出てくるが、このバニーガールは出てこない……いつ出てくるのだろう、などと思ってしまう。 ステージには、勢揃いといった態で、既に十数人のバニーガールが現れ、ステージ後方に横一列に並び、ポーズを取っていた。 見るからに壮観な光景だが、そこに鏡の中に幻視したバニーガールがいないことは何かが欠けているように思われた。 「その……すまない、その鏡に映っているのは……」 無粋な質問だとは思ったが、ニシアガリはステージのプリンセスに思わず質問してしまう。 プリンセスは悪戯っぽく笑い、人差し指を唇に当てて無言を保つ。説明無用ということか、更に焦らされ、ニシアガリはたまらくなってきた。 「頼む、その鏡に映っているバニーガールを見せてくれ!」 こらえきれず、ニシアガリはステージによじ登った。 だがプリンセスは手を挙げてニシアガリを制止し、例の手業で指と指の間にキャンディを出現させた。 そしてそれを自らの口に含むと、いきなりニシアガリに抱き着き、唇を重ねてきたー 思わぬサービスの開始に、ニシアガリは目を丸くし、一瞬鏡の中のバニーガールのことを忘れかけた。 プリンセスは大胆な舌使いでニシアガリの口腔に自分の下をねじ込んできて、ニシアガリの舌にキャンディを受け渡した。 ニシアガリは、キャンディとプリンセスの舌の両方を夢中になって貪る。 ぺちゅ…ぺちゅ… キャンディを舐める音が隠微に響く。 自分の口の中の音なのだからはっきり聞こえるのは当然だと思ったが、次第に、ニシアガリはその音の大きさが異様であることに気づいた。 気がつくと、後方に整列したバニーガールたちも一様にまだキャンディを舐めていた。 ニシアガリとプリンセスの口の中でキャンディが舐められる音とシンクロするように、彼女たちの口の中の音までがニシアガリの耳の中で反響しているようだった。その音に、ニシアガリの感覚は次第に麻痺していく… プリンセスはニシアガリをきつく抱きしめると、またキャンディを舌でニシアガリの口腔に押し込む。 そしてキスしながら、右手で自分の胸元にニシアガリの手を導いた。掌がプリンセスの乳房に触れ、思わず揉みしだいてしまう。 プリンセスはまたも笑いながら唇を離し、ステージ後方を見つめた。釣られてニシアガリも目をやる… ステージ後方を埋め尽くしたバニーガールたちが二人一組となって、一様に手を相手の股間へと伸ばし、それぞれを慰めていた。 耳の中で鳴っている咀嚼音に加え、その異様に美しく、淫らな光景にも、ニシアガリは心を奪われる。 バニーガール同士が相手の股間を愛撫するのと同様に、プリンセスはニシアガリの股間に手をやり、擦り上げ始めた。既に硬く張り詰めていた肉棒が当然に反応するが、そこには少し違和感があった…… 「うぐっ………」 刺すような快感が背筋から脳髄にかけて走り、ニシアガリは達した。荒い息をついてぐったりとなり、プリンセスに支えられる格好になったニシアガリだが、そこで違和感の正体に気がついた。
Author

射精量が異様に少ない。
これほど興奮し、これほどの刺激を感じたというのにこれは妙だと思う間もなく、プリンセスは更にニシアガリの股間を擦り上げる。
そしてひざまずき、ニシアガリのズボンのジッパーを上げると、取り出した肉棒をその巨大な乳房の谷間で圧迫した。
脱がずとも十分に肉棒を挟み込めるバニーコートのエッジの浅さとプリンセスの乳房の巨大さに、ニシアガリは改めて息を呑む。

プリンセスがその巨乳を上下させる。
吸い付くようにきめ細かい乳房の肌とエナメル張りのバニーコートの感触のコントラストが、ニシアガリの感覚に強く訴えかけ、興奮を煽る。

「うっ……」
あっという間にニシアガリは達した。だが、射精量は少ない。
今度は目に見えて分かった。
プリンセスの乳房に精液がぶっかけられたが、それを見れば明らかに少ないのが分かる。
二度目の射精ということを割り引いても、こんなに少ないのか。
プリンセスは明らかに挑発と侮蔑の意図を込めた笑いを浮かべて、ニシアガリを見上げた。
自分の男性としての能力を見せつけられたようで、ニシアガリは落胆した……
だが、陰茎自体の怒張はいささかの衰えも見せない。射精に伴う興奮の収まりもない。まだ……続けたい。

ニシアガリの意図を汲んだかのように、プリンセスは再度乳房を上下させ始める。
あっという間にニシアガリは達してしまう。
最早精液は数滴飛び出すのが精いっぱいだった。
耳の奥では、ニシアガリをあざ笑うように、バニーガールたちがキャンディをしゃぶる音が響いている……

「ふふふ、もう手遅れよ、あなたのコレは弾切れして後は消えるだけ」
プリンセスは口から舌を突き出してみせる。そこにはキャンディが乗っていたが、あと少しで溶け落ちてしまうまでに小さくなっていた。
その意味を理解し、ニシアガリは青ざめた。

プリンセスはその手をニシアガリの股間にやり、ズボンの股下の上から陰嚢を持ち上げる。
陰嚢内の睾丸の感触がすっかりなくなろうとしている……いや、なくなってしまったと言っていい。

一方で、射精するべきものがなくなってしまった肉棒は全く鎮まりを見せず、性欲はどこまでも昂っていくばかりだった。
どう振る舞えばいいのか分からなくなり、ニシアガリは戸惑わざるを得なかったが、相変わらずその耳奥ではバニーガールたちがキャンディを舐める音がこだましている。
それは男性としてのニシアガリの存在を文字通りしゃぶり尽くしてしまう恐ろしい響きの筈だった……

だが、今の興奮を極めたニシアガリの脳裏には、寧ろそれは興奮を煽るものとして響いた……
このまま自分という存在を……全て溶かしきって欲しい……彼女たちの口の中で……

今のニシアガリの感覚は、怒張しきった肉棒の脈動とそれに同期する右手首の疼き、耳の奥に直接響くキャンディを舐める音だけに支配されている……

「さあ、あれをご覧なさい」
プリンセスは鏡を指し示す。
気がつくと、先ほどまでは曖昧な姿しか映っていなかったバニーガールの姿がずっと明確に映っており、ニシアガリは目を見張った。プリンセスから離れ、ニシアガリは膝立ちで鏡のところまで這っていった。

鏡に映るのは既にニシアガリの姿ではなく、ひとりの美しくバニーガールのそれだった。
欲情したバニーガール……今までは表情がはっきり見えていなかったが、今ではその顔がはっきり見え、いかに彼女がいやらしい女であるかがはっきり分かる。

男性としての生命を終えつつある、それでいて欲情が一向に収まる気配を見せないニシアガリは、その疼いて仕方がない右手で鏡を撫でる。
鏡の中のバニーガールも、鏡のこちら側のニシアガリと同じポーズを取り、鏡のこちら側と向こう側で手と手が重なる……
”もっと近くにいらっしゃい……”鏡の中のバニーガールの口がそう囁いたような気がした……

プリンセスもまた、ニシアガリの傍へと歩み寄る。
「これがこのショー最後の楽しみ……ふふふ……」
プリンセスはそう言ってニシアガリに口づけした。プリンセスの舌が、ニシアガリの口内にキャンディを押し込む。

その意図を察したニシアガリは、それが男性としての自分の破滅を意味することを知ったが、全く躊躇せずプリンセスの唾液ごとそのキャンディを飲み込んだ。それ以外に行き場のない欲情を晴らす方法はない……

ニシアガリと同時に、ステージ場のバニーガールたちも、全員が小さくなっていたキャンディを呑み下した。
糸の切れた操り人形のように、ニシアガリは後ろへ倒れこむ―

そこには鏡があった。

ニシアガリの下敷きになって粉砕されるかと思われた鏡は、逆にニシアガリの身体を飲み込んだ。水に落ちたように、何の抵抗もなくニシアガリの身体は鏡面に沈み込んでいき、ステージから消え去った……

お客が消えてしまっても、プリンセスはステージマジシャンとしての態度を崩さずにパフォーマンスを続行する。目配せして、ティナに鏡台を回転させた……

鏡が再び正面を向くと、そこには物欲しげな表情を浮かべた一人のバニーガールが映っていた。
プリンセスがステッキを一振りしてから鏡に向けて手を差し伸べると……その手は、先ほどまでのニシアガリ同様に、鏡の中に沈み込んだ。

プリンセスの手はバニーガールの手を取る。プリンセスが引っ張ると、バニーガールは鏡の中の世界からステージへと出現した。

「はあっ!」
思わずバニーガールは大きくため息をつく。そして自分の手を取るプリンセスを、目を丸くして見つめる。そんな彼女に、プリンセスは慈悲深いとも冷酷とも取れるほほ笑みを投げかけて問いかける。

「あなたはだれ?ニシアガリさん?それとも……」
「わたし……わたし……は……」
戸惑うしかないバニーガールは返答出来ず、立ち尽くす。

「ふふふ……可哀想に、自分自身が誰かも分かっていないのね……でも、大丈夫。これからじっくりと教えてあげる……」
「あ……あっ!」
プリンセスはバニーガールを引き寄せ、その乳房を揉みしだいた。そして耳へと口を近づけて囁く。

「あなたの名前はリンよ」
「えっ?」
驚いた声を上げるバニーガールに構わず、プリンセスは更に囁きかける。

「あなたがニシアガリと呼ばれていた頃からずっと、あなたは鏡の中に、自分の中にリンとしてのあなたを見出していたの。本当は自分が女性であることは、あなたは心の奥で分かっていたこと、そうではなくて?」
「ああ……」
バニーガールの目に、妖しい光が揺らぎ、灯る。それは、己の美しさと淫らさに、バニーガールのセクシーさに酔い、揺れるものであり、プリンセスの言葉を肯定するように光るものだった……
「そうよ……わたしはリン……ずっとこうなりたかったのよ……」
バニーガールはうっとりとした表情を浮かべると、プリンセスにしなだれかかった。それを優しい胸で受けとめながら、プリンセスは問いかける。

「もうニシアガリのことはどうでもいい?」
「ええ。彼は消えたわ……いいえ、ニシアガリの望みが叶ったからこそ今ここにリンがいるの。リンとしてのわたしが」
「そう、あなたはアニマに到達したの。あなたの理想とする女性の姿に」

恍惚とした表情で答えるバニーガール……いやリンの手を優しく取り、鏡の前に連れて行く。

プリンセスがステッキを振ると、鏡面にはスクリーンさながらに映像が映し出された……

それはこのレヴューのステージであり、満場のお客が見守る中、ステージでバニーガールがマジックのパフォーマンスを披露していた―
今プリンセスが着ている者に酷似したデザインの衣装で、カラフルなマジックを繰り広げているそのマジシャンはリンだった。

プリンセスは語りかける。「今あなたがいるこのステージで、あなたもパフォーマンスをしてみたくない?とてもエキサイティングでセクシーなステージを……」
リンはごくりと唾を呑みこみ、恍惚とした表情で答えた「……はい」

それを待っていたように、プリンセスは更に畳みかける。
「なら……あなたもマジシャンの衣装を着てみたくない?」

リンはまたも息を呑み、頷く。今、目の前のプリンセスが着ているセクシーでタイトな衣装を自分も着ることが出来たら……
そう考えただけで、子宮が疼く。

「はい……着たいです……」
プリンセスは優しくリンの頭を撫でた。「素直な子ね……いいわ、あなたの新しい力を存分に引き出してあげる」
そう言うやまたしても指の間にいくつかのキャンディを出現させるとプリンセスは、それをリンに示してみて、「どれがいい?」と尋ねた。

リンは赤いキャンディを指さした。
「そう……では、これがあなたのアニマのカラーということね」

プリンセスは赤いキャンディをリンの口の中に放り込み、「さあ……あなたのステージ衣装よ」と言ってステッキを振った。
と、リンはパープルピンクの光に包まれ……その光の中に、リンがまとっていたオーソドックスなバニーガールの衣装は溶けていき、一瞬彼女は一糸纏わぬ姿となっていた。

それを見届けたプリンセスは再度ステッキを振ると、今度はステージ上方から毒々しい赤いスポットライトがリンを照らし出す。
そしてその光の中で……あるいは光が固体となり、繊維となり、衣服となっていくように、リンの肌を染め上げるように、彼女の身体の線をどこまでも忠実になぞるバニーガールの衣装が、彼女の肌の上に出現していく。

それは、プリンセスが今ステージで披露しているマジシャンの衣装によく似ていた。
プリンセスとほぼ同じデザインのボレロジャケット。ほっそりとした肩や腕の線に完全に密着し、手の甲を覆って中指にまで達している。
だがその色はプリンセスと異なり、背と腕はシックな黒、前方へ折り返した襟は一転して赤で、リンを象徴するカラーリングとなっている。
疑似耳も、裏側が黒、表側が赤。
バニーコートとハイヒールは黒で、その靴底は赤。
下半身のタイツはスモークがかった黒のラテックス。脚のラインがくっきりと強調される。
首を飾るカラーは布製ではなく金属製であり、冷たい光を放つシルバー。その中央に、赤く彩られた線が横一線に走っており、これも赤が彼女の色であることを訴えている。
布ではなく金属製のカラーに取り付けられているのは蝶ネクタイでも長ネクタイでもなく、短いチェイン。プリンセスにもほとんど負けないリンの巨乳の谷間へ垂れ下がっている。
プリンセスと同様、左右の手首に取り付けられたカフスは金属製で、カラーと同じくシルバー。プリンセスのような飾りボタンはないが、代わりに、ごく短いとはいえそこからもチェインが垂れ下がっている。
両耳たぶからもチェインのピアスが垂れ下がり、その先端にはルビーを思わせる赤い勾玉の耳飾りが揺れる。

プリンセスが優しくリンのまぶたに触れると、長く繊細に伸びたまつ毛に添うように、鮮やかにして毒々しい赤のマスカラが施され、左右に鋭く翼を広げる。
次いで、リンの艶に満ちた黒髪をプリンセスが梳き上げていく。背中まで落ちたその髪の末端数センチが赤く染まっていき、まるで背側が黒、正面側が赤のマントのような様相を呈する。

「これで仕上げ……」
プリンセスは、自分の乳房を汚しているニシアガリが最後に放った精液を指に取り、それでリンの左乳房を撫でた。
「あんッ……」
リンが呻くと、プリンセスが精液でリンの乳房に描いた何かが、タトゥーのように肌の上に浮き上がる-それは赤いハートマークだった。

鏡面は通常の鏡に戻り、生まれ変わったリンの姿を彼女自身に見せつけた。
自分の美しさにため息をつき、リンは頬に手をやる。その仕草もセクシーなら、手首を動かしたことでわずかに金属音を立てるカフスのチェインが彼女に今の立場を教える-マジシャンにして奴隷……ショーの主役にして奴隷……

「ふふ、とってもセクシーよ」
マジシャンにして姫であるプリンセスが、リンの肩を抱き、背後から囁きかける。そうされるだけで、リンはとろけるような官能に支配され、プリンセスの為すがままになってしまう。プリンセスの巨乳を背中のジャケット越しに感じ、自分に極めて似た肉体と衣装の相手に支配されることにかけがえのない喜びを覚えてしまう。
「ああ……プリンセス……わたしをプリンセスのものにしてくださいませ……」
プリンセスは、言葉の代わりに、背後から伸ばした手でリンの巨乳を玩ぶことでリンに応えた。そして自分の巨乳をリンの背中に押し付ける。
たまらず、リンが身を翻す。同じデザインの衣装をまとった、同じくらいに豊満な乳房のバニーガール二人が正面から向かい合う形になった。
「「ああッ……」」プリンセスとリンが甘い喘ぎ声をユニゾンさせる。
同じく手の甲を三角に覆われた掌と掌を正面から絡み合わせ、張り詰めた柔肉と柔肉が正面から重ね合わされる。
バニーコートにぎりぎり隠された乳首の位置を互いに正確に探り当て、押し付け合わせる。
互いの太ももが互いの太ももの間に差し込まれ、上下して互いの股間を擦り上げる。

快感で脳髄が焦がされていく中、二人の疑似耳にそれぞれ受け取るべき言葉が響いていた-
【ひとつ、当店従業員になった者は、負債の回収が終わるまで、当店区画から出てはならない、ひとつ、当店従業員は、当店顧客と合意の上に成立したサービスには、性的なものも含め、必ず応じなければならない、ひとつ、当店従業員は、そのバニーガールとしての職分ごとに定められた研修・トレーニングを常時受けなければならない、ひとつ、当店従業員の給与は、当店区画内への居住費・諸生活費・プリンセスからのサービスという形で支払われる、ひとつ、当店従業員は、オーナー及びプリンセスへの絶対的な服従・忠誠が求められる……】
【素晴らしい仕事でしたわ、相手のアニマを正確にあぶり出しつつ、衣装のコーディネイトは自分と合わせるとは】

リンは、ニシアガリだった自分が残した負債が奴隷としての今の自分に乗りかかってきたことで、プリンセスからのサービスを受け、プリンセスのそばで働け、プリンセスへの服従を課せられることになった喜びに恍惚となり、プリンセスは、自分の意図を理解してくれたオーナーの称賛に感激し、その思いを目の前の相手の肉体にぶつけ合っていた……

射精量が異様に少ない。 これほど興奮し、これほどの刺激を感じたというのにこれは妙だと思う間もなく、プリンセスは更にニシアガリの股間を擦り上げる。 そしてひざまずき、ニシアガリのズボンのジッパーを上げると、取り出した肉棒をその巨大な乳房の谷間で圧迫した。 脱がずとも十分に肉棒を挟み込めるバニーコートのエッジの浅さとプリンセスの乳房の巨大さに、ニシアガリは改めて息を呑む。 プリンセスがその巨乳を上下させる。 吸い付くようにきめ細かい乳房の肌とエナメル張りのバニーコートの感触のコントラストが、ニシアガリの感覚に強く訴えかけ、興奮を煽る。 「うっ……」 あっという間にニシアガリは達した。だが、射精量は少ない。 今度は目に見えて分かった。 プリンセスの乳房に精液がぶっかけられたが、それを見れば明らかに少ないのが分かる。 二度目の射精ということを割り引いても、こんなに少ないのか。 プリンセスは明らかに挑発と侮蔑の意図を込めた笑いを浮かべて、ニシアガリを見上げた。 自分の男性としての能力を見せつけられたようで、ニシアガリは落胆した…… だが、陰茎自体の怒張はいささかの衰えも見せない。射精に伴う興奮の収まりもない。まだ……続けたい。 ニシアガリの意図を汲んだかのように、プリンセスは再度乳房を上下させ始める。 あっという間にニシアガリは達してしまう。 最早精液は数滴飛び出すのが精いっぱいだった。 耳の奥では、ニシアガリをあざ笑うように、バニーガールたちがキャンディをしゃぶる音が響いている…… 「ふふふ、もう手遅れよ、あなたのコレは弾切れして後は消えるだけ」 プリンセスは口から舌を突き出してみせる。そこにはキャンディが乗っていたが、あと少しで溶け落ちてしまうまでに小さくなっていた。 その意味を理解し、ニシアガリは青ざめた。 プリンセスはその手をニシアガリの股間にやり、ズボンの股下の上から陰嚢を持ち上げる。 陰嚢内の睾丸の感触がすっかりなくなろうとしている……いや、なくなってしまったと言っていい。 一方で、射精するべきものがなくなってしまった肉棒は全く鎮まりを見せず、性欲はどこまでも昂っていくばかりだった。 どう振る舞えばいいのか分からなくなり、ニシアガリは戸惑わざるを得なかったが、相変わらずその耳奥ではバニーガールたちがキャンディを舐める音がこだましている。 それは男性としてのニシアガリの存在を文字通りしゃぶり尽くしてしまう恐ろしい響きの筈だった…… だが、今の興奮を極めたニシアガリの脳裏には、寧ろそれは興奮を煽るものとして響いた…… このまま自分という存在を……全て溶かしきって欲しい……彼女たちの口の中で…… 今のニシアガリの感覚は、怒張しきった肉棒の脈動とそれに同期する右手首の疼き、耳の奥に直接響くキャンディを舐める音だけに支配されている…… 「さあ、あれをご覧なさい」 プリンセスは鏡を指し示す。 気がつくと、先ほどまでは曖昧な姿しか映っていなかったバニーガールの姿がずっと明確に映っており、ニシアガリは目を見張った。プリンセスから離れ、ニシアガリは膝立ちで鏡のところまで這っていった。 鏡に映るのは既にニシアガリの姿ではなく、ひとりの美しくバニーガールのそれだった。 欲情したバニーガール……今までは表情がはっきり見えていなかったが、今ではその顔がはっきり見え、いかに彼女がいやらしい女であるかがはっきり分かる。 男性としての生命を終えつつある、それでいて欲情が一向に収まる気配を見せないニシアガリは、その疼いて仕方がない右手で鏡を撫でる。 鏡の中のバニーガールも、鏡のこちら側のニシアガリと同じポーズを取り、鏡のこちら側と向こう側で手と手が重なる…… ”もっと近くにいらっしゃい……”鏡の中のバニーガールの口がそう囁いたような気がした…… プリンセスもまた、ニシアガリの傍へと歩み寄る。 「これがこのショー最後の楽しみ……ふふふ……」 プリンセスはそう言ってニシアガリに口づけした。プリンセスの舌が、ニシアガリの口内にキャンディを押し込む。 その意図を察したニシアガリは、それが男性としての自分の破滅を意味することを知ったが、全く躊躇せずプリンセスの唾液ごとそのキャンディを飲み込んだ。それ以外に行き場のない欲情を晴らす方法はない…… ニシアガリと同時に、ステージ場のバニーガールたちも、全員が小さくなっていたキャンディを呑み下した。 糸の切れた操り人形のように、ニシアガリは後ろへ倒れこむ― そこには鏡があった。 ニシアガリの下敷きになって粉砕されるかと思われた鏡は、逆にニシアガリの身体を飲み込んだ。水に落ちたように、何の抵抗もなくニシアガリの身体は鏡面に沈み込んでいき、ステージから消え去った…… お客が消えてしまっても、プリンセスはステージマジシャンとしての態度を崩さずにパフォーマンスを続行する。目配せして、ティナに鏡台を回転させた…… 鏡が再び正面を向くと、そこには物欲しげな表情を浮かべた一人のバニーガールが映っていた。 プリンセスがステッキを一振りしてから鏡に向けて手を差し伸べると……その手は、先ほどまでのニシアガリ同様に、鏡の中に沈み込んだ。 プリンセスの手はバニーガールの手を取る。プリンセスが引っ張ると、バニーガールは鏡の中の世界からステージへと出現した。 「はあっ!」 思わずバニーガールは大きくため息をつく。そして自分の手を取るプリンセスを、目を丸くして見つめる。そんな彼女に、プリンセスは慈悲深いとも冷酷とも取れるほほ笑みを投げかけて問いかける。 「あなたはだれ?ニシアガリさん?それとも……」 「わたし……わたし……は……」 戸惑うしかないバニーガールは返答出来ず、立ち尽くす。 「ふふふ……可哀想に、自分自身が誰かも分かっていないのね……でも、大丈夫。これからじっくりと教えてあげる……」 「あ……あっ!」 プリンセスはバニーガールを引き寄せ、その乳房を揉みしだいた。そして耳へと口を近づけて囁く。 「あなたの名前はリンよ」 「えっ?」 驚いた声を上げるバニーガールに構わず、プリンセスは更に囁きかける。 「あなたがニシアガリと呼ばれていた頃からずっと、あなたは鏡の中に、自分の中にリンとしてのあなたを見出していたの。本当は自分が女性であることは、あなたは心の奥で分かっていたこと、そうではなくて?」 「ああ……」 バニーガールの目に、妖しい光が揺らぎ、灯る。それは、己の美しさと淫らさに、バニーガールのセクシーさに酔い、揺れるものであり、プリンセスの言葉を肯定するように光るものだった…… 「そうよ……わたしはリン……ずっとこうなりたかったのよ……」 バニーガールはうっとりとした表情を浮かべると、プリンセスにしなだれかかった。それを優しい胸で受けとめながら、プリンセスは問いかける。 「もうニシアガリのことはどうでもいい?」 「ええ。彼は消えたわ……いいえ、ニシアガリの望みが叶ったからこそ今ここにリンがいるの。リンとしてのわたしが」 「そう、あなたはアニマに到達したの。あなたの理想とする女性の姿に」 恍惚とした表情で答えるバニーガール……いやリンの手を優しく取り、鏡の前に連れて行く。 プリンセスがステッキを振ると、鏡面にはスクリーンさながらに映像が映し出された…… それはこのレヴューのステージであり、満場のお客が見守る中、ステージでバニーガールがマジックのパフォーマンスを披露していた― 今プリンセスが着ている者に酷似したデザインの衣装で、カラフルなマジックを繰り広げているそのマジシャンはリンだった。 プリンセスは語りかける。「今あなたがいるこのステージで、あなたもパフォーマンスをしてみたくない?とてもエキサイティングでセクシーなステージを……」 リンはごくりと唾を呑みこみ、恍惚とした表情で答えた「……はい」 それを待っていたように、プリンセスは更に畳みかける。 「なら……あなたもマジシャンの衣装を着てみたくない?」 リンはまたも息を呑み、頷く。今、目の前のプリンセスが着ているセクシーでタイトな衣装を自分も着ることが出来たら…… そう考えただけで、子宮が疼く。 「はい……着たいです……」 プリンセスは優しくリンの頭を撫でた。「素直な子ね……いいわ、あなたの新しい力を存分に引き出してあげる」 そう言うやまたしても指の間にいくつかのキャンディを出現させるとプリンセスは、それをリンに示してみて、「どれがいい?」と尋ねた。 リンは赤いキャンディを指さした。 「そう……では、これがあなたのアニマのカラーということね」 プリンセスは赤いキャンディをリンの口の中に放り込み、「さあ……あなたのステージ衣装よ」と言ってステッキを振った。 と、リンはパープルピンクの光に包まれ……その光の中に、リンがまとっていたオーソドックスなバニーガールの衣装は溶けていき、一瞬彼女は一糸纏わぬ姿となっていた。 それを見届けたプリンセスは再度ステッキを振ると、今度はステージ上方から毒々しい赤いスポットライトがリンを照らし出す。 そしてその光の中で……あるいは光が固体となり、繊維となり、衣服となっていくように、リンの肌を染め上げるように、彼女の身体の線をどこまでも忠実になぞるバニーガールの衣装が、彼女の肌の上に出現していく。 それは、プリンセスが今ステージで披露しているマジシャンの衣装によく似ていた。 プリンセスとほぼ同じデザインのボレロジャケット。ほっそりとした肩や腕の線に完全に密着し、手の甲を覆って中指にまで達している。 だがその色はプリンセスと異なり、背と腕はシックな黒、前方へ折り返した襟は一転して赤で、リンを象徴するカラーリングとなっている。 疑似耳も、裏側が黒、表側が赤。 バニーコートとハイヒールは黒で、その靴底は赤。 下半身のタイツはスモークがかった黒のラテックス。脚のラインがくっきりと強調される。 首を飾るカラーは布製ではなく金属製であり、冷たい光を放つシルバー。その中央に、赤く彩られた線が横一線に走っており、これも赤が彼女の色であることを訴えている。 布ではなく金属製のカラーに取り付けられているのは蝶ネクタイでも長ネクタイでもなく、短いチェイン。プリンセスにもほとんど負けないリンの巨乳の谷間へ垂れ下がっている。 プリンセスと同様、左右の手首に取り付けられたカフスは金属製で、カラーと同じくシルバー。プリンセスのような飾りボタンはないが、代わりに、ごく短いとはいえそこからもチェインが垂れ下がっている。 両耳たぶからもチェインのピアスが垂れ下がり、その先端にはルビーを思わせる赤い勾玉の耳飾りが揺れる。 プリンセスが優しくリンのまぶたに触れると、長く繊細に伸びたまつ毛に添うように、鮮やかにして毒々しい赤のマスカラが施され、左右に鋭く翼を広げる。 次いで、リンの艶に満ちた黒髪をプリンセスが梳き上げていく。背中まで落ちたその髪の末端数センチが赤く染まっていき、まるで背側が黒、正面側が赤のマントのような様相を呈する。 「これで仕上げ……」 プリンセスは、自分の乳房を汚しているニシアガリが最後に放った精液を指に取り、それでリンの左乳房を撫でた。 「あんッ……」 リンが呻くと、プリンセスが精液でリンの乳房に描いた何かが、タトゥーのように肌の上に浮き上がる-それは赤いハートマークだった。 鏡面は通常の鏡に戻り、生まれ変わったリンの姿を彼女自身に見せつけた。 自分の美しさにため息をつき、リンは頬に手をやる。その仕草もセクシーなら、手首を動かしたことでわずかに金属音を立てるカフスのチェインが彼女に今の立場を教える-マジシャンにして奴隷……ショーの主役にして奴隷…… 「ふふ、とってもセクシーよ」 マジシャンにして姫であるプリンセスが、リンの肩を抱き、背後から囁きかける。そうされるだけで、リンはとろけるような官能に支配され、プリンセスの為すがままになってしまう。プリンセスの巨乳を背中のジャケット越しに感じ、自分に極めて似た肉体と衣装の相手に支配されることにかけがえのない喜びを覚えてしまう。 「ああ……プリンセス……わたしをプリンセスのものにしてくださいませ……」 プリンセスは、言葉の代わりに、背後から伸ばした手でリンの巨乳を玩ぶことでリンに応えた。そして自分の巨乳をリンの背中に押し付ける。 たまらず、リンが身を翻す。同じデザインの衣装をまとった、同じくらいに豊満な乳房のバニーガール二人が正面から向かい合う形になった。 「「ああッ……」」プリンセスとリンが甘い喘ぎ声をユニゾンさせる。 同じく手の甲を三角に覆われた掌と掌を正面から絡み合わせ、張り詰めた柔肉と柔肉が正面から重ね合わされる。 バニーコートにぎりぎり隠された乳首の位置を互いに正確に探り当て、押し付け合わせる。 互いの太ももが互いの太ももの間に差し込まれ、上下して互いの股間を擦り上げる。 快感で脳髄が焦がされていく中、二人の疑似耳にそれぞれ受け取るべき言葉が響いていた- 【ひとつ、当店従業員になった者は、負債の回収が終わるまで、当店区画から出てはならない、ひとつ、当店従業員は、当店顧客と合意の上に成立したサービスには、性的なものも含め、必ず応じなければならない、ひとつ、当店従業員は、そのバニーガールとしての職分ごとに定められた研修・トレーニングを常時受けなければならない、ひとつ、当店従業員の給与は、当店区画内への居住費・諸生活費・プリンセスからのサービスという形で支払われる、ひとつ、当店従業員は、オーナー及びプリンセスへの絶対的な服従・忠誠が求められる……】 【素晴らしい仕事でしたわ、相手のアニマを正確にあぶり出しつつ、衣装のコーディネイトは自分と合わせるとは】 リンは、ニシアガリだった自分が残した負債が奴隷としての今の自分に乗りかかってきたことで、プリンセスからのサービスを受け、プリンセスのそばで働け、プリンセスへの服従を課せられることになった喜びに恍惚となり、プリンセスは、自分の意図を理解してくれたオーナーの称賛に感激し、その思いを目の前の相手の肉体にぶつけ合っていた……
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―マネージャーの泉美の先導に従い、ヒガシドは、ブレインダメージの店内の廊下を歩いていく。
ふと気が付くと、例の《プリンセスとしもべ》の写真が架け替えられていた。
それは、マジシャンらしい衣装のプリンセスと名前の知らない新人であろうバニーガールが互いに伸ばした手を携え、左右対称のポーズを取っているものだった。

既にプリンセスがレヴューに出ているということを如実に示す写真に、ヒガシドは、乗り遅れた、という思いを新たにする。
プリンセスにはだいぶ前から執心してきていたが、最近忙しくてブレインダメージに来られなかった。
プリンセスを巡るライバルである他の客が既に彼女のレヴューを堪能したのかと思うと、何とも悔しい思いを禁じ得ない。
その悔しさは、逆にこれから上演されるレヴューへの大きな期待にもなっており、ヒガシドは、ステージのあるフロアに向かっていた。

座席はがらんとしていて、お客はヒガシド一人しかいない。
この豪華な空間を、そしてこれからステージに現れるプリンセスを独り占めに出来るのかと思うと、心が躍った。

案内してきた泉美は、恒例の不払い額の確認を行う。
「先日来までの累計が819.8チップになります……清算なさいますか?」
「しないよ……いや、100くらいは返しておこうか。退店時に」ギャンブルの負けも含めると、些か使いすぎてはいるが、少しくらいは返済しておかないと気まずいという意識がヒガシドにもあった。

だが、珍しく泉美は重ねて尋ねた。
「ということは、本日の全額清算はないということでよろしいのですね?」
「……うん、そのうちにな」まあ、いい。今日のところをごまかしてしまえばなんとでもなる。
だが、泉美はなおも食い下がった。
「これも既に何度もレヴューをご観覧いただいているヒガシドさまには無用のこととは思いますが……ステージには上がらない、ステージ上のパフォーマーには手を触れないようにお願いいたします。よろしいですね?」

わかったわかった、と言ってヒガシドは泉美を追い払う。そんな無粋な真似をする訳がない……
触れるものなら触りたいが、それは他のサービスで出来ることだ。レヴューではステージ上のパフォーマンスに集中して楽しみたい……

ソファに座って待っていると、ブザーが鳴り、幕が開いた。
同時に、ドラムがタンッ!と一発打ち鳴らされ、次いでエレキギターが相当の音量で派手な音を出した。
アンプとドラムセットが用意されたステージに、既に座付きのバンドが待機し、ウォーミングアップに一人ずつ音を出していく。バンドメンバーはもちろん全員バニーガールだ。ステージ下からではあるが、泉美がメンバーを紹介していく。

「ギター、奏絵」髪を右サイドで三つ編みにしたバニーガールが上品そうにおじぎする。
「ベース、てて」ピンクの髪のバニーガールが少し恥ずかしそうに微笑む。
「ドラムス、ティナ」右目をひと房だけ金に染めた前髪で隠したバニーガールがにかっと笑う。
「キーボード、マナ」髪をポニーテールにまとめながら、浅黒い肌の美女が無表情なままで客席に流し目のみの挨拶を送る。

「本日はブレインダメージが誇る歌姫たちの歌謡レヴューをたっぷりとお届けします、まずは……」
ステージ脇から何かがステージに転がるように走り出てきた。何かと目を凝らすと、二匹のうさぎだ。
キーボードが不気味なオルガンの音を鳴らし、ドラムがロールで煽る……
再びドラムが打ち鳴らされた時、ステージから火花が上がった。火薬が仕掛けられていたらしい。
そして二匹のうさぎがいたところには、二人の若々しいバニーガールが背中合わせになって立っていた。
「本日最初の主役を務めるのは……アイとサトコ!」

ヒガシドは自然と拍手していた。もちろん本命はプリンセスであり、彼女らは前座に過ぎないのだろうが、それでも彼女たちも十分に魅力的だ。
「ふたりの新人バニーガールがステージ上で歌と踊りをご披露いたします。どうぞごゆるりとお楽しみください」
泉美は客席後方の暗がりに下がっていく。

今日のアイは、白のバニーコートに黒の長グローブとサイハイブーツ、金色の蝶ネクタイ、サトコは、黒のバニーコートに白の長グローブとサイハイブーツ、銀色の蝶ネクタイというコーディネイトで、コンビ……いや、デュオとしてのコントラストを意識した装いになっている。

バンドが演奏を始めると、二人は背中を触れ合わせたまま、左右対称にステップを踏んでいく。
アイが右へ進めばサトコが左へ……サトコが右に行けばアイは左に……ターンをすればタイミングは完全に同期し、ステップを踏めばリズムはぴたりと揃い、完璧なコンビネーションを保っている。
そして、二人が歌い始める。

「♪ああ いつになったら会えるの 恋しい貴方」
「♪ああ どこに行けば会えるの 離れ難い貴方」
アイとサトコが交互に歌い、”貴方”の箇所でユニゾンする。

このようなダンスをしながら歌うのであれば昨今はインカムマイクにしそうなものだが、ここでは敢えてなのだろうマイクスタンドに立てた一つのマイクを共有して歌っている。
二人のバニーガールが、歌詞そのままの切なげな表情の顔を寄せ合って歌う。

「♪気づかなかった 自分の思い この身引き裂かれるよう」
「♪気づかなかった あなたの存在 闇に隠れていく」
「♪捨て去ろう 自分の愚かさ この思い消えぬよう」
「♪求めよう あなたへの愛、この胸に」

一旦二人はそれぞれ左右に身体を張り出し、距離を開ける。そして収縮するようにマイクの位置へと戻り、サビに入る。
「♪あなたの愛なくして 私はない あなたはもうひとりの私」
「♪あなたへの愛なくして 私はない あなたは私の一部」

ここで初めて二人が正面から向かい合い、二人の歌声がぴったりと重なる。
「♪あなたの愛は 私の心開く鍵 どうか私の奥まで」
「♪私の胸は あなたのための鍵穴 あなたの愛を待つ」

激しく歌いながら見つめ合うアイとサトコの目はとろんとなり、二人が歌の世界に没入しているのが明らかに分かった……

いや、歌だけではない。
ステージ上のパフォーマンスだけではなく、この二人はきっと恋人同士なのだ……とヒガシドは直感した。
それほどに二人が互いへの磁力で引かれ合い、互いが醸し出すフェロモンの化学作用に酔い合っている様子は尋常でないものがあった。

歌パートが終わると、今度はダンスパートだ。軽快なステップで左右に揺れながら二人は歌い踊る。
白と黒のコントラストの衣装の二人が抱き合い、ターンを繰り返す。
背の高いアイの方がサトコの手を取ってその身体を支え、身を反らしたサトコは片足立ちしてアイに全てを委ねる。
ギターが情熱的なソロを弾いて場を繋ぎつつ、主役二人の思いを見事に表現する。

「♪胸の高鳴りが止まらないの、恋しいあなた」
「♪胸の奥にあなたが棲み着いてるみたい」
アイとサトコは、時には上半身を前後にも左右にもスウェイさせ、時には折り曲げた膝を相手へと突き出し、寄り添っては離れる動作を繰り返す。
歌詞の世界のもどかしさを表現するかのような動きだが、ダイナミックな動きの度に、バニーコートに包まれた互いの乳房がぶつかり合い、突き出された膝が相方の股間に差し込まれる。
ヒートアップするパフォーマンスにバンドも熱く応える。そして二人が離れ、歌パートに入る。

「♪キスしてもいいですか? 唇にそっと」
「♪キスしてもいいですか? 唇に熱く」
今度はアイがサトコの顎を指でくいっと持ち上げ、サトコは少し屈んでその唇を上に向け、アイはそんなサトコの頬に手を当てて見つめる。
「♪あなたの愛は私のもの」
「♪私の全てもあなたのもの」
そして二人は再び抱き合う……今度は身体を預けたサトコは勢い余って後ろに倒れ込み、その身体をアイが支える。完全に二人の世界に没入している。

演奏が終わった。しんとなったステージでは、二人の身体にスポットライトが当たっている。

二人は見つめ合ったまま、立ち上がる……
アイの右脚とサトコの左脚がそれぞれ絡み合い、二人は互いに相手を引き寄せ合う。
ぴったりと重なった二人の胸と胸が弾力をもって上下に揺れ、ブーツに包まれた脚と脚が絡み合うことで、バニーコートのボトムの股間は隙間なく密着し合っている。
ステージを見上げるヒガシドの視線を全く意識していないかのように、寄り添い合う二人はついに唇と唇を重ね合った……
更に、胸がたゆんたゆんと揺れ、エナメルの衣装越しに互いに吸い付き合おうとする……

そして二人は離れた。アイがサトコの手を取って引き起こす……
客席に向けて一礼し、手を取り合ったままの二人の姿は、幕が下りてきて見えなくなっていく。

休憩時間を示すBGMがかかり始めた。やってきた泉美は、ヒガシドに話しかける。
「いかがでしたか? 新人とはいえ、なかなか良い仕上がりだったと思いませんか?」
「……ああ、素晴らしいステージだった」
「お気に召されたようでしたら幸いでございます」
泉美は慇懃な笑みを浮かべてお辞儀したが、ヒガシドは上の空だった。

ここまで熱く、ここまでセクシーで、ここまで切ないショウを見せられて冷静でいられるはずもない。
バニーガール同士が演じるパフォーマンス……
バニーガール同士の愛をそのまま表現に昇華したレヴュー……
バニーガール同士だからこそ意味のあるステージ……
まさにブレインダメージのレヴューに求めるもの、自分がずっと憧れているものがそこにはあった。

自分もあの二人の間に……
挟まりたい……

今までもブレインダメージのレヴューを何度も観てきて、ステージ上でバニーガールたちが百合っぽく振る舞うシーンはほぼ毎回目にしてきた。だが、今夜の二人はホットさが違った。
本当に二人が愛し合っているのが伝わってきた。
その尊さに打たれると同時に、その二人の間に割って入り、女体の柔らかさを堪能したいという思いも抑え難く湧き起こる。
そう思わないものが、バニーガールクラブに来るだろうか?

興奮が収まってくると、今度は期待感が頭をもたげてくる。「プリンセスたちはもうステージに?」
泉美は無言で頷き、指を鳴らして合図を送った。
客席の灯りが消え、BGMがノイジーなフリージャズに変わり、何かが起こるぞ、と思わせたその時……

場内は急に静寂に包まれ、幕が上がった。

暗いステージに立つのは、二人のバニーガール。
先ほどのアイとサトコ同様、背中合わせで立っている。
身長差のあった二人に比べ、こちらはほぼ同じくらいの背丈だ。
ブレインダメージに高身長のバニーガールは少なからずいるが、シルエットから窺うに……

―マネージャーの泉美の先導に従い、ヒガシドは、ブレインダメージの店内の廊下を歩いていく。 ふと気が付くと、例の《プリンセスとしもべ》の写真が架け替えられていた。 それは、マジシャンらしい衣装のプリンセスと名前の知らない新人であろうバニーガールが互いに伸ばした手を携え、左右対称のポーズを取っているものだった。 既にプリンセスがレヴューに出ているということを如実に示す写真に、ヒガシドは、乗り遅れた、という思いを新たにする。 プリンセスにはだいぶ前から執心してきていたが、最近忙しくてブレインダメージに来られなかった。 プリンセスを巡るライバルである他の客が既に彼女のレヴューを堪能したのかと思うと、何とも悔しい思いを禁じ得ない。 その悔しさは、逆にこれから上演されるレヴューへの大きな期待にもなっており、ヒガシドは、ステージのあるフロアに向かっていた。 座席はがらんとしていて、お客はヒガシド一人しかいない。 この豪華な空間を、そしてこれからステージに現れるプリンセスを独り占めに出来るのかと思うと、心が躍った。 案内してきた泉美は、恒例の不払い額の確認を行う。 「先日来までの累計が819.8チップになります……清算なさいますか?」 「しないよ……いや、100くらいは返しておこうか。退店時に」ギャンブルの負けも含めると、些か使いすぎてはいるが、少しくらいは返済しておかないと気まずいという意識がヒガシドにもあった。 だが、珍しく泉美は重ねて尋ねた。 「ということは、本日の全額清算はないということでよろしいのですね?」 「……うん、そのうちにな」まあ、いい。今日のところをごまかしてしまえばなんとでもなる。 だが、泉美はなおも食い下がった。 「これも既に何度もレヴューをご観覧いただいているヒガシドさまには無用のこととは思いますが……ステージには上がらない、ステージ上のパフォーマーには手を触れないようにお願いいたします。よろしいですね?」 わかったわかった、と言ってヒガシドは泉美を追い払う。そんな無粋な真似をする訳がない…… 触れるものなら触りたいが、それは他のサービスで出来ることだ。レヴューではステージ上のパフォーマンスに集中して楽しみたい…… ソファに座って待っていると、ブザーが鳴り、幕が開いた。 同時に、ドラムがタンッ!と一発打ち鳴らされ、次いでエレキギターが相当の音量で派手な音を出した。 アンプとドラムセットが用意されたステージに、既に座付きのバンドが待機し、ウォーミングアップに一人ずつ音を出していく。バンドメンバーはもちろん全員バニーガールだ。ステージ下からではあるが、泉美がメンバーを紹介していく。 「ギター、奏絵」髪を右サイドで三つ編みにしたバニーガールが上品そうにおじぎする。 「ベース、てて」ピンクの髪のバニーガールが少し恥ずかしそうに微笑む。 「ドラムス、ティナ」右目をひと房だけ金に染めた前髪で隠したバニーガールがにかっと笑う。 「キーボード、マナ」髪をポニーテールにまとめながら、浅黒い肌の美女が無表情なままで客席に流し目のみの挨拶を送る。 「本日はブレインダメージが誇る歌姫たちの歌謡レヴューをたっぷりとお届けします、まずは……」 ステージ脇から何かがステージに転がるように走り出てきた。何かと目を凝らすと、二匹のうさぎだ。 キーボードが不気味なオルガンの音を鳴らし、ドラムがロールで煽る…… 再びドラムが打ち鳴らされた時、ステージから火花が上がった。火薬が仕掛けられていたらしい。 そして二匹のうさぎがいたところには、二人の若々しいバニーガールが背中合わせになって立っていた。 「本日最初の主役を務めるのは……アイとサトコ!」 ヒガシドは自然と拍手していた。もちろん本命はプリンセスであり、彼女らは前座に過ぎないのだろうが、それでも彼女たちも十分に魅力的だ。 「ふたりの新人バニーガールがステージ上で歌と踊りをご披露いたします。どうぞごゆるりとお楽しみください」 泉美は客席後方の暗がりに下がっていく。 今日のアイは、白のバニーコートに黒の長グローブとサイハイブーツ、金色の蝶ネクタイ、サトコは、黒のバニーコートに白の長グローブとサイハイブーツ、銀色の蝶ネクタイというコーディネイトで、コンビ……いや、デュオとしてのコントラストを意識した装いになっている。 バンドが演奏を始めると、二人は背中を触れ合わせたまま、左右対称にステップを踏んでいく。 アイが右へ進めばサトコが左へ……サトコが右に行けばアイは左に……ターンをすればタイミングは完全に同期し、ステップを踏めばリズムはぴたりと揃い、完璧なコンビネーションを保っている。 そして、二人が歌い始める。 「♪ああ いつになったら会えるの 恋しい貴方」 「♪ああ どこに行けば会えるの 離れ難い貴方」 アイとサトコが交互に歌い、”貴方”の箇所でユニゾンする。 このようなダンスをしながら歌うのであれば昨今はインカムマイクにしそうなものだが、ここでは敢えてなのだろうマイクスタンドに立てた一つのマイクを共有して歌っている。 二人のバニーガールが、歌詞そのままの切なげな表情の顔を寄せ合って歌う。 「♪気づかなかった 自分の思い この身引き裂かれるよう」 「♪気づかなかった あなたの存在 闇に隠れていく」 「♪捨て去ろう 自分の愚かさ この思い消えぬよう」 「♪求めよう あなたへの愛、この胸に」 一旦二人はそれぞれ左右に身体を張り出し、距離を開ける。そして収縮するようにマイクの位置へと戻り、サビに入る。 「♪あなたの愛なくして 私はない あなたはもうひとりの私」 「♪あなたへの愛なくして 私はない あなたは私の一部」 ここで初めて二人が正面から向かい合い、二人の歌声がぴったりと重なる。 「♪あなたの愛は 私の心開く鍵 どうか私の奥まで」 「♪私の胸は あなたのための鍵穴 あなたの愛を待つ」 激しく歌いながら見つめ合うアイとサトコの目はとろんとなり、二人が歌の世界に没入しているのが明らかに分かった…… いや、歌だけではない。 ステージ上のパフォーマンスだけではなく、この二人はきっと恋人同士なのだ……とヒガシドは直感した。 それほどに二人が互いへの磁力で引かれ合い、互いが醸し出すフェロモンの化学作用に酔い合っている様子は尋常でないものがあった。 歌パートが終わると、今度はダンスパートだ。軽快なステップで左右に揺れながら二人は歌い踊る。 白と黒のコントラストの衣装の二人が抱き合い、ターンを繰り返す。 背の高いアイの方がサトコの手を取ってその身体を支え、身を反らしたサトコは片足立ちしてアイに全てを委ねる。 ギターが情熱的なソロを弾いて場を繋ぎつつ、主役二人の思いを見事に表現する。 「♪胸の高鳴りが止まらないの、恋しいあなた」 「♪胸の奥にあなたが棲み着いてるみたい」 アイとサトコは、時には上半身を前後にも左右にもスウェイさせ、時には折り曲げた膝を相手へと突き出し、寄り添っては離れる動作を繰り返す。 歌詞の世界のもどかしさを表現するかのような動きだが、ダイナミックな動きの度に、バニーコートに包まれた互いの乳房がぶつかり合い、突き出された膝が相方の股間に差し込まれる。 ヒートアップするパフォーマンスにバンドも熱く応える。そして二人が離れ、歌パートに入る。 「♪キスしてもいいですか? 唇にそっと」 「♪キスしてもいいですか? 唇に熱く」 今度はアイがサトコの顎を指でくいっと持ち上げ、サトコは少し屈んでその唇を上に向け、アイはそんなサトコの頬に手を当てて見つめる。 「♪あなたの愛は私のもの」 「♪私の全てもあなたのもの」 そして二人は再び抱き合う……今度は身体を預けたサトコは勢い余って後ろに倒れ込み、その身体をアイが支える。完全に二人の世界に没入している。 演奏が終わった。しんとなったステージでは、二人の身体にスポットライトが当たっている。 二人は見つめ合ったまま、立ち上がる…… アイの右脚とサトコの左脚がそれぞれ絡み合い、二人は互いに相手を引き寄せ合う。 ぴったりと重なった二人の胸と胸が弾力をもって上下に揺れ、ブーツに包まれた脚と脚が絡み合うことで、バニーコートのボトムの股間は隙間なく密着し合っている。 ステージを見上げるヒガシドの視線を全く意識していないかのように、寄り添い合う二人はついに唇と唇を重ね合った…… 更に、胸がたゆんたゆんと揺れ、エナメルの衣装越しに互いに吸い付き合おうとする…… そして二人は離れた。アイがサトコの手を取って引き起こす…… 客席に向けて一礼し、手を取り合ったままの二人の姿は、幕が下りてきて見えなくなっていく。 休憩時間を示すBGMがかかり始めた。やってきた泉美は、ヒガシドに話しかける。 「いかがでしたか? 新人とはいえ、なかなか良い仕上がりだったと思いませんか?」 「……ああ、素晴らしいステージだった」 「お気に召されたようでしたら幸いでございます」 泉美は慇懃な笑みを浮かべてお辞儀したが、ヒガシドは上の空だった。 ここまで熱く、ここまでセクシーで、ここまで切ないショウを見せられて冷静でいられるはずもない。 バニーガール同士が演じるパフォーマンス…… バニーガール同士の愛をそのまま表現に昇華したレヴュー…… バニーガール同士だからこそ意味のあるステージ…… まさにブレインダメージのレヴューに求めるもの、自分がずっと憧れているものがそこにはあった。 自分もあの二人の間に…… 挟まりたい…… 今までもブレインダメージのレヴューを何度も観てきて、ステージ上でバニーガールたちが百合っぽく振る舞うシーンはほぼ毎回目にしてきた。だが、今夜の二人はホットさが違った。 本当に二人が愛し合っているのが伝わってきた。 その尊さに打たれると同時に、その二人の間に割って入り、女体の柔らかさを堪能したいという思いも抑え難く湧き起こる。 そう思わないものが、バニーガールクラブに来るだろうか? 興奮が収まってくると、今度は期待感が頭をもたげてくる。「プリンセスたちはもうステージに?」 泉美は無言で頷き、指を鳴らして合図を送った。 客席の灯りが消え、BGMがノイジーなフリージャズに変わり、何かが起こるぞ、と思わせたその時…… 場内は急に静寂に包まれ、幕が上がった。 暗いステージに立つのは、二人のバニーガール。 先ほどのアイとサトコ同様、背中合わせで立っている。 身長差のあった二人に比べ、こちらはほぼ同じくらいの背丈だ。 ブレインダメージに高身長のバニーガールは少なからずいるが、シルエットから窺うに……
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青いスポットライトがステージを照らし出し、ステージ後方にはスクリプターによるものだろう黄金に輝く円形が浮かぶ。満月をイメージしたものなのだろう。
そして力強いドラムの一打に導かれ、青白い灯りに照らされたバニーガールたちが歌い出した。

「♪今夜も 月が見ている ひとりぼっちのわたしを」
「♪ああ、あなたはどこにいるの あなたも見ているの 同じ月を」

予想は当たった。一人はプリンセス、もう一人は紫だった。

今夜の二人は、白のバニーコートにハイヒール、タイツというお揃いのいでたちで、髪形も二人ともポニーテール。
同じ色の衣装に、同じくらいの背丈、同じ髪形をした二人が背中合わせになっている。
それだけに、黒と黄金である二人の髪の色のコントラストが際立った。

「♪あなたの 青い影が 忍び寄る わたしは 野原にただひとり」
「♪白い炎が 歌う わたしを取り巻いて 切なく焼き尽くす」
「(♪焼き尽くす…)」

ここで紫がプリンセスを追って歌い、また背中越しにプリンセスに視線を送る。
挑発するようにも、親しみを込めたようにも見える笑いが、紫の唇の端に浮かぶ。

青の照明が、白色のバニーガールを神秘的な青に染める。
背中合わせで、激しい身振りを混じえて歌うことで、二人のポニーテールが揺れ、ぶつかり合う。ステージ全体に激しい躍動感と、それと裏腹の緊張感が生まれる。
恋人に会えない女性の悲痛を歌う歌に、バンドも火を噴くような演奏で応える。
バニーガールクラブのレヴューとは思えぬ”ガチ”な歌唱と演奏で、ニシアガリは緊張気味な顔を禁じ得なかった。

「♪今夜も 月が笑っている ひとりぼっちのわたしを」
「♪あなたはどこにいるの ああ 泣いているの 笑っているの」

必死に歌う二人のバニーガールたちだが、決して正面から向かい合うことはない。
彼女たちの歌唱を聴き、先ほどのステージでのアイとサトコの睦まじさを思い出し、ヒガシドは二人の想いを感じ取ってもどかしい思いに駆られた。
彼女たちはこんなにお互いを求め合っているのに、決してその顔が向き合うことはない。
いや、曲の最後には、前座のアイとサトコがそうだったように、必ず一つに結ばれ、愛を伝え合うクライマックスがあるに違いない……

「♪moonlight dance 同じ月を見つめて」
「♪moonlight dance あなたと遠く離れて」
(moonlight dance…)とバックバンドのバニーガールたちがバックコーラスを入れる。

ヒガシドも思わずmoonliht danceの部分を口ずさみ、気がつくと決して上手い歌とは言い難いながらも声を張り上げていた。
ヒガシドも歌っている二人に劣らず切ない気持ちに支配され、二人の純粋な恋を応援する気持ちで満たされているが、一方で同時に二人の間に挟まりたい、という欲望も強くなっていく。
自分が背を向け合った二人の間に挟まれば、二人を振り向かせ、互いの存在に気づかせてやれるのに……
そうすれば、自分も二人の豊かな胸と胸に挟まることが出来るのに……
百合の恋人たちの間に割って入りたいという欲望と、彼女たちを結び付けてやりたいという願望が、半ば矛盾し合い半ば溶け合いながらヒガシドの中で膨れ上がっていく。

「♪moonlight dance ああ 月が見ている」
「♪moonlight dance ああ 月よ この気持ちを届けて」
(moonlight dance…)バックコーラスとヒガシドが叫ぶー

そしてヒガシドは気がついた。ここで歌われている「月」とは自分のことじゃないか。

「♪moonlight dance ああ 月が見ている」
「♪moonlight dance ああ 答えて お願い」

ああ……そう、俺が今、君たちを見ているんだ……さあ、こっちを見て……!
ヒガシドは心の中で呼びかけた。
彼女たちを見つめる月の役である以上、無粋な真似をするべきではないという思いもある一方、歌の世界の中に位置づけられた役であるのだから、彼女らの認知を受ける資格があるとも思えた。
どちらが本当に自分が取るべき姿勢なのだろうか…

「♪moonlight dance ああぁぁぁぁぁ」
「♪moonlight dance ああぁぁぁぁぁ」

具体的な歌詞がなくなり、moonlight dance以外の部分はハミングしているだけになる。
歌からも判断のための材料が消え、ヒガシドはますますどうすればいいか分からなくなってきた。
-これは、ここから先は自分の判断に委ねられているということではないのか…

「♪月は見ている……」
ヒガシドは拙いながらも、自分なりに考えた歌詞を歌った。
ステージ上のバンドは即座に反応して、音量を下げ、ヒガシドの歌が割って入り易くした。

「……♪moon is watching you……」
プリンセスと紫も反応し、敢えて目を閉じ、祈るような表情になった。月が恋人の声を届けてくれるのを聞き取ろうとするかのように……

「♪moon knows you two loves each other……」
歌は完全に即興だが、意外とすんなり歌詞が出てきた。

「♪Only moon knows you two loves each other……
 ♪Only I know you two loves each other……」
二人が愛し合っていることを知っているのは月だけであること、そして自分が月の立場であることを明確にする歌詞を、ヒガシドは付け加える。
二人は顔を伏せ、背中合わせで、ヒガシドの歌のバックに回りハミングしている。

「♪moon allows you two meet together……
 ♪I allow you two meet together and love each other……」
不慣れな英語で、ヒガシドは必死にその場で歌詞をひねり出す。歌詞が出てこなくなると、心得たバックバンドは演奏を止めることなく、フレーズを繰り返して、ヒガシドが再び歌い始めるのを待つ。

「♪moon approves you two meet together……」
ええい、もっと直接的な、強い言い方はないものか。

「♪moon command you two meet toghther……」
これだ。

「♪I command you two meet toghther
♪I Command you two turn your back and meet together!」
月としてヒガシドが命令を歌った時、バンドは明確にフォルテッシモでコードを鳴らし、プリンセスと紫は踵を返して互いに向き合った。
完全な即興だったが、全員の息が完全に合致していた。

プリンセスが歌った。「♪moonlight dance ああ あなたはそこにいた」
紫が歌った。「♪moonlight dance ああ 月が教えてくれた」

バンドの音が転調した。
ステージの主役二人を照らしていた照明の灯りが、青から赤に変わり、歌手二人の白のバニーコートを染め上げた。

長く離れ離れになっていた恋人たちであるプリンセスと紫は、互いに見つめ合い、抱き合った。
ステージ上のパフォーマンス中であることも忘れたかのように、客席もバックバンドも一顧だにせず、二人は瞳を潤ませて見つめ合い、唇を重ね合う。
いや、これすらもパフォーマンスのうちなのか……

二人を見守る月の役たるヒガシドとしては、これにどう対応すればよいのか迷うところだった。
お客である自分を放っておいて、二人が自分たちだけの世界に没入するのを良しとすべきか否か。
それとも、これすらパフォーマンスの一部として許容するべきか。

二人のキスは更に熱を帯びていき、愛に飢えた互いの舌が互いをしゃぶりあげ、互いの唇が互いの愛を吸い尽くそうとする。
バニーコートに包まれた乳房と乳房が、磁力を持って引きつけ合うかのように、互いに揉み合い、形を変形させ合う。
愛情が愛欲へと変貌していく過程を見せつけられ、ヒガシドの興奮も高まっていった。再びこの二人の間に挟まりたいという欲求が強くなってきた。

バックバンドの演奏がスローダウンし、そしていつの間にかステージに上がっていた泉美が伴奏に合わせてサックスを吹き始めた。
粘っこく、情熱的な吹奏に応えるように、プリンセスと紫が身を悶えさせながら体をくねらせ、押し付け合う。
どうやら歌謡レヴューはエロティックなダンスに移行したようだった。

気がつくと、ヒガシドは席を立ち、ステージ際まで来て、瞬きも忘れてバニーガール二人の百合愛に溢れた絡み合いに目を凝らしていた。
相手の唇から離れたバニーガールの唇は、相手の耳たぶを噛み、首筋を舐めあげ、乳房の谷間に埋もれ、そのまま下腹部を下がって、相手のへそにまで達したところで、再び相手の唇へと戻っていく。

その度に二人の乳房が押し付けられ合い、こすれ合い、その柔らかさを二人は確認し合う。
プリンセスが、バニーコートの上から紫の乳房の頂点にキスし、執拗に舐める。今度は紫が身をかがめ、バニーコートの上からプリンセスの股間を舐めあげる。

プリンセスは紫に背中を向け、無防備な背中を預けられた紫は、背後から手を回してプリンセスの乳房や股間をまさぐり、恋人の感じ易い部位を自らの所有物であると宣言するかのように、愛撫した。
プリンセスは息を荒くして、恋人に身を委ねる官能に陶酔している。かと思うと、今度はプリンセスが身を翻し、紫の方が一転して受けへと回り、プリンセスの愛撫に切なく、無力に喘ぐ。

過激さを増してゆくパフォーマンスに―いや、どこまでがパフォーマンスで、どこまでが本気なのか最早分からない―、ヒガシドは堪えられなくなりつつあった。
レヴューに於ける”月”の役割はもう終わってしまったのだとしたら……あとはもう、自分は指をくわえて見ているだけなのか?
そんな筈があってたまるか。ついに我慢出来なくなったヒガシドは、強引にステージへ登ろうとした。
ヒガシド自身は気づいていなかったが、これを見た泉美は、サックスを吹くのをやめないまま、紫に視線でサインを送っていた。

ステージ後方に映し出されるスクリプターによる月が、金色からピンクに変わった。
そして紫がさっとプリンセスから身を離した。
この意味を察したヒガシドは、今度こそステージへよじ登る。それでもわずかに残る自制心は、ヒガシドをプリンセスへとダッシュさせるようなことだけはしなかったが。

プリンセスは意味ありげに微笑み、近づいてくるヒガシドへ両手を広げて迎え入れる姿勢を取った。
もう迷いのないヒガシドは、プリンセスへ近づいていき、その魅惑の女体を抱きしめた。
その背後から、紫がヒガシドの身体を抱きしめた…いや、ヒガシドの身体越しにプリンセスを抱きしめようとしている。
プリンセスも間近なヒガシドを無視してかかり、ヒガシドの肩越しに紫と視線を合わせ、キスを交わした。

再び恋人同士の熱い抱擁が再開され、ついに愛し合うバニーガール二人に挟まるというヒガシドの願いは達成された。
二人が切なく、相手を求めて身をくねらせる度に、こすり上げられ、刺激されるのはヒガシドの身体の表と裏側両方だった。
ズボンの下で、これ以上ないほど硬く肉棒を怒張させているヒガシドはこれ以上は我慢出来ず、自分も腰を律動させ始めた。
強引に、正面のプリンセスのバニースーツの股間に手を押し当てる。

「あン!」驚きと喜びが混じった声が上がる。しかしヒガシドの手は止まらない。プリンセスのバニーコートの鼠蹊部に指を這わし、その内側に隠れた秘密の茂みを感じる。
「ダメ……ですわ……」と声を上げて震えるプリンセス。しかしヒガシドの手は止まらず、何とか指を滑り込ませようとあがく。

見計らったように、紫がヒガシドの身体から離れた。
ついに一対一でプリンセスと抱き合う格好になったヒガシドは、彼女の肉体を貪ろうと一気に迫った。
ヒガシドが突き出してくる唇を、プリンセスは拒否しなかった。キスを受け入れ、男のがさつな舌に蹂躙されるままになる。
プリンセスの抵抗が弱まったのを見て、ヒガシドは唇を離し、今度はその白い首筋を舐め上げた。
「ああん……」と声をもらすプリンセスの息が荒い。

ヒガシドはその欲求のままに、プリンセスの柔らかい女体を堪能すべく彼女の胸に顔を押し付け、バニーコートの縁から覗く肌を舐める。プリンセスは身をのけぞらせ、その快楽に反応する。ヒガシドが自分の胸もとを舐め回すのに任せて、汗に濡れた髪をなまめかしく掻き上げる。
「ああん……もっとぉ……優しくぅ……」とプリンセスは自分から腰を突き出してヒガシドの肉棒を自分の股間で挟むように押し付ける。
「そっちも……もっとしてくれぇぇ」とヒガシドが呻く。意地悪げに微笑みつつ、プリンセスは腰を上下させ、ヒガシドの股間をズボンの上から刺激していた。
バックバンドが粘りつくようなリズムを刻み、ヒガシドの興奮を代弁するように泉美のサックスが吠える。
更にノイジーな音がそれに加わった。見れば、紫がコンソールに繋いだターンテーブルでスクラッチノイズを出して、バンドの音に拮抗しようとしている。

興奮してヒガシドの思考の焦点は定まらなくなりつつあったが、プリンセスの柔らかい身体に接し、プリンセスの甘い体臭と香水に陶然となり、バンドの奏でる美音と不協和音が入り混じった音を耳にしていると、気が遠くなっていく……

最初はノイズにしか聞こえなかったターンテーブルで紫が出す音は、どこか安心感をもたらすものに感じられるようになっていた。
一方で、最初はしっかりしたフレーズを吹いていた泉美のサックスは、ところどころでアウトするようになり、スクラッチとはまた異質のノイジーな音を織り交ぜるようになってきた。

それがしばらく続くうちに、ヒガシドは気づいた。プリンセスが自分の股間に身体を密着させてくる時のみ、泉美は調性の合ったフレーズを吹いているのだ。
プリンセスは身体を密着させ、ヒガシドの硬くなった肉棒を擦り上げているが、泉美がアウトフレーズに切り替えると同時に身体を離してしまう。あるいは、プリンセスが身体を離すのに泉美が合わせているのか。
焦らされるヒガシドは、プリンセスのサービスが続行するのを望むのと同時に、泉美の演奏がまともなまま続くことを望むようになっていた。

「頼むから……」
ヒガシドが懇願しようとすると、プリンセスはキスしてヒガシドの口を塞いでしまう。それもすぐに終わり、また、股間に触れるか触れないかぎりぎりのところで身体をうねらせる踊りに戻ってしまう。
「頼むから……それをやめないでくれ!」
たまりかねたヒガシドは、つい泉美の方へ向かって声をかけてしまった。返事をするでもなければ振り向くでもなかった泉美だが、ヒガシドの言わんとすることには気がついたらしく、フレーズの切れ目でバンドに目配せした。

曲が転調し、新たな展開に入った。プリンセスがしゃがみこんで、ズボンのジッパーを開け、ヒガシドの肉棒を取り出した。バニーコートの上からではあったが、いや、バニーコートの縁ぎりぎりのところでヒガシドの怒張した肉棒を包み込んだプリンセスの巨乳が上下し、張り詰めきったそれを更に刺激し、高みへ導こうとする。

「おっ……おっ……おっ……おっ……」
サックスに主導されたバンドは冷静に、だがヒガシドの興奮に同調するように曲をクライマックスへと上昇させていき、一方で、ヒガシドの喘ぎ声と同調するように、紫はスクラッチノイズをリズミックに入れる。
「うぉォォォ……オン……」
ヒガシドが絶頂するのと、演奏がクライマックスを迎え泉美がサックスを咆哮させるのとは完全に同時だった。テナーサックスの音域を越えようとするかのような高音での大ブローに合わせ、ヒガシドは絶叫し射精した……

一連のパフォーマンスが与えてくれた興奮と感動は大変なものだったが、頂点に達してしまえばあっという間という虚しさのみが、ヒガシドに残った。もう終わりなのか、という物足りなさが尾を引く中、ターンテーブルが出すスクラッチノイズだけが響いている……

そう思う間もなく、ヒガシドの背後に紫が戻ってきた。ターンテーブルは泉美が引き継いでいる。
再度二人のバニーガールに挟まれる形になったヒガシドは、その女体の肉の柔らかさに、心慰められる思いとなった。
はぁ…とため息をつくヒガシドだが、そこでターンテーブルを鳴らしながら、泉美がインカムマイク越しに告げた。

「ヒガシドさま、本日のお会計です。今回は、ステージに上がった、パフォーマーの身体に触れたため、当店のルールを破った罰則金も含んでおります。45236,86チップになります。これ以上の貸し付けは不可能ですので、本日は即金でお支払いください」

ヒガシドは息を呑んだ―そんな額、払える訳ない。しまった、つい興奮してルールを破ってしまった。いや、それにしても、この額は法外に過ぎるだろう……
どうこの場を取り繕うか必死に考えようとするヒガシドだが、目の前のプリンセスがヒガシドに微笑みかけ、その唇にキスしてきた。背後から紫も首筋を舐めあげてきた。バニーガールたちは身体を揺すりながら、ヒガシドの萎え果てた男の身体を挑発するように擦り上げていく。

「お支払いいただけませんか?お支払いいただけないようでしたら、代替案を提案させていただきます」
泉美の言葉と共に、スクラッチノイズに混じって、何かの言葉が繰り返されるのが聞こえてきた。
「当店流の返済、即ち働いて返済していただくことをご提案・ご推奨させていただきます。つまり、バニーガールになり、当店の従業員になっていただくということです」
バニーガールになる?どういうことだ?想像外の言葉に、ヒガシドは戸惑った。

「バニーガールになるということは」とプリンセス、「当然女になるということ」と紫。
衝撃がヒガシドの脳裏に走った。女にされる……どういうことだ……

「女であるということは、こういうこと」とプリンセス、「こういうこと」と紫も復唱する。二人は更に執拗にヒガシドへ身体を押し付けてきた。

「あなたもこんな風に柔らかい身体になってみたくない?」
プリンセスが優しく囁きかける。二人のバニーガールから漂う女の体臭がヒガシドの感覚を甘美に麻痺させていく。
同時に、ターンテーブルから何度も繰り返される言葉が、聴覚からヒガシドの意識へと滲みこみ始め、また、右手首に何か妙な痺れのような感覚を覚え始める……

(Moon is……)
「男の身体が得られる快楽は一度限り。でも……」
プリンセスの言葉は、金も精力も使い果たしたヒガシドの認識に甘く訴えかける。
「女の身体の快楽には限界がないわ」
ヒガシドの男の身体を挟むプリンセスと紫の女の身体の柔らかさがより際立って感じられる。
そしてターンテーブルから響く言葉がよりはっきりと聞こえてきた……
右手首の痺れが増し、そう言えば、以前初めてプリンセスを指名した時、ここにキスされたな、と思い出す……

(Moon is a harsh / harsh / harsh……)
「あなたの中に潜んでいる女らしさを引き出してあげる」
自分の中に女らしさが……そんなことは考えてみたこともなかったが、今のヒガシドには何故かそれが不自然なものではないように感じられるようになっていた。ターンテーブルから響いてくる言葉に耳を傾けるうちに……
そして、右手首の痺れと脈動がだんだんと激しくなってくる。それは明らかにターンテーブルの言葉のリズムと同期している。

(Moon is a harsh / harsh / Harsh misress……)
「どう、あなたもブレインダメージのバニーガールになってみない?」
「ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ……」
開けっ放しにした口の端から涎を垂らし、何も考えることが出来ないまま、ヒガシドはプリンセスの言葉にうなずいていた。
同時に、ヒガシドたちを照らしていたピンクの月をかたどった照明が落ち、泉美が触れるターンテーブルの周囲を除いてはステージも客席も暗闇に包まれた。
暗くなると同時に、ターンテーブルから響く音量が更に増す。それはもう明確に聴きとれるようになっており、視覚が暗闇に封じられた今、聴覚から入ってくるそれだけがヒガシドの五感全てを制圧していた……

(Moon is a harsh misress / mistress / mistress……)
無慈悲な女王に挟まれる快感に、ヒガシドは自分の身体も心も溶けていくのを感じた。既に射精するだけのものは残されていなかったが、それ以上の性的快感が全身を揺さぶっている。右手首からの脈動が全身に広がり、細胞の一つ一つが振動しているようだ。全身が熱い……

(Moon is…… / Moon is…… / Moon is……)
ターンテーブルから繰り返される言葉と共に、ヒガシドの身も心もステージの暗闇の中に溶けていった……

「……そろそろ起きなさい」
肩を揺り動かされ、目に光の刺激を受けて、ヒガシドは目を覚ました。まだその身体には粘りつくような熱気が残っていたが、先ほどまでの息苦しさはない。

スポットライトがヒガシドを照らし出していた。目に感じた刺激はそれだった。
月をかたどったスポットライト……毒々しいピンク色の。
既にバンドはステージから降りており、彼以外にはプリンセスと泉美しかステージにはいない。

ヒガシドは、プリンセスの手が触れている自分の肩が、素肌が剥き出しになっていることに気づいた。
「あなたはなかなかユニークなアニマを持っているのね、ふふ」
笑いながらプリンセスが合図をすると、泉美が舞台袖からキャスター付きの鏡台を持ってきた。それは今のヒガシドの姿を、彼に突き付けた―

鏡に映っているのは、無惨に肥満した中年男性ではなかった。
艶やかな黒髪が、なだらかな白い肩に垂れ、その上には取り付けられたバニーガールとしての疑似耳が揺れている。
首には黒のシャツカラー。
そこから垂れるのは赤のミニチュアネクタイ。
カラーの両端に取り付けられた金具から伸びるチェインがネクタイの中央に止められたピンに繋がり、固定している。
バニーガールにありがちな手首のシャツカフスはなく、細かい刺繡が施された黒のシルクの手袋が両掌を覆い、赤のバンドで手首を固定している。
そのバンドからは四本の金色の紐が伸び、二の腕に嵌められた黒のラバー製のアームレットに繋がり、疑似的な袖を形成するようになっている。
鳩尾から股間までに、身体の線を正確にトレースしながら黒のバニーコートが貼りついている。
バニーコートの胸元の縁は金色に縁どりされ、更に鳩尾には一段下方までV字の切れ込みが入り、布地の内側で靴紐と同様のレースが交差してサイズを合わせることが出来るようになっている。
金の縁取りとV字の切れ込みの内側でⅩ字に交差するレースもさることながら、切れ込みの左右それぞれの頂点に近い位置にはやはり金のピンが打たれており、そこから小さな金の飾り房が垂れている。
腰骨を越した上から股間へと切れ込む鼠径部のラインにも、バニーコートには金の縁取りが為され、腰の細さと下腹部のなだらかさを嫌が上にも強調している。
腰骨の位置に、手袋と同じ色と材質の薄布が取り付けられており、スカートか燕尾のように尻を飾り付けている。
腰布を腰の部分に取り付けているのは、赤いリボンと蝶結びにされた金色の紐。
股間からふっくらとした太もも、すんなりとした脛から足の指先までを、50デニールのタイツが光沢を伴って黒く染めている。
左側の太もものみ、両の二の腕と同様のラバーのバンドが取り付けられており、むっちりとした柔肉に食い込んでいる。そのバンドにも等間隔に金のピンが打たれ、それらのピンから垂れ下がった金のチェインが太ももの上で等間隔に波を描いている。
足首から先が収まっているのは、黒のパンプス。ヒールは3インチはある。

鏡の中から、驚いたような表情でヒガシドを見つめ返してくるのは、まだ中学生くらいの少女だった。
瞳の色はプリンセスにも似た青。
雪を思わせる真っ白な肌に、髪や衣装や装身具の黒・赤・金が映えた。
顔には、下地の白を存分に活かしたメイクが既に施されており、両目の左右の端へと赤いマスカラが翼を広げ、年齢にふさわしからぬ色香を醸し出している。一方で、唇にはごく薄いピンクの口紅を施してあるのみで、無垢な印象を損なわないよう配慮されている。
眉はほっそりとしながらも明確であり、髪や衣装の黒と同調しながら強い存在感を放っている。
胸は年齢相応というべきか、それほど大きくない。バニーコートを着たことで、それが届いていない上方の柔らかさと起伏を造って盛り上がってはいない平坦さのどちらもが明示されている。
幼さを残しつつ、ほっそりとした体形、雪のように汚れを知らない白い肌、自分自身が何者かも分からない不安を滲ませた表情―ヒガシドは、新たな自分の姿をぼんやりと見つめていた。

「これが……僕……」
自然と、”僕”という一人称が口から出た。そして、はっとなり、自分の胸に手を当てる。薄いが、確かに乳房の柔らかな感触がある。そして股間にも……

「あン……」
乳房と性器から伝わってくる刺激は、明らかに彼が男でなくなったことを示していた。

「僕は……女に……」
プリンセスが先ほど言った通り、自分はバニーガールになってしまったのか……

「私がバニーガールにした男のお客さんはあなたが三人目。でも前のお二人とは、あなたは違ったところがあるわね」
妹か娘を可愛がるかのように、プリンセスはヒガシドを背後から抱きしめ、その髪を指先で梳りながら語り出した-

「私やオーナーの魔法で女に変えられた男は、男だった頃に理想としていた女性の姿になるの。アニマというのですけどね。あなたもそうなった……筈だったのだけど、あなたはちょっと面白かったのでいたずらしてしまったの」
ヒガシドは、戸惑いと安堵の入り混じった不思議な思いで、鏡に映る自分の顔を見つめていた……
この顔に感じる不思議な安心感は、何なのだろう。
この顔が自分が思い描いていた理想の女性像だというなら、それを実際に目の当たりにして安心感を覚えるのも妙ではないかもしれないが……

「あなた、たゆんたゆんなバニーガールお姉さん目当てでこういうお店に来ている割りに、小さい娘も好みなのね、ふふ」
「っ!………」
図星を衝かれて、ヒガシドは俯いてしまう。

「今回、特に不払いを溜め込んでおられるお客さまをバニーガール化して、働いて負債を返していただこうということになったのですけど、ヒガシドさまは少額でも今日支払うおつもりでしたのね?その気持ちがあったことがね、女性化を妨げたの。他の人たちは、身も心も即座にブレインダメージの従業員に相応しいものになってしまったのだけど……」
プリンセスは、生まれ変わったヒガシドの顎に手をやり、頬をぷにぷにと撫で、額を指さしながら囁く。

「ねえ、よく見て。今のあなた、とっても可愛いけど、このきりりとした眉、なかなか男らしくて凛々しくない?」
「あ……」

初めてヒガシドは気づいた、いや、思い出した―今の自分の顔つきは、もちろん当時はこんなに髪が長かったりはしなかったし、顔にメイクを施したこともなかったが、子供の頃の自分に少しだけ似ているのだ。この顔にどこか安心感を覚えた理由、一人称として”僕”と口にした理由はそこにある……

「あなたを完全な大人の女にすることも出来たのよ。でも、あなたの中にある多様な方向性を一つに絞ることはもったいないと思ったのでこうしてみたの」
「あ……あ……あ……」

少し前までヒガシドだった少女の中で、何かが揺れ動いていた。
透き通るような白い肌に、黒い髪と眉、赤と黒のマスカラ、衣装の黒と赤と金……
子供らしい無垢な魅力、子供らしからぬ色香、子供でありながら湧きあがるような女らしさ、女でありながら少年にも通じる凛々しさ……
全てが調和しているようでもあり、それぞれが主導権を主張し合っているようでもあった。
自分が揺れ動き、引き裂かれているのを感じつつ、ヒガシドだった少女は、かすかに頬を染めながら、鏡の中のそんな自分に引き付けられていく。

「ふふ、自分の理想の女性になってしまったのだから、男であった頃の感性が今の自分の姿に惹きつけられてしまうのは当然のこと、私もそうだったわ。ナルシストになっておしまいなさい……そして……」
そうだ……プリンセスの言う通りだ。今の自分の姿は女の子なのだ……
そして今の”僕”の心は少年時代に戻っているのだ……
少年としての”僕”は少女としての僕に魅かれているし、少女としての僕は少年としての”僕”に惹かれている。
そこに何の不合理もない。
一人の人間の中にボーイ・ミーツ・ガールが同居している。こんなに素敵なことがあるだろうか。

「ふふ、だからね……こういうことも出来るのね」
プリンセスの優しい掌が、ヒガシドだった少女の股間にそっと伸びた。
「ひゃあああ!」
いきなりの行為に声を上げてしまうが、プリンセスは笑みを崩さず、もう片手でヒガシドだった少女の胸にも手を添え、ゆったりと撫で下ろした……

「あ……あああ……これって……」
股間と胸にじんわりと何かが染み渡ってくるような感触に、ヒガシドだった少女は目を見張った。
感触としても、鏡に映る様子からも変化は明らかだった―

おとなしく引っ込んでいた鼠径部に膨らみが生じ、ほんの少し前までと同様の感触が戻って来て、そこには小粒な少年の性器が盛り上がっていた。
股間の盛り上がりに反比例して、見た目としても控えめなものだった両胸の盛り上がりはよりなだらかになっていき、ついにバニーコートの下には全く平坦な男子の胸があるのみとなった。かすかに喉仏にも膨らみが見られるようになった。
それでいて、ヒガシドだった少女……だった少年の顔は、少女の時のものと寸分違わぬままだった。

「ああ……これが……僕……」
プリンセスは微笑み、少年ヒガシドの想いを代弁するように囁いた。
「そうよ、あなたは美しくも凛々しくもなれる。あなたの中に、少年も少女もいるの。そして大人の女も……」

再度プリンセスの手が少年の股間と胸を揉み始めた。
ついさっきまでとは逆の変化が起こり始め、股間の膨らみは衣装の下の密やかな割れ目に変わり、胸は静かに膨らみ始めた。
だが、変化はそこでは止まらなかった……

胸のサイズはどんどん大きくなり続けている。
それに対応するようにバニーコートのサイズも変化し、膨らんでいく胸を―ぎりぎり乳首が隠れる程度ではあるが―フォローしていく。
気がつくと、手足がすんなりと伸びていっているのが分かる。
顔立ちは急激に彫りが深くなり、施されたメイクに相応しいものへとなっていく。

ほんの数秒で、少年は少女に、そして大人の女になっていた。
同年代であるプリンセスと肩を並べることで、優雅な金髪の美女と淑やかな黒髪の美女が身を寄せ合って鏡に映っている……

「これがあなたのバニーガールとしての完成形。お気に召したかしら?」
「は……はい……ああ……今の僕……なんて美しいの……」
「あなたはヒガシドでないものになったの、即ち大人の男ではないもの。代わりにあなたの中には少年と少女と大人の女が同居している。あなたはそのどれにもなれるし、そのどれもがバニーガールとしてのあなたなの…男の子はバニーガールとは言わないかもしれないけど、そのどれもがブレインダメージの従業員であることは間違いないわ」
ヒガシドだった女の背筋に、ぞくりと悪寒が走る。その言葉の意味するところは……

「ブレインダメージのお客さまは、基本的に大人の女性を目当てに来店なさる方ばかりですけど、あなたのような子がいれば、未成年のバニーガールやバニーガールのかっこうをした美少年を賞味したいという方にもサービスを提供出来るようになるわ」
「え、嫌ぁぁぁ……あ……そんな……そ……それは……」
負債を返すためにブレインダメージで働かされること、それは娼婦となるも同然のことを意味する。そのために女に変えられたが、それだけでなく、少年としてもお客に奉仕しなければならないというのか……

ヒガシドだった女は、嫌悪と恐怖に顔を歪めた……
……筈だったが、同時にそれはぞっとするほどの期待感ももたらした。
自分に開かれた可能性に、待ち受けるとてつもない快楽に、胸がざわめく……

「あなたは大人の女として、少女として、少年として、お客様にご奉仕するのよ。男のお客さまにも、女のお客さまにも。三つの形態を持つあなたは、幅広いお客さまの需要にお応え出来るわ」

ステージに再び紫が戻って来ていた。プリンセスと紫は、以前のヒガシドにしたのと同じように、彼女を前後から挟み、身体を擦り合わせ始めた。
「ああ……」
ピンク色の月に照らされ、自身の身体の柔肉を二人の美女の柔肉で揉まれる度に、ヒガシドだった女は、切ない喘ぎ声をあげる。
そして、彼女の身体は次第に少女のそれへと戻っていく。
その身に感じる快感と、身体が変化していくことに伴う快感の相乗効果は、少女の心を容易くとろけさせ、プリンセスの言葉に対して従順なものへと変えていく。

「あなたにはバニーガールとしての新しい名前が必要ね…そう、このピンクの月にちなんでルナというのはどうかしら」
その名を耳にした時、ついにヒガシドの人格は完全に敗北を認めた。
ルナという少女は、柔らかな大人の女二人の肉体に揺られ、その甘美さを堪能していた。
ルナの身体は少女から少年へ、また少女へ、成長して大人の女性へと緩やかに変化を続け、先輩バニーガールが与えてくれる喜びを、それぞれ異なる三つの形態のそれぞれの肉体で受け止め、その快楽に頭脳と魂を焼き尽くしていった。
そんな真っ白になったルナの脳裏に、疑似耳から伝わる言葉が染み込み、彼女にブレインダメージのバニーガールとしての心得を教え込んでいく―

【ひとつ、当店従業員になった者は、負債の回収が終わるまで、当店区画から出てはならない、ひとつ、当店従業員は、当店顧客と合意の上に成立したサービスには、性的なものも含め、必ず応じなければならない、ひとつ、当店従業員は、そのバニーガールとしての職分ごとに定められた研修・トレーニングを常時受けなければならない、ひとつ、当店従業員の給与は、当店区画内への居住費・諸生活費・プリンセスからのサービスという形で支払われる、ひとつ、当店従業員は、オーナー及びプリンセスへの絶対的な服従・忠誠が求められる……】

そして満足げなオーナーの賞賛も、プリンセスの疑似耳に届いていたー
【流石ですわ、アニマの引き出し方と敢えて完全に洗脳をしないことで、変身に幅を持たせたとは、じきにあなたは私も超えるバニーガールメイカーとなることでしょう。ふふ、ルナちゃんを求めるお客さまの抱くアニマは、当然ルナちゃんのような少女である筈。これからはブレインダメージにも、幼い、あどけない、可憐なバニーガールが増えることでしょう……】

そして、まだ幼く、張りの足りない声でルナが、そして対照的に朗々たる声でプリンセスが歌い始める-
「♪Moon is harsh mistress....」
「♪Moon is harsh mistress....mistress is watching us....」
冷酷な夜の女王に全てを捧げることを誓う二人のバニーガールの歌声が、妖艶なピンク色に染まったステージにいつまでも響いていた……

青いスポットライトがステージを照らし出し、ステージ後方にはスクリプターによるものだろう黄金に輝く円形が浮かぶ。満月をイメージしたものなのだろう。 そして力強いドラムの一打に導かれ、青白い灯りに照らされたバニーガールたちが歌い出した。 「♪今夜も 月が見ている ひとりぼっちのわたしを」 「♪ああ、あなたはどこにいるの あなたも見ているの 同じ月を」 予想は当たった。一人はプリンセス、もう一人は紫だった。 今夜の二人は、白のバニーコートにハイヒール、タイツというお揃いのいでたちで、髪形も二人ともポニーテール。 同じ色の衣装に、同じくらいの背丈、同じ髪形をした二人が背中合わせになっている。 それだけに、黒と黄金である二人の髪の色のコントラストが際立った。 「♪あなたの 青い影が 忍び寄る わたしは 野原にただひとり」 「♪白い炎が 歌う わたしを取り巻いて 切なく焼き尽くす」 「(♪焼き尽くす…)」 ここで紫がプリンセスを追って歌い、また背中越しにプリンセスに視線を送る。 挑発するようにも、親しみを込めたようにも見える笑いが、紫の唇の端に浮かぶ。 青の照明が、白色のバニーガールを神秘的な青に染める。 背中合わせで、激しい身振りを混じえて歌うことで、二人のポニーテールが揺れ、ぶつかり合う。ステージ全体に激しい躍動感と、それと裏腹の緊張感が生まれる。 恋人に会えない女性の悲痛を歌う歌に、バンドも火を噴くような演奏で応える。 バニーガールクラブのレヴューとは思えぬ”ガチ”な歌唱と演奏で、ニシアガリは緊張気味な顔を禁じ得なかった。 「♪今夜も 月が笑っている ひとりぼっちのわたしを」 「♪あなたはどこにいるの ああ 泣いているの 笑っているの」 必死に歌う二人のバニーガールたちだが、決して正面から向かい合うことはない。 彼女たちの歌唱を聴き、先ほどのステージでのアイとサトコの睦まじさを思い出し、ヒガシドは二人の想いを感じ取ってもどかしい思いに駆られた。 彼女たちはこんなにお互いを求め合っているのに、決してその顔が向き合うことはない。 いや、曲の最後には、前座のアイとサトコがそうだったように、必ず一つに結ばれ、愛を伝え合うクライマックスがあるに違いない…… 「♪moonlight dance 同じ月を見つめて」 「♪moonlight dance あなたと遠く離れて」 (moonlight dance…)とバックバンドのバニーガールたちがバックコーラスを入れる。 ヒガシドも思わずmoonliht danceの部分を口ずさみ、気がつくと決して上手い歌とは言い難いながらも声を張り上げていた。 ヒガシドも歌っている二人に劣らず切ない気持ちに支配され、二人の純粋な恋を応援する気持ちで満たされているが、一方で同時に二人の間に挟まりたい、という欲望も強くなっていく。 自分が背を向け合った二人の間に挟まれば、二人を振り向かせ、互いの存在に気づかせてやれるのに…… そうすれば、自分も二人の豊かな胸と胸に挟まることが出来るのに…… 百合の恋人たちの間に割って入りたいという欲望と、彼女たちを結び付けてやりたいという願望が、半ば矛盾し合い半ば溶け合いながらヒガシドの中で膨れ上がっていく。 「♪moonlight dance ああ 月が見ている」 「♪moonlight dance ああ 月よ この気持ちを届けて」 (moonlight dance…)バックコーラスとヒガシドが叫ぶー そしてヒガシドは気がついた。ここで歌われている「月」とは自分のことじゃないか。 「♪moonlight dance ああ 月が見ている」 「♪moonlight dance ああ 答えて お願い」 ああ……そう、俺が今、君たちを見ているんだ……さあ、こっちを見て……! ヒガシドは心の中で呼びかけた。 彼女たちを見つめる月の役である以上、無粋な真似をするべきではないという思いもある一方、歌の世界の中に位置づけられた役であるのだから、彼女らの認知を受ける資格があるとも思えた。 どちらが本当に自分が取るべき姿勢なのだろうか… 「♪moonlight dance ああぁぁぁぁぁ」 「♪moonlight dance ああぁぁぁぁぁ」 具体的な歌詞がなくなり、moonlight dance以外の部分はハミングしているだけになる。 歌からも判断のための材料が消え、ヒガシドはますますどうすればいいか分からなくなってきた。 -これは、ここから先は自分の判断に委ねられているということではないのか… 「♪月は見ている……」 ヒガシドは拙いながらも、自分なりに考えた歌詞を歌った。 ステージ上のバンドは即座に反応して、音量を下げ、ヒガシドの歌が割って入り易くした。 「……♪moon is watching you……」 プリンセスと紫も反応し、敢えて目を閉じ、祈るような表情になった。月が恋人の声を届けてくれるのを聞き取ろうとするかのように…… 「♪moon knows you two loves each other……」 歌は完全に即興だが、意外とすんなり歌詞が出てきた。 「♪Only moon knows you two loves each other……  ♪Only I know you two loves each other……」 二人が愛し合っていることを知っているのは月だけであること、そして自分が月の立場であることを明確にする歌詞を、ヒガシドは付け加える。 二人は顔を伏せ、背中合わせで、ヒガシドの歌のバックに回りハミングしている。 「♪moon allows you two meet together……  ♪I allow you two meet together and love each other……」 不慣れな英語で、ヒガシドは必死にその場で歌詞をひねり出す。歌詞が出てこなくなると、心得たバックバンドは演奏を止めることなく、フレーズを繰り返して、ヒガシドが再び歌い始めるのを待つ。 「♪moon approves you two meet together……」 ええい、もっと直接的な、強い言い方はないものか。 「♪moon command you two meet toghther……」 これだ。 「♪I command you two meet toghther ♪I Command you two turn your back and meet together!」 月としてヒガシドが命令を歌った時、バンドは明確にフォルテッシモでコードを鳴らし、プリンセスと紫は踵を返して互いに向き合った。 完全な即興だったが、全員の息が完全に合致していた。 プリンセスが歌った。「♪moonlight dance ああ あなたはそこにいた」 紫が歌った。「♪moonlight dance ああ 月が教えてくれた」 バンドの音が転調した。 ステージの主役二人を照らしていた照明の灯りが、青から赤に変わり、歌手二人の白のバニーコートを染め上げた。 長く離れ離れになっていた恋人たちであるプリンセスと紫は、互いに見つめ合い、抱き合った。 ステージ上のパフォーマンス中であることも忘れたかのように、客席もバックバンドも一顧だにせず、二人は瞳を潤ませて見つめ合い、唇を重ね合う。 いや、これすらもパフォーマンスのうちなのか…… 二人を見守る月の役たるヒガシドとしては、これにどう対応すればよいのか迷うところだった。 お客である自分を放っておいて、二人が自分たちだけの世界に没入するのを良しとすべきか否か。 それとも、これすらパフォーマンスの一部として許容するべきか。 二人のキスは更に熱を帯びていき、愛に飢えた互いの舌が互いをしゃぶりあげ、互いの唇が互いの愛を吸い尽くそうとする。 バニーコートに包まれた乳房と乳房が、磁力を持って引きつけ合うかのように、互いに揉み合い、形を変形させ合う。 愛情が愛欲へと変貌していく過程を見せつけられ、ヒガシドの興奮も高まっていった。再びこの二人の間に挟まりたいという欲求が強くなってきた。 バックバンドの演奏がスローダウンし、そしていつの間にかステージに上がっていた泉美が伴奏に合わせてサックスを吹き始めた。 粘っこく、情熱的な吹奏に応えるように、プリンセスと紫が身を悶えさせながら体をくねらせ、押し付け合う。 どうやら歌謡レヴューはエロティックなダンスに移行したようだった。 気がつくと、ヒガシドは席を立ち、ステージ際まで来て、瞬きも忘れてバニーガール二人の百合愛に溢れた絡み合いに目を凝らしていた。 相手の唇から離れたバニーガールの唇は、相手の耳たぶを噛み、首筋を舐めあげ、乳房の谷間に埋もれ、そのまま下腹部を下がって、相手のへそにまで達したところで、再び相手の唇へと戻っていく。 その度に二人の乳房が押し付けられ合い、こすれ合い、その柔らかさを二人は確認し合う。 プリンセスが、バニーコートの上から紫の乳房の頂点にキスし、執拗に舐める。今度は紫が身をかがめ、バニーコートの上からプリンセスの股間を舐めあげる。 プリンセスは紫に背中を向け、無防備な背中を預けられた紫は、背後から手を回してプリンセスの乳房や股間をまさぐり、恋人の感じ易い部位を自らの所有物であると宣言するかのように、愛撫した。 プリンセスは息を荒くして、恋人に身を委ねる官能に陶酔している。かと思うと、今度はプリンセスが身を翻し、紫の方が一転して受けへと回り、プリンセスの愛撫に切なく、無力に喘ぐ。 過激さを増してゆくパフォーマンスに―いや、どこまでがパフォーマンスで、どこまでが本気なのか最早分からない―、ヒガシドは堪えられなくなりつつあった。 レヴューに於ける”月”の役割はもう終わってしまったのだとしたら……あとはもう、自分は指をくわえて見ているだけなのか? そんな筈があってたまるか。ついに我慢出来なくなったヒガシドは、強引にステージへ登ろうとした。 ヒガシド自身は気づいていなかったが、これを見た泉美は、サックスを吹くのをやめないまま、紫に視線でサインを送っていた。 ステージ後方に映し出されるスクリプターによる月が、金色からピンクに変わった。 そして紫がさっとプリンセスから身を離した。 この意味を察したヒガシドは、今度こそステージへよじ登る。それでもわずかに残る自制心は、ヒガシドをプリンセスへとダッシュさせるようなことだけはしなかったが。 プリンセスは意味ありげに微笑み、近づいてくるヒガシドへ両手を広げて迎え入れる姿勢を取った。 もう迷いのないヒガシドは、プリンセスへ近づいていき、その魅惑の女体を抱きしめた。 その背後から、紫がヒガシドの身体を抱きしめた…いや、ヒガシドの身体越しにプリンセスを抱きしめようとしている。 プリンセスも間近なヒガシドを無視してかかり、ヒガシドの肩越しに紫と視線を合わせ、キスを交わした。 再び恋人同士の熱い抱擁が再開され、ついに愛し合うバニーガール二人に挟まるというヒガシドの願いは達成された。 二人が切なく、相手を求めて身をくねらせる度に、こすり上げられ、刺激されるのはヒガシドの身体の表と裏側両方だった。 ズボンの下で、これ以上ないほど硬く肉棒を怒張させているヒガシドはこれ以上は我慢出来ず、自分も腰を律動させ始めた。 強引に、正面のプリンセスのバニースーツの股間に手を押し当てる。 「あン!」驚きと喜びが混じった声が上がる。しかしヒガシドの手は止まらない。プリンセスのバニーコートの鼠蹊部に指を這わし、その内側に隠れた秘密の茂みを感じる。 「ダメ……ですわ……」と声を上げて震えるプリンセス。しかしヒガシドの手は止まらず、何とか指を滑り込ませようとあがく。 見計らったように、紫がヒガシドの身体から離れた。 ついに一対一でプリンセスと抱き合う格好になったヒガシドは、彼女の肉体を貪ろうと一気に迫った。 ヒガシドが突き出してくる唇を、プリンセスは拒否しなかった。キスを受け入れ、男のがさつな舌に蹂躙されるままになる。 プリンセスの抵抗が弱まったのを見て、ヒガシドは唇を離し、今度はその白い首筋を舐め上げた。 「ああん……」と声をもらすプリンセスの息が荒い。 ヒガシドはその欲求のままに、プリンセスの柔らかい女体を堪能すべく彼女の胸に顔を押し付け、バニーコートの縁から覗く肌を舐める。プリンセスは身をのけぞらせ、その快楽に反応する。ヒガシドが自分の胸もとを舐め回すのに任せて、汗に濡れた髪をなまめかしく掻き上げる。 「ああん……もっとぉ……優しくぅ……」とプリンセスは自分から腰を突き出してヒガシドの肉棒を自分の股間で挟むように押し付ける。 「そっちも……もっとしてくれぇぇ」とヒガシドが呻く。意地悪げに微笑みつつ、プリンセスは腰を上下させ、ヒガシドの股間をズボンの上から刺激していた。 バックバンドが粘りつくようなリズムを刻み、ヒガシドの興奮を代弁するように泉美のサックスが吠える。 更にノイジーな音がそれに加わった。見れば、紫がコンソールに繋いだターンテーブルでスクラッチノイズを出して、バンドの音に拮抗しようとしている。 興奮してヒガシドの思考の焦点は定まらなくなりつつあったが、プリンセスの柔らかい身体に接し、プリンセスの甘い体臭と香水に陶然となり、バンドの奏でる美音と不協和音が入り混じった音を耳にしていると、気が遠くなっていく…… 最初はノイズにしか聞こえなかったターンテーブルで紫が出す音は、どこか安心感をもたらすものに感じられるようになっていた。 一方で、最初はしっかりしたフレーズを吹いていた泉美のサックスは、ところどころでアウトするようになり、スクラッチとはまた異質のノイジーな音を織り交ぜるようになってきた。 それがしばらく続くうちに、ヒガシドは気づいた。プリンセスが自分の股間に身体を密着させてくる時のみ、泉美は調性の合ったフレーズを吹いているのだ。 プリンセスは身体を密着させ、ヒガシドの硬くなった肉棒を擦り上げているが、泉美がアウトフレーズに切り替えると同時に身体を離してしまう。あるいは、プリンセスが身体を離すのに泉美が合わせているのか。 焦らされるヒガシドは、プリンセスのサービスが続行するのを望むのと同時に、泉美の演奏がまともなまま続くことを望むようになっていた。 「頼むから……」 ヒガシドが懇願しようとすると、プリンセスはキスしてヒガシドの口を塞いでしまう。それもすぐに終わり、また、股間に触れるか触れないかぎりぎりのところで身体をうねらせる踊りに戻ってしまう。 「頼むから……それをやめないでくれ!」 たまりかねたヒガシドは、つい泉美の方へ向かって声をかけてしまった。返事をするでもなければ振り向くでもなかった泉美だが、ヒガシドの言わんとすることには気がついたらしく、フレーズの切れ目でバンドに目配せした。 曲が転調し、新たな展開に入った。プリンセスがしゃがみこんで、ズボンのジッパーを開け、ヒガシドの肉棒を取り出した。バニーコートの上からではあったが、いや、バニーコートの縁ぎりぎりのところでヒガシドの怒張した肉棒を包み込んだプリンセスの巨乳が上下し、張り詰めきったそれを更に刺激し、高みへ導こうとする。 「おっ……おっ……おっ……おっ……」 サックスに主導されたバンドは冷静に、だがヒガシドの興奮に同調するように曲をクライマックスへと上昇させていき、一方で、ヒガシドの喘ぎ声と同調するように、紫はスクラッチノイズをリズミックに入れる。 「うぉォォォ……オン……」 ヒガシドが絶頂するのと、演奏がクライマックスを迎え泉美がサックスを咆哮させるのとは完全に同時だった。テナーサックスの音域を越えようとするかのような高音での大ブローに合わせ、ヒガシドは絶叫し射精した…… 一連のパフォーマンスが与えてくれた興奮と感動は大変なものだったが、頂点に達してしまえばあっという間という虚しさのみが、ヒガシドに残った。もう終わりなのか、という物足りなさが尾を引く中、ターンテーブルが出すスクラッチノイズだけが響いている…… そう思う間もなく、ヒガシドの背後に紫が戻ってきた。ターンテーブルは泉美が引き継いでいる。 再度二人のバニーガールに挟まれる形になったヒガシドは、その女体の肉の柔らかさに、心慰められる思いとなった。 はぁ…とため息をつくヒガシドだが、そこでターンテーブルを鳴らしながら、泉美がインカムマイク越しに告げた。 「ヒガシドさま、本日のお会計です。今回は、ステージに上がった、パフォーマーの身体に触れたため、当店のルールを破った罰則金も含んでおります。45236,86チップになります。これ以上の貸し付けは不可能ですので、本日は即金でお支払いください」 ヒガシドは息を呑んだ―そんな額、払える訳ない。しまった、つい興奮してルールを破ってしまった。いや、それにしても、この額は法外に過ぎるだろう…… どうこの場を取り繕うか必死に考えようとするヒガシドだが、目の前のプリンセスがヒガシドに微笑みかけ、その唇にキスしてきた。背後から紫も首筋を舐めあげてきた。バニーガールたちは身体を揺すりながら、ヒガシドの萎え果てた男の身体を挑発するように擦り上げていく。 「お支払いいただけませんか?お支払いいただけないようでしたら、代替案を提案させていただきます」 泉美の言葉と共に、スクラッチノイズに混じって、何かの言葉が繰り返されるのが聞こえてきた。 「当店流の返済、即ち働いて返済していただくことをご提案・ご推奨させていただきます。つまり、バニーガールになり、当店の従業員になっていただくということです」 バニーガールになる?どういうことだ?想像外の言葉に、ヒガシドは戸惑った。 「バニーガールになるということは」とプリンセス、「当然女になるということ」と紫。 衝撃がヒガシドの脳裏に走った。女にされる……どういうことだ…… 「女であるということは、こういうこと」とプリンセス、「こういうこと」と紫も復唱する。二人は更に執拗にヒガシドへ身体を押し付けてきた。 「あなたもこんな風に柔らかい身体になってみたくない?」 プリンセスが優しく囁きかける。二人のバニーガールから漂う女の体臭がヒガシドの感覚を甘美に麻痺させていく。 同時に、ターンテーブルから何度も繰り返される言葉が、聴覚からヒガシドの意識へと滲みこみ始め、また、右手首に何か妙な痺れのような感覚を覚え始める…… (Moon is……) 「男の身体が得られる快楽は一度限り。でも……」 プリンセスの言葉は、金も精力も使い果たしたヒガシドの認識に甘く訴えかける。 「女の身体の快楽には限界がないわ」 ヒガシドの男の身体を挟むプリンセスと紫の女の身体の柔らかさがより際立って感じられる。 そしてターンテーブルから響く言葉がよりはっきりと聞こえてきた…… 右手首の痺れが増し、そう言えば、以前初めてプリンセスを指名した時、ここにキスされたな、と思い出す…… (Moon is a harsh / harsh / harsh……) 「あなたの中に潜んでいる女らしさを引き出してあげる」 自分の中に女らしさが……そんなことは考えてみたこともなかったが、今のヒガシドには何故かそれが不自然なものではないように感じられるようになっていた。ターンテーブルから響いてくる言葉に耳を傾けるうちに…… そして、右手首の痺れと脈動がだんだんと激しくなってくる。それは明らかにターンテーブルの言葉のリズムと同期している。 (Moon is a harsh / harsh / Harsh misress……) 「どう、あなたもブレインダメージのバニーガールになってみない?」 「ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ……」 開けっ放しにした口の端から涎を垂らし、何も考えることが出来ないまま、ヒガシドはプリンセスの言葉にうなずいていた。 同時に、ヒガシドたちを照らしていたピンクの月をかたどった照明が落ち、泉美が触れるターンテーブルの周囲を除いてはステージも客席も暗闇に包まれた。 暗くなると同時に、ターンテーブルから響く音量が更に増す。それはもう明確に聴きとれるようになっており、視覚が暗闇に封じられた今、聴覚から入ってくるそれだけがヒガシドの五感全てを制圧していた…… (Moon is a harsh misress / mistress / mistress……) 無慈悲な女王に挟まれる快感に、ヒガシドは自分の身体も心も溶けていくのを感じた。既に射精するだけのものは残されていなかったが、それ以上の性的快感が全身を揺さぶっている。右手首からの脈動が全身に広がり、細胞の一つ一つが振動しているようだ。全身が熱い…… (Moon is…… / Moon is…… / Moon is……) ターンテーブルから繰り返される言葉と共に、ヒガシドの身も心もステージの暗闇の中に溶けていった…… 「……そろそろ起きなさい」 肩を揺り動かされ、目に光の刺激を受けて、ヒガシドは目を覚ました。まだその身体には粘りつくような熱気が残っていたが、先ほどまでの息苦しさはない。 スポットライトがヒガシドを照らし出していた。目に感じた刺激はそれだった。 月をかたどったスポットライト……毒々しいピンク色の。 既にバンドはステージから降りており、彼以外にはプリンセスと泉美しかステージにはいない。 ヒガシドは、プリンセスの手が触れている自分の肩が、素肌が剥き出しになっていることに気づいた。 「あなたはなかなかユニークなアニマを持っているのね、ふふ」 笑いながらプリンセスが合図をすると、泉美が舞台袖からキャスター付きの鏡台を持ってきた。それは今のヒガシドの姿を、彼に突き付けた― 鏡に映っているのは、無惨に肥満した中年男性ではなかった。 艶やかな黒髪が、なだらかな白い肩に垂れ、その上には取り付けられたバニーガールとしての疑似耳が揺れている。 首には黒のシャツカラー。 そこから垂れるのは赤のミニチュアネクタイ。 カラーの両端に取り付けられた金具から伸びるチェインがネクタイの中央に止められたピンに繋がり、固定している。 バニーガールにありがちな手首のシャツカフスはなく、細かい刺繡が施された黒のシルクの手袋が両掌を覆い、赤のバンドで手首を固定している。 そのバンドからは四本の金色の紐が伸び、二の腕に嵌められた黒のラバー製のアームレットに繋がり、疑似的な袖を形成するようになっている。 鳩尾から股間までに、身体の線を正確にトレースしながら黒のバニーコートが貼りついている。 バニーコートの胸元の縁は金色に縁どりされ、更に鳩尾には一段下方までV字の切れ込みが入り、布地の内側で靴紐と同様のレースが交差してサイズを合わせることが出来るようになっている。 金の縁取りとV字の切れ込みの内側でⅩ字に交差するレースもさることながら、切れ込みの左右それぞれの頂点に近い位置にはやはり金のピンが打たれており、そこから小さな金の飾り房が垂れている。 腰骨を越した上から股間へと切れ込む鼠径部のラインにも、バニーコートには金の縁取りが為され、腰の細さと下腹部のなだらかさを嫌が上にも強調している。 腰骨の位置に、手袋と同じ色と材質の薄布が取り付けられており、スカートか燕尾のように尻を飾り付けている。 腰布を腰の部分に取り付けているのは、赤いリボンと蝶結びにされた金色の紐。 股間からふっくらとした太もも、すんなりとした脛から足の指先までを、50デニールのタイツが光沢を伴って黒く染めている。 左側の太もものみ、両の二の腕と同様のラバーのバンドが取り付けられており、むっちりとした柔肉に食い込んでいる。そのバンドにも等間隔に金のピンが打たれ、それらのピンから垂れ下がった金のチェインが太ももの上で等間隔に波を描いている。 足首から先が収まっているのは、黒のパンプス。ヒールは3インチはある。 鏡の中から、驚いたような表情でヒガシドを見つめ返してくるのは、まだ中学生くらいの少女だった。 瞳の色はプリンセスにも似た青。 雪を思わせる真っ白な肌に、髪や衣装や装身具の黒・赤・金が映えた。 顔には、下地の白を存分に活かしたメイクが既に施されており、両目の左右の端へと赤いマスカラが翼を広げ、年齢にふさわしからぬ色香を醸し出している。一方で、唇にはごく薄いピンクの口紅を施してあるのみで、無垢な印象を損なわないよう配慮されている。 眉はほっそりとしながらも明確であり、髪や衣装の黒と同調しながら強い存在感を放っている。 胸は年齢相応というべきか、それほど大きくない。バニーコートを着たことで、それが届いていない上方の柔らかさと起伏を造って盛り上がってはいない平坦さのどちらもが明示されている。 幼さを残しつつ、ほっそりとした体形、雪のように汚れを知らない白い肌、自分自身が何者かも分からない不安を滲ませた表情―ヒガシドは、新たな自分の姿をぼんやりと見つめていた。 「これが……僕……」 自然と、”僕”という一人称が口から出た。そして、はっとなり、自分の胸に手を当てる。薄いが、確かに乳房の柔らかな感触がある。そして股間にも…… 「あン……」 乳房と性器から伝わってくる刺激は、明らかに彼が男でなくなったことを示していた。 「僕は……女に……」 プリンセスが先ほど言った通り、自分はバニーガールになってしまったのか…… 「私がバニーガールにした男のお客さんはあなたが三人目。でも前のお二人とは、あなたは違ったところがあるわね」 妹か娘を可愛がるかのように、プリンセスはヒガシドを背後から抱きしめ、その髪を指先で梳りながら語り出した- 「私やオーナーの魔法で女に変えられた男は、男だった頃に理想としていた女性の姿になるの。アニマというのですけどね。あなたもそうなった……筈だったのだけど、あなたはちょっと面白かったのでいたずらしてしまったの」 ヒガシドは、戸惑いと安堵の入り混じった不思議な思いで、鏡に映る自分の顔を見つめていた…… この顔に感じる不思議な安心感は、何なのだろう。 この顔が自分が思い描いていた理想の女性像だというなら、それを実際に目の当たりにして安心感を覚えるのも妙ではないかもしれないが…… 「あなた、たゆんたゆんなバニーガールお姉さん目当てでこういうお店に来ている割りに、小さい娘も好みなのね、ふふ」 「っ!………」 図星を衝かれて、ヒガシドは俯いてしまう。 「今回、特に不払いを溜め込んでおられるお客さまをバニーガール化して、働いて負債を返していただこうということになったのですけど、ヒガシドさまは少額でも今日支払うおつもりでしたのね?その気持ちがあったことがね、女性化を妨げたの。他の人たちは、身も心も即座にブレインダメージの従業員に相応しいものになってしまったのだけど……」 プリンセスは、生まれ変わったヒガシドの顎に手をやり、頬をぷにぷにと撫で、額を指さしながら囁く。 「ねえ、よく見て。今のあなた、とっても可愛いけど、このきりりとした眉、なかなか男らしくて凛々しくない?」 「あ……」 初めてヒガシドは気づいた、いや、思い出した―今の自分の顔つきは、もちろん当時はこんなに髪が長かったりはしなかったし、顔にメイクを施したこともなかったが、子供の頃の自分に少しだけ似ているのだ。この顔にどこか安心感を覚えた理由、一人称として”僕”と口にした理由はそこにある…… 「あなたを完全な大人の女にすることも出来たのよ。でも、あなたの中にある多様な方向性を一つに絞ることはもったいないと思ったのでこうしてみたの」 「あ……あ……あ……」 少し前までヒガシドだった少女の中で、何かが揺れ動いていた。 透き通るような白い肌に、黒い髪と眉、赤と黒のマスカラ、衣装の黒と赤と金…… 子供らしい無垢な魅力、子供らしからぬ色香、子供でありながら湧きあがるような女らしさ、女でありながら少年にも通じる凛々しさ…… 全てが調和しているようでもあり、それぞれが主導権を主張し合っているようでもあった。 自分が揺れ動き、引き裂かれているのを感じつつ、ヒガシドだった少女は、かすかに頬を染めながら、鏡の中のそんな自分に引き付けられていく。 「ふふ、自分の理想の女性になってしまったのだから、男であった頃の感性が今の自分の姿に惹きつけられてしまうのは当然のこと、私もそうだったわ。ナルシストになっておしまいなさい……そして……」 そうだ……プリンセスの言う通りだ。今の自分の姿は女の子なのだ…… そして今の”僕”の心は少年時代に戻っているのだ…… 少年としての”僕”は少女としての僕に魅かれているし、少女としての僕は少年としての”僕”に惹かれている。 そこに何の不合理もない。 一人の人間の中にボーイ・ミーツ・ガールが同居している。こんなに素敵なことがあるだろうか。 「ふふ、だからね……こういうことも出来るのね」 プリンセスの優しい掌が、ヒガシドだった少女の股間にそっと伸びた。 「ひゃあああ!」 いきなりの行為に声を上げてしまうが、プリンセスは笑みを崩さず、もう片手でヒガシドだった少女の胸にも手を添え、ゆったりと撫で下ろした…… 「あ……あああ……これって……」 股間と胸にじんわりと何かが染み渡ってくるような感触に、ヒガシドだった少女は目を見張った。 感触としても、鏡に映る様子からも変化は明らかだった― おとなしく引っ込んでいた鼠径部に膨らみが生じ、ほんの少し前までと同様の感触が戻って来て、そこには小粒な少年の性器が盛り上がっていた。 股間の盛り上がりに反比例して、見た目としても控えめなものだった両胸の盛り上がりはよりなだらかになっていき、ついにバニーコートの下には全く平坦な男子の胸があるのみとなった。かすかに喉仏にも膨らみが見られるようになった。 それでいて、ヒガシドだった少女……だった少年の顔は、少女の時のものと寸分違わぬままだった。 「ああ……これが……僕……」 プリンセスは微笑み、少年ヒガシドの想いを代弁するように囁いた。 「そうよ、あなたは美しくも凛々しくもなれる。あなたの中に、少年も少女もいるの。そして大人の女も……」 再度プリンセスの手が少年の股間と胸を揉み始めた。 ついさっきまでとは逆の変化が起こり始め、股間の膨らみは衣装の下の密やかな割れ目に変わり、胸は静かに膨らみ始めた。 だが、変化はそこでは止まらなかった…… 胸のサイズはどんどん大きくなり続けている。 それに対応するようにバニーコートのサイズも変化し、膨らんでいく胸を―ぎりぎり乳首が隠れる程度ではあるが―フォローしていく。 気がつくと、手足がすんなりと伸びていっているのが分かる。 顔立ちは急激に彫りが深くなり、施されたメイクに相応しいものへとなっていく。 ほんの数秒で、少年は少女に、そして大人の女になっていた。 同年代であるプリンセスと肩を並べることで、優雅な金髪の美女と淑やかな黒髪の美女が身を寄せ合って鏡に映っている…… 「これがあなたのバニーガールとしての完成形。お気に召したかしら?」 「は……はい……ああ……今の僕……なんて美しいの……」 「あなたはヒガシドでないものになったの、即ち大人の男ではないもの。代わりにあなたの中には少年と少女と大人の女が同居している。あなたはそのどれにもなれるし、そのどれもがバニーガールとしてのあなたなの…男の子はバニーガールとは言わないかもしれないけど、そのどれもがブレインダメージの従業員であることは間違いないわ」 ヒガシドだった女の背筋に、ぞくりと悪寒が走る。その言葉の意味するところは…… 「ブレインダメージのお客さまは、基本的に大人の女性を目当てに来店なさる方ばかりですけど、あなたのような子がいれば、未成年のバニーガールやバニーガールのかっこうをした美少年を賞味したいという方にもサービスを提供出来るようになるわ」 「え、嫌ぁぁぁ……あ……そんな……そ……それは……」 負債を返すためにブレインダメージで働かされること、それは娼婦となるも同然のことを意味する。そのために女に変えられたが、それだけでなく、少年としてもお客に奉仕しなければならないというのか…… ヒガシドだった女は、嫌悪と恐怖に顔を歪めた…… ……筈だったが、同時にそれはぞっとするほどの期待感ももたらした。 自分に開かれた可能性に、待ち受けるとてつもない快楽に、胸がざわめく…… 「あなたは大人の女として、少女として、少年として、お客様にご奉仕するのよ。男のお客さまにも、女のお客さまにも。三つの形態を持つあなたは、幅広いお客さまの需要にお応え出来るわ」 ステージに再び紫が戻って来ていた。プリンセスと紫は、以前のヒガシドにしたのと同じように、彼女を前後から挟み、身体を擦り合わせ始めた。 「ああ……」 ピンク色の月に照らされ、自身の身体の柔肉を二人の美女の柔肉で揉まれる度に、ヒガシドだった女は、切ない喘ぎ声をあげる。 そして、彼女の身体は次第に少女のそれへと戻っていく。 その身に感じる快感と、身体が変化していくことに伴う快感の相乗効果は、少女の心を容易くとろけさせ、プリンセスの言葉に対して従順なものへと変えていく。 「あなたにはバニーガールとしての新しい名前が必要ね…そう、このピンクの月にちなんでルナというのはどうかしら」 その名を耳にした時、ついにヒガシドの人格は完全に敗北を認めた。 ルナという少女は、柔らかな大人の女二人の肉体に揺られ、その甘美さを堪能していた。 ルナの身体は少女から少年へ、また少女へ、成長して大人の女性へと緩やかに変化を続け、先輩バニーガールが与えてくれる喜びを、それぞれ異なる三つの形態のそれぞれの肉体で受け止め、その快楽に頭脳と魂を焼き尽くしていった。 そんな真っ白になったルナの脳裏に、疑似耳から伝わる言葉が染み込み、彼女にブレインダメージのバニーガールとしての心得を教え込んでいく― 【ひとつ、当店従業員になった者は、負債の回収が終わるまで、当店区画から出てはならない、ひとつ、当店従業員は、当店顧客と合意の上に成立したサービスには、性的なものも含め、必ず応じなければならない、ひとつ、当店従業員は、そのバニーガールとしての職分ごとに定められた研修・トレーニングを常時受けなければならない、ひとつ、当店従業員の給与は、当店区画内への居住費・諸生活費・プリンセスからのサービスという形で支払われる、ひとつ、当店従業員は、オーナー及びプリンセスへの絶対的な服従・忠誠が求められる……】 そして満足げなオーナーの賞賛も、プリンセスの疑似耳に届いていたー 【流石ですわ、アニマの引き出し方と敢えて完全に洗脳をしないことで、変身に幅を持たせたとは、じきにあなたは私も超えるバニーガールメイカーとなることでしょう。ふふ、ルナちゃんを求めるお客さまの抱くアニマは、当然ルナちゃんのような少女である筈。これからはブレインダメージにも、幼い、あどけない、可憐なバニーガールが増えることでしょう……】 そして、まだ幼く、張りの足りない声でルナが、そして対照的に朗々たる声でプリンセスが歌い始める- 「♪Moon is harsh mistress....」 「♪Moon is harsh mistress....mistress is watching us....」 冷酷な夜の女王に全てを捧げることを誓う二人のバニーガールの歌声が、妖艶なピンク色に染まったステージにいつまでも響いていた……
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「……今まで声がかからなかったのはどういうことだ?」
「大変申し訳ありません、”特例職分によるレヴュー”はお客様お一人ずつのみとなっておりまして」

キタダニの威圧的な問いを、泉美は、一切表情を変えずに受け流していた。
プリンセスがいの一番に相手にしたのは自分だという自負があり、他の客に取られまいと気張っていたキタダニだったが、”特例職分”として数回連れ回すことが出来ただけで、いつの間にか彼女の”特例職分”の内容にレヴューショウが加わっていたとは全く知らなかったし、自分以外のお客がそれを楽しんだであろうことは、プライドの高いキタダニには腹に据えかねることだった。ミナミバシやニシアガリといったライバルたちを最近店内で見かけないことから、油断してしまっていた。

一方で、彼女が店のルールで時間制限のある”特例職分”を、魔法で延ばしてくれていることから、彼女が自分に好意を持っていることは明らかであるとキタダニは信じていたから、彼女が新たな”特例職分”のメニューを自分に教えていない、誘っていないことには何か意味か事情があるのだろう、とも思っていた。
”特例職分によるレヴュー”がどういうものかには大いに関心があるが、通常でも十分にゴージャスなステージを展開するブレインダメージでの、プリンセスによる”特例”とあれば、どんな素晴らしいものが堪能出来るかという期待は高まらざるを得ない。

「で、レヴューはどういう内容なんだ?今日は何をやる?」
「今まではダンス、マジック、歌とひと通りやってきております。当店の頂点であるプリンセスは、そのどれをとっても最高のパフォーマーですが……」
泉美はそこで意味深に言葉を区切ってみせ、
「今夜は極めて特別なタイプのレヴューをご用意いたしております。プリンセスによると、これはお披露目が遅れたお詫びも兼ねて、特別にキタダニさまにだけお見せしたいものであるとのことで……」
キタダニはにんまりと笑う。やはりプリンセスは俺にベタぼれなのだ。
「料金は鑑賞のみの基本料金で10チップ、それ以上の追加サービスは応相談となります。よろしいでしょうか?」
キタダニは頷き、せっかちにステージフロアに向かおうとする。泉美はするりとキタダニの行き先に回り込み、自分が先導する位置を崩さない。
「ではこちらへ……」
途中の廊下の壁には《プリンセスとしもべ》の写真が架かっているが、また架け替えられていた。そして、その写真を見て、キタダニは息を呑む―
どう見ても十代……それももしかしたらその前半かもしれない年齢にしか見えない少女がバニーガールとなって、プリンセスの膝の上に座り、恥ずかしげに髪を撫でられていた。
「おい、ちょっと待て、未成ね……おほん! こんな若いバニーガールもいるのか?」
「新人のルナでございます。近いうちに店に出ることになると思います」
これからプリンセスのレヴューに向かおうというのに、予想外の事態にキタダニの心は揺れ動いた。未成年を食い散らかせるというのか。どういう経緯でこんなことを可能にしているのか知らないが、ますますブレインダメージはすごい店だ。あわよくば、プリンセスというメインディッシュ、まだ幼い娘をデザートに……

そんなことを夢想しているうちに、ステージフロアに通される。
泉美が言う通り、お客は自分一人しかいない。案内を待たず、ずかずかと入っていってソファに座る。
案内してきた泉美は、恒例の不払い額の確認を行う。
「先日来までの累計が985.3チップになります。清算なさいますか?」
後だ後、とキタダニは聞き流したが、珍しく泉美は重ねて尋ねた。
「失礼を押して申し上げます。キタダニさまの不払いは相当の額に達しております。これから当店で最高のサービスを提供するに当たり、お尋ねしない訳にはまいりません。本日清算していただけますか?」

キタダニはかっとなった。
この店で自分に対してこんな口を聞いた女はいなかった。
思わずキタダニは泉美の顔面に平手打ちを下した。
「ふざけるな!今さらガタガタ抜かすんでない!お客を相手に、口の利き方に気を付けろ!」
事ここに到っても泉美は一切表情を崩さず、了解しましたとだけ告げ、
「これも既に何度もレヴューをご観覧いただいているキタダニさまには無用のこととは思いますが……ステージ上のパフォーマーには手を触れないようにお願いいたします。よろしいですね?」

内心知ったことではないと思いつつ、キタダニは頷く様子だけ見せ、後はマネージャーの存在を黙殺した。泉美もそれ以上食い下がることはなく、その場を離れた。

今夜のステージは、どこかいつもと違う雰囲気が漂っていた。
ブレインダメージのレヴューは、バニーガールクラブという性質上、セクシーでもあるしゴージャスでもあるから、お客を迎え入れる時点から相応のムード造りをしているのが通例だ。セクシー即ち隠微な雰囲気であっても、決して暗くはない。

だが、今夜のステージフロアは音楽も流されず、客席もソファ席などはいつもの通りでありつつも、余計な飾りつけが排され、照明も色気のないものであり、どこか殺風景なものだった。
お客を全力で歓迎する気がないのか、とキタダニは眉をひそめた。
それでもソファにどっかと座り、酒を注文して、ステージが始まるのを待つ……

やがて、客席側の照明が落とされ、BGMがかかり始めた。
無機的なシンセのドローン音とバスドラムだけのシンプルな、今のステージの雰囲気に似つかわしいBGMだった。音量が次第に上がっていき、姿の見えない泉美によるアナウンスが響いた。
「紳士淑女の皆様、今宵はご来店まことにありがとうございます。これより本日のレヴューを開幕致します。ブレインダメージがプライドを持ってお送りする、ブレインダメージ史上最もエロティックで最も過激なショウを心行くまでご堪能ください」
最もエロティック、最も過激……
その言葉に、キタダニは固唾を飲む。

突然BGMが止まると同時に、ステージを隠していた幕が上がった。
ステージ上には二人のバニーガールがおり、その頭上からピンスポットが二人へと落ちている。

一人は、足を開いて仁王立ちした紫。
今夜の彼女は、艶やかな黒髪を三つ編みのサイドテールにして左肩から流している。
メイクは悩ましいパープルを基調としたもので、まさに彼女の名前の通りのもの。それが人間離れした黄金色の瞳を一層映えさせていた。
その頭に飾り付けられている疑似耳こそいつものバニーガールのそれであるものの、それ以外の衣装はいつもとは異なる装いだった。

上半身では胸の巨大な双球を受け止め、脇ではそのラインをぴっちりとなぞり、下半身では股間へと鋭く切れ込むハイレグの黒の衣装は、その形こそいつものバニーコートと同じだが、エナメル製ではなく黒のレザーで、よりタイトに彼女の胴の細さを強調している。
へそ辺りに縦の切れ込みが入り、素肌が覗いており、その切れ込みの上を三本のストラップが斜めに走り、衣装を前で留めるようになっていた。
切れ込み穴から下にはファスナーが走り、股間にまで、そして恐らくは尻にまで、至っている。
バニーガールらしい網タイツやストッキングは履いておらず、腰から太ももの付け根に到る部位は生葉だが剥き出しになっていた。
股間の下10センチほどに迫るところにまで来ているのは、エナメルのサイハイロングブーツだ。もちろん、そのヒールは6インチはある代物である。
腕には、エナメル製のロンググローブ。二の腕までを黒く染めている。
いつもであれば白い清潔なシャツカラーが巻かれている首には、銀の飾り付けが打ち付けられた黒レザーのカラー。
首、胴、腕、足を、光沢感ある黒が身体の線に沿って染め、剥き出しになった肌の練り絹のような白さを異様なまでに美しく見せている。
名前の通りの紫色に彩られた唇には不敵で傲慢な笑みが浮かび、その手にはやはりレザーの乗馬鞭が握られている。

その前に跪いているもう一人のバニーガールは、顔に黒の目隠しを施されているので最初は誰か分からなかったが、その豊かな金髪と美しい高い鼻からプリンセスだとすぐに特定出来た。
彼女の衣装は、通常のバニーガールのそれとほぼ変わらなかったが、手首のシャツカフスと首のカフスはレザーの手枷とカラーに替えられており、背中に回され重ねられた手首は、枷の金具と金具を繋ぐことで彼女の自由を奪っていた。
首のカラーには、長いストラップが取り付けられ、その端を紫が鞭と共に握っている。

泉美のアナウンスが響いた―「紫とプリンセスによるSMショウでございます。存分にご堪能下さい」

最もエロティックで、最も過激……
その言葉に嘘はなかった。
セクシーなレヴューは今まで何度も観てきたが、このような背徳的にエロティックなショウはなかった。
しかも、それを演じるのがプリンセス……
キタダニはごくりと唾を呑みこんだ。

「魔法の国は敵国に滅ぼされ、そのプリンセスは敵国の女将軍の捕虜となってしまいました。女将軍は自らプリンセスを拷問し、その気高く美しい体と心を我が物にし、奴隷としようとしています。哀れなプリンセスは、どこまで耐えられるのでしょうか」
ナレーターの泉美が”設定”を読み上げる。

残忍な笑みを浮かべた紫が、プリンセスの背中に乗馬鞭の先端を当てがった。目隠しにより何も見えないプリンセスだが、その感触で何をされるか察したらしく、明確に怯えた表情を見せる…

ビシッ!
鞭が音を立て、プリンセスの剥き出しの背中を打った。
もちろん演技であろうから、相当に手加減した打ち方でしかない筈だが、プリンセスの顔に生じた苦痛による歪みは、演技だとすれば迫真のもの、いや、本当に痛みを覚えているものとしか見えない。

鞭が二度、三度と叩きつけられ、乾いた無情な音がステージに響く。
その度に、プリンセスが短く呻きを上げ、その顔を苦痛に歪ませる。それを見るキタダニも、興奮に息を呑む。

目を凝らして見てみると、プリンセスの背中には赤い腫れが生じ、顔に浮かぶ苦悶の色も演技ではない真剣なものだった。
にも関わらず、痛みに身をよじらせながらも、プリンセスは鞭を受けるのに甘んじ、逃げるような素振りを一切見せない。それはプリンセスとしての誇りなのだろう……

いや、真っ赤になったプリンセスの顔は、痛みに耐えるものであると同時に、興奮に上気したものになりつつある……のではないか。
目隠しがあるのではっきりは分からないが……

ふふ、と紫が笑った。ステージ上の紫の声は聞こえないが、その口の動きに合わせ、泉美がナレーションする。
「ふふ、可愛い娘。必死に耐えているのね……でも無駄よ。あなたが痛みに強いのは知っている……それはあなたが痛みを味わうのが好きだから。そうでしょう?」
泉美がプリンセスの側も一人二役でナレーションする。「くっ……私はプリンセス、決してあなたの責めには屈しません。痛めつけられたとしても……うっ!」

更なる鞭の一撃がプリンセスを黙らせ、プリンセスの言葉が途切れる様子も泉美の声の演技が再現する。
紫が、鞭を振るう手つきとは対照的な優しさ―それはプライベートでの紫とプリンセスの関係のままのものだろう―で、プリンセスの髪を撫でる。

「そんなことを言って……ここを見れば分かるわ」
そう言って、紫はプリンセスの目隠しを外した。
「くっ……」
痛みに泣きはらした目が露わになる。

そして紫は鞭による懲罰を再開した……ひと打ちごとにプリンセスが身悶えるが、それは痛みによるものだけではなく、陶酔によるものであることが、プリンセスの瞳が露わになったことで明らかになった……
鞭を打たれた瞬間、痛みにこわばった肉体が、痛みが引いて弛緩していくのと同時に、目許がとろんとなってきて、その表情に言い知れない恍惚が滲み出てきている。

紫……に代わって泉美の声が囁く―「いやらしい娘ね……ほら、目許もここもこんなにびしょびしょにして」
プリンセスの股関から腿にかけてが水気を帯び、舞台照明を受けて光っているのがキタダニからも見て取れた。汗…だけではないだろう。
いやらしく上気した顔も演技でなかろう。本当に感じているのだ。

それを証明するように泉美の声が言う。「いやらしい娘……ご褒美よ」
そう言って、プリンセスのカラーに取り付けたストラップを引き、紫はプリンセスの顔面を自分のレザーの衣装の股間に押し付けさせた。
「舐めなさい」
紫に代わって泉美の声が命じ、プリンセスは素直に従う。

両手を後ろで拘束され、膝立ちになった姿勢で、舌のみを上下させ、プリンセスは女将軍に従属する態度を示した。
桃色の舌が、冷たい光沢を放つ黒レザーを舐めていくコントラストは、異様なエロティックさを放っていた。
プリンセスは身体の軸を少しずらして、衣装から離れ、紫の素肌のビキニラインをも舐める。
そんなプリンセスはどんな思いを抱いているのだろう…思わずキタダニは想像をたくましくしてしまう。
あくまでショウであり演技として割り切っているのか。それとも、プライベートでも紫とはここまで深い仲なのか。
あるいは、演技の中でのプリンセスは、己の身を奴隷に堕とし誇りを捨ててでも祖国を守ろうとしているのか。
あるいは、既に女将軍の与える苦痛と快楽に屈してしまい、自らの意志で奉仕しているのか……
いずれにしても、プリンセスのプライドが辱めに揺らぐ様は、キタダニには堪らなかった。

ステージアシスタントも兼ねる泉美が、トレーに載せたいくつかの器具を運んできた。紫はプリンセスの顎に手をやり、舌での奉仕を中断させると、鞭をトレーに置いて、代わりに何かを取り上げた-
それは一枚の厚紙であり、何かが取り付けてある。それが羽根のついた針だということにキタダニは気がついた。

紫は、再度ストラップを引いてプリンセスの顔を引き寄せ、その唇を自身のそれで塞いだ。
それはごく穏やかで優しいキスだった。プリンセスの緊張と疲労がいくらか和らいだ様子だった…

プリンセスの油断を見越していたかのように、紫は厚紙から羽根を取り、その羽根の針をプリンセスの背中に刺した…

痛みにプリンセスが身体を強張らせる。
紫は、意地悪げにも優しげにも見える笑みを崩さず、痛みに苦しむプリンセスを慰めるように再びプリンセスにキスした。そして、二枚目の羽根を突き刺す。そして、またキスを施す……

……厚紙から羽根が全て取り除かれ、プリンセスの背中へと植え替えられた。
背中のところどころに羽根を突き刺され、若干の血を滲ませ、痛みに喘いでいるその悲壮な様子は、実際には羽を植え付けられたのであるが、羽根を強引にもぎ取られた天使のようにも見えた。
いつ果てるともない拷問に耐えるその姿は、キタダニの目には―そして恐らく紫の目にも―とてつもなく美しく、同時に、更なる嗜虐心を煽るものでもあった……

今度は羽根を抜いていく作業が始まり、痛みに身をすくませながら、プリンセスは必死に耐え、そしてやはりどこか恍惚とした様子を覗かせている。
「よく我慢したわね、ご褒美に気持ちよくしてあげましょう」
泉美のナレーションと共に、紫はプリンセスの手枷を外し、乗馬鞭を再び手にしてそれで自分の足元を指した。プリンセスは自由になった手をついて、紫の足元に四つん這いになる。

流石に充分に痛めつけられた背中は、拷問の対象からは外れた。
今度はバニーコートに包まれたプリンセスの尻に、鞭が振り下ろされた。短いが鋭い一撃に、またもプリンセスが苦悶の叫びをあげる。
二度ほど叩いて、紫はしゃがみこんだ。鞭の先端をプリンセスの腰に当て、網タイツに食い込ませる。
網目が破られ、鞭の先端がタイツの内側とプリンセスの生肌の間に割って入る。それはそのままバニーコートの鼠径部にまで侵入した。

紫は、強引にバニーコートをずらし、剥き出しになったプリンセスの女性器に鞭の先端を挿し入れた。
「ああっ……」
これは泉美によるナレーションではなかった。
プリンセス本人の喘ぎ声がはっきりとステージフロア全体に響き渡った。
プリンセスが快楽に酔っているのは最早隠しようもなかった。
苦痛による拷問から解放されたからというだけではない。
今までの執拗な責めにより、紫の施すものであれば何であろうとすっかり快感として受け容れる姿勢が出来上がっているのは明らかだった。

紫はというと、余裕たっぷりに乗馬鞭を前後させ、プリンセスの中をじっくりと攻略していく。
尻を震わせながら女将軍の手管に酔いしれ、そんな無様な姿を晒すプリンセスは、最早先ほどまでの毅然とした彼女とは同一人物とは思えなかった。
それでいて、その美しさはいささかも損なわれていないのだ。
被虐の美―そんなものがあるとしたら、まさに今のプリンセスを表すのに相応しい言葉と言えた。

プリンセスが興奮と被虐の快感を極めているのと同様に、客席のキタダニも、興奮と嗜虐性を極めつつあった。
自分もプリンセスを痛めつけたいし犯したい……そんな思いが頂点に達していた。
ステージによじ登ってプリンセスを……だが、そんなことが許される筈もない。もどかしい思いに、キタダニもまた身もだえする……

―そんな時だった。
キタダニの右手首に冷たい刺激が走った。
最初は気に留めなかったが、ステージで這いつくばって犯されるままになっているプリンセスが、哀願するような目つきで自分を見つめていることに気づき、キタダニは、以前、プリンセスがその魔法で時間を止めた時のことを思い出した
―あの時プリンセスが自分の右手首に残したキスマークが再び浮かび上がり、シグナルのように脈動を放っていた。
思わず、キタダニは虚空に手を差し伸べていた。そして、プリンセスの唇が何かを呟く……

次の瞬間、ステージフロアからは、紫の姿が消えていた。
いや、ステージ上のプリンセスと客席のキタダニ以外の姿は消えていた。

キタダニが壁に架かった時計を振り返ると、予想通りだった―秒針は止まり、動いていない。
激しい責めにより、まだ荒い息をついているが、プリンセスはキタダニに向けて微笑みかけた。
「……ここからは、通常サービスの制限時間外……」
キタダニは改めて確信した-やはりプリンセスは俺にベタぼれなのだ。

「……今まで声がかからなかったのはどういうことだ?」 「大変申し訳ありません、”特例職分によるレヴュー”はお客様お一人ずつのみとなっておりまして」 キタダニの威圧的な問いを、泉美は、一切表情を変えずに受け流していた。 プリンセスがいの一番に相手にしたのは自分だという自負があり、他の客に取られまいと気張っていたキタダニだったが、”特例職分”として数回連れ回すことが出来ただけで、いつの間にか彼女の”特例職分”の内容にレヴューショウが加わっていたとは全く知らなかったし、自分以外のお客がそれを楽しんだであろうことは、プライドの高いキタダニには腹に据えかねることだった。ミナミバシやニシアガリといったライバルたちを最近店内で見かけないことから、油断してしまっていた。 一方で、彼女が店のルールで時間制限のある”特例職分”を、魔法で延ばしてくれていることから、彼女が自分に好意を持っていることは明らかであるとキタダニは信じていたから、彼女が新たな”特例職分”のメニューを自分に教えていない、誘っていないことには何か意味か事情があるのだろう、とも思っていた。 ”特例職分によるレヴュー”がどういうものかには大いに関心があるが、通常でも十分にゴージャスなステージを展開するブレインダメージでの、プリンセスによる”特例”とあれば、どんな素晴らしいものが堪能出来るかという期待は高まらざるを得ない。 「で、レヴューはどういう内容なんだ?今日は何をやる?」 「今まではダンス、マジック、歌とひと通りやってきております。当店の頂点であるプリンセスは、そのどれをとっても最高のパフォーマーですが……」 泉美はそこで意味深に言葉を区切ってみせ、 「今夜は極めて特別なタイプのレヴューをご用意いたしております。プリンセスによると、これはお披露目が遅れたお詫びも兼ねて、特別にキタダニさまにだけお見せしたいものであるとのことで……」 キタダニはにんまりと笑う。やはりプリンセスは俺にベタぼれなのだ。 「料金は鑑賞のみの基本料金で10チップ、それ以上の追加サービスは応相談となります。よろしいでしょうか?」 キタダニは頷き、せっかちにステージフロアに向かおうとする。泉美はするりとキタダニの行き先に回り込み、自分が先導する位置を崩さない。 「ではこちらへ……」 途中の廊下の壁には《プリンセスとしもべ》の写真が架かっているが、また架け替えられていた。そして、その写真を見て、キタダニは息を呑む― どう見ても十代……それももしかしたらその前半かもしれない年齢にしか見えない少女がバニーガールとなって、プリンセスの膝の上に座り、恥ずかしげに髪を撫でられていた。 「おい、ちょっと待て、未成ね……おほん! こんな若いバニーガールもいるのか?」 「新人のルナでございます。近いうちに店に出ることになると思います」 これからプリンセスのレヴューに向かおうというのに、予想外の事態にキタダニの心は揺れ動いた。未成年を食い散らかせるというのか。どういう経緯でこんなことを可能にしているのか知らないが、ますますブレインダメージはすごい店だ。あわよくば、プリンセスというメインディッシュ、まだ幼い娘をデザートに…… そんなことを夢想しているうちに、ステージフロアに通される。 泉美が言う通り、お客は自分一人しかいない。案内を待たず、ずかずかと入っていってソファに座る。 案内してきた泉美は、恒例の不払い額の確認を行う。 「先日来までの累計が985.3チップになります。清算なさいますか?」 後だ後、とキタダニは聞き流したが、珍しく泉美は重ねて尋ねた。 「失礼を押して申し上げます。キタダニさまの不払いは相当の額に達しております。これから当店で最高のサービスを提供するに当たり、お尋ねしない訳にはまいりません。本日清算していただけますか?」 キタダニはかっとなった。 この店で自分に対してこんな口を聞いた女はいなかった。 思わずキタダニは泉美の顔面に平手打ちを下した。 「ふざけるな!今さらガタガタ抜かすんでない!お客を相手に、口の利き方に気を付けろ!」 事ここに到っても泉美は一切表情を崩さず、了解しましたとだけ告げ、 「これも既に何度もレヴューをご観覧いただいているキタダニさまには無用のこととは思いますが……ステージ上のパフォーマーには手を触れないようにお願いいたします。よろしいですね?」 内心知ったことではないと思いつつ、キタダニは頷く様子だけ見せ、後はマネージャーの存在を黙殺した。泉美もそれ以上食い下がることはなく、その場を離れた。 今夜のステージは、どこかいつもと違う雰囲気が漂っていた。 ブレインダメージのレヴューは、バニーガールクラブという性質上、セクシーでもあるしゴージャスでもあるから、お客を迎え入れる時点から相応のムード造りをしているのが通例だ。セクシー即ち隠微な雰囲気であっても、決して暗くはない。 だが、今夜のステージフロアは音楽も流されず、客席もソファ席などはいつもの通りでありつつも、余計な飾りつけが排され、照明も色気のないものであり、どこか殺風景なものだった。 お客を全力で歓迎する気がないのか、とキタダニは眉をひそめた。 それでもソファにどっかと座り、酒を注文して、ステージが始まるのを待つ…… やがて、客席側の照明が落とされ、BGMがかかり始めた。 無機的なシンセのドローン音とバスドラムだけのシンプルな、今のステージの雰囲気に似つかわしいBGMだった。音量が次第に上がっていき、姿の見えない泉美によるアナウンスが響いた。 「紳士淑女の皆様、今宵はご来店まことにありがとうございます。これより本日のレヴューを開幕致します。ブレインダメージがプライドを持ってお送りする、ブレインダメージ史上最もエロティックで最も過激なショウを心行くまでご堪能ください」 最もエロティック、最も過激…… その言葉に、キタダニは固唾を飲む。 突然BGMが止まると同時に、ステージを隠していた幕が上がった。 ステージ上には二人のバニーガールがおり、その頭上からピンスポットが二人へと落ちている。 一人は、足を開いて仁王立ちした紫。 今夜の彼女は、艶やかな黒髪を三つ編みのサイドテールにして左肩から流している。 メイクは悩ましいパープルを基調としたもので、まさに彼女の名前の通りのもの。それが人間離れした黄金色の瞳を一層映えさせていた。 その頭に飾り付けられている疑似耳こそいつものバニーガールのそれであるものの、それ以外の衣装はいつもとは異なる装いだった。 上半身では胸の巨大な双球を受け止め、脇ではそのラインをぴっちりとなぞり、下半身では股間へと鋭く切れ込むハイレグの黒の衣装は、その形こそいつものバニーコートと同じだが、エナメル製ではなく黒のレザーで、よりタイトに彼女の胴の細さを強調している。 へそ辺りに縦の切れ込みが入り、素肌が覗いており、その切れ込みの上を三本のストラップが斜めに走り、衣装を前で留めるようになっていた。 切れ込み穴から下にはファスナーが走り、股間にまで、そして恐らくは尻にまで、至っている。 バニーガールらしい網タイツやストッキングは履いておらず、腰から太ももの付け根に到る部位は生葉だが剥き出しになっていた。 股間の下10センチほどに迫るところにまで来ているのは、エナメルのサイハイロングブーツだ。もちろん、そのヒールは6インチはある代物である。 腕には、エナメル製のロンググローブ。二の腕までを黒く染めている。 いつもであれば白い清潔なシャツカラーが巻かれている首には、銀の飾り付けが打ち付けられた黒レザーのカラー。 首、胴、腕、足を、光沢感ある黒が身体の線に沿って染め、剥き出しになった肌の練り絹のような白さを異様なまでに美しく見せている。 名前の通りの紫色に彩られた唇には不敵で傲慢な笑みが浮かび、その手にはやはりレザーの乗馬鞭が握られている。 その前に跪いているもう一人のバニーガールは、顔に黒の目隠しを施されているので最初は誰か分からなかったが、その豊かな金髪と美しい高い鼻からプリンセスだとすぐに特定出来た。 彼女の衣装は、通常のバニーガールのそれとほぼ変わらなかったが、手首のシャツカフスと首のカフスはレザーの手枷とカラーに替えられており、背中に回され重ねられた手首は、枷の金具と金具を繋ぐことで彼女の自由を奪っていた。 首のカラーには、長いストラップが取り付けられ、その端を紫が鞭と共に握っている。 泉美のアナウンスが響いた―「紫とプリンセスによるSMショウでございます。存分にご堪能下さい」 最もエロティックで、最も過激…… その言葉に嘘はなかった。 セクシーなレヴューは今まで何度も観てきたが、このような背徳的にエロティックなショウはなかった。 しかも、それを演じるのがプリンセス…… キタダニはごくりと唾を呑みこんだ。 「魔法の国は敵国に滅ぼされ、そのプリンセスは敵国の女将軍の捕虜となってしまいました。女将軍は自らプリンセスを拷問し、その気高く美しい体と心を我が物にし、奴隷としようとしています。哀れなプリンセスは、どこまで耐えられるのでしょうか」 ナレーターの泉美が”設定”を読み上げる。 残忍な笑みを浮かべた紫が、プリンセスの背中に乗馬鞭の先端を当てがった。目隠しにより何も見えないプリンセスだが、その感触で何をされるか察したらしく、明確に怯えた表情を見せる… ビシッ! 鞭が音を立て、プリンセスの剥き出しの背中を打った。 もちろん演技であろうから、相当に手加減した打ち方でしかない筈だが、プリンセスの顔に生じた苦痛による歪みは、演技だとすれば迫真のもの、いや、本当に痛みを覚えているものとしか見えない。 鞭が二度、三度と叩きつけられ、乾いた無情な音がステージに響く。 その度に、プリンセスが短く呻きを上げ、その顔を苦痛に歪ませる。それを見るキタダニも、興奮に息を呑む。 目を凝らして見てみると、プリンセスの背中には赤い腫れが生じ、顔に浮かぶ苦悶の色も演技ではない真剣なものだった。 にも関わらず、痛みに身をよじらせながらも、プリンセスは鞭を受けるのに甘んじ、逃げるような素振りを一切見せない。それはプリンセスとしての誇りなのだろう…… いや、真っ赤になったプリンセスの顔は、痛みに耐えるものであると同時に、興奮に上気したものになりつつある……のではないか。 目隠しがあるのではっきりは分からないが…… ふふ、と紫が笑った。ステージ上の紫の声は聞こえないが、その口の動きに合わせ、泉美がナレーションする。 「ふふ、可愛い娘。必死に耐えているのね……でも無駄よ。あなたが痛みに強いのは知っている……それはあなたが痛みを味わうのが好きだから。そうでしょう?」 泉美がプリンセスの側も一人二役でナレーションする。「くっ……私はプリンセス、決してあなたの責めには屈しません。痛めつけられたとしても……うっ!」 更なる鞭の一撃がプリンセスを黙らせ、プリンセスの言葉が途切れる様子も泉美の声の演技が再現する。 紫が、鞭を振るう手つきとは対照的な優しさ―それはプライベートでの紫とプリンセスの関係のままのものだろう―で、プリンセスの髪を撫でる。 「そんなことを言って……ここを見れば分かるわ」 そう言って、紫はプリンセスの目隠しを外した。 「くっ……」 痛みに泣きはらした目が露わになる。 そして紫は鞭による懲罰を再開した……ひと打ちごとにプリンセスが身悶えるが、それは痛みによるものだけではなく、陶酔によるものであることが、プリンセスの瞳が露わになったことで明らかになった…… 鞭を打たれた瞬間、痛みにこわばった肉体が、痛みが引いて弛緩していくのと同時に、目許がとろんとなってきて、その表情に言い知れない恍惚が滲み出てきている。 紫……に代わって泉美の声が囁く―「いやらしい娘ね……ほら、目許もここもこんなにびしょびしょにして」 プリンセスの股関から腿にかけてが水気を帯び、舞台照明を受けて光っているのがキタダニからも見て取れた。汗…だけではないだろう。 いやらしく上気した顔も演技でなかろう。本当に感じているのだ。 それを証明するように泉美の声が言う。「いやらしい娘……ご褒美よ」 そう言って、プリンセスのカラーに取り付けたストラップを引き、紫はプリンセスの顔面を自分のレザーの衣装の股間に押し付けさせた。 「舐めなさい」 紫に代わって泉美の声が命じ、プリンセスは素直に従う。 両手を後ろで拘束され、膝立ちになった姿勢で、舌のみを上下させ、プリンセスは女将軍に従属する態度を示した。 桃色の舌が、冷たい光沢を放つ黒レザーを舐めていくコントラストは、異様なエロティックさを放っていた。 プリンセスは身体の軸を少しずらして、衣装から離れ、紫の素肌のビキニラインをも舐める。 そんなプリンセスはどんな思いを抱いているのだろう…思わずキタダニは想像をたくましくしてしまう。 あくまでショウであり演技として割り切っているのか。それとも、プライベートでも紫とはここまで深い仲なのか。 あるいは、演技の中でのプリンセスは、己の身を奴隷に堕とし誇りを捨ててでも祖国を守ろうとしているのか。 あるいは、既に女将軍の与える苦痛と快楽に屈してしまい、自らの意志で奉仕しているのか…… いずれにしても、プリンセスのプライドが辱めに揺らぐ様は、キタダニには堪らなかった。 ステージアシスタントも兼ねる泉美が、トレーに載せたいくつかの器具を運んできた。紫はプリンセスの顎に手をやり、舌での奉仕を中断させると、鞭をトレーに置いて、代わりに何かを取り上げた- それは一枚の厚紙であり、何かが取り付けてある。それが羽根のついた針だということにキタダニは気がついた。 紫は、再度ストラップを引いてプリンセスの顔を引き寄せ、その唇を自身のそれで塞いだ。 それはごく穏やかで優しいキスだった。プリンセスの緊張と疲労がいくらか和らいだ様子だった… プリンセスの油断を見越していたかのように、紫は厚紙から羽根を取り、その羽根の針をプリンセスの背中に刺した… 痛みにプリンセスが身体を強張らせる。 紫は、意地悪げにも優しげにも見える笑みを崩さず、痛みに苦しむプリンセスを慰めるように再びプリンセスにキスした。そして、二枚目の羽根を突き刺す。そして、またキスを施す…… ……厚紙から羽根が全て取り除かれ、プリンセスの背中へと植え替えられた。 背中のところどころに羽根を突き刺され、若干の血を滲ませ、痛みに喘いでいるその悲壮な様子は、実際には羽を植え付けられたのであるが、羽根を強引にもぎ取られた天使のようにも見えた。 いつ果てるともない拷問に耐えるその姿は、キタダニの目には―そして恐らく紫の目にも―とてつもなく美しく、同時に、更なる嗜虐心を煽るものでもあった…… 今度は羽根を抜いていく作業が始まり、痛みに身をすくませながら、プリンセスは必死に耐え、そしてやはりどこか恍惚とした様子を覗かせている。 「よく我慢したわね、ご褒美に気持ちよくしてあげましょう」 泉美のナレーションと共に、紫はプリンセスの手枷を外し、乗馬鞭を再び手にしてそれで自分の足元を指した。プリンセスは自由になった手をついて、紫の足元に四つん這いになる。 流石に充分に痛めつけられた背中は、拷問の対象からは外れた。 今度はバニーコートに包まれたプリンセスの尻に、鞭が振り下ろされた。短いが鋭い一撃に、またもプリンセスが苦悶の叫びをあげる。 二度ほど叩いて、紫はしゃがみこんだ。鞭の先端をプリンセスの腰に当て、網タイツに食い込ませる。 網目が破られ、鞭の先端がタイツの内側とプリンセスの生肌の間に割って入る。それはそのままバニーコートの鼠径部にまで侵入した。 紫は、強引にバニーコートをずらし、剥き出しになったプリンセスの女性器に鞭の先端を挿し入れた。 「ああっ……」 これは泉美によるナレーションではなかった。 プリンセス本人の喘ぎ声がはっきりとステージフロア全体に響き渡った。 プリンセスが快楽に酔っているのは最早隠しようもなかった。 苦痛による拷問から解放されたからというだけではない。 今までの執拗な責めにより、紫の施すものであれば何であろうとすっかり快感として受け容れる姿勢が出来上がっているのは明らかだった。 紫はというと、余裕たっぷりに乗馬鞭を前後させ、プリンセスの中をじっくりと攻略していく。 尻を震わせながら女将軍の手管に酔いしれ、そんな無様な姿を晒すプリンセスは、最早先ほどまでの毅然とした彼女とは同一人物とは思えなかった。 それでいて、その美しさはいささかも損なわれていないのだ。 被虐の美―そんなものがあるとしたら、まさに今のプリンセスを表すのに相応しい言葉と言えた。 プリンセスが興奮と被虐の快感を極めているのと同様に、客席のキタダニも、興奮と嗜虐性を極めつつあった。 自分もプリンセスを痛めつけたいし犯したい……そんな思いが頂点に達していた。 ステージによじ登ってプリンセスを……だが、そんなことが許される筈もない。もどかしい思いに、キタダニもまた身もだえする…… ―そんな時だった。 キタダニの右手首に冷たい刺激が走った。 最初は気に留めなかったが、ステージで這いつくばって犯されるままになっているプリンセスが、哀願するような目つきで自分を見つめていることに気づき、キタダニは、以前、プリンセスがその魔法で時間を止めた時のことを思い出した ―あの時プリンセスが自分の右手首に残したキスマークが再び浮かび上がり、シグナルのように脈動を放っていた。 思わず、キタダニは虚空に手を差し伸べていた。そして、プリンセスの唇が何かを呟く…… 次の瞬間、ステージフロアからは、紫の姿が消えていた。 いや、ステージ上のプリンセスと客席のキタダニ以外の姿は消えていた。 キタダニが壁に架かった時計を振り返ると、予想通りだった―秒針は止まり、動いていない。 激しい責めにより、まだ荒い息をついているが、プリンセスはキタダニに向けて微笑みかけた。 「……ここからは、通常サービスの制限時間外……」 キタダニは改めて確信した-やはりプリンセスは俺にベタぼれなのだ。
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興奮に駆られるまま、キタダニはステージへと昇った。
そしてプリンセスの秘部に押し込まれている乗馬鞭を抜いた。

「あうぅン!」
プリンセスが身を震わせて反応する。だがキタダニは彼女に休む暇を与えなかった‐
バシッ!鞭が振り下ろされる。

「あぁぁぁッ!」
二度、三度とキタダニは繰り返し鞭を振るった。
それはまだパフォーマンス上のパートナーに気を遣った紫の鞭裁きとは異なり、荒々しい、男性の攻撃性をそのまま背負った一撃であり、一打される度に、プリンセスの背中の白い肌の上に赤いみみず腫れが生じていく。
既に針を刺された箇所に鞭が振るわれることで、痛々しく血が滲んでくる。

女性の、バニーガールの、プリンセスの美しさに心かき乱されつつ、性欲を燃え上がらせつつ、キタダニは、女性の美しさに惑わされることに喜びと同時に同じくらい征服欲もかき立てられていた。
男として女に暴力を振るい、傷つけるのは当然の権利であり、至上の喜びであるという強烈な一念が、今のキタダニを支配していた。
暴力性を発散させればさせるほど、キタダニの興奮は燃え上がっていき、股間は鋼鉄のように固く張り詰めた。

プリンセスは激しく悶えているが、それはもう痛みによるものか快楽によるものか分からなくなっていた。
汗と涙で顔を濡らし、必死に耐えているが、それは痛みに耐えているのか、快楽により絶頂するのを堪えているのか分からなくなっていた。いや、もうその区別もプリンセス自身つかなくなっているのかもしれない……

キタダニは、プリンセスのカラーに取り付けられたストラップに手を伸ばし、彼女の顔を引き寄せた。力なく、プリンセスはされるがままとなる。
キタダニはズボンのジッパーを下ろすと、いきり立つ男根を些か苦労しながら引っ張り出し、プリンセスの口に押し込んだ。

痛みから解放された代わりに、喉の奥まで串刺しにせんばかりの男性器を突っ込まれ、プリンセスは呻きながら、それを一身にしゃぶった。
それが痛みか快感かは分からないが、とろんとなったプリンセスの目は、まだ彼女が鞭がもたらした刺激に酔っているのが分かり、その状態のプリンセスは盲目的にキタダニのものに奉仕し続けた。依然、プリンセスを征服し続けている感慨に、キタダニは満足する。

「うくっ…」
温かく湿ったプリンセスの口腔の心地よさに、キタダニは達しそうになるが、今終わってはならない、と彼女の口から男根を引き抜いた。

「ケツを向けろ」
プリンセスは素直に四つん這いになり、腰を高く突き上げた。既に尻周りの網タイツは破られている。

キタダニは、その逞しい男根を猛り狂わせたまま、背後からプリンセスに近づいていく。
バニーコートを強引に手でずらすと、蟻の門渡りの向こうに、快楽の蜜壺が待ち構えているのが見える……

「ああああああっ!」
冷酷にも一切の前戯もなく、キタダニは一気に根元まで押し込み、プリンセスは再び大きな悲鳴をあげた。
痛みによるものなのか快楽によるものなのかは分からなかった。
キタダニには、ただただ相手には何の愛も快楽も与えず、女体を征服すること、己のみが快楽を貪ることしか考えになかった。キタダニは腰を振り、プリンセスの下半身を圧倒していく。

「ひぃっ……」
「どうだ、プリンセス……俺のは……いいだろ……う……」

プリンセスは苦悶の表情で悲鳴を噛み殺す。
キタダニはひたすらに激しく打ち付ける。
もはや相手がプリンセスであろうとなかろうと、キタダニにとってはどうでもよかった。
バニーガールとは、畢竟、女にしてウサギであり、ただキタダニが男としての欲を満たすためだけの獣でしかなかった。
その興奮と勝利の感動が頂点に達し、同時にキタダニは絶頂を迎えてプリンセスの中に大量の精をぶちまけた……

感動と快感がキタダニの心身を打ちのめし、痺れさせる。
と同時に、右手首にあの脈動が走った。
今自分が感じているこの歓喜が全てこの脈動から発していることにキタダニは気づき、そのリズムに身を委ねながら意識を失った……

―どれくらいの時間が経ったのか。キタダニは目を覚ました。
ステージの上にプリンセスの姿は無かった。

客席に座っている者もいない。自分しか客がいなかったのだから当然だ……
まるで全てが夢だったかのようだ…いや、それは間違いなく夢だったと、キタダニは思うしかなかった。自分が今まで見ていたものは現実ではなく、だがしかしそれにしてはあまりにも生々しい記憶として脳裏に残っている。これほどの性的快楽、満足感を覚えたことは、キタダニの全人生を振り返ってもなかった……
頭を振りながらキタダニは立ち上がった。ふと傍らを見ると、泉美が座っている。

「いかがでしたでしょうか?存分にご堪能いただけたでしょうか?」
「あ、ああ……悪くは……なかった……悪くはなかったな……まあまあだ……」
満足している様子を気取られたくなく、やや目を逸らし気味に答える。

「では、お会計になります。今回は、ステージに上がった、パフォーマーの身体に触れた、パフォーマー―や僭越ながらこの私に―暴力を振るった、等、当店のルールを破った罰則金も含んでおります。126915.09チップになります。これ以上の貸し付けは不可能ですので、本日は即金でお支払いください」

キタダニは目をかっと見開き、怒りを露にした。
思わず、また泉美を殴りつけそうになったが、流石にここはじっと堪えた。
とはいえ、こんな法外な金額の請求が許される筈がない。ここは絶対に払わずに押し通す、とキタダニは、一層頑なになった。

同時に、あることを思い出す。にやりと笑い、キタダニは言った‐
「こんな額の筈はない、俺が受けたサービスは、プリンセスが私的に、時間外にしたのがかなりある筈だからな」

だが、この発言は逆効果だった。泉美は全く表情を変えずに答えた。
「おや、困りますね。そのようなルール違反を犯しておられたとは。その分の罰則金もいたただかなくては」
しまった、とキタダニは青くなる。
そして気づく―これは最初から自分を嵌めるための罠だったのではないか。泉美も、この事実はずっと前から知っていたのではないか。

「お支払いいただけませんか?お支払いいただけないようでしたら、代替案を提案させていただきます。当店流の返済、即ち働いて返済していただくことをご提案・ご推奨させていただきます。つまり、バニーガールになり、当店の従業員になっていただくということです」
バニーガールになる?どういうことだ?想像外の言葉に、キタダニは戸惑った。

「私からご説明いたしますわ」
声が響く。姿は見えないが、プリンセスだった。

「当クラブのバニーガールの8割以上は、元々は男性ですの。キタダニさまと同様に、当クラブでの負債を払いきれなくなったお客さまには、魔法によりバニーガールとなっていただき、当クラブの従業員として働くことで返済をしていただいております……返済が終わっても、退職した娘は一人もいないんですけどね、うふふ」
プリンセスの声はステージの上方から聞こえてくるようだったが、キタダニの耳には、エコーがかかるように、微妙な残響を残し、その心に染みこむように響く。
「魔法がかかれば、途端にあなたも絶世の美女に。いまのあなたがどんな男性であろうと、男なら必ず心に理想の女性像を抱くもの。あなた自身を、その理想の姿に変えて差し上げますわ。あなたがこの世で最も美しいと思う女性…いえ、この世には存在しないまでに美しい女性になって、あなたは男どもを惑わすの」
この言葉に、キタダニはぞっとする。それをプリンセスの言葉が裏書きする。

「先ほどのプレイからも伺えましたわ。キタダニさまはサディストでいらっしゃるのね。そんなサディストの貴男が求めているのは、どんな理想の女性なのかしら……」
「ダメだ!そんなことは認めない……俺は絶対女にもマゾにもならないぞ!」
「うふふ、そんなことを言っても、それこそダメですわ。でも安心して。あなたの身体だけでなく、あなたの心も認識も全て書き換えられます。あなたは、男性としての今のあなたにとって最も都合の良い性格の、淫らな女になるの、バニーガールとして必要な知識と技術を身に着けて…
「だから、あなたはとってもエッチでとってもマゾな女の子になるの。自然となっちゃうの。そんな女を理想のものとしてきたんだから、仕方がないの。魔法で自然とそうなるんだから、何も怖いことはないわ……」
そこでプリンセスは一旦言葉を切った。キタダニの不安は増幅していく……
「私は、”特別職分”であるプリンセスとして、他にバニーガールたちとは違い、簡単に精神を書き換えられることがなかったのです。それはそれは気持ちいい、そして辛い調教を経て、身も心もプリンセスとなったの
「だからね……そうしようと思えば、あなたの人格と記憶を何の問題もなく書き換えてしまうことも出来るのだけど、あなただけは、マゾの性癖を植え付けた上で、今の人格と記憶を残して、少しずつ調教していくことにしますわ。その過程の苦しさこそ、マゾなあなたが望むものであり、あなたが真にマゾなバニーガールへと生まれ変わっていく過程をあなた自身にも楽しんでもらうためのものでもあるの」
そういうプリンセスの声には、恐怖するキタダニの様子を面白がるサディスティックな響きが含まれていた。先ほどまでのマゾヒスティックなプリンセスの様子とは真逆だ。
そして……先ほど自分を痛めつけたキタダニへの復讐の意図もあるのではないか。

興奮に駆られるまま、キタダニはステージへと昇った。 そしてプリンセスの秘部に押し込まれている乗馬鞭を抜いた。 「あうぅン!」 プリンセスが身を震わせて反応する。だがキタダニは彼女に休む暇を与えなかった‐ バシッ!鞭が振り下ろされる。 「あぁぁぁッ!」 二度、三度とキタダニは繰り返し鞭を振るった。 それはまだパフォーマンス上のパートナーに気を遣った紫の鞭裁きとは異なり、荒々しい、男性の攻撃性をそのまま背負った一撃であり、一打される度に、プリンセスの背中の白い肌の上に赤いみみず腫れが生じていく。 既に針を刺された箇所に鞭が振るわれることで、痛々しく血が滲んでくる。 女性の、バニーガールの、プリンセスの美しさに心かき乱されつつ、性欲を燃え上がらせつつ、キタダニは、女性の美しさに惑わされることに喜びと同時に同じくらい征服欲もかき立てられていた。 男として女に暴力を振るい、傷つけるのは当然の権利であり、至上の喜びであるという強烈な一念が、今のキタダニを支配していた。 暴力性を発散させればさせるほど、キタダニの興奮は燃え上がっていき、股間は鋼鉄のように固く張り詰めた。 プリンセスは激しく悶えているが、それはもう痛みによるものか快楽によるものか分からなくなっていた。 汗と涙で顔を濡らし、必死に耐えているが、それは痛みに耐えているのか、快楽により絶頂するのを堪えているのか分からなくなっていた。いや、もうその区別もプリンセス自身つかなくなっているのかもしれない…… キタダニは、プリンセスのカラーに取り付けられたストラップに手を伸ばし、彼女の顔を引き寄せた。力なく、プリンセスはされるがままとなる。 キタダニはズボンのジッパーを下ろすと、いきり立つ男根を些か苦労しながら引っ張り出し、プリンセスの口に押し込んだ。 痛みから解放された代わりに、喉の奥まで串刺しにせんばかりの男性器を突っ込まれ、プリンセスは呻きながら、それを一身にしゃぶった。 それが痛みか快感かは分からないが、とろんとなったプリンセスの目は、まだ彼女が鞭がもたらした刺激に酔っているのが分かり、その状態のプリンセスは盲目的にキタダニのものに奉仕し続けた。依然、プリンセスを征服し続けている感慨に、キタダニは満足する。 「うくっ…」 温かく湿ったプリンセスの口腔の心地よさに、キタダニは達しそうになるが、今終わってはならない、と彼女の口から男根を引き抜いた。 「ケツを向けろ」 プリンセスは素直に四つん這いになり、腰を高く突き上げた。既に尻周りの網タイツは破られている。 キタダニは、その逞しい男根を猛り狂わせたまま、背後からプリンセスに近づいていく。 バニーコートを強引に手でずらすと、蟻の門渡りの向こうに、快楽の蜜壺が待ち構えているのが見える…… 「ああああああっ!」 冷酷にも一切の前戯もなく、キタダニは一気に根元まで押し込み、プリンセスは再び大きな悲鳴をあげた。 痛みによるものなのか快楽によるものなのかは分からなかった。 キタダニには、ただただ相手には何の愛も快楽も与えず、女体を征服すること、己のみが快楽を貪ることしか考えになかった。キタダニは腰を振り、プリンセスの下半身を圧倒していく。 「ひぃっ……」 「どうだ、プリンセス……俺のは……いいだろ……う……」 プリンセスは苦悶の表情で悲鳴を噛み殺す。 キタダニはひたすらに激しく打ち付ける。 もはや相手がプリンセスであろうとなかろうと、キタダニにとってはどうでもよかった。 バニーガールとは、畢竟、女にしてウサギであり、ただキタダニが男としての欲を満たすためだけの獣でしかなかった。 その興奮と勝利の感動が頂点に達し、同時にキタダニは絶頂を迎えてプリンセスの中に大量の精をぶちまけた…… 感動と快感がキタダニの心身を打ちのめし、痺れさせる。 と同時に、右手首にあの脈動が走った。 今自分が感じているこの歓喜が全てこの脈動から発していることにキタダニは気づき、そのリズムに身を委ねながら意識を失った…… ―どれくらいの時間が経ったのか。キタダニは目を覚ました。 ステージの上にプリンセスの姿は無かった。 客席に座っている者もいない。自分しか客がいなかったのだから当然だ…… まるで全てが夢だったかのようだ…いや、それは間違いなく夢だったと、キタダニは思うしかなかった。自分が今まで見ていたものは現実ではなく、だがしかしそれにしてはあまりにも生々しい記憶として脳裏に残っている。これほどの性的快楽、満足感を覚えたことは、キタダニの全人生を振り返ってもなかった…… 頭を振りながらキタダニは立ち上がった。ふと傍らを見ると、泉美が座っている。 「いかがでしたでしょうか?存分にご堪能いただけたでしょうか?」 「あ、ああ……悪くは……なかった……悪くはなかったな……まあまあだ……」 満足している様子を気取られたくなく、やや目を逸らし気味に答える。 「では、お会計になります。今回は、ステージに上がった、パフォーマーの身体に触れた、パフォーマー―や僭越ながらこの私に―暴力を振るった、等、当店のルールを破った罰則金も含んでおります。126915.09チップになります。これ以上の貸し付けは不可能ですので、本日は即金でお支払いください」 キタダニは目をかっと見開き、怒りを露にした。 思わず、また泉美を殴りつけそうになったが、流石にここはじっと堪えた。 とはいえ、こんな法外な金額の請求が許される筈がない。ここは絶対に払わずに押し通す、とキタダニは、一層頑なになった。 同時に、あることを思い出す。にやりと笑い、キタダニは言った‐ 「こんな額の筈はない、俺が受けたサービスは、プリンセスが私的に、時間外にしたのがかなりある筈だからな」 だが、この発言は逆効果だった。泉美は全く表情を変えずに答えた。 「おや、困りますね。そのようなルール違反を犯しておられたとは。その分の罰則金もいたただかなくては」 しまった、とキタダニは青くなる。 そして気づく―これは最初から自分を嵌めるための罠だったのではないか。泉美も、この事実はずっと前から知っていたのではないか。 「お支払いいただけませんか?お支払いいただけないようでしたら、代替案を提案させていただきます。当店流の返済、即ち働いて返済していただくことをご提案・ご推奨させていただきます。つまり、バニーガールになり、当店の従業員になっていただくということです」 バニーガールになる?どういうことだ?想像外の言葉に、キタダニは戸惑った。 「私からご説明いたしますわ」 声が響く。姿は見えないが、プリンセスだった。 「当クラブのバニーガールの8割以上は、元々は男性ですの。キタダニさまと同様に、当クラブでの負債を払いきれなくなったお客さまには、魔法によりバニーガールとなっていただき、当クラブの従業員として働くことで返済をしていただいております……返済が終わっても、退職した娘は一人もいないんですけどね、うふふ」 プリンセスの声はステージの上方から聞こえてくるようだったが、キタダニの耳には、エコーがかかるように、微妙な残響を残し、その心に染みこむように響く。 「魔法がかかれば、途端にあなたも絶世の美女に。いまのあなたがどんな男性であろうと、男なら必ず心に理想の女性像を抱くもの。あなた自身を、その理想の姿に変えて差し上げますわ。あなたがこの世で最も美しいと思う女性…いえ、この世には存在しないまでに美しい女性になって、あなたは男どもを惑わすの」 この言葉に、キタダニはぞっとする。それをプリンセスの言葉が裏書きする。 「先ほどのプレイからも伺えましたわ。キタダニさまはサディストでいらっしゃるのね。そんなサディストの貴男が求めているのは、どんな理想の女性なのかしら……」 「ダメだ!そんなことは認めない……俺は絶対女にもマゾにもならないぞ!」 「うふふ、そんなことを言っても、それこそダメですわ。でも安心して。あなたの身体だけでなく、あなたの心も認識も全て書き換えられます。あなたは、男性としての今のあなたにとって最も都合の良い性格の、淫らな女になるの、バニーガールとして必要な知識と技術を身に着けて… 「だから、あなたはとってもエッチでとってもマゾな女の子になるの。自然となっちゃうの。そんな女を理想のものとしてきたんだから、仕方がないの。魔法で自然とそうなるんだから、何も怖いことはないわ……」 そこでプリンセスは一旦言葉を切った。キタダニの不安は増幅していく…… 「私は、”特別職分”であるプリンセスとして、他にバニーガールたちとは違い、簡単に精神を書き換えられることがなかったのです。それはそれは気持ちいい、そして辛い調教を経て、身も心もプリンセスとなったの 「だからね……そうしようと思えば、あなたの人格と記憶を何の問題もなく書き換えてしまうことも出来るのだけど、あなただけは、マゾの性癖を植え付けた上で、今の人格と記憶を残して、少しずつ調教していくことにしますわ。その過程の苦しさこそ、マゾなあなたが望むものであり、あなたが真にマゾなバニーガールへと生まれ変わっていく過程をあなた自身にも楽しんでもらうためのものでもあるの」 そういうプリンセスの声には、恐怖するキタダニの様子を面白がるサディスティックな響きが含まれていた。先ほどまでのマゾヒスティックなプリンセスの様子とは真逆だ。 そして……先ほど自分を痛めつけたキタダニへの復讐の意図もあるのではないか。
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ハイヒールの靴音が響き、ステージ袖からショウの真の主役が歩み出てきた。
今や鞭打たれる奴隷ではなく、堂々たるドミナトリクスとして、プリンセスが、妖艶にして威厳あるその姿をキタダニの前に現した―

その身に着けるエナメルのバニーコートとレザーのロンググローブ、サイハイブーツは、先ほどの紫と同じものだったが、レザーのカラーと一体化した二本のストラップが交差しながら喉元から両脇へと斜めに伸びており、鳩尾から乳房の半ばにかけてⅩ字型を形成している。
そして、その頭にはエナメル張りの軍帽を被っており、バニーガールとしての身分を示すウサギを模した疑似耳は軍帽から生えていた。
バニーガールであり、女王―両立しにくい二つのイメージが、プリンセスの中で矛盾なく同居していた。

その美しさに、キタダニは依然として欲情を禁じ得なかった。先ほど射精したばかりだが、既に股間にむず痒さが戻ってきている……
同時に、この恐るべき女に欲情することがいかに危険なことかも理解した。理解はしたが、それで欲情が収まるという訳でもない。

「ひっ……」
キタダニは逃げ出そうとしたが、その時、右手首に痺れが走ったかと思うと、二、三歩と進まないうちに足が凍り付いたように硬直し、動かなくなってしまった。
転倒することは避けられず、鼻づらから派手に、床にぶつかってしまう。痛みをこらえて起き上がろうとするが、腕も足も硬直してびくともしない。

「ふふふ、無駄よ。魔法で動きを止めさせていただきましたもの。さあ、お楽しみの時間が始まるわ」
乗馬鞭を拾い上げ、プリンセスは動けないキタダニへと歩み寄ってくる。
プリンセスが指を鳴らすと、瞬時にキタダニの服は消え去り、キタダニはぶよぶよと肥満した裸身を晒すことになってしまった。

ビシッ!
鞭が音を立て、キタダニの剥き出しの背中を打った。
キタダニは悲鳴を上げて、悶える。想像よりはるかに痛い。とても三度、四度と打たれて耐えられるとは思えない。
「畜生、こんなことをしてただで済む……と…ぃってぇぇぇぇっ!」
次の一撃がキタダニを黙らせた。更に、鞭が唸りを上げ、粗暴で傲慢な上に借金を返すことすら拒む男を厳しく罰していく。

信じられないことが起きていた……
鞭打たれる度、キタダニの男性器の怒張が激しくなっていく。
痺れた右手首が不気味に脈動し、それに股間の疼きが同期していることにも気づく。
そして思い出す―初めてプリンセスの接客を受けた晩、この右手首にキスをされたではないか……

これほどの苦痛と嫌悪を覚えているというのに、身体はそれに興奮を覚えているということに、キタダニは困惑と焦燥を禁じ得なかった。そんなことを思う間も与えないほどにプリンセスは容赦なく鞭で打ってくるのだが、その度にキタダニの性欲は増していく。

……いや、これもプリンセスの魔法による調教の一部だと気付き、キタダニは青ざめた。鞭打たれるごとに、自分は打たれることを喜ぶ心と体に作り変えられていっているのだ……

泉美とステージに戻ってきた紫が、何かを持ってきた。キャスター付きの姿見だった。四つん這いだったキタダニの状態が自然と持ち上げられ、膝立ちの姿勢となる。
「ここからが本番……」
キタダニの背後のプリンセスが、嗜虐的な笑みを浮かべ、鞭を舐めあげるのが、鏡に映る。

鞭が振るわれる。
今回もすさまじい痛みが襲いかかって来るが、キタダニは鏡に映る自分の姿に違和感を覚えた……
一打、また一打。そして鏡に映る自分の姿への違和感も増幅していく……

打たれる度に、膨れ上がった腹が引っ込んでいく。
腕や足、肩がほっそりとしていき、腰にはくびれすら生じる。
肌はマシュマロのように柔らかく変化し、脛や胸の毛が消えていく。
顔つきはどんどん顎が尖り、まつ毛が長くなり、鼻が高くなり、唇は上品な桜色に染まり……
全体に体格が小さくなっていく。
それとは裏腹に、胸と尻が膨らんでいく。
乳首に痛みとむず痒さが入り混じったような感覚が走り、存在を主張するように固く、大きくなっていく……
髭はとうの昔に消え去っていた。
顔つき全体が若くなっている……いや、幼くなっている。

「あなたのアニマは、割りとお子様寄りなのね、ふふ。でも意外ではなかったわ。その手の男は多いもの、バニーガールクラブに来るようなお客には少ないけど。大丈夫よ、ヒガシド氏があなたより幼いバニーガールになっているから、寂しくないわ」

キタダニはまたもぞっとした。
最近、店内でヒガシドやミナミバシの姿を見かけなかったのは……

鏡に映るキタダニの姿は、もうほぼ完全に女性のそれになっていた。
ミドルティーンくらいの少女が、鞭で打たれ、痛みに喘いでいる。
ただ唯一、股間だけは成人男性のそれのままで、鞭打たれる度にその刺激に反応し、これ以上固くならない、これ以上高みへと張り詰められない限界まで来ているところを、更に、もっともっとと、己の男らしさを主張しようとしている。
鏡に映るその様子はあまりにも異様で、例え金縛りの魔法がなかったとしても、キタダニはその恐怖のみによっても身動き出来なかっただろう……

「お願いするわ」
プリンセスは、乗馬鞭を紫に手渡し、自分は姿見の前に置かれていたヘアブラシを手に取った。

鞭の持ち手が代わっても、懲罰は続いた。
紫が一度打ち、泉美が交代して一度打ち、また紫が打つ。
鞭を振りながら、泉美がブレインダメージの従業員に課せられる契約条項を告げる。そのひと言ひと言が、鞭の一打に劣らずキタダニの心を痛めつける―
「ひとつ、当店従業員になった者は、負債の回収が終わるまで、当店区画から出てはならない、ひとつ、当店従業員は、当店顧客と合意の上に成立したサービスには、性的なものも含め、必ず応じなければならない、ひとつ、当店従業員は、そのバニーガールとしての職分ごとに定められた研修・トレーニングを常時受けなければならない、ひとつ、当店従業員の給与は、当店区画内への居住費・諸生活費・プリンセスからのサービスという形で支払われる、ひとつ、当店従業員は、オーナー及びプリンセスへの絶対的な服従・忠誠が求められる……」

一方、プリンセスは、手にしたヘアブラシでキタダニの髪を優しく梳っていく。
ほんの少し前までの冷酷さは微塵もなく、天使のように優しい笑顔で、苦痛のさ中にあるキタダニを慰めるように甲斐甲斐しく手を動かす…

ブラシを通す度に、頭髪にも変化が表れた。
髪が長くなっていく。
色も上品なホワイトブロンドに変わる。

鏡に映っているのは、もはやキタダニではなく、その股間を除いては、想像だにしなかった美少女だった。
このおぞましく奇妙な体験に、キタダニの心は張り裂けそうになっていた。何とかこの苦しみから逃れる方法はないかと虚しく考えを巡らせるが、身動き一つ出来ない。

「この苦しみを受け入れ、そこに歓びを見出しなさいな。あなたはマゾヒストであり女なのだもの。マゾの快楽、女の快楽を受け入れることこそ自然なのよ。それに抗おうとしているから辛いの、分かるかしら?」
「違う……俺は男なんだ……」すっかり声も女性のものになってしまったキタダニは、弱々しい声で泣きじゃくりながら言う。

「そうね……ここはまだそうだものね」プリンセスは、キタダニの股間を指さす。そしてからかうような口調に転じて、囁く―
「でも、こんなに鞭で打たれて興奮しているようなら、男としてのあなたもやっぱりマゾなんじゃなくて?こんなに勃てていていいの?」
「ち……違う……これは……」

そう言いかけて、キタダニは、今の自分が求めているものが何か分からなくなった。自分は苦しみから解放されたい―

だが、それは鞭で打たれることからの解放なのか?

張り詰めるだけ張り詰めて、射精出来ないことからの解放なのか?

キタダニの意図を察したように、プリンセスはキタダニの男性器を握りしめ、軽くさすった。

一瞬だが痛みを忘れるほどの快感が背筋に走る。

悪魔のような笑いを浮かべ、プリンセスは床に身を伏せ、キタダニのモノを口にくわえた。
初めてプリンセスを相手にした晩の快楽がキタダニの脳裏に蘇ってくる。

「ふふ、ミナミバシ氏よりも大きいですわね……そして熱い……」
キタダニは、自分が今まで経験したことのないほどの快楽と危険を感じていた。股間が爆発しそうになっている…
だがプリンセスはキタダニの男性器から口を離し、指先でいじるだけに留めた。もどかしい快楽にキタダニの我慢は限界に達した。
「頼むぅ……出させてくれぇ……いや、出させて下さい……」
「あら、本当に出しちゃっていいの?」プリンセスの意地悪い言葉に、危険を感じる本能が警告を発する。
待て、と慌てて制止しようとしたキタダニだったが、構わずプリンセスは再びキタダニの肉棒を呑み込んだ…

「ぬ……ぬおぉ………ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉーッ!」
キタダニの肉体に残された唯一の男性としての器官が、その中に残された最後の一滴までをも噴出した。
男性としての断末魔の叫びをあげていることを自覚し、キタダニは計り知れない絶望と快楽の海へと崩れ落ちた……

衝撃は、キタダニの意識を吹っ飛ばした。
……気を失っていたのはほんの数分だったか、まる一日だったか、時間の感覚が完全に喪失しているが、依然としてステージ上にしゃがみこんでいるので、前者だろう。
そして下を向いていることで、恐ろしいことに気づく―
股間からは肉棒が消え去っていた。代わりに、守ってくれる毛のない、控えめな、女性としての割れ目が目に入った……

「ああ……」予期していたことなので、今更大きな衝撃はない。
ただ、敗北感だけがあるだけだ。何ということだ。これで俺はもう女として生きていくしかないのか……

「ふふ、休んでいる暇はありませんわ。すぐに次の刻印に移ります」
眼前に立つプリンセスが残酷に宣言する。
彼女の顔や衣類の上には、大量の射精の痕跡は全くなく、文字通りキタダニの男性的であるものの全てが吸収され、消え去ってしまったらしい。

ドミナトリクスの威厳に、キタダニは恐怖に震える……
同時に、そこにわずかながら期待を覚えてしまっている……既に自分がマゾ化し始めていることも自覚し、キタダニは慄然とした。
そんないたいけな、か弱い少女である自分が震えながら、女王に見下されている様子が姿見に映っており、その異様にして美しい光景に恥辱と倒錯的な感動が湧き出すのを禁じ得ない…

プリンセスが取り出したのは、先ほどの紫とのプレイでも用いられた羽根だった。その羽根の根元の針を、プリンセスはキタダニの右乳房に突き刺した。

「痛ッ!」
キタダニが身をすくませるのも構わず、プリンセスは針を二度、三度と突き刺す。
鞭で打たれるのに比べればさほどでもない痛みだが、鋭い針が皮膚を貫く痛みはやはり並大抵のものではない。

……針は何度も何度もキタダニの胸の同じ個所を突き刺しているかに見えた。だが、気がつくと、刺された箇所にピンク色の模様が浮き上がっているのが見えた。
「タトゥー……?」

痛みに涙目になりながら、キタダニは呟く。
決して優しい笑みを崩すことなく、また、針で乳房を突き刺す手を止めることもなく、プリンセスは、
「ええ、そうですとも。あなたのアニマをイメージしたタトゥーを彫ってあげているの。インク?ううん、必要ないの、魔法によりあなたの肌に直接あなたがどんな女であるかを示す刻印を施しているの」

ひと針刺される度に、脳天まできつい刺激が到達し、キタダニは息も絶え絶えになる。
痛みのあまり、キタダニは再び失神しそうになった…
その時、針と反対側の羽根が、タトゥーを施されているすぐ横の乳首を軽く撫で上げた。

「ふああああ!」快感に、キタダニは跳び起きる。
くすくすと笑いを漏らしながら、プリンセスは数度針で刺すと、痛みに耐えたご褒美とでも言いたげに、羽根で乳首をさする。
これが繰り返されるうち、キタダニは最早自分が痛みに喘いでいるのか快感に喘いでいるのか分からなくなってきた。そして、これこそ自分を痛みに歓びを覚えるマゾヒストに調教する過程だと気付き、またしても慄然とした……

「……ほら、これで完成」
鏡に映るキタダニの右乳房には、ピンク色の蝶の紋様が刻まれていた。
張りのある乳房の曲面にタトゥーが刻印された様子は立体的な美しさがあり、思わずキタダニは鏡に映る自分自身の胸に見とれてしまった。
タトゥーの上から触ってみても、既に何の痛みもなく、針で刺された傷跡などどこにも見出すことが出来ない。
そのまま豊かな乳房をつかんで、ねじるように揉んでみる。
「うふぅ……ぅン……」

乳首を刺激された時と同じ快楽が数倍になって襲いかかり、心臓と脳を蕩けさせていく。
こんなにも女の身体とは感じ易いものなのか。
そして鏡に映る自分自身の呆けた顔の何と魅惑的なことか……
……そうだった。この姿こそ、男としての自分が求める最良の女性像なのだから、この反応は無理もないことなのだ。

だがプリンセスは非情だった。
「あらあら、早速淫らな上にナルシスティックな態度に出るのですね、私もそうでしたけど、ふふ。でもね、まだダメよ。もっと痛い思いをしましょうね……」

今度は、プリンセスはキタダニの左頬を針で突き刺した。
たっぷりと守ってくれる壁がある乳房と違い、脂肪が極めて薄い顔への針の一撃は、先ほどまでと比べ物にならないほど痛かった。キタダニは、再び痛みにその身を震撼させてしまう。

今度も、タトゥーを刻印する残忍な作業とその合間の羽根による乳首へのご褒美が繰り返され、キタダニは、自分がプリンセスの思うがままの肉人形へと作り変えられていく様をただ見守るしかない…
ごく小さなものではあるが、ピンク色の蝶の刻印が左頬にも完成した。

「さ、これは顔への刻印を頑張ったご褒美…」
プリンセスは、自ら刻み込んだばかりの左頬のタトゥーの上に優しくキスする。

だが休息は手短に終わった。
プリンセスは、キタダニに足を開かせると、その左足の太ももに、針を突き刺し始めた。
「うあぁ…いッ…いた…い……」
再びキタダニは苦痛に慄く。
同時に、既に何十回と刺された結果、激痛に対する耐性が身についてしまったのだろうか、あるいはその痛みを上回るマゾヒズムの快感がお釣りとして返ってくるからなのだろうか、恐怖と嫌悪は拭われなかったが、抵抗する気力は残っていなかった。
ただ無力なまま、受け入れるだけ……女になった以上、マゾにされてしまった以上、何をされても仕方がないという諦念が芽生えつつあった。
そしてそのことに気づき、女性を制圧し続けてきた男性としてのプライドが猛反発し、同時に恐怖がまた新たになる。
そして、針の一刺しがもたらす痛みが、またも男のプライドを砕いていく。
そしてついに痛みに耐えられなくなり、キタダニが泣き出してしまうと……
「ひっ…ぇぁぁぁぁぁッ!ぁン…」

プリンセスは、羽根の反対側の羽根で、足を大きく開いたキタダニの股間をそっと優しく撫でた。
敏感な陰核への柔らかな羽根の感触が、キタダニの身体をのけ反らせる。
この快感に、キタダニは、自身が女であることを自覚せざるを得なかった。そして、涙を流しながらプリンセスに訴えた……
「いぁ……もうっ……もうやだぁッ!お願いだからこれ以上はっ……」
「ふふ、まだダメ。あと少しだから辛抱なさい」
優雅に微笑みつつ、残酷に告げ、プリンセスは針刺しを再開した……

数分後、キタダニの左太ももの付け根に花のタトゥーが刻印された。
まだ痛みに身体の芯が揺らぐ中、鏡に映る自分の姿を見つめると、左頬に蝶、右乳房に蝶、左太ももに花、と自然に視点が誘導されることに気づき、思わずキタダニはその見事さに感心し、自分の肉体の上にこのような美しい紋様が施されたことに喜びを覚えてしまう……
そしてすぐに、これが自分をナルシスティックでマゾヒスティックな性癖に染め上げようとする策略であると思い直し、頭を振って拒否する。
そんなキタダニを、プリンセスは優しく抱きしめ、その肌をさすり上げる。

「とっても可愛いわ、ああ……私のパピヨン」
「パピヨン……」
それがバニーガールとしてのキタダニの名であることは自明だった。
タトゥーにちなんだ名前を与えられたことに屈辱を覚えるキタダニだったが、”私の”と付けられたことに、プリンセスの所有物にされるという恐怖とプリンセスに愛されているという喜びの両方が心に染みこんでくる。

「さあ、着替えさせてあげる」
プリンセスがすっと息を吸うと、床からパープルピンクの光の柱が立ち上がり、二人を包んだ。
その光がキタダニ…いや、パピヨンの肌に吸い付くように実体化していき、繊維となり、衣服となる。

黒みを帯びた紫色のバニーコート。網タイツ。手首に白いカフス。首には白いシャツカラー。カラーには、紫色の蝶ネクタイ―他のバニーガールたちのそれより少し大きめで、今のキタダニのイメージである”蝶”を強調している。

ここまでは比較的オーソドックスな装いだが、プリンセスは自分の頭の、疑似耳付きの軍帽に手を伸ばした。
それを脱ぐ動作を見せたかと思った時、プリンセスの手には同じデザインの軍帽がもう一つ握られていた。手で触れるだけで軍帽がコピーされたかのようだ。
プリンセスは、それをキタダニの頭にポンと乗せる。自分が男であることにこだわるキタダニの虚勢に、軍人としての装いである帽子が奇妙にマッチしていた。

「ふふふ、そしてこれで最後の仕上げ……」
プリンセスは、再度羽根つきの針を取り上げた。
すっかり細くなったキタダニの肩を押さえると、プリンセスはキタダニのバニーコートの右胸に指を滑り込ませた。
十分に豊かではあるが、巨乳・爆乳揃いのブレインダメージのバニーガールの水準ではとびっきりというほどでもないキタダニ=パピヨンは、胸と衣装の隙間に指を入れるだけの余地があった。
プリンセスがくすくすと笑いながら、バニーコートを内側から弾くと、バニーコートはほぼ直角に折れ曲がり、キタダニの右乳房をさらけ出した。そしてプリンセスの手に握られた針が……

「うくッ!!!」
肌に針を刺された時とは比べ物にならない苦痛だった。全身がずんと震え、痛みの余波が他の感覚を痺れさせていく。
プリンセスの手には、羽根つきの針に代わり、新たな玩具が握られていた。
それは鎖付きの小さな蝶の飾りであり、金属製の半円の輪だった。
半円の直線部は、両端に留め具を備えた針になっている…
プリンセスは、片側の留め具を外し、針をひねって半円から外すとそこから半円に飾りの鎖を通した。そして……

「やめ……やめろ……」
恐怖にうわずった声で囁くキタダニの様子を面白がるように微笑みながら、プリンセスはキタダニの右乳首に貫通した穴に半円の針を通す。
そして針を元の位置に戻し、留め具を施した―ぱちんという音と共に、留め具が嵌り、半円状のピアス、そしてそこからぶら下がる蝶の飾りがキタダニの右乳首を飾った。
その乳首と同じ肉丘の上には既に蝶のタトゥーが彫り込まれている……鏡に映る自分自身の異様な美しさに、キタダニは背筋がぞくぞくするのを感じた……

更に、キタダニは、鏡に映った自分のもう一つの変化にも気づいた。
右の瞳の色が変わっていた。
ピンクがかった紫の瞳が異様な美しさを湛えて、キタダニ自身を見つめ返している。
ピアシングされた右乳首の痛みがしんしんとリズムを刻んでいるが、それに合わせて右目が揺れるような輝きを放っている……

「ふふ、気に入ったようね。これで完成。後はあなたが自然にマゾヒズムとナルシシズムに染まっていくのを待つだけなの」
キタダニは、どう答えていいか分からなかった。
女になること、バニーガールになること、マゾになることを拒否する言葉が咄嗟に口から出そうになると同時に、それに大いなる歓びを覚え、積極的に受け入れようとする気持ちも湧きあがり、キタダニの表情は目まぐるしく変わり、言葉も出てこない。
だがその目はずっと鏡に映った自分自身に釘付けになっている。

そして、ピアスを施された右乳首、色の変わった右目が、その痛みに反応し、それを快楽として受け容れようとしていることに気づき、改めてキタダニは戦慄した。
「分かったようね、もうあなたの心の半分はパピヨンなの。キタダニ氏としてのあなたの人格を眠らせて、そのまま消去することも出来るのだけど、あなたのマゾヒズムが自然に開花して、あなた自身が自分をパピヨンと認めるまで、私たちはゆっくりと待つことにするわ……」
「いやぁぁぁぁぁ!」
己に残された運命に、果てしない絶望と苦悶と歓喜と快楽を感じ、キタダニ/パピヨンは絶叫した……

そして、プリンセスはその耳に新たなバニーガール創造を評価するオーナーの声を受信していた。
【今回も素晴らしい仕事でしたわね。完全に女性化するのではなく、以前の自分と同じ状態に敢えて留めるというところが、わたくしがあなたに施した仕事をよく理解している証左というもの。まさにあなたはプリンセスとしてわたくしの後継者となり得ることを証明したのです……】

ハイヒールの靴音が響き、ステージ袖からショウの真の主役が歩み出てきた。 今や鞭打たれる奴隷ではなく、堂々たるドミナトリクスとして、プリンセスが、妖艶にして威厳あるその姿をキタダニの前に現した― その身に着けるエナメルのバニーコートとレザーのロンググローブ、サイハイブーツは、先ほどの紫と同じものだったが、レザーのカラーと一体化した二本のストラップが交差しながら喉元から両脇へと斜めに伸びており、鳩尾から乳房の半ばにかけてⅩ字型を形成している。 そして、その頭にはエナメル張りの軍帽を被っており、バニーガールとしての身分を示すウサギを模した疑似耳は軍帽から生えていた。 バニーガールであり、女王―両立しにくい二つのイメージが、プリンセスの中で矛盾なく同居していた。 その美しさに、キタダニは依然として欲情を禁じ得なかった。先ほど射精したばかりだが、既に股間にむず痒さが戻ってきている…… 同時に、この恐るべき女に欲情することがいかに危険なことかも理解した。理解はしたが、それで欲情が収まるという訳でもない。 「ひっ……」 キタダニは逃げ出そうとしたが、その時、右手首に痺れが走ったかと思うと、二、三歩と進まないうちに足が凍り付いたように硬直し、動かなくなってしまった。 転倒することは避けられず、鼻づらから派手に、床にぶつかってしまう。痛みをこらえて起き上がろうとするが、腕も足も硬直してびくともしない。 「ふふふ、無駄よ。魔法で動きを止めさせていただきましたもの。さあ、お楽しみの時間が始まるわ」 乗馬鞭を拾い上げ、プリンセスは動けないキタダニへと歩み寄ってくる。 プリンセスが指を鳴らすと、瞬時にキタダニの服は消え去り、キタダニはぶよぶよと肥満した裸身を晒すことになってしまった。 ビシッ! 鞭が音を立て、キタダニの剥き出しの背中を打った。 キタダニは悲鳴を上げて、悶える。想像よりはるかに痛い。とても三度、四度と打たれて耐えられるとは思えない。 「畜生、こんなことをしてただで済む……と…ぃってぇぇぇぇっ!」 次の一撃がキタダニを黙らせた。更に、鞭が唸りを上げ、粗暴で傲慢な上に借金を返すことすら拒む男を厳しく罰していく。 信じられないことが起きていた…… 鞭打たれる度、キタダニの男性器の怒張が激しくなっていく。 痺れた右手首が不気味に脈動し、それに股間の疼きが同期していることにも気づく。 そして思い出す―初めてプリンセスの接客を受けた晩、この右手首にキスをされたではないか…… これほどの苦痛と嫌悪を覚えているというのに、身体はそれに興奮を覚えているということに、キタダニは困惑と焦燥を禁じ得なかった。そんなことを思う間も与えないほどにプリンセスは容赦なく鞭で打ってくるのだが、その度にキタダニの性欲は増していく。 ……いや、これもプリンセスの魔法による調教の一部だと気付き、キタダニは青ざめた。鞭打たれるごとに、自分は打たれることを喜ぶ心と体に作り変えられていっているのだ…… 泉美とステージに戻ってきた紫が、何かを持ってきた。キャスター付きの姿見だった。四つん這いだったキタダニの状態が自然と持ち上げられ、膝立ちの姿勢となる。 「ここからが本番……」 キタダニの背後のプリンセスが、嗜虐的な笑みを浮かべ、鞭を舐めあげるのが、鏡に映る。 鞭が振るわれる。 今回もすさまじい痛みが襲いかかって来るが、キタダニは鏡に映る自分の姿に違和感を覚えた…… 一打、また一打。そして鏡に映る自分の姿への違和感も増幅していく…… 打たれる度に、膨れ上がった腹が引っ込んでいく。 腕や足、肩がほっそりとしていき、腰にはくびれすら生じる。 肌はマシュマロのように柔らかく変化し、脛や胸の毛が消えていく。 顔つきはどんどん顎が尖り、まつ毛が長くなり、鼻が高くなり、唇は上品な桜色に染まり…… 全体に体格が小さくなっていく。 それとは裏腹に、胸と尻が膨らんでいく。 乳首に痛みとむず痒さが入り混じったような感覚が走り、存在を主張するように固く、大きくなっていく…… 髭はとうの昔に消え去っていた。 顔つき全体が若くなっている……いや、幼くなっている。 「あなたのアニマは、割りとお子様寄りなのね、ふふ。でも意外ではなかったわ。その手の男は多いもの、バニーガールクラブに来るようなお客には少ないけど。大丈夫よ、ヒガシド氏があなたより幼いバニーガールになっているから、寂しくないわ」 キタダニはまたもぞっとした。 最近、店内でヒガシドやミナミバシの姿を見かけなかったのは…… 鏡に映るキタダニの姿は、もうほぼ完全に女性のそれになっていた。 ミドルティーンくらいの少女が、鞭で打たれ、痛みに喘いでいる。 ただ唯一、股間だけは成人男性のそれのままで、鞭打たれる度にその刺激に反応し、これ以上固くならない、これ以上高みへと張り詰められない限界まで来ているところを、更に、もっともっとと、己の男らしさを主張しようとしている。 鏡に映るその様子はあまりにも異様で、例え金縛りの魔法がなかったとしても、キタダニはその恐怖のみによっても身動き出来なかっただろう…… 「お願いするわ」 プリンセスは、乗馬鞭を紫に手渡し、自分は姿見の前に置かれていたヘアブラシを手に取った。 鞭の持ち手が代わっても、懲罰は続いた。 紫が一度打ち、泉美が交代して一度打ち、また紫が打つ。 鞭を振りながら、泉美がブレインダメージの従業員に課せられる契約条項を告げる。そのひと言ひと言が、鞭の一打に劣らずキタダニの心を痛めつける― 「ひとつ、当店従業員になった者は、負債の回収が終わるまで、当店区画から出てはならない、ひとつ、当店従業員は、当店顧客と合意の上に成立したサービスには、性的なものも含め、必ず応じなければならない、ひとつ、当店従業員は、そのバニーガールとしての職分ごとに定められた研修・トレーニングを常時受けなければならない、ひとつ、当店従業員の給与は、当店区画内への居住費・諸生活費・プリンセスからのサービスという形で支払われる、ひとつ、当店従業員は、オーナー及びプリンセスへの絶対的な服従・忠誠が求められる……」 一方、プリンセスは、手にしたヘアブラシでキタダニの髪を優しく梳っていく。 ほんの少し前までの冷酷さは微塵もなく、天使のように優しい笑顔で、苦痛のさ中にあるキタダニを慰めるように甲斐甲斐しく手を動かす… ブラシを通す度に、頭髪にも変化が表れた。 髪が長くなっていく。 色も上品なホワイトブロンドに変わる。 鏡に映っているのは、もはやキタダニではなく、その股間を除いては、想像だにしなかった美少女だった。 このおぞましく奇妙な体験に、キタダニの心は張り裂けそうになっていた。何とかこの苦しみから逃れる方法はないかと虚しく考えを巡らせるが、身動き一つ出来ない。 「この苦しみを受け入れ、そこに歓びを見出しなさいな。あなたはマゾヒストであり女なのだもの。マゾの快楽、女の快楽を受け入れることこそ自然なのよ。それに抗おうとしているから辛いの、分かるかしら?」 「違う……俺は男なんだ……」すっかり声も女性のものになってしまったキタダニは、弱々しい声で泣きじゃくりながら言う。 「そうね……ここはまだそうだものね」プリンセスは、キタダニの股間を指さす。そしてからかうような口調に転じて、囁く― 「でも、こんなに鞭で打たれて興奮しているようなら、男としてのあなたもやっぱりマゾなんじゃなくて?こんなに勃てていていいの?」 「ち……違う……これは……」 そう言いかけて、キタダニは、今の自分が求めているものが何か分からなくなった。自分は苦しみから解放されたい― だが、それは鞭で打たれることからの解放なのか? 張り詰めるだけ張り詰めて、射精出来ないことからの解放なのか? キタダニの意図を察したように、プリンセスはキタダニの男性器を握りしめ、軽くさすった。 一瞬だが痛みを忘れるほどの快感が背筋に走る。 悪魔のような笑いを浮かべ、プリンセスは床に身を伏せ、キタダニのモノを口にくわえた。 初めてプリンセスを相手にした晩の快楽がキタダニの脳裏に蘇ってくる。 「ふふ、ミナミバシ氏よりも大きいですわね……そして熱い……」 キタダニは、自分が今まで経験したことのないほどの快楽と危険を感じていた。股間が爆発しそうになっている… だがプリンセスはキタダニの男性器から口を離し、指先でいじるだけに留めた。もどかしい快楽にキタダニの我慢は限界に達した。 「頼むぅ……出させてくれぇ……いや、出させて下さい……」 「あら、本当に出しちゃっていいの?」プリンセスの意地悪い言葉に、危険を感じる本能が警告を発する。 待て、と慌てて制止しようとしたキタダニだったが、構わずプリンセスは再びキタダニの肉棒を呑み込んだ… 「ぬ……ぬおぉ………ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉーッ!」 キタダニの肉体に残された唯一の男性としての器官が、その中に残された最後の一滴までをも噴出した。 男性としての断末魔の叫びをあげていることを自覚し、キタダニは計り知れない絶望と快楽の海へと崩れ落ちた…… 衝撃は、キタダニの意識を吹っ飛ばした。 ……気を失っていたのはほんの数分だったか、まる一日だったか、時間の感覚が完全に喪失しているが、依然としてステージ上にしゃがみこんでいるので、前者だろう。 そして下を向いていることで、恐ろしいことに気づく― 股間からは肉棒が消え去っていた。代わりに、守ってくれる毛のない、控えめな、女性としての割れ目が目に入った…… 「ああ……」予期していたことなので、今更大きな衝撃はない。 ただ、敗北感だけがあるだけだ。何ということだ。これで俺はもう女として生きていくしかないのか…… 「ふふ、休んでいる暇はありませんわ。すぐに次の刻印に移ります」 眼前に立つプリンセスが残酷に宣言する。 彼女の顔や衣類の上には、大量の射精の痕跡は全くなく、文字通りキタダニの男性的であるものの全てが吸収され、消え去ってしまったらしい。 ドミナトリクスの威厳に、キタダニは恐怖に震える…… 同時に、そこにわずかながら期待を覚えてしまっている……既に自分がマゾ化し始めていることも自覚し、キタダニは慄然とした。 そんないたいけな、か弱い少女である自分が震えながら、女王に見下されている様子が姿見に映っており、その異様にして美しい光景に恥辱と倒錯的な感動が湧き出すのを禁じ得ない… プリンセスが取り出したのは、先ほどの紫とのプレイでも用いられた羽根だった。その羽根の根元の針を、プリンセスはキタダニの右乳房に突き刺した。 「痛ッ!」 キタダニが身をすくませるのも構わず、プリンセスは針を二度、三度と突き刺す。 鞭で打たれるのに比べればさほどでもない痛みだが、鋭い針が皮膚を貫く痛みはやはり並大抵のものではない。 ……針は何度も何度もキタダニの胸の同じ個所を突き刺しているかに見えた。だが、気がつくと、刺された箇所にピンク色の模様が浮き上がっているのが見えた。 「タトゥー……?」 痛みに涙目になりながら、キタダニは呟く。 決して優しい笑みを崩すことなく、また、針で乳房を突き刺す手を止めることもなく、プリンセスは、 「ええ、そうですとも。あなたのアニマをイメージしたタトゥーを彫ってあげているの。インク?ううん、必要ないの、魔法によりあなたの肌に直接あなたがどんな女であるかを示す刻印を施しているの」 ひと針刺される度に、脳天まできつい刺激が到達し、キタダニは息も絶え絶えになる。 痛みのあまり、キタダニは再び失神しそうになった… その時、針と反対側の羽根が、タトゥーを施されているすぐ横の乳首を軽く撫で上げた。 「ふああああ!」快感に、キタダニは跳び起きる。 くすくすと笑いを漏らしながら、プリンセスは数度針で刺すと、痛みに耐えたご褒美とでも言いたげに、羽根で乳首をさする。 これが繰り返されるうち、キタダニは最早自分が痛みに喘いでいるのか快感に喘いでいるのか分からなくなってきた。そして、これこそ自分を痛みに歓びを覚えるマゾヒストに調教する過程だと気付き、またしても慄然とした…… 「……ほら、これで完成」 鏡に映るキタダニの右乳房には、ピンク色の蝶の紋様が刻まれていた。 張りのある乳房の曲面にタトゥーが刻印された様子は立体的な美しさがあり、思わずキタダニは鏡に映る自分自身の胸に見とれてしまった。 タトゥーの上から触ってみても、既に何の痛みもなく、針で刺された傷跡などどこにも見出すことが出来ない。 そのまま豊かな乳房をつかんで、ねじるように揉んでみる。 「うふぅ……ぅン……」 乳首を刺激された時と同じ快楽が数倍になって襲いかかり、心臓と脳を蕩けさせていく。 こんなにも女の身体とは感じ易いものなのか。 そして鏡に映る自分自身の呆けた顔の何と魅惑的なことか…… ……そうだった。この姿こそ、男としての自分が求める最良の女性像なのだから、この反応は無理もないことなのだ。 だがプリンセスは非情だった。 「あらあら、早速淫らな上にナルシスティックな態度に出るのですね、私もそうでしたけど、ふふ。でもね、まだダメよ。もっと痛い思いをしましょうね……」 今度は、プリンセスはキタダニの左頬を針で突き刺した。 たっぷりと守ってくれる壁がある乳房と違い、脂肪が極めて薄い顔への針の一撃は、先ほどまでと比べ物にならないほど痛かった。キタダニは、再び痛みにその身を震撼させてしまう。 今度も、タトゥーを刻印する残忍な作業とその合間の羽根による乳首へのご褒美が繰り返され、キタダニは、自分がプリンセスの思うがままの肉人形へと作り変えられていく様をただ見守るしかない… ごく小さなものではあるが、ピンク色の蝶の刻印が左頬にも完成した。 「さ、これは顔への刻印を頑張ったご褒美…」 プリンセスは、自ら刻み込んだばかりの左頬のタトゥーの上に優しくキスする。 だが休息は手短に終わった。 プリンセスは、キタダニに足を開かせると、その左足の太ももに、針を突き刺し始めた。 「うあぁ…いッ…いた…い……」 再びキタダニは苦痛に慄く。 同時に、既に何十回と刺された結果、激痛に対する耐性が身についてしまったのだろうか、あるいはその痛みを上回るマゾヒズムの快感がお釣りとして返ってくるからなのだろうか、恐怖と嫌悪は拭われなかったが、抵抗する気力は残っていなかった。 ただ無力なまま、受け入れるだけ……女になった以上、マゾにされてしまった以上、何をされても仕方がないという諦念が芽生えつつあった。 そしてそのことに気づき、女性を制圧し続けてきた男性としてのプライドが猛反発し、同時に恐怖がまた新たになる。 そして、針の一刺しがもたらす痛みが、またも男のプライドを砕いていく。 そしてついに痛みに耐えられなくなり、キタダニが泣き出してしまうと…… 「ひっ…ぇぁぁぁぁぁッ!ぁン…」 プリンセスは、羽根の反対側の羽根で、足を大きく開いたキタダニの股間をそっと優しく撫でた。 敏感な陰核への柔らかな羽根の感触が、キタダニの身体をのけ反らせる。 この快感に、キタダニは、自身が女であることを自覚せざるを得なかった。そして、涙を流しながらプリンセスに訴えた…… 「いぁ……もうっ……もうやだぁッ!お願いだからこれ以上はっ……」 「ふふ、まだダメ。あと少しだから辛抱なさい」 優雅に微笑みつつ、残酷に告げ、プリンセスは針刺しを再開した…… 数分後、キタダニの左太ももの付け根に花のタトゥーが刻印された。 まだ痛みに身体の芯が揺らぐ中、鏡に映る自分の姿を見つめると、左頬に蝶、右乳房に蝶、左太ももに花、と自然に視点が誘導されることに気づき、思わずキタダニはその見事さに感心し、自分の肉体の上にこのような美しい紋様が施されたことに喜びを覚えてしまう…… そしてすぐに、これが自分をナルシスティックでマゾヒスティックな性癖に染め上げようとする策略であると思い直し、頭を振って拒否する。 そんなキタダニを、プリンセスは優しく抱きしめ、その肌をさすり上げる。 「とっても可愛いわ、ああ……私のパピヨン」 「パピヨン……」 それがバニーガールとしてのキタダニの名であることは自明だった。 タトゥーにちなんだ名前を与えられたことに屈辱を覚えるキタダニだったが、”私の”と付けられたことに、プリンセスの所有物にされるという恐怖とプリンセスに愛されているという喜びの両方が心に染みこんでくる。 「さあ、着替えさせてあげる」 プリンセスがすっと息を吸うと、床からパープルピンクの光の柱が立ち上がり、二人を包んだ。 その光がキタダニ…いや、パピヨンの肌に吸い付くように実体化していき、繊維となり、衣服となる。 黒みを帯びた紫色のバニーコート。網タイツ。手首に白いカフス。首には白いシャツカラー。カラーには、紫色の蝶ネクタイ―他のバニーガールたちのそれより少し大きめで、今のキタダニのイメージである”蝶”を強調している。 ここまでは比較的オーソドックスな装いだが、プリンセスは自分の頭の、疑似耳付きの軍帽に手を伸ばした。 それを脱ぐ動作を見せたかと思った時、プリンセスの手には同じデザインの軍帽がもう一つ握られていた。手で触れるだけで軍帽がコピーされたかのようだ。 プリンセスは、それをキタダニの頭にポンと乗せる。自分が男であることにこだわるキタダニの虚勢に、軍人としての装いである帽子が奇妙にマッチしていた。 「ふふふ、そしてこれで最後の仕上げ……」 プリンセスは、再度羽根つきの針を取り上げた。 すっかり細くなったキタダニの肩を押さえると、プリンセスはキタダニのバニーコートの右胸に指を滑り込ませた。 十分に豊かではあるが、巨乳・爆乳揃いのブレインダメージのバニーガールの水準ではとびっきりというほどでもないキタダニ=パピヨンは、胸と衣装の隙間に指を入れるだけの余地があった。 プリンセスがくすくすと笑いながら、バニーコートを内側から弾くと、バニーコートはほぼ直角に折れ曲がり、キタダニの右乳房をさらけ出した。そしてプリンセスの手に握られた針が…… 「うくッ!!!」 肌に針を刺された時とは比べ物にならない苦痛だった。全身がずんと震え、痛みの余波が他の感覚を痺れさせていく。 プリンセスの手には、羽根つきの針に代わり、新たな玩具が握られていた。 それは鎖付きの小さな蝶の飾りであり、金属製の半円の輪だった。 半円の直線部は、両端に留め具を備えた針になっている… プリンセスは、片側の留め具を外し、針をひねって半円から外すとそこから半円に飾りの鎖を通した。そして…… 「やめ……やめろ……」 恐怖にうわずった声で囁くキタダニの様子を面白がるように微笑みながら、プリンセスはキタダニの右乳首に貫通した穴に半円の針を通す。 そして針を元の位置に戻し、留め具を施した―ぱちんという音と共に、留め具が嵌り、半円状のピアス、そしてそこからぶら下がる蝶の飾りがキタダニの右乳首を飾った。 その乳首と同じ肉丘の上には既に蝶のタトゥーが彫り込まれている……鏡に映る自分自身の異様な美しさに、キタダニは背筋がぞくぞくするのを感じた…… 更に、キタダニは、鏡に映った自分のもう一つの変化にも気づいた。 右の瞳の色が変わっていた。 ピンクがかった紫の瞳が異様な美しさを湛えて、キタダニ自身を見つめ返している。 ピアシングされた右乳首の痛みがしんしんとリズムを刻んでいるが、それに合わせて右目が揺れるような輝きを放っている…… 「ふふ、気に入ったようね。これで完成。後はあなたが自然にマゾヒズムとナルシシズムに染まっていくのを待つだけなの」 キタダニは、どう答えていいか分からなかった。 女になること、バニーガールになること、マゾになることを拒否する言葉が咄嗟に口から出そうになると同時に、それに大いなる歓びを覚え、積極的に受け入れようとする気持ちも湧きあがり、キタダニの表情は目まぐるしく変わり、言葉も出てこない。 だがその目はずっと鏡に映った自分自身に釘付けになっている。 そして、ピアスを施された右乳首、色の変わった右目が、その痛みに反応し、それを快楽として受け容れようとしていることに気づき、改めてキタダニは戦慄した。 「分かったようね、もうあなたの心の半分はパピヨンなの。キタダニ氏としてのあなたの人格を眠らせて、そのまま消去することも出来るのだけど、あなたのマゾヒズムが自然に開花して、あなた自身が自分をパピヨンと認めるまで、私たちはゆっくりと待つことにするわ……」 「いやぁぁぁぁぁ!」 己に残された運命に、果てしない絶望と苦悶と歓喜と快楽を感じ、キタダニ/パピヨンは絶叫した…… そして、プリンセスはその耳に新たなバニーガール創造を評価するオーナーの声を受信していた。 【今回も素晴らしい仕事でしたわね。完全に女性化するのではなく、以前の自分と同じ状態に敢えて留めるというところが、わたくしがあなたに施した仕事をよく理解している証左というもの。まさにあなたはプリンセスとしてわたくしの後継者となり得ることを証明したのです……】
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―既にさんざんバニーガールとして、あるいはバニーガールを相手に淫らな行為を繰り返してきたというのに、まるで婚約者と初夜を共にする新妻のように心が躍る。

今夜、私はついにオーナー様と面会することになり、バニーガールとしての身支度を整え、自室のベッド上で待っているところだ。

いや、以前にもオーナー様の魔力を分け与えていただくために、お部屋に呼ばれ、存分に愛撫していただくと共に、男性からアニマを引き出し、バニーガールと化す力を授けていただいた。
レヴューに於ける四つの分野で優れたパフォーマーであることを証明し、その力を振るって、四人のお客さまをバニーガールに変えた。その手際について評価をいただき、ついにオーナー様はプリンセスである私をご自身の後継者として正式に任命してくださった。
今夜は、その任命式。オーナーとその後継者だけで執り行われる……

そのお言葉をいただき、甘い唇伝いに魔力を分け与えていただき、女であること、バニーガールであることの喜びをこの身に刻み付けてくださったオーナー様……
以前の魔力の授与の際には、目隠しをされていて、そのお顔を拝謁することは叶わなかった。
正式にオーナーの地位の任命式まで、プリンセスはオーナー様の顔を見ることが許されない。ブレインダメージのバニーガールの中にあって、最も高い地位にある私だけが、逆にただ一人だけオーナー様の顔を存じあげない……
ついにオーナー様にお目通りを許された感動と、今までオーナー様の顔を窺うことが出来なかった秘密がついに明かされるのだという好奇心の両方で、私の胸は高鳴りっぱなしだ……

一秒が何時間にも思える中を待ち続けた末、ついに私の部屋のドアをノックする音が響いた。同時に、私の疑似耳にオーナー様のお声が響いた。そして同じ声がドアの向こうでも。
【「こんばんは、プリンセス。入ってもよろしいかしら?」】
心臓がどくんと跳ね上がる。取り乱してはいけない。大きく息を吸い込み、私は返事する。
「お入りくださいませ、オーナー」

ドアが開き、一人の女性が入ってきた。
とても美しい女性が入ってきた。
バニーガールの格好をした、とても美しい女性が入ってきた。
私が今までに見たバニーガールたちの中で、最も美しい女性が入ってきた。
そのお顔は……

一瞬、鏡を見ているのかと錯覚した。
それほどオーナーは私に似ている。
はっと息を呑み、両手で口を覆う私に微笑みかけ、足早にオーナーは部屋に入って来て、私の待つベッドへと迫ってきた。
「失礼するわね」
オーナー様がベッドに上って来られる。私は慌ててそのお手を取り、そこに口づけする。それだけで得も言われぬ多幸感に満たされてしまう……

オーナーも、私の頬にキスしてくださった。そして、私をベッドに押し倒す。
嗚呼、初めて魔力を分け与えていただいた時は、お顔を拝見することを許されなかったが、今は思う存分その美しい相貌を堪能することが出来る。

同じ枕に横たわったそのお顔は、思っていたよりもずっと若々しい。これほどの美女たちの中に君臨するお方なのだから、もっと威厳のある、お歳を召された方だと思っていたが、私より少し上くらいの…
はたと気がついた時、オーナーは部屋の天井を指さした。

天井には、常に私に私自身の女としての姿を見せつけ、ナルシストとしての素養を磨くための鏡が取り付けられている。
そこには肩を並べてベッドに寝そべるオーナー様と私が映っていた。

枕の上に並んだ二つの顔は、とてもくよく似ている。
上品な高い鼻梁、高貴なまでの深みを湛えた瞳の青、それを覆うまつ毛はどんな男を惑わさずにはおかないほどにセクシーでありつつあくまで楚々としており、頬から顎にかけての造形は美の神が二人一対の作品として造ったものとしか考えらないほどに完璧なラインを描き、その中央に一輪の花が咲くように唇が半開きになっている。
戸惑いがちな私と面白がる様子のオーナー様の表情は対照的だったが、それだけに元の顔つきがいかに似ているかが顕著になっている。

私のゴージャスな金髪に対し、オーナー様は素敵な光沢を帯びたピンクの髪。
このピンク色が、オーナーをより若々しく見せていることに気づく。

寝そべった姿勢で並んでいると、体格の差異にも気づかされる。
私の方がわずかに背が高い。
私の方がより胸が大きい。
私の方がわずかに肩幅が広い。
私の方がより尻が大きい。
全体に、私の方が豊満で大柄だ。より肉感的と言ってもいい。
それだけ私の方がセクシーだということも出来、ナルシストとしての私は誇らしい気分にもなったが、それとは別に、オーナー様の肉体に対する憧れと欲情もまた薄れることはない。
私よりも引き締まったその身体は、均整が取れ、全身どの箇所の筋肉にも皮下脂肪にも一切の無駄がなく、それでいて女性的な魅力を痩せさせてしまうことがない。女神の肉体というものがあるとすれば、こんな風なのではないか。

私はオーナー様の胸に顔を埋め、その肌の滑らかさ、極上の弾力、高貴にして怪しげな香りを思わず堪能してしまう。
私の髪を甘い手つきで撫でながら、オーナー様は語りかける。

「私の愛しいプリンセス、鏡に映ったあなたとわたくしをよく見て。とても良く似ているでしょう?これが何を意味するか分かりますかしら?」
私は無言でオーナー様の言葉を待つ。

「わたくしはずっと私の後継者になり得る”資格”を備えた魂の持ち主を探していたのです。以前にも説明しましたね?わたくしの魔法で女性化された男性は、その理想とする女性像、即ちアニマの姿と化します。わたくしはそうやって多くのお客さまの抱くアニマを見てきました。そんな中、あなたの持つアニマは、わたくしにとって完璧だった……」
思わず、私は息を呑む……「え、それじゃあ……」

オーナー様は優雅に頷く。「そうです。あなたはわたくしとほぼ同じ姿をその理想の女性像としたのです。そんなアニマの持ち主を女性化すれば、わたくしと一致する肉体となる…つまり、わたくしと同じ資質を持ち、わたくしの後継者足り得る存在となる訳ですわ」

胸がいっぱいになり、自然と涙が溢れ出てくる。
オーナー様と同じ顔と身体になれたなんて。
この美しく、蠱惑的な顔と身体がオーナー様と同じものだったなんて……
だとすれば、ナルシストである私が、オーナー様に惹かれるのは当然のこと。
オーナー様を愛し、尊敬してやまない私がナルシストであるのは当然のこと。
オーナー様は悪戯っぽく笑いながら、だがとても真摯に、言葉を重ねる。

「でも、あなたは予想以上だったわ。わたくしと完全に同じではない……わたくしより美しく、わたくしよりセクシー……わたくしより胸もお尻も大きく、わたくしよりも長身。プリンセス、妹であるあなたはこの姉の上位互換になったの」

嗚呼……
オーナー様のお褒めの言葉に、そしてオーナー様直々に、オーナー様の妹と呼んでいただけたことに、感激の涙がますます止まらなくなる……
それはオーナー様への敬意と服従の想いが一層深まっていくことであり、私はますますオーナー様の賜る言葉に沈溺していく。

「嗚呼……お姉さま……そんな風に言っていただけるなんて……お姉さまの方が、私よりずっと素敵です」
決して嘘偽りのない言葉だ。
確かに、女の肉体としては私の方が豊かではあるかもしれない。
だが、私にとって、お姉さまほど、オーナー様ほど魅力的な方は、この世に存在しない。何故なら、お姉さまこそ私のアニマの更なる原型なのだから……

「そんなことはないわ、わたくしのプリンセス……ずっと探し続けてきたわたくしの妹……わたくしの後継者……」
オーナー様も、興奮に濡れた声で私を抱きしめてくる……
オーナー様も、長年求め続けてきたものの具現化である私に惹かれてやまないのだ。
姉と妹である私たちは、掌と掌を合わせ、潤んだ瞳で見つめ合い、そして自然と唇を重ね合う……

私は、相手に快楽を与える魔力を舌と唇に込めて、オーナー様の舌と唇を責める。
当然、オーナー様も同様に快楽の魔法を使ってきて、私の舌と唇から全身が痺れるほどの快感と愛が染み込んでくる。あまりの心地よさに私は身をくねらせ、ますますオーナー様に必死にしがみつく。
私に出来ることは、オーナー様は私以上に出来る。同じことをしていたのでは、絶対に勝ち目はない。

「ふふ、わたくしの可愛いプリンセス。あなたの全てを嘗め尽くしてあげる……」
オーナー様の舌が私の呼吸を止めるほどの凄まじさで私の口の中を責める。
オーナー様の腕と脚が私を優しく包み込み、私は姉であるオーナー様……いや、女王様の虜となっていく。

クイーン…プリンセスの姉。
プリンセス……クイーンの妹。
完璧なカップル。
その感動が私を圧倒し、それだけで私は逝ってしまった。

快楽に荒い息をつく私を優しく見つめ、お姉さまは私の頬を撫でる。
「まだこんなものではないわ。わたくしと同じ”資格”を持つあなた、私の上位互換たるあなたには、わたくしと同じかそれ以上のことが出来る筈。さぁ、続けましょう。わたくしたちが共有出来る快楽、わたくしたちが達することが出来る高みもまたこんなものではない、そうではなくて?」

お姉さまの励ましに、私は勇気づけられ、身体を起こし、再び唇を重ねた
―それからのことは、理解を絶した。互いに魔法を使うことの出来る女と女が、同じ肉体を持ち、互いの感じ易いところを知り尽くしている女と女が愛し合う。それは快楽の限界点をひと晩のうちに何度も突き抜けるということだった。
いや、ひと晩ではなく、本当に短い間だったのかもしれない。
私たちは時間を止めて愛し合うことが、快感を持続させる魔法を使えるのだから…
愛し合う中で、お姉さまは私に告げる-

【あなたがどんどん高みに上っていくのが分かりますわ。それでこそ私の後継者】
【あなたのような後継者がいれば、わたくしも安心してブレインダメージをあなたに任せられます】
それはどういうことか…疑問に思い、集中が途切れた瞬間、お姉さまに攻めこまれ、またしても逝かされてしまう。
【後継者が見つかったら、わたくしはブレインダメージを譲って、新たなクラブを出すつもりでしたのよ】
【紫さんや若葉ちゃんや泉美さんたち、あなたの特別お気に入りの子はサポート役として残していきます。今度はあなたがブレインダメージのオーナーとして、店を切り盛りし、バニーガールを増やしていくのです】
嗚呼…こんな名誉があるだろうか。私がブレインダメージのオーナーに……元はといえば、しがないお客の一人にすぎなかった私が、文字通りの天国の支配者にまでなれるなんて……
「こんな素敵なプレゼントをいただけるなんて……私、何をしてお返しすれば……」
【あなたがオーナーとして店を続けていくことこそがお返しになります、気にすることはなくてよ】
―だが、そこで思いつくことがあった。
【お姉さま、私からのお返しとしてひとついいアイディアがあります。これをもって、お姉さまのご卒業祝いとさせてください……】
キスと共に、私は自分の頭に浮かんだアイディアをお姉さまへと送る……
お姉さまは目を見開いて、驚いた。
ご自分の想像をすら超えることを思いついたことで、お姉さまは私がお姉さまを越えることを確信してくださったようだ……

―既にさんざんバニーガールとして、あるいはバニーガールを相手に淫らな行為を繰り返してきたというのに、まるで婚約者と初夜を共にする新妻のように心が躍る。 今夜、私はついにオーナー様と面会することになり、バニーガールとしての身支度を整え、自室のベッド上で待っているところだ。 いや、以前にもオーナー様の魔力を分け与えていただくために、お部屋に呼ばれ、存分に愛撫していただくと共に、男性からアニマを引き出し、バニーガールと化す力を授けていただいた。 レヴューに於ける四つの分野で優れたパフォーマーであることを証明し、その力を振るって、四人のお客さまをバニーガールに変えた。その手際について評価をいただき、ついにオーナー様はプリンセスである私をご自身の後継者として正式に任命してくださった。 今夜は、その任命式。オーナーとその後継者だけで執り行われる…… そのお言葉をいただき、甘い唇伝いに魔力を分け与えていただき、女であること、バニーガールであることの喜びをこの身に刻み付けてくださったオーナー様…… 以前の魔力の授与の際には、目隠しをされていて、そのお顔を拝謁することは叶わなかった。 正式にオーナーの地位の任命式まで、プリンセスはオーナー様の顔を見ることが許されない。ブレインダメージのバニーガールの中にあって、最も高い地位にある私だけが、逆にただ一人だけオーナー様の顔を存じあげない…… ついにオーナー様にお目通りを許された感動と、今までオーナー様の顔を窺うことが出来なかった秘密がついに明かされるのだという好奇心の両方で、私の胸は高鳴りっぱなしだ…… 一秒が何時間にも思える中を待ち続けた末、ついに私の部屋のドアをノックする音が響いた。同時に、私の疑似耳にオーナー様のお声が響いた。そして同じ声がドアの向こうでも。 【「こんばんは、プリンセス。入ってもよろしいかしら?」】 心臓がどくんと跳ね上がる。取り乱してはいけない。大きく息を吸い込み、私は返事する。 「お入りくださいませ、オーナー」 ドアが開き、一人の女性が入ってきた。 とても美しい女性が入ってきた。 バニーガールの格好をした、とても美しい女性が入ってきた。 私が今までに見たバニーガールたちの中で、最も美しい女性が入ってきた。 そのお顔は…… 一瞬、鏡を見ているのかと錯覚した。 それほどオーナーは私に似ている。 はっと息を呑み、両手で口を覆う私に微笑みかけ、足早にオーナーは部屋に入って来て、私の待つベッドへと迫ってきた。 「失礼するわね」 オーナー様がベッドに上って来られる。私は慌ててそのお手を取り、そこに口づけする。それだけで得も言われぬ多幸感に満たされてしまう…… オーナーも、私の頬にキスしてくださった。そして、私をベッドに押し倒す。 嗚呼、初めて魔力を分け与えていただいた時は、お顔を拝見することを許されなかったが、今は思う存分その美しい相貌を堪能することが出来る。 同じ枕に横たわったそのお顔は、思っていたよりもずっと若々しい。これほどの美女たちの中に君臨するお方なのだから、もっと威厳のある、お歳を召された方だと思っていたが、私より少し上くらいの… はたと気がついた時、オーナーは部屋の天井を指さした。 天井には、常に私に私自身の女としての姿を見せつけ、ナルシストとしての素養を磨くための鏡が取り付けられている。 そこには肩を並べてベッドに寝そべるオーナー様と私が映っていた。 枕の上に並んだ二つの顔は、とてもくよく似ている。 上品な高い鼻梁、高貴なまでの深みを湛えた瞳の青、それを覆うまつ毛はどんな男を惑わさずにはおかないほどにセクシーでありつつあくまで楚々としており、頬から顎にかけての造形は美の神が二人一対の作品として造ったものとしか考えらないほどに完璧なラインを描き、その中央に一輪の花が咲くように唇が半開きになっている。 戸惑いがちな私と面白がる様子のオーナー様の表情は対照的だったが、それだけに元の顔つきがいかに似ているかが顕著になっている。 私のゴージャスな金髪に対し、オーナー様は素敵な光沢を帯びたピンクの髪。 このピンク色が、オーナーをより若々しく見せていることに気づく。 寝そべった姿勢で並んでいると、体格の差異にも気づかされる。 私の方がわずかに背が高い。 私の方がより胸が大きい。 私の方がわずかに肩幅が広い。 私の方がより尻が大きい。 全体に、私の方が豊満で大柄だ。より肉感的と言ってもいい。 それだけ私の方がセクシーだということも出来、ナルシストとしての私は誇らしい気分にもなったが、それとは別に、オーナー様の肉体に対する憧れと欲情もまた薄れることはない。 私よりも引き締まったその身体は、均整が取れ、全身どの箇所の筋肉にも皮下脂肪にも一切の無駄がなく、それでいて女性的な魅力を痩せさせてしまうことがない。女神の肉体というものがあるとすれば、こんな風なのではないか。 私はオーナー様の胸に顔を埋め、その肌の滑らかさ、極上の弾力、高貴にして怪しげな香りを思わず堪能してしまう。 私の髪を甘い手つきで撫でながら、オーナー様は語りかける。 「私の愛しいプリンセス、鏡に映ったあなたとわたくしをよく見て。とても良く似ているでしょう?これが何を意味するか分かりますかしら?」 私は無言でオーナー様の言葉を待つ。 「わたくしはずっと私の後継者になり得る”資格”を備えた魂の持ち主を探していたのです。以前にも説明しましたね?わたくしの魔法で女性化された男性は、その理想とする女性像、即ちアニマの姿と化します。わたくしはそうやって多くのお客さまの抱くアニマを見てきました。そんな中、あなたの持つアニマは、わたくしにとって完璧だった……」 思わず、私は息を呑む……「え、それじゃあ……」 オーナー様は優雅に頷く。「そうです。あなたはわたくしとほぼ同じ姿をその理想の女性像としたのです。そんなアニマの持ち主を女性化すれば、わたくしと一致する肉体となる…つまり、わたくしと同じ資質を持ち、わたくしの後継者足り得る存在となる訳ですわ」 胸がいっぱいになり、自然と涙が溢れ出てくる。 オーナー様と同じ顔と身体になれたなんて。 この美しく、蠱惑的な顔と身体がオーナー様と同じものだったなんて…… だとすれば、ナルシストである私が、オーナー様に惹かれるのは当然のこと。 オーナー様を愛し、尊敬してやまない私がナルシストであるのは当然のこと。 オーナー様は悪戯っぽく笑いながら、だがとても真摯に、言葉を重ねる。 「でも、あなたは予想以上だったわ。わたくしと完全に同じではない……わたくしより美しく、わたくしよりセクシー……わたくしより胸もお尻も大きく、わたくしよりも長身。プリンセス、妹であるあなたはこの姉の上位互換になったの」 嗚呼…… オーナー様のお褒めの言葉に、そしてオーナー様直々に、オーナー様の妹と呼んでいただけたことに、感激の涙がますます止まらなくなる…… それはオーナー様への敬意と服従の想いが一層深まっていくことであり、私はますますオーナー様の賜る言葉に沈溺していく。 「嗚呼……お姉さま……そんな風に言っていただけるなんて……お姉さまの方が、私よりずっと素敵です」 決して嘘偽りのない言葉だ。 確かに、女の肉体としては私の方が豊かではあるかもしれない。 だが、私にとって、お姉さまほど、オーナー様ほど魅力的な方は、この世に存在しない。何故なら、お姉さまこそ私のアニマの更なる原型なのだから…… 「そんなことはないわ、わたくしのプリンセス……ずっと探し続けてきたわたくしの妹……わたくしの後継者……」 オーナー様も、興奮に濡れた声で私を抱きしめてくる…… オーナー様も、長年求め続けてきたものの具現化である私に惹かれてやまないのだ。 姉と妹である私たちは、掌と掌を合わせ、潤んだ瞳で見つめ合い、そして自然と唇を重ね合う…… 私は、相手に快楽を与える魔力を舌と唇に込めて、オーナー様の舌と唇を責める。 当然、オーナー様も同様に快楽の魔法を使ってきて、私の舌と唇から全身が痺れるほどの快感と愛が染み込んでくる。あまりの心地よさに私は身をくねらせ、ますますオーナー様に必死にしがみつく。 私に出来ることは、オーナー様は私以上に出来る。同じことをしていたのでは、絶対に勝ち目はない。 「ふふ、わたくしの可愛いプリンセス。あなたの全てを嘗め尽くしてあげる……」 オーナー様の舌が私の呼吸を止めるほどの凄まじさで私の口の中を責める。 オーナー様の腕と脚が私を優しく包み込み、私は姉であるオーナー様……いや、女王様の虜となっていく。 クイーン…プリンセスの姉。 プリンセス……クイーンの妹。 完璧なカップル。 その感動が私を圧倒し、それだけで私は逝ってしまった。 快楽に荒い息をつく私を優しく見つめ、お姉さまは私の頬を撫でる。 「まだこんなものではないわ。わたくしと同じ”資格”を持つあなた、私の上位互換たるあなたには、わたくしと同じかそれ以上のことが出来る筈。さぁ、続けましょう。わたくしたちが共有出来る快楽、わたくしたちが達することが出来る高みもまたこんなものではない、そうではなくて?」 お姉さまの励ましに、私は勇気づけられ、身体を起こし、再び唇を重ねた ―それからのことは、理解を絶した。互いに魔法を使うことの出来る女と女が、同じ肉体を持ち、互いの感じ易いところを知り尽くしている女と女が愛し合う。それは快楽の限界点をひと晩のうちに何度も突き抜けるということだった。 いや、ひと晩ではなく、本当に短い間だったのかもしれない。 私たちは時間を止めて愛し合うことが、快感を持続させる魔法を使えるのだから… 愛し合う中で、お姉さまは私に告げる- 【あなたがどんどん高みに上っていくのが分かりますわ。それでこそ私の後継者】 【あなたのような後継者がいれば、わたくしも安心してブレインダメージをあなたに任せられます】 それはどういうことか…疑問に思い、集中が途切れた瞬間、お姉さまに攻めこまれ、またしても逝かされてしまう。 【後継者が見つかったら、わたくしはブレインダメージを譲って、新たなクラブを出すつもりでしたのよ】 【紫さんや若葉ちゃんや泉美さんたち、あなたの特別お気に入りの子はサポート役として残していきます。今度はあなたがブレインダメージのオーナーとして、店を切り盛りし、バニーガールを増やしていくのです】 嗚呼…こんな名誉があるだろうか。私がブレインダメージのオーナーに……元はといえば、しがないお客の一人にすぎなかった私が、文字通りの天国の支配者にまでなれるなんて…… 「こんな素敵なプレゼントをいただけるなんて……私、何をしてお返しすれば……」 【あなたがオーナーとして店を続けていくことこそがお返しになります、気にすることはなくてよ】 ―だが、そこで思いつくことがあった。 【お姉さま、私からのお返しとしてひとついいアイディアがあります。これをもって、お姉さまのご卒業祝いとさせてください……】 キスと共に、私は自分の頭に浮かんだアイディアをお姉さまへと送る…… お姉さまは目を見開いて、驚いた。 ご自分の想像をすら超えることを思いついたことで、お姉さまは私がお姉さまを越えることを確信してくださったようだ……
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―レヴューのステージフロアは、例外的とも言えるほどの大人数の客を呑み込み、活気づいていた。
ブレインダメージが提供するサービスの中では、レヴューは最も高いヒエラルキーに位置し、鑑賞量も高額であるし、十数人ないしそれ以上のバニーガールが出演するプレミア級のレヴューともなれば、相当に定連の客でなければ、鑑賞への招待を受けられない。

それが今回は、大規模なレヴューを行うという旨が告知され、予約が早くから始まっていた。
予想外の安売り振りに、経営難で当座の資金稼ぎに走っているのではないか、いや、閉店間近だ、と客の間では噂も立っていたが、今までにない大規模で斬新なレヴュー!と銘打たれては、今までブレインダメージのレヴューに入れ上げてきたお客としては、無視を決め込めるものはそうそうはいなかった。

お客たちはホールに入ってくると、いつもは少数のお客のみが愉しむためのソファが三十席ほど用意してあるところが、ソファが減らされ、その分後方には立ち見扱いとなる簡易なスツールが用意されていた。少しでもお客をたくさん入れるため、というところか。

ホステス役とバーメイドがにこやかな笑顔でお客を迎え、席へと誘い、シャンパンやスイーツを振る舞う。この酒とお菓子は一流のものをオーダーしており、決してブレインダメージが経営難に陥っているなどとは思わせないものだった…あるいは思わせないように無理をしている、と思う向きもあったろう。ブレインダメージのような高級クラブでは、そうしたハッタリも往々にして見られるものではあるし、またそうした店に通う上流階層のお客の間ではいちいちほじくり返さないものである。
お客たちも、ごく穏健で他愛のない会話に終始しており、時折、何か自分の知らない情報を引き出せないかと探りを入れ合っているが、必要以上の緊張感はない。何より、ここのバニーガールに注ぎ込む金と熱量を競い合う筆頭だったキタダニ、ミナミバシ、ニシアガリ、ヒガシドがいないことで、お客同士の間の雰囲気はかなり和らいだものになっていた。

ごく少数ではあるが、女性客もいる。
もちろん女性客でもレヴューを観に来るお客入るが、男性客に比べ、絶対数的に少ないのは当然といえた。女性客の場合、もしブレインダメージが閉店するのだとすれば、推しのバニーガールがステージで活躍する姿を目に焼き付けておきたい、といった動機での来場が多い様子だ。

客席の照明が落ちる、ファンファーレが鳴る、といった前触れもなく、いきなりステージのカーテンが開き、軽快なBGMと共にショウが始まった。
レヴューの幕開けがこのように素っ気ないということは今までになく、お客は思わず慌ててしまう。ソファやスツールに座り直す者も少なくない。

転がるようにステージに出てきたのは若葉だった。
その丸みのある身体の線と機敏な動きは猫のようだ。ステージ中央に建てられたポールに文字通り転がっていき、ぱっとそれをつかんで起き上がると、思いっきり右足をポールに沿って上げてみせる。
いきなりのホットなスタートに、客席からはどよめきが起きた。

それには、最終的にはセクシーな、特に高額なレヴューではアダルトな領域にまで達することも珍しくないブレインダメージのレヴューでも、いや、格式の高さを主張するブレインダメージだからこそ、レヴューは露骨なスタートをすることはなく、ハードコアにアダルトな内容になっても、必ずお客を落ち着かせるように収束していくのが常なのだ。これは異例といって良く、これはいよいよ閉店が近いのでは、という一部のお客の憶測に油を注いだ…

パフォーマンス中ではあるが、泉美のアナウンスが入る。
「紳士淑女の皆様、こんばんはようこそ、ブレインダメージへ。当夜のレヴューは、当クラブ史上例のない大規模なものとなります。最高濃度のパフォーマンスを休憩なしで一気に最後まで突っ走りますので、観覧されます皆さまもどうかご無理のないよう、リラックスしてご鑑賞くださいませ」

時折エグいポーズも織り交ぜつつ、それでいて屈託のない無邪気な笑顔を決して絶やさずに踊る若葉は、ホットであり且つイノセントであり、観客の期待を一気に煽った。
……定刻が決められているようで、一定の時間を踊ると、次のバニーガールがステージに出てくる。それぞれ異なった振り付けで、観客の目を満足させ、メインの座を譲ったバニーガールも、バックで緩やかに踊り続け、ステージに華を添え続ける。そして……

「本日第一部のスターです。本日がデビューとなります、アリス!」
バックダンサーのバニーガールたちが、一斉にステージの上手を指さした。
そちらから、ネイビーブルーの髪をなびかせ、バニーとしての疑似耳を振るわせて、はちきれんばかりの巨乳を揺らして、アリスが大股で駆け出してきた。
出てきざまに、ステージ中央のポールを片手でつかみ、ハイヒールも物ともせずにコンパスのようにポールを軸に身体を一回転させる。
かと思うと、今度は片足を膝のところでポールにひっかけ、逆方向に回って見せる。巨乳の間にぶら下がるネクタイが翻る。
得意満面といった様子の、だがどこまでも健康的でてらいのない笑いを客席に向けている。

アリスのパフォーマンスに、客からは拍手と指笛が飛んだ。
アリスは、一旦客席に背を向けると、両手でポールを握り、しゃがみこんだ。両腰に取り付けられた飾りが床まで達し、量感溢れる尻がほぼお客の目線の高さまで降りてくる。
最前列の客たちは、目を見張ってアリスの尻に讃嘆と欲情の視線を送った。

屈託のないものだったアリスの表情が、やや芝居気を帯び―とはいっても、決して媚びたものではなく、やや寂しげに客席を振り返るというものだ―、アリスはポールをつかんで身体を上下させる。
身体を伸ばして立ち上がりかけたかと思うと、またしゃがみかけるという動作を何回か繰り返し、そしてついに立ち上がった瞬間、手を放した姿勢で身体をくるりと回転させた。巨大な乳房の間にポールを挟み、軸にしているのだ。
客席からどよめきが湧く。

今度はまた片足を膝でポールにひっかけて回転し、そのまま胸を張り、背中を反らしていく。
アリスは風見鶏のように回転するが、恐ろしく大きい乳房が嫌でも強調され、お客は圧倒される。回転を維持しながら、アリスは少しずつ姿勢を変え、両手を下げていき、ついには片足をポールに引っ掛けての逆立ちを披露した。巨乳が重力に従って垂れることで、改めてその大きさと重量感を思い知らされ、観客はまたしても固唾を飲んだ。

アリスはますます明るく笑いながら、さっと身体を横転させた。
一瞬ポールから離れつつ元通りに両足で立ったアリスだが、すぐに右手でポールをつかみ、同時に右足をどこまでも高く蹴り上げ、ポールに沿って屹立させる。
ポールと右ももをがっしりと右手がつかんでのI字バランスだった。
客席からは拍手と指笛が絶え間なく沸き上がる。

アリスはポールから手を離して床に座り込んだ。
両足を思いきり開いて、両手を後頭部にあてがい、体操をするように、身体を左右に捻る。
シンプルな動作だが、バニーコートと薄いタイツに包まれたその身体にねじりが加わる様は、どうにもセクシーで、既に最前列のお客たちは我慢出来なくなり、席を立って、ステージぎりぎりのところまで来て、見物していた。
アリスはそれを歓迎するかのような笑みを浮かべて見つめている。両手を床について、腰を浮かせ、上下させる、という露骨なパフォーマンスも見せる。だがお客が熱くなってくると、今度は一転して足を閉じたり、ステージ上であぐらをかいたり、と巧みにお客をコントロールする。

今度はバックダンサーに回っていたバニーガールの一人がアリスの許へ駆け寄ってきて、後方から彼女の腰に手を回す。アリスも、彼女の頭に手を回し、親愛の情を表現する。
そのバニーガールが離れたかと思うと、次のバニーガールが加わり、アリスの喉を、頬を、乳房を、肩を、太ももを撫でまわし、彼女と絡んでいく。
若葉たち八人のバックダンサーたちがポールのところにいるアリスと等間隔に距離を取ったかと思うと、一斉に彼女へと殺到し、彼女をもみくちゃにしていく。
かと思うと、彼女の下半身をつかんで担ぎ上げ、アリスは誇らしげに両手を広げて高みから客席へと愛想を振りまく……

既にステージ際にお客が群がっていたが、それを見越して、アリスはバニーガールたちの人やぐらから客席の観衆へとダイブした。
高級クラブならぬロックのライブハウスのようなパフォーマンスに、お客もどよめくが、自分たちのいるところに極上の女体が飛び込んできたのに文句を言う客がいる筈もなく、お客たちは受け止めたアリスの胸に、腰に、尻に、首筋に指を這わせる。
バニーガールに替わり男たちに担ぎ上げられるようになったアリスは、一切その笑顔を曇らせることなく、男たちの指がその肌を蹂躙するのに任せている。

ステージから主役が不在になったと思われたが、バックダンサーのバニーガールたちは、踊りながらくるくると回転し、そして一斉に自分たちが形成する輪の中心を指さした。
そこから火花が上がった。
火花が消えた後には、赤い光沢をまとったボレロジャケットと黒のバニーコートとタイツのバニーガールが挑発的な笑みを浮かべて立っていた―

「次なる主役は……新人マジシャン、リン!」
リンが会釈すると、お客から拍手と歓声が飛んだ。
リンは両手を開いた姿勢でにっこり笑ってそれに答えてみせると、彼女の左右の床から煙が噴き出した。観客はまたもどよめくが、リンが片手をあげて指を鳴らすと、煙が交錯し、それが晴れた後には、人の身長を上回るほどの大きさの水晶が出現していた。
ステージ上からのスポットライトに照らされ、水晶は虹色の輝きを明滅させる。客席からは、感嘆の叫びが漏れる……アリスの肉体を撫でまわすのに夢中になっている連中は例外だが。

「この水晶は、あなたの望みを映し出す魔法の鏡、お客さまが望むものを何でも取り出して見せますわ。どなたか手伝っていただけません?」
リンの呼びかけに、客席からいくつかの手が上がる。その中からリンは一人を選び、指さす。
すると、その身体がスツールからふわりと持ち上がり、宙に浮きあがって、ステージへと移動した。当のお客も、他の者たちも唖然としてしまう。
選ばれた三十代くらいの眼鏡の男は、その腕にリンがすがってくるのにどぎまぎした様子だが、もちろん不満のある様子もなく、鼻の下を伸ばしている。

リンが軽く指を振ると、今度は豪奢なソファがステージ上に出現し、リンは男をそこへと誘った。
「さて、始めましょうか。さ、水晶を覗き込んでくださいませ」

男はソファから上半身を乗り出し、磨き上げられた水晶の表面に顔を近づけた。
そこには男自身の顔が映っていたが……水面に小石を落としたような揺らぎが発生し、水晶に映る光景は歪んで見えなくなった。
そして、揺らぎが収まっていくと、そこに映っているのは……

豊かなプラチナブロンドの髪をポニーテイルにまとめたバニーガールだった。
男は目を見張る。
水晶に映るバニーガールも同様に目を見張る。
顔も姿も着ている衣服も全く異なるものの、男と水晶の中のバニーガールは、全く同じ表情で、全く同じ動きを重ねる。

「ふふ、これがお客さまの求めるものなのですね。こんなバニーガールが理想だと?」
リンに耳元で囁かれ、男は呆然としつつ頷いた。
今まで自覚したことはなかったが、自分が今までこのクラブに通い続けてきたのはこんなバニーガールに巡り合いたかったからかもしれない……
男は、水晶に映る自分に惹きつけられ、それをじっと凝視する……

「その理想は手の届くところにありますわ、さあ」
リンに促され、男は水晶に触れる……その手が水晶に溶け込んだ。
驚く男に何かする暇を与えず、リンは男を水晶へと押し込んだ。男の身体は水晶へと飲み込まれて消えた―以前ニシアガリという男がそうだったように。

客席の誰もが息を呑んだ。
リンは悪戯っぽい笑いを崩さず、水晶の表面を指し示し続け、そして水晶へと触れた―水晶にリンの手が溶け込むように入っていき、水晶の中のバニーガールの手をつかんだ。
「ほら、戻っておいでなさいな。皆様もしっかりと見てあげてくださいましね」

リンが手を引っ張ると、水晶の中からバニーガールが生れ落ちるように出現した。
自身のハイヒールに戸惑い、つまずきそうになるバニーガールを支え、リンは彼女を抱きとめる。

観客たちは何が起きたのかよく分かっていなかった。
だが、新たに出現したバニーガールは……自分の姿を見て驚愕していた。
「この……俺が……バニーガール……に?」
自分の疑似耳やリンに劣らず豊かな乳房やほっそりとした指先や繊細な頬を触ったりしながら、バニーガールは、自分の姿に違和感を覚えている。
観客の中でも察しの良い一部の者は、このバニーガールが水晶に呑まれた男が変身した姿だと気付き始めていた。

「ほらほら、しっかりなさいな。そのお姿があなたの理想とする女性のそれだった、と思い出せませんか?」
バニーガールを優しくフォローしつつ、リンが手を振ると、今度はステージ上に豪奢なソファが現れた。
次いでリンが指を鳴らすと、彼女の露出度の高いバニーガールとしての衣装は、布をたっぷりと使ったメイドの衣装に変わった。メイドのカチューシャにもバニーの疑似耳が残り、バニーガールとしても特徴的だった金属製のカラーとカフス、そしてそこから下がる短いチェインはそのままだが。メイドとなったリンは、新たに誕生したバニーガールをソファに誘い、座らせると、自らはその前に傅いた。
「ふふ、お嬢様、私はお嬢様にお仕えするメイドにして奴隷。何でもお申し付けくださいませ」

客席からまたしてもどよめきが起きる。
客席からの反応の熱さに比し、当のバニーガールになった男は、どう反応すればよいのか分からず、どぎまぎしている。
それはまず、自分が何に欲情しているのかが分からないという困惑だった。この思ってもみなかったパフォーマンスに困惑しているのは確かだが、同時に、女になった自分がひどく興奮し、欲情していることは分かった-

だが何に?誰に?
バニーガールになった自分に?目の前に跪くメイドに?
今の自分が着ているバニーガールの衣装は、彼の男としての欲望と興奮をくすぐり、その心を捉えて離さない…今の彼の身体は女であるにも関わらず。

「それではお嬢様……失礼いたしますわ」
メイドとなったリンは、うやうやしくお辞儀をすると、バニーガールとなった男の掌を取り、服従の意志を示すキスを施した。そして、そのまま手首から二の腕にかけて唇を這わせていって、しなだれかかるようにして首にまで唇を到達させ、その耳許でささやく。

「お嬢様……可愛らしいですわ……食べちゃいたい……」
リンの唇がバニーガールの耳を這いまわる。
リンの手がバニーガールの胸元に及び、バニーコートの上から乳房の頂点を指でぴんと弾いた。
「あン……」バニーガールは初々しく悶え、彼女自身が初めて味わう快楽に、自身が女になったことの確信を得る。

目がとろんとなったバニーガールの頬を優しく持ち上げ、メイドはバニーガールの唇にそっとキスした。二人の唇が近づき、触れ合う……
そしてリンの舌がバニーガールの中へと入っていく。
バニーガールはびくりと震えて顔を離そうとするが、リンはその顔を捉えて逃さない。舌をからめてバニーガールとなったお客の女としての味を味わっていく―彼の唾液を飲み込んでしまうほどに深く長いキス…
その美しい光景に、客席から拍手が起きる。

「お嬢様、喜んでいただいて光栄です。では……」
リンはバニーガールの膝の上にまたがり、その豊かな胸をバニーガールのそれにすりつける……
バニーガールの顔が恍惚にとろけ、半開きになったその唇から喘ぎ声が漏れ始める。
リンの指がバニーコートの胸に伸び、胸を覆っているカップを折り曲げる。巨大な乳房が露わになると、メイドはそれを両手で持ち上げ、軽く揺さぶりつつ、乳首を舐め始めた。バニーガールは一層激しく喘ぎ……その顔にははっきりと女の歓びに身を委ねる笑顔が浮かぶ……

「お綺麗ですわ……お嬢様」
再びメイドがバニーガールの唇を奪った。
二人は唇だけでなく、舌を絡め合ってお互いを味わう……女の快楽に蕩けていくバニーガールは、リンの身体にしがみつき、彼女の舌が身体を這いまわるのを許すばかりか自分からも舌を伸ばし始めている。今や自分が女に、バニーガールになったことを完全に認めた彼は、いや、彼女は、女としての歓びと新たな欲望に目覚めつつあった。

「さあ、お嬢様、ご奉仕させてくださいませ」
リンの言葉に、バニーガールは躊躇なく応える―「リンさん……リンさま……私の方こそリンさまにご奉仕したいですぅ……バニーガールとしてご主人さまにご奉仕したいのぉぉぉ…」
リンは無言で頷き、再度指を鳴らした。メイドの衣装は消え、彼女は再びステージマジシャン兼バニーガールの姿に戻る。
新人バニーガールがソファから立ち上がるのを手伝いつつ、リンは客席に向けて意味深に微笑みかけた。
その笑みの持つ意味を、そして自分たちと同じくついさっきまで客席でレヴューを見物している立場だったお客が、女に、バニーガールの立場に、奉仕する側に堕ちたという事実に、客席に戸惑いと一抹の戦慄が漂った。

お客たちの思惑、そしてそれに準じた反応は、二つに分かれた。
ひとつは、自分もバニーガールになってみたい、というもの。
もうひとつは、バニーガールといちゃつき、バニーガールに奉仕されるのが自分であるべきであって、自分がバニーガールになるのは違う、というもの。
そしてそのそれぞれに、所詮これはレヴューでありパフォーマンスであり作りごとなのだから、本当にバニーガールになってしまう訳がない、という楽観的な見方と、もし本当に自分がバニーガールになってしまうのだとしたら、なれるのだとしたら、という可能性と不安と願望を潜ませた見方があった……

「お集りの紳士淑女の皆様、本日のショウは楽しんでいただけておりますでしょうか」
アナウンスが響き渡る。プリンセスの声だった。
「本日のレヴューはダンスとマジックに加え、従来のレヴューではなかった楽しみをお客様にご提供したいと思っております」
姿は見えないが、優雅で上品で、そしていくらかサディスティックな含みを持たせたプリンセスの声に、お客たちは期待と不安をそれぞれに増幅させていく。

「既にリンのマジックはご覧いただけたものと思います……今夜限りの特別サービスは、お客さまにもバニーガールになっていただけるというもの」

改めての宣言に、客席はどよめいた。
半分は、羞恥や後ろめたさを含んだ歓喜、もう半分は、嫌悪と不安から出たものだった。
その言葉を合図としたかのように、ステージ上に控えていたバックダンサー役のバニーガールたちが、バニーガール化されたばかりの男に群がり、その全身を愛撫し始めた。
新人バニーガールの嬌声がステージ上から響き始めた。まるで女になるとこんなにも気持ち良い体験が出来る、と客席に訴えるかのように……

「もちろんご自分がバニーガールになるより、バニーガールを鑑賞し、バニーガールの接待を受けたいというお客さまも多いということも承知しております。そうしたお客さまにも、従来なかったサービスをご用意致しました……」

ステージ袖から、ボンデージ衣装にハイヒールのサイハイブーツの紫が歩み出てきた。
その手には二本の紐が握られており、それは彼女の跡に従う二人のバニーガールの首輪に繋がれていた…

ステージ上に引っ張り出されたのは、ルナとパピヨンだった。
明らかに未成年と分かる少女たちが、バニーガールの装いと奴隷の如き扱いでステージ上に現れたことに、この日最高のどよめきが客席から漏れた。

「従来なかったサービスということがどういう意味であるかご理解いただけたものと思います」
プリンセスの声に、客席から無言で承認の頷きが送られる。
一方で、未成年をこのように扱うということに疑問を感じたお客もいたようで、特にお客をバニーガールにするということにも嫌悪を覚えたお客の中には、そそくさと席を立つ者も見られた……
…この後に繰り広げられる饗宴をこのお客が目にしていたら、どのように思ったことだろう。

ここまで目隠しをされていた二人の少女バニーガールだったが、紫は二人の目隠しと首輪を外した。
戸惑いがちな様子の二人だったが、今の自分たちが立たされている場所と状況に気づき、反応を示した。」かつて成年の男だった身が、今や可憐な少女となって、快楽を求めるお客の前に差し出されたという状況に、羞恥と困惑を憶えているのは二人ともに共通しているが、ルナの場合は、それに対する期待も覗かせていた。
そしてパピヨンの場合は‐

畜生、俺はバニーガールじゃねえ、何させやがるんだ、とパピヨンは、いや、キタダニは叫び出しそうになったが、その口からは声が出なかった。リンの魔法が声を発することを禁じていた。
「ルナとパピヨンでございます。この二人の奉仕をご希望されるお客さまは、どうぞステージの上へ……」

何人ものお客が手を挙げる。
今まで多くのバニーガールを貪ってきたキタダニにとって、自分が貪られる側になるのは恐怖と屈辱以外の何物でもなかった。
恐怖でひきつった表情のキタダニに対し、ルナの方はとろんとした目つきで、頬を赤く染め、自分を評価してくれるお客の到来を待ちわびている様子だ。

紫は、手を挙げている中から、一人の女性客を指名した。
最初の相手には、まず同性からという配慮に見え、誰もこれといって不審を覚えなかった…この時点では。
30代くらいの上品そうなビジネススーツの女性客がステージに上がって来て、後ろで新人バニーガールがダンサーバニーガールたちに性的に翻弄されている中、ソファに座る。

ソファの前に両膝をつき、両掌を重ねて、ルナはお客を見上げた。
「ご主人さま、ルナと申します。ふつつかではありますが、精いっぱいご奉仕させていただきます。何でもお申し付けくださいませ」

女性客は、しげしげとルナの顔を見つめた。
どう見ても、年齢は13、4歳より上には見えない。もっと幼いくらいかもしれない。
にも関わらず、メイクの絶妙さのせいもあったかもしれないが、不思議な色香を滲ませ、訴えてくるものがある。
言葉からも、ショウ、演技とは思わせない真摯さが伝わって来て、彼女の中の母性本能と嗜虐性の両方を刺激してくる。
とはいえ、こんな幼い娘にいざ何をさせるかとなると、すぐには思いつかないのも事実だった。
主人役が困っているのを見て取ったルナは、脇に立つ紫に目配せした。紫は、手にしている紐付きの首輪を差し出す。

「さあ、お客様。今からあなたが彼女のご主人さま……どうかルナの首にそれを」
驚いた顔で紫を見つめ返した女性客だったが、それを素直に受け取った自分にもっと驚いた。震える手で、ルナの首に首輪を嵌め、紐の先端を握る。
これだけで一層恍惚とした表情となったルナは、愛情を込めた微笑みを女性客に向けた。

「さあ、ルナを可愛がってくださいまし……」
その言葉がきっかけとなり、女性客は両手でルナの頭をなで始めた。
ルナは恍惚となり、もっともっとと頭や頬を女性客の掌にこすりつける。それでは物足りなくなったのか、女性客の指に唇を這わせる。
この行為に、思わず女性客はルナの唇の前に人差し指を置いて一旦静止し、そして改めて指をルナにくわえさせた。指をしゃぶるだけ、しゃぶらせるだけという単純な奉仕ながら、異様にエロティックで背徳的な空気が、ステージから客席までを満たす。

ふと、紫が女性客の肩を叩き、その足元に何かを置いた……6インチヒールの黒のハイヒールだ。
もちろん女性客も、高級クラブへ来るからには可能な限り気を張った服装をしてきていたし、靴にも気を遣っていた。だが、これほど高級な靴、尚且つヒールの高い靴を履いたことはなかった……

だが、この美しく、夢幻のように清らかさと無防備な淫らさが同居するこのバニーガールを奴隷とする女主人には、この靴でなければ似合わない……そんな思いが女性客の脳裏を完全に支配していた。
ソファに座ったまま靴を脱ぐと、女性客は足を投げ出す。

「失礼いたします」
ルナは両手をついた姿勢で、頭を下げ、ストッキングに包まれた女性の爪先にそっとキスし、ハイヒールを手に取ると、女主人の足に履かせた。そしてもう片足も…
ヒールを支点に、床に投げ出された女性客の脛に頬を擦りつけ、ルナは甘えるようなため息を漏らした。
ルナの首輪に繋がる紐を手に、女性客もまた恍惚に満ちた表情に変化しつつあり、その唇にサディスティックな笑みが浮かぶ。
女性客が紐を引き寄せると、ルナは女性客の膝に乗ってきて、腰をくねらせ始めた。密かに、バニーコートの内側で窮屈そうにしているかすかな乳房の膨らみが、その頂点で固くなっていく……

最早、女性客も躊躇はなかった。
その掌がルナの胸元へと伸び、バニーコートの上から平坦な彼女の胸を撫でる。ルナの甘い吐息を間近に感じながら、その胸の膨らみを指先で刺激した女性客は、ルナの腰がますます淫らにくねっていく様を見せつけられた。
「あん……ん……ご主人さま……」

切なげな声をあげつつ、ルナはキスを求めるように唇を突き出してきた。それに応じて女性客も唇を重ねる。最早、心のタガが外れてしまったかのように、自分の唇と舌でルナの幼い唇を蹂躙していく。
同時に、女性客の膝に股間を擦りつけるルナの動作も派手になっていく。
黒髪を振り乱して少女が喘ぎ狂う様に、客席の興奮も高まっていく……

「あぁぁんッ!」
口許を手の甲で押さえる可憐な仕草と共に、ルナが身をのけ反らせ、絶頂に達した。ぐったりとなったルナは、女主人の腕の中に倒れこむ……

暫し、少女との甘いひと時を楽しんでいた女性客だったが、そこで異変に気付いた―
ルナの股間に、先ほどまでは確かになかったものが生じつつあった。

―レヴューのステージフロアは、例外的とも言えるほどの大人数の客を呑み込み、活気づいていた。 ブレインダメージが提供するサービスの中では、レヴューは最も高いヒエラルキーに位置し、鑑賞量も高額であるし、十数人ないしそれ以上のバニーガールが出演するプレミア級のレヴューともなれば、相当に定連の客でなければ、鑑賞への招待を受けられない。 それが今回は、大規模なレヴューを行うという旨が告知され、予約が早くから始まっていた。 予想外の安売り振りに、経営難で当座の資金稼ぎに走っているのではないか、いや、閉店間近だ、と客の間では噂も立っていたが、今までにない大規模で斬新なレヴュー!と銘打たれては、今までブレインダメージのレヴューに入れ上げてきたお客としては、無視を決め込めるものはそうそうはいなかった。 お客たちはホールに入ってくると、いつもは少数のお客のみが愉しむためのソファが三十席ほど用意してあるところが、ソファが減らされ、その分後方には立ち見扱いとなる簡易なスツールが用意されていた。少しでもお客をたくさん入れるため、というところか。 ホステス役とバーメイドがにこやかな笑顔でお客を迎え、席へと誘い、シャンパンやスイーツを振る舞う。この酒とお菓子は一流のものをオーダーしており、決してブレインダメージが経営難に陥っているなどとは思わせないものだった…あるいは思わせないように無理をしている、と思う向きもあったろう。ブレインダメージのような高級クラブでは、そうしたハッタリも往々にして見られるものではあるし、またそうした店に通う上流階層のお客の間ではいちいちほじくり返さないものである。 お客たちも、ごく穏健で他愛のない会話に終始しており、時折、何か自分の知らない情報を引き出せないかと探りを入れ合っているが、必要以上の緊張感はない。何より、ここのバニーガールに注ぎ込む金と熱量を競い合う筆頭だったキタダニ、ミナミバシ、ニシアガリ、ヒガシドがいないことで、お客同士の間の雰囲気はかなり和らいだものになっていた。 ごく少数ではあるが、女性客もいる。 もちろん女性客でもレヴューを観に来るお客入るが、男性客に比べ、絶対数的に少ないのは当然といえた。女性客の場合、もしブレインダメージが閉店するのだとすれば、推しのバニーガールがステージで活躍する姿を目に焼き付けておきたい、といった動機での来場が多い様子だ。 客席の照明が落ちる、ファンファーレが鳴る、といった前触れもなく、いきなりステージのカーテンが開き、軽快なBGMと共にショウが始まった。 レヴューの幕開けがこのように素っ気ないということは今までになく、お客は思わず慌ててしまう。ソファやスツールに座り直す者も少なくない。 転がるようにステージに出てきたのは若葉だった。 その丸みのある身体の線と機敏な動きは猫のようだ。ステージ中央に建てられたポールに文字通り転がっていき、ぱっとそれをつかんで起き上がると、思いっきり右足をポールに沿って上げてみせる。 いきなりのホットなスタートに、客席からはどよめきが起きた。 それには、最終的にはセクシーな、特に高額なレヴューではアダルトな領域にまで達することも珍しくないブレインダメージのレヴューでも、いや、格式の高さを主張するブレインダメージだからこそ、レヴューは露骨なスタートをすることはなく、ハードコアにアダルトな内容になっても、必ずお客を落ち着かせるように収束していくのが常なのだ。これは異例といって良く、これはいよいよ閉店が近いのでは、という一部のお客の憶測に油を注いだ… パフォーマンス中ではあるが、泉美のアナウンスが入る。 「紳士淑女の皆様、こんばんはようこそ、ブレインダメージへ。当夜のレヴューは、当クラブ史上例のない大規模なものとなります。最高濃度のパフォーマンスを休憩なしで一気に最後まで突っ走りますので、観覧されます皆さまもどうかご無理のないよう、リラックスしてご鑑賞くださいませ」 時折エグいポーズも織り交ぜつつ、それでいて屈託のない無邪気な笑顔を決して絶やさずに踊る若葉は、ホットであり且つイノセントであり、観客の期待を一気に煽った。 ……定刻が決められているようで、一定の時間を踊ると、次のバニーガールがステージに出てくる。それぞれ異なった振り付けで、観客の目を満足させ、メインの座を譲ったバニーガールも、バックで緩やかに踊り続け、ステージに華を添え続ける。そして…… 「本日第一部のスターです。本日がデビューとなります、アリス!」 バックダンサーのバニーガールたちが、一斉にステージの上手を指さした。 そちらから、ネイビーブルーの髪をなびかせ、バニーとしての疑似耳を振るわせて、はちきれんばかりの巨乳を揺らして、アリスが大股で駆け出してきた。 出てきざまに、ステージ中央のポールを片手でつかみ、ハイヒールも物ともせずにコンパスのようにポールを軸に身体を一回転させる。 かと思うと、今度は片足を膝のところでポールにひっかけ、逆方向に回って見せる。巨乳の間にぶら下がるネクタイが翻る。 得意満面といった様子の、だがどこまでも健康的でてらいのない笑いを客席に向けている。 アリスのパフォーマンスに、客からは拍手と指笛が飛んだ。 アリスは、一旦客席に背を向けると、両手でポールを握り、しゃがみこんだ。両腰に取り付けられた飾りが床まで達し、量感溢れる尻がほぼお客の目線の高さまで降りてくる。 最前列の客たちは、目を見張ってアリスの尻に讃嘆と欲情の視線を送った。 屈託のないものだったアリスの表情が、やや芝居気を帯び―とはいっても、決して媚びたものではなく、やや寂しげに客席を振り返るというものだ―、アリスはポールをつかんで身体を上下させる。 身体を伸ばして立ち上がりかけたかと思うと、またしゃがみかけるという動作を何回か繰り返し、そしてついに立ち上がった瞬間、手を放した姿勢で身体をくるりと回転させた。巨大な乳房の間にポールを挟み、軸にしているのだ。 客席からどよめきが湧く。 今度はまた片足を膝でポールにひっかけて回転し、そのまま胸を張り、背中を反らしていく。 アリスは風見鶏のように回転するが、恐ろしく大きい乳房が嫌でも強調され、お客は圧倒される。回転を維持しながら、アリスは少しずつ姿勢を変え、両手を下げていき、ついには片足をポールに引っ掛けての逆立ちを披露した。巨乳が重力に従って垂れることで、改めてその大きさと重量感を思い知らされ、観客はまたしても固唾を飲んだ。 アリスはますます明るく笑いながら、さっと身体を横転させた。 一瞬ポールから離れつつ元通りに両足で立ったアリスだが、すぐに右手でポールをつかみ、同時に右足をどこまでも高く蹴り上げ、ポールに沿って屹立させる。 ポールと右ももをがっしりと右手がつかんでのI字バランスだった。 客席からは拍手と指笛が絶え間なく沸き上がる。 アリスはポールから手を離して床に座り込んだ。 両足を思いきり開いて、両手を後頭部にあてがい、体操をするように、身体を左右に捻る。 シンプルな動作だが、バニーコートと薄いタイツに包まれたその身体にねじりが加わる様は、どうにもセクシーで、既に最前列のお客たちは我慢出来なくなり、席を立って、ステージぎりぎりのところまで来て、見物していた。 アリスはそれを歓迎するかのような笑みを浮かべて見つめている。両手を床について、腰を浮かせ、上下させる、という露骨なパフォーマンスも見せる。だがお客が熱くなってくると、今度は一転して足を閉じたり、ステージ上であぐらをかいたり、と巧みにお客をコントロールする。 今度はバックダンサーに回っていたバニーガールの一人がアリスの許へ駆け寄ってきて、後方から彼女の腰に手を回す。アリスも、彼女の頭に手を回し、親愛の情を表現する。 そのバニーガールが離れたかと思うと、次のバニーガールが加わり、アリスの喉を、頬を、乳房を、肩を、太ももを撫でまわし、彼女と絡んでいく。 若葉たち八人のバックダンサーたちがポールのところにいるアリスと等間隔に距離を取ったかと思うと、一斉に彼女へと殺到し、彼女をもみくちゃにしていく。 かと思うと、彼女の下半身をつかんで担ぎ上げ、アリスは誇らしげに両手を広げて高みから客席へと愛想を振りまく…… 既にステージ際にお客が群がっていたが、それを見越して、アリスはバニーガールたちの人やぐらから客席の観衆へとダイブした。 高級クラブならぬロックのライブハウスのようなパフォーマンスに、お客もどよめくが、自分たちのいるところに極上の女体が飛び込んできたのに文句を言う客がいる筈もなく、お客たちは受け止めたアリスの胸に、腰に、尻に、首筋に指を這わせる。 バニーガールに替わり男たちに担ぎ上げられるようになったアリスは、一切その笑顔を曇らせることなく、男たちの指がその肌を蹂躙するのに任せている。 ステージから主役が不在になったと思われたが、バックダンサーのバニーガールたちは、踊りながらくるくると回転し、そして一斉に自分たちが形成する輪の中心を指さした。 そこから火花が上がった。 火花が消えた後には、赤い光沢をまとったボレロジャケットと黒のバニーコートとタイツのバニーガールが挑発的な笑みを浮かべて立っていた― 「次なる主役は……新人マジシャン、リン!」 リンが会釈すると、お客から拍手と歓声が飛んだ。 リンは両手を開いた姿勢でにっこり笑ってそれに答えてみせると、彼女の左右の床から煙が噴き出した。観客はまたもどよめくが、リンが片手をあげて指を鳴らすと、煙が交錯し、それが晴れた後には、人の身長を上回るほどの大きさの水晶が出現していた。 ステージ上からのスポットライトに照らされ、水晶は虹色の輝きを明滅させる。客席からは、感嘆の叫びが漏れる……アリスの肉体を撫でまわすのに夢中になっている連中は例外だが。 「この水晶は、あなたの望みを映し出す魔法の鏡、お客さまが望むものを何でも取り出して見せますわ。どなたか手伝っていただけません?」 リンの呼びかけに、客席からいくつかの手が上がる。その中からリンは一人を選び、指さす。 すると、その身体がスツールからふわりと持ち上がり、宙に浮きあがって、ステージへと移動した。当のお客も、他の者たちも唖然としてしまう。 選ばれた三十代くらいの眼鏡の男は、その腕にリンがすがってくるのにどぎまぎした様子だが、もちろん不満のある様子もなく、鼻の下を伸ばしている。 リンが軽く指を振ると、今度は豪奢なソファがステージ上に出現し、リンは男をそこへと誘った。 「さて、始めましょうか。さ、水晶を覗き込んでくださいませ」 男はソファから上半身を乗り出し、磨き上げられた水晶の表面に顔を近づけた。 そこには男自身の顔が映っていたが……水面に小石を落としたような揺らぎが発生し、水晶に映る光景は歪んで見えなくなった。 そして、揺らぎが収まっていくと、そこに映っているのは…… 豊かなプラチナブロンドの髪をポニーテイルにまとめたバニーガールだった。 男は目を見張る。 水晶に映るバニーガールも同様に目を見張る。 顔も姿も着ている衣服も全く異なるものの、男と水晶の中のバニーガールは、全く同じ表情で、全く同じ動きを重ねる。 「ふふ、これがお客さまの求めるものなのですね。こんなバニーガールが理想だと?」 リンに耳元で囁かれ、男は呆然としつつ頷いた。 今まで自覚したことはなかったが、自分が今までこのクラブに通い続けてきたのはこんなバニーガールに巡り合いたかったからかもしれない…… 男は、水晶に映る自分に惹きつけられ、それをじっと凝視する…… 「その理想は手の届くところにありますわ、さあ」 リンに促され、男は水晶に触れる……その手が水晶に溶け込んだ。 驚く男に何かする暇を与えず、リンは男を水晶へと押し込んだ。男の身体は水晶へと飲み込まれて消えた―以前ニシアガリという男がそうだったように。 客席の誰もが息を呑んだ。 リンは悪戯っぽい笑いを崩さず、水晶の表面を指し示し続け、そして水晶へと触れた―水晶にリンの手が溶け込むように入っていき、水晶の中のバニーガールの手をつかんだ。 「ほら、戻っておいでなさいな。皆様もしっかりと見てあげてくださいましね」 リンが手を引っ張ると、水晶の中からバニーガールが生れ落ちるように出現した。 自身のハイヒールに戸惑い、つまずきそうになるバニーガールを支え、リンは彼女を抱きとめる。 観客たちは何が起きたのかよく分かっていなかった。 だが、新たに出現したバニーガールは……自分の姿を見て驚愕していた。 「この……俺が……バニーガール……に?」 自分の疑似耳やリンに劣らず豊かな乳房やほっそりとした指先や繊細な頬を触ったりしながら、バニーガールは、自分の姿に違和感を覚えている。 観客の中でも察しの良い一部の者は、このバニーガールが水晶に呑まれた男が変身した姿だと気付き始めていた。 「ほらほら、しっかりなさいな。そのお姿があなたの理想とする女性のそれだった、と思い出せませんか?」 バニーガールを優しくフォローしつつ、リンが手を振ると、今度はステージ上に豪奢なソファが現れた。 次いでリンが指を鳴らすと、彼女の露出度の高いバニーガールとしての衣装は、布をたっぷりと使ったメイドの衣装に変わった。メイドのカチューシャにもバニーの疑似耳が残り、バニーガールとしても特徴的だった金属製のカラーとカフス、そしてそこから下がる短いチェインはそのままだが。メイドとなったリンは、新たに誕生したバニーガールをソファに誘い、座らせると、自らはその前に傅いた。 「ふふ、お嬢様、私はお嬢様にお仕えするメイドにして奴隷。何でもお申し付けくださいませ」 客席からまたしてもどよめきが起きる。 客席からの反応の熱さに比し、当のバニーガールになった男は、どう反応すればよいのか分からず、どぎまぎしている。 それはまず、自分が何に欲情しているのかが分からないという困惑だった。この思ってもみなかったパフォーマンスに困惑しているのは確かだが、同時に、女になった自分がひどく興奮し、欲情していることは分かった- だが何に?誰に? バニーガールになった自分に?目の前に跪くメイドに? 今の自分が着ているバニーガールの衣装は、彼の男としての欲望と興奮をくすぐり、その心を捉えて離さない…今の彼の身体は女であるにも関わらず。 「それではお嬢様……失礼いたしますわ」 メイドとなったリンは、うやうやしくお辞儀をすると、バニーガールとなった男の掌を取り、服従の意志を示すキスを施した。そして、そのまま手首から二の腕にかけて唇を這わせていって、しなだれかかるようにして首にまで唇を到達させ、その耳許でささやく。 「お嬢様……可愛らしいですわ……食べちゃいたい……」 リンの唇がバニーガールの耳を這いまわる。 リンの手がバニーガールの胸元に及び、バニーコートの上から乳房の頂点を指でぴんと弾いた。 「あン……」バニーガールは初々しく悶え、彼女自身が初めて味わう快楽に、自身が女になったことの確信を得る。 目がとろんとなったバニーガールの頬を優しく持ち上げ、メイドはバニーガールの唇にそっとキスした。二人の唇が近づき、触れ合う…… そしてリンの舌がバニーガールの中へと入っていく。 バニーガールはびくりと震えて顔を離そうとするが、リンはその顔を捉えて逃さない。舌をからめてバニーガールとなったお客の女としての味を味わっていく―彼の唾液を飲み込んでしまうほどに深く長いキス… その美しい光景に、客席から拍手が起きる。 「お嬢様、喜んでいただいて光栄です。では……」 リンはバニーガールの膝の上にまたがり、その豊かな胸をバニーガールのそれにすりつける…… バニーガールの顔が恍惚にとろけ、半開きになったその唇から喘ぎ声が漏れ始める。 リンの指がバニーコートの胸に伸び、胸を覆っているカップを折り曲げる。巨大な乳房が露わになると、メイドはそれを両手で持ち上げ、軽く揺さぶりつつ、乳首を舐め始めた。バニーガールは一層激しく喘ぎ……その顔にははっきりと女の歓びに身を委ねる笑顔が浮かぶ…… 「お綺麗ですわ……お嬢様」 再びメイドがバニーガールの唇を奪った。 二人は唇だけでなく、舌を絡め合ってお互いを味わう……女の快楽に蕩けていくバニーガールは、リンの身体にしがみつき、彼女の舌が身体を這いまわるのを許すばかりか自分からも舌を伸ばし始めている。今や自分が女に、バニーガールになったことを完全に認めた彼は、いや、彼女は、女としての歓びと新たな欲望に目覚めつつあった。 「さあ、お嬢様、ご奉仕させてくださいませ」 リンの言葉に、バニーガールは躊躇なく応える―「リンさん……リンさま……私の方こそリンさまにご奉仕したいですぅ……バニーガールとしてご主人さまにご奉仕したいのぉぉぉ…」 リンは無言で頷き、再度指を鳴らした。メイドの衣装は消え、彼女は再びステージマジシャン兼バニーガールの姿に戻る。 新人バニーガールがソファから立ち上がるのを手伝いつつ、リンは客席に向けて意味深に微笑みかけた。 その笑みの持つ意味を、そして自分たちと同じくついさっきまで客席でレヴューを見物している立場だったお客が、女に、バニーガールの立場に、奉仕する側に堕ちたという事実に、客席に戸惑いと一抹の戦慄が漂った。 お客たちの思惑、そしてそれに準じた反応は、二つに分かれた。 ひとつは、自分もバニーガールになってみたい、というもの。 もうひとつは、バニーガールといちゃつき、バニーガールに奉仕されるのが自分であるべきであって、自分がバニーガールになるのは違う、というもの。 そしてそのそれぞれに、所詮これはレヴューでありパフォーマンスであり作りごとなのだから、本当にバニーガールになってしまう訳がない、という楽観的な見方と、もし本当に自分がバニーガールになってしまうのだとしたら、なれるのだとしたら、という可能性と不安と願望を潜ませた見方があった…… 「お集りの紳士淑女の皆様、本日のショウは楽しんでいただけておりますでしょうか」 アナウンスが響き渡る。プリンセスの声だった。 「本日のレヴューはダンスとマジックに加え、従来のレヴューではなかった楽しみをお客様にご提供したいと思っております」 姿は見えないが、優雅で上品で、そしていくらかサディスティックな含みを持たせたプリンセスの声に、お客たちは期待と不安をそれぞれに増幅させていく。 「既にリンのマジックはご覧いただけたものと思います……今夜限りの特別サービスは、お客さまにもバニーガールになっていただけるというもの」 改めての宣言に、客席はどよめいた。 半分は、羞恥や後ろめたさを含んだ歓喜、もう半分は、嫌悪と不安から出たものだった。 その言葉を合図としたかのように、ステージ上に控えていたバックダンサー役のバニーガールたちが、バニーガール化されたばかりの男に群がり、その全身を愛撫し始めた。 新人バニーガールの嬌声がステージ上から響き始めた。まるで女になるとこんなにも気持ち良い体験が出来る、と客席に訴えるかのように…… 「もちろんご自分がバニーガールになるより、バニーガールを鑑賞し、バニーガールの接待を受けたいというお客さまも多いということも承知しております。そうしたお客さまにも、従来なかったサービスをご用意致しました……」 ステージ袖から、ボンデージ衣装にハイヒールのサイハイブーツの紫が歩み出てきた。 その手には二本の紐が握られており、それは彼女の跡に従う二人のバニーガールの首輪に繋がれていた… ステージ上に引っ張り出されたのは、ルナとパピヨンだった。 明らかに未成年と分かる少女たちが、バニーガールの装いと奴隷の如き扱いでステージ上に現れたことに、この日最高のどよめきが客席から漏れた。 「従来なかったサービスということがどういう意味であるかご理解いただけたものと思います」 プリンセスの声に、客席から無言で承認の頷きが送られる。 一方で、未成年をこのように扱うということに疑問を感じたお客もいたようで、特にお客をバニーガールにするということにも嫌悪を覚えたお客の中には、そそくさと席を立つ者も見られた…… …この後に繰り広げられる饗宴をこのお客が目にしていたら、どのように思ったことだろう。 ここまで目隠しをされていた二人の少女バニーガールだったが、紫は二人の目隠しと首輪を外した。 戸惑いがちな様子の二人だったが、今の自分たちが立たされている場所と状況に気づき、反応を示した。」かつて成年の男だった身が、今や可憐な少女となって、快楽を求めるお客の前に差し出されたという状況に、羞恥と困惑を憶えているのは二人ともに共通しているが、ルナの場合は、それに対する期待も覗かせていた。 そしてパピヨンの場合は‐ 畜生、俺はバニーガールじゃねえ、何させやがるんだ、とパピヨンは、いや、キタダニは叫び出しそうになったが、その口からは声が出なかった。リンの魔法が声を発することを禁じていた。 「ルナとパピヨンでございます。この二人の奉仕をご希望されるお客さまは、どうぞステージの上へ……」 何人ものお客が手を挙げる。 今まで多くのバニーガールを貪ってきたキタダニにとって、自分が貪られる側になるのは恐怖と屈辱以外の何物でもなかった。 恐怖でひきつった表情のキタダニに対し、ルナの方はとろんとした目つきで、頬を赤く染め、自分を評価してくれるお客の到来を待ちわびている様子だ。 紫は、手を挙げている中から、一人の女性客を指名した。 最初の相手には、まず同性からという配慮に見え、誰もこれといって不審を覚えなかった…この時点では。 30代くらいの上品そうなビジネススーツの女性客がステージに上がって来て、後ろで新人バニーガールがダンサーバニーガールたちに性的に翻弄されている中、ソファに座る。 ソファの前に両膝をつき、両掌を重ねて、ルナはお客を見上げた。 「ご主人さま、ルナと申します。ふつつかではありますが、精いっぱいご奉仕させていただきます。何でもお申し付けくださいませ」 女性客は、しげしげとルナの顔を見つめた。 どう見ても、年齢は13、4歳より上には見えない。もっと幼いくらいかもしれない。 にも関わらず、メイクの絶妙さのせいもあったかもしれないが、不思議な色香を滲ませ、訴えてくるものがある。 言葉からも、ショウ、演技とは思わせない真摯さが伝わって来て、彼女の中の母性本能と嗜虐性の両方を刺激してくる。 とはいえ、こんな幼い娘にいざ何をさせるかとなると、すぐには思いつかないのも事実だった。 主人役が困っているのを見て取ったルナは、脇に立つ紫に目配せした。紫は、手にしている紐付きの首輪を差し出す。 「さあ、お客様。今からあなたが彼女のご主人さま……どうかルナの首にそれを」 驚いた顔で紫を見つめ返した女性客だったが、それを素直に受け取った自分にもっと驚いた。震える手で、ルナの首に首輪を嵌め、紐の先端を握る。 これだけで一層恍惚とした表情となったルナは、愛情を込めた微笑みを女性客に向けた。 「さあ、ルナを可愛がってくださいまし……」 その言葉がきっかけとなり、女性客は両手でルナの頭をなで始めた。 ルナは恍惚となり、もっともっとと頭や頬を女性客の掌にこすりつける。それでは物足りなくなったのか、女性客の指に唇を這わせる。 この行為に、思わず女性客はルナの唇の前に人差し指を置いて一旦静止し、そして改めて指をルナにくわえさせた。指をしゃぶるだけ、しゃぶらせるだけという単純な奉仕ながら、異様にエロティックで背徳的な空気が、ステージから客席までを満たす。 ふと、紫が女性客の肩を叩き、その足元に何かを置いた……6インチヒールの黒のハイヒールだ。 もちろん女性客も、高級クラブへ来るからには可能な限り気を張った服装をしてきていたし、靴にも気を遣っていた。だが、これほど高級な靴、尚且つヒールの高い靴を履いたことはなかった…… だが、この美しく、夢幻のように清らかさと無防備な淫らさが同居するこのバニーガールを奴隷とする女主人には、この靴でなければ似合わない……そんな思いが女性客の脳裏を完全に支配していた。 ソファに座ったまま靴を脱ぐと、女性客は足を投げ出す。 「失礼いたします」 ルナは両手をついた姿勢で、頭を下げ、ストッキングに包まれた女性の爪先にそっとキスし、ハイヒールを手に取ると、女主人の足に履かせた。そしてもう片足も… ヒールを支点に、床に投げ出された女性客の脛に頬を擦りつけ、ルナは甘えるようなため息を漏らした。 ルナの首輪に繋がる紐を手に、女性客もまた恍惚に満ちた表情に変化しつつあり、その唇にサディスティックな笑みが浮かぶ。 女性客が紐を引き寄せると、ルナは女性客の膝に乗ってきて、腰をくねらせ始めた。密かに、バニーコートの内側で窮屈そうにしているかすかな乳房の膨らみが、その頂点で固くなっていく…… 最早、女性客も躊躇はなかった。 その掌がルナの胸元へと伸び、バニーコートの上から平坦な彼女の胸を撫でる。ルナの甘い吐息を間近に感じながら、その胸の膨らみを指先で刺激した女性客は、ルナの腰がますます淫らにくねっていく様を見せつけられた。 「あん……ん……ご主人さま……」 切なげな声をあげつつ、ルナはキスを求めるように唇を突き出してきた。それに応じて女性客も唇を重ねる。最早、心のタガが外れてしまったかのように、自分の唇と舌でルナの幼い唇を蹂躙していく。 同時に、女性客の膝に股間を擦りつけるルナの動作も派手になっていく。 黒髪を振り乱して少女が喘ぎ狂う様に、客席の興奮も高まっていく…… 「あぁぁんッ!」 口許を手の甲で押さえる可憐な仕草と共に、ルナが身をのけ反らせ、絶頂に達した。ぐったりとなったルナは、女主人の腕の中に倒れこむ…… 暫し、少女との甘いひと時を楽しんでいた女性客だったが、そこで異変に気付いた― ルナの股間に、先ほどまでは確かになかったものが生じつつあった。
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最初は見間違いかと思い、またデリケートなゾーンに触れる躊躇いもあったが、あんなことをした後で今更とも思い、ルナのそこに手を伸ばした……

肉の塊の感触があり、次いでそれが瞬く間に固くなり、膨らんでいく様子が、バニーコートの股間のラインの下に目視された。

ええっ!と女性客は驚き、思わずルナに足を開かせた。
ルナは口許を手の甲で押さえたまま、恥ずかしそうに目を背ける。
何も言えないルナに、女性客は「ルナ、あなた、男の子なの……いや、ついさっきまでは、確かに……」と漏らす。

「ふふ、この娘は男の子でもあり、女の子でもありますの。性別を切り替えることが出来るのです。女の子として逝っちゃったら、今度は男の子として愛してもらいたくなったのよね、ルナ?」プリンセスのアナウンスがフォローする。

「こんなことが……できるなんて……」絶句している女性客に、紫が近づき、その耳元で囁いた。
「どうされます?引き続き、男の娘としてのルナの奉仕を希望されます?それとも、バニーガールと遊ぶのが望みであって、男の子などお呼びでないと?」

暫し言葉を失ったままだった女性客だったが、その唇が歪んで嗜虐的な笑みを形作り、彼女の正直な欲望を露わにした。
「サービスを継続しますわ」
その言葉に、ルナが女性客の首に腕を絡め、しなだれかかる。年齢に似合わない化粧の施されたルナの顔に、とても男とは思えない媚びた色が浮かび、女性客に唇を重ねていく。

「待ってくれ、替われ!」
客席から声がかかる。脂ぎった五十絡みの男性が立ち上がり、ステージに近づいてくる。
「独り占めはずるいだろう、次はわしに替われ!」
同じことを思っているらしいお客も他にいることはいるらしかったが、バニーガールの格好をした少年を我が物にしたいという欲望を公然と口に出来る勇気があるのは、このお客だけらしかった。

ステージに上がってきたお客は、強引にルナの首の紐をつかんで、女性客から奪った。
憮然とする女性客だが、そこにバックダンサーを務めていたバニーガールがすかさずフォローに入る。目配せひとつで意図を察しさせたバニーガールは、女性客の手を取り、自分の豊満な胸へと導いた。最初は名残惜しそうにしていた女性客も、次第にバニーガールの肉体を堪能することに没頭し始め、キスしてくるバニーガールを素直に受け入れる。

ステージのより前方では、ルナが上がってきた男性客に犯されようとしていた。
本当にルナが男であるかを確かめるように、客はその身体のあちこちを執拗に撫でまわした。
乳房の痕跡は消え、喉には喉仏らしきものがかすかに浮かび、何よりバニーコートの股間に盛り上がっているものは未熟ながらも間違いなく男性器だった。

一方で、瑞々しく柔らかな肌、丸みを帯びた肩と尻、長いまつ毛、潤いを帯びた唇は、少女だった時と寸分も変わっていない。
バニーガールの身分を示す、尻に取り付けられた丸い尾の上から、少年の尻をこれでもかと撫で回し続けた末、お客は、ルナの唇にキスした。
一見乱暴に見えるキスだったが、意外に繊細な技術でルナの腔内に割り入ってきたお客の舌は、美少年の味を嘗め尽くしていく。
興奮を抑えられなくなってきたルナを抱き寄せ、男は細身の少年にそのぶよぶよと膨らんだ身体を擦りつけていく。

尻をいじっていたお客の手がルナの股間へと滑り込み、摩りあげる。
バニーコートの下の肉棒が張り詰めていくのが、客席からも分かり、お客の視線が一気にその一点に集まった。
ただ、一部のお客は、男が少年を愛している様子を見るために金を払ったのではない、という態度で、先ほどルナとパピヨンが最初にステージに出てきた時に去っていったお客と同様、席を立った者もいた―
…ある意味では、その判断は賢明だったのだが。

無言でリンが指を鳴らすと、ルナのバニーコートの股間の部分が消え去った。
「あぁん、ダメぇぇ!」クロッチレスとなった衣装から、まだ包皮の剥けていないルナの男性器が零れ落ちる。

興奮を抑えきれない様子で、お客はルナの肉棒を握り、激しく擦り上げる。同時に、
自分もズボンの前ジッパーを開け、極大の肉棒を取り出すと、それをルナに示した。美少年バニーは、それを受け入れ、弱々しくではあったが、握る。

「いい、いいのぉ…もっと…強く……もっとぉ……いじめてぇぇ……」ルナの口から漏れる台詞は、もう男娼のそれ以外なにものでもない。
だが、そんな台詞を吐く美少年をさらに責め立てるべく、客はルナの亀頭に指を当て、巧みに刺激を与えていく。

「やああんっ!あああっっ!」
最初の限界はすぐに来た。全身を硬直させ、男の娘バニーは精液をぶちまけ、間髪入れずに肉棒に食らいついたお客は、ルナの精液を音を立てて啜った。期せずして、客席からが拍手が沸き起こる。

「まだだぜ、まだわしは逝ってないからな」
お客は、ルナが思わず手を放してしまった自分の怒張した肉棒を示す。

だが、そこで異変が起きた。
ひくひくとしているルナの男性器が委縮していく…
射精したことから当然のものと思われる範囲を超え、男性器は小さくなっていき、ついには消え去った……
その後には、一切毛の生えていない控えめな女性器が残った。バニーコートの胸許も若干持ち上がり、股間に替わって膨らみを示している。
一度達したことでルナがまた性転換したと知ったお客は、剥き出しになったバニーコートのクロッチに己の肉棒を向けた……
「男の穴と女の穴、どっちを犯すことになるか分からないというのも味があるな」
そう言うと、お客は暴虐そのものというサイズの男性器を前戯なしで突っ込み、美少年改め美少女の女性器を貫いた。ルナが全身をのけ反らせ、男の突き上げに反応する。

「ああっ、いいっ、いい……気持ちいいッ!」髪を振り乱し、目尻に涙を浮かべるルナ。
お客の突き上げは容赦なかった。
既に最初の奉仕で大量に先走り汁を滴らせていた肉棒は、潤滑油となる液体を分泌しながら、乱暴に美少女の膣襞を抉っていく。
バニーコートの上からも分かるほどに勃起した乳首を自らこねくり回し、ルナは嬌声を溢れさせた。
「ああぁ……もう……もうダメッ。ルナ逝くッ、逝っちゃうのぉぉぉぉ!」
少年としても少女として、一人の男性に征服された歓びに身を震わせながら、ルナは絶頂を極めた―
…脳裏に、一瞬「ヒガシド」という名前がフラッシュバックした。その古い名は、ルナに、いかに自分が美しく、淫らで、被虐的なバニーガールに堕ちたかを悟らせた……

お客も達し、ぐったりとしてしまうが、リンはまるで子猫でも抱え上げるかのように軽々と太ったお客を摘まみ上げ、ステージ脇に連れていき、ソファの上で休ませた。
「さあ、次のご奉仕を希望される方は?」リンの煽りに、客席のほとんど全員が手を挙げる。

新たにステージに上がったお客が、今度はパピヨンににじり寄る。
「い……嫌だ……来るなぁぁ……」
キタダニの人格のままのパピヨンは、嫌悪感に震えながらお客に触れられるのを拒否しようとする。
紫がお客に対し、何かを持ってきて手渡しながら耳打ちする。
「何ぶん、年若い上に新人ですので、最初は拒否を示すこともあると思います。まずはこれらを使って、気持ちをほぐすところから始めるのをお奨めいたしますわ」

羽根、バイブ付きのディルド、ローター……性感を刺激するための玩具が、お客の手に渡された。
お客はパピヨンの腕をつかみ上げると、剥き出しになった脇の下を羽根でくすぐり始めた。
くすぐったさにパピヨンの抵抗が少し緩んだところで、羽根を喉元、バニーコートから覗く胸の谷間と、少しずつ移動させ、じわじわと刺激していく。
望まない快感を強いられ、パピヨンの表情が歪むが、そんな少女の顔を脂ぎったお客が舌先でぺろりとひと舐めし、キタダニとしてのパピヨンは再び身体を硬直させる。

だが、今度はスイッチの入ったディルドが尻に押し当てられた。
震動に驚き、腰を浮かせたところを、お客はさっと手を回し、パピヨンの股間にそれをあてがう。
エナメル張りの衣装を通過して震動が少女の股間に押し寄せ、パピヨンの脳裏を快感で痺れさせる。

「あ、あぁぁぁ……」か細くパピヨンは啼き、自ら股間をディルドに押しつけ始めた。
満足げに、お客もディルドを抉りこむようにぐりぐりとパピヨンの股間に押し当てる。パピヨンは快感のあまり上半身をのけ反らせて喘いだ。
「ああ……いいぃ……イイのぉぉ……」
だが、そうやってよがっている間にも、キタダニとしての人格は女としての快楽に膝を屈することを拒み、何とか抵抗を示そうと頭を左右に振った。
「いい……いやぁ……こんなの……ふぁ……イぃ……」
精いっぱいの抵抗をあざ笑うかのように、お客はローターをパピヨンの胸に押し当て、スイッチを入れた。
「ゃ、だめぇぇっ!……やめ……ああぁぁあン……」乳首がみるみるうちに勃起していく。
それを面白そうにお客は摘み上げた。「感じるだろ?認めちまえよ、気持ち良いってさ」
「だ、誰が……そんなぁぁ………ぁあん!」
言葉とは裏腹に、股間からは蜜汁を滴らせ、バニーコートと網タイツの境目にはしたない染みを作りながら、パピヨンは喘いだ。

ふと横を見ると、ルナが次のお客に奉仕を始めているのが視界に入った。
ルナも、パピヨンの視線に気づき、目配せしながら、キスを求めてきた客に応じ、胸を揉まれるのに身を委ねている。
そのルナの視線は、ヒガシドであった彼女がキタダニである自分に向けたものだと気付き、キタダニ/パピヨンはぞっとなった。
嫌だ、自分は男なんだ、お前みたいにバニーガールに堕ちた奴とは違うんだ、と叫びそうになったが、一方で、かつての自分そっくりの男のお客は意地悪げにパピヨンの感じ易い部位を器具で責めたてる。
男としてのプライドにしがみつきながら味わう女としての快感、目の前でひと足先に女であることに堕ちた男が、自分と同じ快感に全面降伏している様子を見せつけられながらの快感は、よりキタダニの精神を甘美に苛む。

「さあ、尻の方だとどんな反応かな?」お客がパピヨンの背後に回り込み、尻にディルドを押しつけた。
先ほどのルナのパフォーマンスで、自分も感じさせてやると男の子になるのではないかとお客が思っていることに気づき、一瞬、パピヨンは恐怖でパニックに陥った。
次の瞬間、スイッチの入れられたバイブがバニーコートの上から尻穴を穿つと、震動が恥骨越しにパピヨンの子宮を揺らした。
ルナのように、性別がころころと変わるような体質ではないパピヨンが、尻穴を刺激されたとて、肉体的には特段の反応がある筈はなかった。
だが、腰全体から伝わる快感は、彼がもうキタダニという男ではなくパピヨンという女であることを強く思い知らせた。
同時に、本来男である自分が、男であるお客に、尻穴を疑似男性器で愛撫され、そんな醜態をステージ上で人目に晒しているという屈辱が改めて思い返され……
「ふああぁぁぁぁぁぁぁん!」

客席へ向けてアピールするかのように、パピヨンはひと際大きく上体をくねらせた。
衣装の上から刺激される以上の性的接触はなかったが、余りの屈辱にパピヨンの身体とキタダニの精神は耐えられなかった。キタダニ/パピヨンは絶頂した。

それは肉体的な快感による絶頂というより、精神的な負荷による部分が大きかった。故に、パピヨンの身体と心は必ずしも満足してはいなかった……
いや、一度満足を覚えてしまえば、二度と男に戻るという気持ちもなくしてしまうかもしれない……そんな恐怖感がある。

「ふふ、いよいよよ。あなたのポテンシャルを解放する時が来たわ……さあ、皆様、ご注目くださいませ!」
リンがすぐ隣にやって来て、パピヨンの耳に何かを囁き、客席に注目を促した。
リンの指がバニーコートの胸許の隙間から入り込み、パピヨンの右胸のカップ部を外側へ折り返した。
若々しい片側の乳房……とその肌に施されたタトゥー、乳首に取り付けられたピアスが露わになる。
年少のバニーガールに似つかわしくないアダルトで倒錯的な趣向に、客席から息を呑む声が漏れた。

「これよりこの娘のスイッチを入れますー女とマゾヒズムのスイッチを」
リンの指が怪しげな魔法の輝きを帯び、パピヨンの乳首ピアスを摘まんで引っ張ったー

その瞬間、パピヨンの中で何かが弾けた。
ひとつはパピヨンの頭の中で、夥しい量の快楽物質が炸裂した衝撃。
ひとつはパピヨンの子宮の中で、夥しい量の女性ホルモンが炸裂した衝撃。
そしてそれにより、パピヨンの両の乳房の核で、常識ではあり得ない量の脂肪が発生した衝撃―

ブレインダメージのバニーガールの中では大きいサイズと言えない部類だったパピヨンの乳房が、一瞬にして異様に膨れ上がり、既に晒されている右はもちろん、左乳房もバニーコートのカップを押しのけ、自ら観客の視線へと曝け出された。

「あひいぃぃぃぃぃぃっ!」
突然変化し、そして重くなった自分の胸に、パピヨンが驚愕の声を上げる。
華奢なパピヨンの体形には余る大きさと重さの、ふたつの超乳を、キタダニ/パピヨンは、両手で抱えざるを得なかった。
だが、両掌から伝わる乳房の感触は、刺激となり快感となってパピヨンの肉体を満たし、キタダニの精神を蝕む。
脳裏と子宮の双方から送られてくる快感の波動に、両乳房が共鳴しているのが分かった。
こらえきれずパピヨンは、両掌では両乳房を抱えた姿勢で、足をがに股に開いて蹲踞の姿勢となり、自分でも全く意識せず、激しく腰を振る動作に没頭していた。
その律動に身を任せていると、じんわりとした、だらしない笑みがパピヨンの唇に浮かび、客席からの自分へ向けられた歓声が何とも誇らしげなものとして響いてくる……

「あはぁ………あはぁぁぁぁ!」
喘ぎ声に併せ、パピヨンの左目の瞳の色がピンクがかった紫色に変わり、右の瞳と色が揃った。キタダニの人格がパピヨンのそれに屈した瞬間だった。

激しく煽るように踊るパピヨンに、ついにこらえきれなくなったお客たちが、ステージへと殺到した。
ここまでの異様で倒錯的な饗宴に不快感、違和感を持つようなお客は、既に会場を去っており、残っている観客は全て常識と自己抑制より色欲と嗜虐性が優位に立つ者たちばかりだった。
既に彼らの中にはレヴューのルールを守ろうなどという意識はなかった―ブレインダメージ側がそう仕掛けたという事実に気づいている者もいなかった。

ステージ上に一番乗りを果たしたお客が、ズボンの前を開けてパピヨンに突き付けた。
パピヨンはそれに食らいつき、凄まじい勢いでしゃぶり始めた。あっという間に男は限界に達し、パピヨンの顔面目掛けて射精した。
次々とお客たちがパピヨンの奉仕を求めて群がり、自ら網タイツの太ももの付け根の部分を破いたパピヨンは、客のうちの一人を床に寝かせて跨り、腰を振り始める。
そうしている間にも、パピヨンの口は休むことなく、お客たちの肉棒を次々とくわえ、旨そうにしゃぶっては射精へと導いていく。
パピヨンの若々しい顔や胸に、男たちの精液が放出される度、パピヨンの顔に歓喜と陶酔の笑みが広がり、その淫奔さがますます増幅していくようだ……

その横では、ルナがやはりお客たちに次から次へと犯されていた。
パピヨンほどタフではないルナは、基本的に一対一でしか相手をしないが、一度達する度に、性転換する場合としない場合があり、同性愛指向のないお客も、男の状態のルナを玩んで逝かせること、それによりルナが女になるかどうかを確認することに面白さを見出しつつあるようだった。

たった二人の少女バニーガールだけで、余りにも多数のお客をさばききれる訳もなく、バックダンサーだったバニーガールたちが、溢れてしまったお客の相手をするようになっていた。

そしてステージ際真下では、依然そこに陣取るアリスが群がるお客たちと身体を絡ませ合っている……
今、まさに饗宴は最高潮を迎えようとしている。

そこにアナウンスが入った。プリンセスの声だ―
「お楽しみいただいておりますところ失礼いたします、ステージに上がった、パフォーマーの身体に触れたなどの違反行為には罰則金をいただいております。本日のレヴューのお会計に加算させていただきますのでご了解ください。おひとりさま100000チップとなります」

最早、誰もアナウンスなど聞いていなかった。
理性の残っているお客であればとうに退出しているか、少なくともステージには乱入していない筈だった。誰もがただ音声として聞き流すだけだ。

「お支払いいただけない場合は、代替案を提案させていただきます。当店流の返済、即ち働いて返済していただくことをご提案・ご推奨させていただきます。つまり、バニーガールになり、当店の従業員になっていただくということです」

どのお客も、目の前のバニーガールの肉体を貪るのに夢中になっていた。バニーガールの肉体を己がものとしようとしていた。バニーガールの肉体へと自らのそれを溶け合わせようとしていた……
”自分がバニーガールになる”という言葉を、お客は違和感ないものとして聞き流し、だが、聞き流した筈の言葉は彼らの脳裏に毒のように染み込んだ……

「先刻も申しました通り、本日の特別サービスには、お客様ご自身がバニーガールになるというものが含まれております。特別サービスからそのまま従業員として当クラブに籍を置き、罰則金を含む料金をお支払いいただくことも可能ですわ…ううん、そのままずっとバニーガールとしてブレインダメージに在籍し続けていただいても何ら問題はございませんわ」

目の前の快楽に溺れながら催眠状態にあるお客は、そのプリンセスの言葉に何の違和感も否定も抱かず、そのまま素直に受け止めた。
バニーガールに奉仕され、バニーガールを抱き、バニーガールを犯すサービスの次に、自分がバニーガールになるサービスが来るということには何の不自然もないように思える……

「それではサービス開始まで暫しお待ちください。リンさん、後はよろしくお願いね」
プリンセスのアナウンスが途切れると、リンは、先ほどの達してしまいぐったりしているお客へと歩み寄り、その額にキスした…

男の身体に変化が生じた。
動かなくなっていた男の身体が固まっていき、変色し、同時にある種の透明感も帯びる……男の肌も肉も、褐色の水晶と化し、そのまま動かなくなった。

リンは、既に達してしまい動けないお客の間を回り、次々と彼らを水晶の彫像へと変えていく。
同様に、相手のいなくなったバックダンサーともキスを交わし、彼女らも水晶の像にしてしまう。

ステージ上は、不気味な水晶の像が立ち並ぶ異様な光景へと転じた。
お客の中にはこの異変に気付く者もいたが、急所をバニーガールに押さえられながらでは逃げようもない。
いや、寧ろ彫像となったバニーガールを名残惜しそうに愛撫するお客すらいた。そんなお客は、彫像に抱き着いた姿勢で、リンのキスを甘受し、抱き合った姿勢のまま水晶の像となった……

ついに、一人を除いて全てのお客が水晶の像となった。
唯一水晶にされていないのは、既に女性化され、リンの奉仕で逝かされたお客だった。彼女もまたこの異様な光景を憧れの眼差しで見つめていた。
「これから何が起きるか……もうお分かりではないのかしら?」
リンの問いかけに、新人バニーガールは頷く。
水晶となった彼らも……

リンは、奉仕を終え荒い息をつくパピヨン、アリス、ルナをステージの中央に集めた。
身長の高い二人が、幼い二人を背後から抱え込むように抱きしめ、四人のバニーガールがひと固まりとなる。
リンが大きく深呼吸する――四人ひと固まりの、水晶の彫像がそこに鎮座していた。

「あなたは幸運よ、このレヴューを終わりまで観ることが出来るのだから…歴史的瞬間を目の当たりにすることが出来るのだから」
ホール内に、動く人間は、紫、泉美、そして新人バニーガールしかいない。
紫と泉美がステージ上方を見上げると、そこには眩い光が生じていた。光の固まりはゆっくりと、ダンスに使うポールの周りを旋回するように降下してきた…

そして閃光の閃きと共に、光の玉はプリンセスの正体を現した。
新人バニーガールは、たった一人残った観客として拍手を、バニーガールとして自分たちに君臨するプリンセスに崇敬と服従の視線を送った。

プリンセスは、新人バニーガールの額に挨拶代わりのキスを軽く施すと、水晶の像へと歩み寄った。
物言わぬ水晶の像と化した男の唇に、プリンセスがキスをする―

水晶が卵の殻のように割れた。
そして中からは、バニーガールの格好をした可憐な美少女が転がり出てきた。
新たなバニーガールは、自分の顔や胸を恐る恐る触り、何事が起きたかと怪訝にしていたが、自分の役目を感じ取った新人バニーガールは、この妹分の傍らにそっと歩み寄り、彼女を自分の豊満な胸に抱きしめた。
すぐに落ち着いた様子の新手のバニーガールに微笑みかけ、新人バニーガールは、そっとプリンセスを指さした。

プリンセスは、またも次の彫像にキスをして、かつて男だった水晶製の蛹の中から新たなバニーガールを誕生させる。
次々とバニーガールがステージ上に誕生していく。
バックダンサーと抱き合っていた男の水晶像がバニーガール化すると、一体化していたバックダンサーのバニーガールも元に戻り、女性の客だった水晶像は、以前よりぐんと若く豊満なボディと均整の取れた美貌の許に生まれ変わった。

全てのお客がバニーガール化された。
バックダンサーたちも元の姿に戻り、残る彫像はひとつだけ…
「さあ、最後はあなたも手伝ってくださる?」
プリンセスが新人バニーガールに手を差し伸べる。
「はい」新人バニーガールは、プリンセスの前に跪き、その手の甲にキスする。

そして立ち上がると、プリンセスと手を携え合いながらひと固まりとなったリンたちの彫像へと歩み寄った。
自分をバニーガールにしてくれた愛しいリンを……
おとぎ話の登場人物になったような気分で、新人バニーガールは、リンの唇にキスした。
同時にプリンセスはアリスに……

固く滑らかだった水晶の表面が、女性の肌と肉の柔らかさと温かさを取り戻した。
プリンセスと新人バニーガールの肢体に挟まれ、リン、アリス、ルナ、パピヨンが微笑みを浮かべながら立っていた……

最初は見間違いかと思い、またデリケートなゾーンに触れる躊躇いもあったが、あんなことをした後で今更とも思い、ルナのそこに手を伸ばした…… 肉の塊の感触があり、次いでそれが瞬く間に固くなり、膨らんでいく様子が、バニーコートの股間のラインの下に目視された。 ええっ!と女性客は驚き、思わずルナに足を開かせた。 ルナは口許を手の甲で押さえたまま、恥ずかしそうに目を背ける。 何も言えないルナに、女性客は「ルナ、あなた、男の子なの……いや、ついさっきまでは、確かに……」と漏らす。 「ふふ、この娘は男の子でもあり、女の子でもありますの。性別を切り替えることが出来るのです。女の子として逝っちゃったら、今度は男の子として愛してもらいたくなったのよね、ルナ?」プリンセスのアナウンスがフォローする。 「こんなことが……できるなんて……」絶句している女性客に、紫が近づき、その耳元で囁いた。 「どうされます?引き続き、男の娘としてのルナの奉仕を希望されます?それとも、バニーガールと遊ぶのが望みであって、男の子などお呼びでないと?」 暫し言葉を失ったままだった女性客だったが、その唇が歪んで嗜虐的な笑みを形作り、彼女の正直な欲望を露わにした。 「サービスを継続しますわ」 その言葉に、ルナが女性客の首に腕を絡め、しなだれかかる。年齢に似合わない化粧の施されたルナの顔に、とても男とは思えない媚びた色が浮かび、女性客に唇を重ねていく。 「待ってくれ、替われ!」 客席から声がかかる。脂ぎった五十絡みの男性が立ち上がり、ステージに近づいてくる。 「独り占めはずるいだろう、次はわしに替われ!」 同じことを思っているらしいお客も他にいることはいるらしかったが、バニーガールの格好をした少年を我が物にしたいという欲望を公然と口に出来る勇気があるのは、このお客だけらしかった。 ステージに上がってきたお客は、強引にルナの首の紐をつかんで、女性客から奪った。 憮然とする女性客だが、そこにバックダンサーを務めていたバニーガールがすかさずフォローに入る。目配せひとつで意図を察しさせたバニーガールは、女性客の手を取り、自分の豊満な胸へと導いた。最初は名残惜しそうにしていた女性客も、次第にバニーガールの肉体を堪能することに没頭し始め、キスしてくるバニーガールを素直に受け入れる。 ステージのより前方では、ルナが上がってきた男性客に犯されようとしていた。 本当にルナが男であるかを確かめるように、客はその身体のあちこちを執拗に撫でまわした。 乳房の痕跡は消え、喉には喉仏らしきものがかすかに浮かび、何よりバニーコートの股間に盛り上がっているものは未熟ながらも間違いなく男性器だった。 一方で、瑞々しく柔らかな肌、丸みを帯びた肩と尻、長いまつ毛、潤いを帯びた唇は、少女だった時と寸分も変わっていない。 バニーガールの身分を示す、尻に取り付けられた丸い尾の上から、少年の尻をこれでもかと撫で回し続けた末、お客は、ルナの唇にキスした。 一見乱暴に見えるキスだったが、意外に繊細な技術でルナの腔内に割り入ってきたお客の舌は、美少年の味を嘗め尽くしていく。 興奮を抑えられなくなってきたルナを抱き寄せ、男は細身の少年にそのぶよぶよと膨らんだ身体を擦りつけていく。 尻をいじっていたお客の手がルナの股間へと滑り込み、摩りあげる。 バニーコートの下の肉棒が張り詰めていくのが、客席からも分かり、お客の視線が一気にその一点に集まった。 ただ、一部のお客は、男が少年を愛している様子を見るために金を払ったのではない、という態度で、先ほどルナとパピヨンが最初にステージに出てきた時に去っていったお客と同様、席を立った者もいた― …ある意味では、その判断は賢明だったのだが。 無言でリンが指を鳴らすと、ルナのバニーコートの股間の部分が消え去った。 「あぁん、ダメぇぇ!」クロッチレスとなった衣装から、まだ包皮の剥けていないルナの男性器が零れ落ちる。 興奮を抑えきれない様子で、お客はルナの肉棒を握り、激しく擦り上げる。同時に、 自分もズボンの前ジッパーを開け、極大の肉棒を取り出すと、それをルナに示した。美少年バニーは、それを受け入れ、弱々しくではあったが、握る。 「いい、いいのぉ…もっと…強く……もっとぉ……いじめてぇぇ……」ルナの口から漏れる台詞は、もう男娼のそれ以外なにものでもない。 だが、そんな台詞を吐く美少年をさらに責め立てるべく、客はルナの亀頭に指を当て、巧みに刺激を与えていく。 「やああんっ!あああっっ!」 最初の限界はすぐに来た。全身を硬直させ、男の娘バニーは精液をぶちまけ、間髪入れずに肉棒に食らいついたお客は、ルナの精液を音を立てて啜った。期せずして、客席からが拍手が沸き起こる。 「まだだぜ、まだわしは逝ってないからな」 お客は、ルナが思わず手を放してしまった自分の怒張した肉棒を示す。 だが、そこで異変が起きた。 ひくひくとしているルナの男性器が委縮していく… 射精したことから当然のものと思われる範囲を超え、男性器は小さくなっていき、ついには消え去った…… その後には、一切毛の生えていない控えめな女性器が残った。バニーコートの胸許も若干持ち上がり、股間に替わって膨らみを示している。 一度達したことでルナがまた性転換したと知ったお客は、剥き出しになったバニーコートのクロッチに己の肉棒を向けた…… 「男の穴と女の穴、どっちを犯すことになるか分からないというのも味があるな」 そう言うと、お客は暴虐そのものというサイズの男性器を前戯なしで突っ込み、美少年改め美少女の女性器を貫いた。ルナが全身をのけ反らせ、男の突き上げに反応する。 「ああっ、いいっ、いい……気持ちいいッ!」髪を振り乱し、目尻に涙を浮かべるルナ。 お客の突き上げは容赦なかった。 既に最初の奉仕で大量に先走り汁を滴らせていた肉棒は、潤滑油となる液体を分泌しながら、乱暴に美少女の膣襞を抉っていく。 バニーコートの上からも分かるほどに勃起した乳首を自らこねくり回し、ルナは嬌声を溢れさせた。 「ああぁ……もう……もうダメッ。ルナ逝くッ、逝っちゃうのぉぉぉぉ!」 少年としても少女として、一人の男性に征服された歓びに身を震わせながら、ルナは絶頂を極めた― …脳裏に、一瞬「ヒガシド」という名前がフラッシュバックした。その古い名は、ルナに、いかに自分が美しく、淫らで、被虐的なバニーガールに堕ちたかを悟らせた…… お客も達し、ぐったりとしてしまうが、リンはまるで子猫でも抱え上げるかのように軽々と太ったお客を摘まみ上げ、ステージ脇に連れていき、ソファの上で休ませた。 「さあ、次のご奉仕を希望される方は?」リンの煽りに、客席のほとんど全員が手を挙げる。 新たにステージに上がったお客が、今度はパピヨンににじり寄る。 「い……嫌だ……来るなぁぁ……」 キタダニの人格のままのパピヨンは、嫌悪感に震えながらお客に触れられるのを拒否しようとする。 紫がお客に対し、何かを持ってきて手渡しながら耳打ちする。 「何ぶん、年若い上に新人ですので、最初は拒否を示すこともあると思います。まずはこれらを使って、気持ちをほぐすところから始めるのをお奨めいたしますわ」 羽根、バイブ付きのディルド、ローター……性感を刺激するための玩具が、お客の手に渡された。 お客はパピヨンの腕をつかみ上げると、剥き出しになった脇の下を羽根でくすぐり始めた。 くすぐったさにパピヨンの抵抗が少し緩んだところで、羽根を喉元、バニーコートから覗く胸の谷間と、少しずつ移動させ、じわじわと刺激していく。 望まない快感を強いられ、パピヨンの表情が歪むが、そんな少女の顔を脂ぎったお客が舌先でぺろりとひと舐めし、キタダニとしてのパピヨンは再び身体を硬直させる。 だが、今度はスイッチの入ったディルドが尻に押し当てられた。 震動に驚き、腰を浮かせたところを、お客はさっと手を回し、パピヨンの股間にそれをあてがう。 エナメル張りの衣装を通過して震動が少女の股間に押し寄せ、パピヨンの脳裏を快感で痺れさせる。 「あ、あぁぁぁ……」か細くパピヨンは啼き、自ら股間をディルドに押しつけ始めた。 満足げに、お客もディルドを抉りこむようにぐりぐりとパピヨンの股間に押し当てる。パピヨンは快感のあまり上半身をのけ反らせて喘いだ。 「ああ……いいぃ……イイのぉぉ……」 だが、そうやってよがっている間にも、キタダニとしての人格は女としての快楽に膝を屈することを拒み、何とか抵抗を示そうと頭を左右に振った。 「いい……いやぁ……こんなの……ふぁ……イぃ……」 精いっぱいの抵抗をあざ笑うかのように、お客はローターをパピヨンの胸に押し当て、スイッチを入れた。 「ゃ、だめぇぇっ!……やめ……ああぁぁあン……」乳首がみるみるうちに勃起していく。 それを面白そうにお客は摘み上げた。「感じるだろ?認めちまえよ、気持ち良いってさ」 「だ、誰が……そんなぁぁ………ぁあん!」 言葉とは裏腹に、股間からは蜜汁を滴らせ、バニーコートと網タイツの境目にはしたない染みを作りながら、パピヨンは喘いだ。 ふと横を見ると、ルナが次のお客に奉仕を始めているのが視界に入った。 ルナも、パピヨンの視線に気づき、目配せしながら、キスを求めてきた客に応じ、胸を揉まれるのに身を委ねている。 そのルナの視線は、ヒガシドであった彼女がキタダニである自分に向けたものだと気付き、キタダニ/パピヨンはぞっとなった。 嫌だ、自分は男なんだ、お前みたいにバニーガールに堕ちた奴とは違うんだ、と叫びそうになったが、一方で、かつての自分そっくりの男のお客は意地悪げにパピヨンの感じ易い部位を器具で責めたてる。 男としてのプライドにしがみつきながら味わう女としての快感、目の前でひと足先に女であることに堕ちた男が、自分と同じ快感に全面降伏している様子を見せつけられながらの快感は、よりキタダニの精神を甘美に苛む。 「さあ、尻の方だとどんな反応かな?」お客がパピヨンの背後に回り込み、尻にディルドを押しつけた。 先ほどのルナのパフォーマンスで、自分も感じさせてやると男の子になるのではないかとお客が思っていることに気づき、一瞬、パピヨンは恐怖でパニックに陥った。 次の瞬間、スイッチの入れられたバイブがバニーコートの上から尻穴を穿つと、震動が恥骨越しにパピヨンの子宮を揺らした。 ルナのように、性別がころころと変わるような体質ではないパピヨンが、尻穴を刺激されたとて、肉体的には特段の反応がある筈はなかった。 だが、腰全体から伝わる快感は、彼がもうキタダニという男ではなくパピヨンという女であることを強く思い知らせた。 同時に、本来男である自分が、男であるお客に、尻穴を疑似男性器で愛撫され、そんな醜態をステージ上で人目に晒しているという屈辱が改めて思い返され…… 「ふああぁぁぁぁぁぁぁん!」 客席へ向けてアピールするかのように、パピヨンはひと際大きく上体をくねらせた。 衣装の上から刺激される以上の性的接触はなかったが、余りの屈辱にパピヨンの身体とキタダニの精神は耐えられなかった。キタダニ/パピヨンは絶頂した。 それは肉体的な快感による絶頂というより、精神的な負荷による部分が大きかった。故に、パピヨンの身体と心は必ずしも満足してはいなかった…… いや、一度満足を覚えてしまえば、二度と男に戻るという気持ちもなくしてしまうかもしれない……そんな恐怖感がある。 「ふふ、いよいよよ。あなたのポテンシャルを解放する時が来たわ……さあ、皆様、ご注目くださいませ!」 リンがすぐ隣にやって来て、パピヨンの耳に何かを囁き、客席に注目を促した。 リンの指がバニーコートの胸許の隙間から入り込み、パピヨンの右胸のカップ部を外側へ折り返した。 若々しい片側の乳房……とその肌に施されたタトゥー、乳首に取り付けられたピアスが露わになる。 年少のバニーガールに似つかわしくないアダルトで倒錯的な趣向に、客席から息を呑む声が漏れた。 「これよりこの娘のスイッチを入れますー女とマゾヒズムのスイッチを」 リンの指が怪しげな魔法の輝きを帯び、パピヨンの乳首ピアスを摘まんで引っ張ったー その瞬間、パピヨンの中で何かが弾けた。 ひとつはパピヨンの頭の中で、夥しい量の快楽物質が炸裂した衝撃。 ひとつはパピヨンの子宮の中で、夥しい量の女性ホルモンが炸裂した衝撃。 そしてそれにより、パピヨンの両の乳房の核で、常識ではあり得ない量の脂肪が発生した衝撃― ブレインダメージのバニーガールの中では大きいサイズと言えない部類だったパピヨンの乳房が、一瞬にして異様に膨れ上がり、既に晒されている右はもちろん、左乳房もバニーコートのカップを押しのけ、自ら観客の視線へと曝け出された。 「あひいぃぃぃぃぃぃっ!」 突然変化し、そして重くなった自分の胸に、パピヨンが驚愕の声を上げる。 華奢なパピヨンの体形には余る大きさと重さの、ふたつの超乳を、キタダニ/パピヨンは、両手で抱えざるを得なかった。 だが、両掌から伝わる乳房の感触は、刺激となり快感となってパピヨンの肉体を満たし、キタダニの精神を蝕む。 脳裏と子宮の双方から送られてくる快感の波動に、両乳房が共鳴しているのが分かった。 こらえきれずパピヨンは、両掌では両乳房を抱えた姿勢で、足をがに股に開いて蹲踞の姿勢となり、自分でも全く意識せず、激しく腰を振る動作に没頭していた。 その律動に身を任せていると、じんわりとした、だらしない笑みがパピヨンの唇に浮かび、客席からの自分へ向けられた歓声が何とも誇らしげなものとして響いてくる…… 「あはぁ………あはぁぁぁぁ!」 喘ぎ声に併せ、パピヨンの左目の瞳の色がピンクがかった紫色に変わり、右の瞳と色が揃った。キタダニの人格がパピヨンのそれに屈した瞬間だった。 激しく煽るように踊るパピヨンに、ついにこらえきれなくなったお客たちが、ステージへと殺到した。 ここまでの異様で倒錯的な饗宴に不快感、違和感を持つようなお客は、既に会場を去っており、残っている観客は全て常識と自己抑制より色欲と嗜虐性が優位に立つ者たちばかりだった。 既に彼らの中にはレヴューのルールを守ろうなどという意識はなかった―ブレインダメージ側がそう仕掛けたという事実に気づいている者もいなかった。 ステージ上に一番乗りを果たしたお客が、ズボンの前を開けてパピヨンに突き付けた。 パピヨンはそれに食らいつき、凄まじい勢いでしゃぶり始めた。あっという間に男は限界に達し、パピヨンの顔面目掛けて射精した。 次々とお客たちがパピヨンの奉仕を求めて群がり、自ら網タイツの太ももの付け根の部分を破いたパピヨンは、客のうちの一人を床に寝かせて跨り、腰を振り始める。 そうしている間にも、パピヨンの口は休むことなく、お客たちの肉棒を次々とくわえ、旨そうにしゃぶっては射精へと導いていく。 パピヨンの若々しい顔や胸に、男たちの精液が放出される度、パピヨンの顔に歓喜と陶酔の笑みが広がり、その淫奔さがますます増幅していくようだ…… その横では、ルナがやはりお客たちに次から次へと犯されていた。 パピヨンほどタフではないルナは、基本的に一対一でしか相手をしないが、一度達する度に、性転換する場合としない場合があり、同性愛指向のないお客も、男の状態のルナを玩んで逝かせること、それによりルナが女になるかどうかを確認することに面白さを見出しつつあるようだった。 たった二人の少女バニーガールだけで、余りにも多数のお客をさばききれる訳もなく、バックダンサーだったバニーガールたちが、溢れてしまったお客の相手をするようになっていた。 そしてステージ際真下では、依然そこに陣取るアリスが群がるお客たちと身体を絡ませ合っている…… 今、まさに饗宴は最高潮を迎えようとしている。 そこにアナウンスが入った。プリンセスの声だ― 「お楽しみいただいておりますところ失礼いたします、ステージに上がった、パフォーマーの身体に触れたなどの違反行為には罰則金をいただいております。本日のレヴューのお会計に加算させていただきますのでご了解ください。おひとりさま100000チップとなります」 最早、誰もアナウンスなど聞いていなかった。 理性の残っているお客であればとうに退出しているか、少なくともステージには乱入していない筈だった。誰もがただ音声として聞き流すだけだ。 「お支払いいただけない場合は、代替案を提案させていただきます。当店流の返済、即ち働いて返済していただくことをご提案・ご推奨させていただきます。つまり、バニーガールになり、当店の従業員になっていただくということです」 どのお客も、目の前のバニーガールの肉体を貪るのに夢中になっていた。バニーガールの肉体を己がものとしようとしていた。バニーガールの肉体へと自らのそれを溶け合わせようとしていた…… ”自分がバニーガールになる”という言葉を、お客は違和感ないものとして聞き流し、だが、聞き流した筈の言葉は彼らの脳裏に毒のように染み込んだ…… 「先刻も申しました通り、本日の特別サービスには、お客様ご自身がバニーガールになるというものが含まれております。特別サービスからそのまま従業員として当クラブに籍を置き、罰則金を含む料金をお支払いいただくことも可能ですわ…ううん、そのままずっとバニーガールとしてブレインダメージに在籍し続けていただいても何ら問題はございませんわ」 目の前の快楽に溺れながら催眠状態にあるお客は、そのプリンセスの言葉に何の違和感も否定も抱かず、そのまま素直に受け止めた。 バニーガールに奉仕され、バニーガールを抱き、バニーガールを犯すサービスの次に、自分がバニーガールになるサービスが来るということには何の不自然もないように思える…… 「それではサービス開始まで暫しお待ちください。リンさん、後はよろしくお願いね」 プリンセスのアナウンスが途切れると、リンは、先ほどの達してしまいぐったりしているお客へと歩み寄り、その額にキスした… 男の身体に変化が生じた。 動かなくなっていた男の身体が固まっていき、変色し、同時にある種の透明感も帯びる……男の肌も肉も、褐色の水晶と化し、そのまま動かなくなった。 リンは、既に達してしまい動けないお客の間を回り、次々と彼らを水晶の彫像へと変えていく。 同様に、相手のいなくなったバックダンサーともキスを交わし、彼女らも水晶の像にしてしまう。 ステージ上は、不気味な水晶の像が立ち並ぶ異様な光景へと転じた。 お客の中にはこの異変に気付く者もいたが、急所をバニーガールに押さえられながらでは逃げようもない。 いや、寧ろ彫像となったバニーガールを名残惜しそうに愛撫するお客すらいた。そんなお客は、彫像に抱き着いた姿勢で、リンのキスを甘受し、抱き合った姿勢のまま水晶の像となった…… ついに、一人を除いて全てのお客が水晶の像となった。 唯一水晶にされていないのは、既に女性化され、リンの奉仕で逝かされたお客だった。彼女もまたこの異様な光景を憧れの眼差しで見つめていた。 「これから何が起きるか……もうお分かりではないのかしら?」 リンの問いかけに、新人バニーガールは頷く。 水晶となった彼らも…… リンは、奉仕を終え荒い息をつくパピヨン、アリス、ルナをステージの中央に集めた。 身長の高い二人が、幼い二人を背後から抱え込むように抱きしめ、四人のバニーガールがひと固まりとなる。 リンが大きく深呼吸する――四人ひと固まりの、水晶の彫像がそこに鎮座していた。 「あなたは幸運よ、このレヴューを終わりまで観ることが出来るのだから…歴史的瞬間を目の当たりにすることが出来るのだから」 ホール内に、動く人間は、紫、泉美、そして新人バニーガールしかいない。 紫と泉美がステージ上方を見上げると、そこには眩い光が生じていた。光の固まりはゆっくりと、ダンスに使うポールの周りを旋回するように降下してきた… そして閃光の閃きと共に、光の玉はプリンセスの正体を現した。 新人バニーガールは、たった一人残った観客として拍手を、バニーガールとして自分たちに君臨するプリンセスに崇敬と服従の視線を送った。 プリンセスは、新人バニーガールの額に挨拶代わりのキスを軽く施すと、水晶の像へと歩み寄った。 物言わぬ水晶の像と化した男の唇に、プリンセスがキスをする― 水晶が卵の殻のように割れた。 そして中からは、バニーガールの格好をした可憐な美少女が転がり出てきた。 新たなバニーガールは、自分の顔や胸を恐る恐る触り、何事が起きたかと怪訝にしていたが、自分の役目を感じ取った新人バニーガールは、この妹分の傍らにそっと歩み寄り、彼女を自分の豊満な胸に抱きしめた。 すぐに落ち着いた様子の新手のバニーガールに微笑みかけ、新人バニーガールは、そっとプリンセスを指さした。 プリンセスは、またも次の彫像にキスをして、かつて男だった水晶製の蛹の中から新たなバニーガールを誕生させる。 次々とバニーガールがステージ上に誕生していく。 バックダンサーと抱き合っていた男の水晶像がバニーガール化すると、一体化していたバックダンサーのバニーガールも元に戻り、女性の客だった水晶像は、以前よりぐんと若く豊満なボディと均整の取れた美貌の許に生まれ変わった。 全てのお客がバニーガール化された。 バックダンサーたちも元の姿に戻り、残る彫像はひとつだけ… 「さあ、最後はあなたも手伝ってくださる?」 プリンセスが新人バニーガールに手を差し伸べる。 「はい」新人バニーガールは、プリンセスの前に跪き、その手の甲にキスする。 そして立ち上がると、プリンセスと手を携え合いながらひと固まりとなったリンたちの彫像へと歩み寄った。 自分をバニーガールにしてくれた愛しいリンを…… おとぎ話の登場人物になったような気分で、新人バニーガールは、リンの唇にキスした。 同時にプリンセスはアリスに…… 固く滑らかだった水晶の表面が、女性の肌と肉の柔らかさと温かさを取り戻した。 プリンセスと新人バニーガールの肢体に挟まれ、リン、アリス、ルナ、パピヨンが微笑みを浮かべながら立っていた……
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…………「本日のレヴューはこれにて終了です。同時に、新従業員の皆様に、オーナーからお言葉があります」泉美さんはそう言ってステージから降り、舞台脇に備え付けてあるブザーを押した。
私とバニーガール一同は平伏した。新人たちも、慌ててそれに倣う。

優雅にハイヒールを響かせ、エスコート役のバウンサーバニーガールを従え、ブレインダメージのオーナー……私のお姉さま……クイーンがホールに入ってきた。
お待ちしておりました…心の中で呟くと、私は跪いてお姉さまの手の甲にキスする。

お姉さまは新旧取り混ぜたバニーガールたちに、深い慈愛に満ちた笑顔を向けた。
「ごきげんよう、私のうさぎさんたち。ブレインダメージはあなた方を歓迎いたしますわ…ねぇ、プリンセス、この方たちが?」
「はい、お姉さまへの私からのプレゼントでございます」

お姉さまは満足げに微笑み、事情を説明したー自分はブレインダメージのオーナーの座をプリンセスに譲り、新規で二号店を始めるつもりであること、そんな自分へのプレゼントとして、二号店で大量に必要となる新人バニーガールをプリンセスが創り出そうとしていたことを……

慈母の如きクイーンの笑みに惹きつけられ、新人バニーガールたちは、プリンセスによりバニーガールにされた喜び、プレゼントしてプリンセスからその身と魂をクイーンへの贈り物とされた喜び、クイーンに仕え、ブレインダメージの新店舗で働ける身となれた喜びに身を震わせる。
歓喜に満たされたその笑顔は、かつての私も浮かべたものと同じ笑顔―これから待ち受ける快楽への期待により、頭脳を焼かれ、バニーガールと化す前の理性も羞恥も失った女の笑顔…
いや、快楽と背徳への誘惑に自ら身を投じた彼女たちには、最初からそんなものはなかったのかもしれない……

お姉さまは、新人バニーガールにひとりひとり向かい合い、彼女らの唇に、優しく、丁寧にキスを施していく。
その度に、新人バニーガールたちは魂を吸い取られたような表情となり、全ての意志力と抵抗を奪われ、代わりにクイーンとプリンセスに対する絶対的な忠誠心を植え付けられた。

ひと通りキスが済むと、クイーンは、「そうね、ダンスをしましょうか」と新人たちに呼びかけた。
「はい!喜んで!」と一斉に新人たちが答える。新人バニーガールたちがステージで輪となって整列する。

私の出番はここまでのようだ。ステージ下から新人たちに泉美が呼びかける。
「プリンセスが退出為されます。敬意を表して、お見送りを」
今度は秋姫たちバウンサーが前に立って誘導し、その後ろは紫と若葉が固め、私がこの場から歩き去る。
そしてその前に一度振り返り、ステージへと投げキッスした。
整列した新人バニーガールたちは、ほとんど感動してプリンセスたる私の後姿を見送る。同時に、クイーンたるお姉さまは、私が捧げた敬意と愛の深さを改めて感じ入っていただけたものと思う……

私はプリンセスの名に相応しく堂々と歩みゆく。
クイーンは、娘にも等しい新人たちに囲まれて笑顔を絶やさない。
一旦は別れたが、心は同じだった。
プリンセスは紫らとの濃厚な甘い時間を、クイーンはステージでの新人たちとのダンスタイムをそれぞれ堪能した後、また今夜も同じベッドの上に戻ってくるだろう。ああ、本当に楽しみ……

そして新旧二店舗へブレインダメージが分かれた後も、それぞれにバニーガールを増やし続けていくだろう。
男がバニーを食い、バニーへと男が食われ、そしてバニーとバニーが愛し合うクラブは、そこで繰り広げられる美と快楽と増殖は終わらない……

…………「本日のレヴューはこれにて終了です。同時に、新従業員の皆様に、オーナーからお言葉があります」泉美さんはそう言ってステージから降り、舞台脇に備え付けてあるブザーを押した。 私とバニーガール一同は平伏した。新人たちも、慌ててそれに倣う。 優雅にハイヒールを響かせ、エスコート役のバウンサーバニーガールを従え、ブレインダメージのオーナー……私のお姉さま……クイーンがホールに入ってきた。 お待ちしておりました…心の中で呟くと、私は跪いてお姉さまの手の甲にキスする。 お姉さまは新旧取り混ぜたバニーガールたちに、深い慈愛に満ちた笑顔を向けた。 「ごきげんよう、私のうさぎさんたち。ブレインダメージはあなた方を歓迎いたしますわ…ねぇ、プリンセス、この方たちが?」 「はい、お姉さまへの私からのプレゼントでございます」 お姉さまは満足げに微笑み、事情を説明したー自分はブレインダメージのオーナーの座をプリンセスに譲り、新規で二号店を始めるつもりであること、そんな自分へのプレゼントとして、二号店で大量に必要となる新人バニーガールをプリンセスが創り出そうとしていたことを…… 慈母の如きクイーンの笑みに惹きつけられ、新人バニーガールたちは、プリンセスによりバニーガールにされた喜び、プレゼントしてプリンセスからその身と魂をクイーンへの贈り物とされた喜び、クイーンに仕え、ブレインダメージの新店舗で働ける身となれた喜びに身を震わせる。 歓喜に満たされたその笑顔は、かつての私も浮かべたものと同じ笑顔―これから待ち受ける快楽への期待により、頭脳を焼かれ、バニーガールと化す前の理性も羞恥も失った女の笑顔… いや、快楽と背徳への誘惑に自ら身を投じた彼女たちには、最初からそんなものはなかったのかもしれない…… お姉さまは、新人バニーガールにひとりひとり向かい合い、彼女らの唇に、優しく、丁寧にキスを施していく。 その度に、新人バニーガールたちは魂を吸い取られたような表情となり、全ての意志力と抵抗を奪われ、代わりにクイーンとプリンセスに対する絶対的な忠誠心を植え付けられた。 ひと通りキスが済むと、クイーンは、「そうね、ダンスをしましょうか」と新人たちに呼びかけた。 「はい!喜んで!」と一斉に新人たちが答える。新人バニーガールたちがステージで輪となって整列する。 私の出番はここまでのようだ。ステージ下から新人たちに泉美が呼びかける。 「プリンセスが退出為されます。敬意を表して、お見送りを」 今度は秋姫たちバウンサーが前に立って誘導し、その後ろは紫と若葉が固め、私がこの場から歩き去る。 そしてその前に一度振り返り、ステージへと投げキッスした。 整列した新人バニーガールたちは、ほとんど感動してプリンセスたる私の後姿を見送る。同時に、クイーンたるお姉さまは、私が捧げた敬意と愛の深さを改めて感じ入っていただけたものと思う…… 私はプリンセスの名に相応しく堂々と歩みゆく。 クイーンは、娘にも等しい新人たちに囲まれて笑顔を絶やさない。 一旦は別れたが、心は同じだった。 プリンセスは紫らとの濃厚な甘い時間を、クイーンはステージでの新人たちとのダンスタイムをそれぞれ堪能した後、また今夜も同じベッドの上に戻ってくるだろう。ああ、本当に楽しみ…… そして新旧二店舗へブレインダメージが分かれた後も、それぞれにバニーガールを増やし続けていくだろう。 男がバニーを食い、バニーへと男が食われ、そしてバニーとバニーが愛し合うクラブは、そこで繰り広げられる美と快楽と増殖は終わらない……
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